28



「さ、ポチ。 お風呂入るょ。 おいで」


『さ、ポチ。 お風呂入るょ。 おいで』 って、アリスぅ。

それどころじゃねぇだろ。

会社どうすんだょ、会社。

ホントに止めちまうのかょ、会社。


「どしたの、ポチー。 おいでー。 一緒に入ろ」


う、うん。


「ポチ、どしたの。 立ち止まったまま、アタシの顔ジィーっと見つめて。 変なポチ。 おいでー!!


う、うん。


「しょうがないコねぇ、全く。 ほら、抱っこして上げるょ。 ヨッコラショ」


「ニャーニャーニャー」 (ありがとアリス。 でも、俺様心配だぜ)


「久しぶりだね、ポチと一緒にお風呂は入るの。 先に浴室入っててね。 ドッコイショ」


「ニャー」 (うん。 床の上にいるょ)


「お洋服脱ぐから待ってるんだょ。 そしたらシャワーして上げるからね」


「ニャー」 (うん。 待ってるょ)


!?


アリスが服脱いだぞ。


!?


という間だ。

夏場は薄着だ。

だから、


!?


という間だ。


「はいポチ、お待たせー。 先にシャンプーして上げるからね。 それから湯船に浸かろうね」


「ニャー」 (うん。 ありがとアリス)


「ルンルンルン」


「ニャーニャーニャー」


「ルンルンルン」


「ニャーニャーニャー」


「ジャブ、ジャブ、ジャブ、ジャブ、ジャブ、・・・」


「は〜い。 シャンプー終了〜。 奇麗になったね〜、ポチ。 はい、湯船にザッブーン」


「ザッブーン!! ピチャ、ピチャ、ピチャ、・・・」


「ポチ泳ぎー。 パチパチパチー」


前にも言ったが我輩は水が怖くない。

だから、お・よ・げ・る、珍しい猫だ。


思い返せば3年前 (本当は2年半チョイ前) のある日。

気が付いたら我輩は、お風呂で泳いでいたのであった。

ピチャピチャと、猫掻きで。


そう言ゃ〜、あん時きゃ、大騒ぎだったょなぁ。

思いだすぜ、俺様が始めて泳いだ時。

アリスは体も拭かず素っ裸で飛び出して行ったっけ。

こんな調子で。


「パパー!! ママー!! 美琴ー!! 大変大変大変。 チョッと来てーチョッと来てーチョッと来てー。 急いでー急いでー急いでー」


「ど、どうしたアリス!? 何があったー!? 痴漢かー!? オットー、裸だ。 ア、アリス。 前ぐらい隠しなさい、前ぐらい。 パパ目のやり場に困るじゃないか」


「どしたの大きな声出して。 あら、やだ。 アンタ裸じゃない」


「おねーちゃん。 見っともないょ、そんなカッコで。 はい、バスタオル。 パパが変な目で見てるょ。 お姉ちゃんの大事なトコ」


「うん、ありがと。 美琴」


「コ、コラッ、美琴。 パパ、変な目なんかで見てないぞ。 変な目なんかで。 うん、でも、チョッと気になるかな。 チョッと。 やっぱ、男としてだな。 うん、その〜、何だ〜。 ・・・」


「パパもママも美琴もそんな事より。 あれ見て、あれ!! 湯船!!


「なになに?」 (三人一緒に)


「オォー!!」 (三人一緒に)


「ポチが泳いでるー!!」 (三人一緒に)


「ねねね、凄いでしょ。 凄いよね、絶対凄いよね」


「うん、凄い!!」 (三人一緒に)


「ママ。 チョッと聞いていいか」


「何?」


「猫って泳ぐのか?」


「ウ〜ン。 聞いた事ないな〜。 そんな話」


「アタシある」


「どこでだ。 美琴」


「テレビの動物特集か何かでやってたの見た事ある」


「フ〜ン。 猫って泳げるのか。 パパ初めて知ったぞ」


「ママも」


!?


まぁ、こんな感じで10分位。

4人共、感心しながら我輩の 『優雅な』 泳ぎに見取れていたっけ。


一方、我輩はと言えば、

優雅どころか 『命がけ』 であった。


ナゼか?


チョッと想像してみてくれたまえ。

我輩が初めて泳いだ時、我輩を抱いたアリスが湯船に浸かっていた。

その湯船からアリスが飛び出した。

つまり、

バスタブに湯は満杯ではなく、少なくともアリスの体積分だけ湯は入ってない。


!?


言うことは・・・。

湯船から出るには浴槽の縁につかまらなくては出られない。

当時子猫だった我輩が、自力で縁につかまる事は不可能だった。

即ち、我輩が生き残るための唯一の道は、


『泳ぎ続ける事』


以外になかったのである。


そんな事とは露知らず、この 『愚かな』 田原家四人衆は10分もの間。

我輩の 『命がけの泳ぎを』 感心しながら観賞しておったのである。

そして、終に力尽きた我輩がブクブクと湯船に沈むのを見て、初めてそれに気付いたのであった。

とさ。


それからどうしたかって?


そぅ。

それから我輩の意識が戻った時。

心配そうに我輩を見つめるこの 『愚かな』 田原家四人衆の顔が、我輩の目の前にあったのであった。


アリスの布団の上に。


チャンチャン。。。




28 完