第3話



「あーあー。 うるせーな〜。 朝っぱらから〜。 ポチがどしたって〜。 ポチが〜」


いよいよ田原家最後の家族の登場だ。

名前は 『美琴(みこと)』 16歳。

現役女子高生だ。

はっきり言って超美人だ。

加えて八頭身のボインボインでもある。

更に成績優秀ときている。

トップクラスらしい。

それも都内有数の名門校の。

性格は姉のアリスとは全く逆で気が強い上に几帳面だ。

美琴がどういうヤツかは我輩に対する態度を見れば追々分かって頂ける事と思う。


!?


断言しよう。

この美琴ってヤツは、超ーーーーー!!!!! やなヤツだ。

そしてコイツが二階の四畳半の住人だ。

ちなみに六畳の和室はパパさんとママさんが使っている。


「おう、美琴か。 いや、何、な〜。 うん、チョッとな〜。 うん、チョッとだ。 ワハハハハハ」


「『うん、チョッとな〜。 うん、チョッとだ』 じゃないでしょう。 もう、パパったらポチにオナラかけたのょ」


な、何ー!?


オ、オナラかけたってー!?

こ、この俺様に、パパさんがー!?

パパさんがこの俺様に屁かけたってかー!?

ホントかー、それ〜?


「そ、れ、が、またー、臭かったのょ〜。 可哀そうにポチったら、もろにかけられたもんだからさ。 気絶しちゃってね」


「・・・」


「いや、なに、何だ〜。 そのな、うん。 昨夜(ゆんべ)焼肉食っちまったもんからな、うん。 ワハハハハハ。 焼肉砲って訳だ。 ワハハハハハ。 うん、これは効く。 うん、これは」


チ、チッキショー!!

なんてこったい!!


「最低」


「さ、最低って。 オマエ・・・」


おぅ。

そうだそうだ美琴。

もっと言ってやれ、もっと。


お、何だ?

美琴のヤツこっちに来るぞ。

しゃがんで俺様を指差したぞ。

何する気だ?


「おぅおぅ、ポチ」


何だょ?


「気絶したってか〜?」


らし〜な。

悪りーかよ。


「何で死なねんだ?」


!?


『な、何で死なねんだ?』って・・・。

オ、オメェ、何気(なにげ)にスゲー事、軽〜く言うな。


「死にゃ良かったんだ。 こんなバカ猫」


・・・。 (こ、言葉が、言葉が出ねーえ)


「大体、アタシは猫が大っ嫌いなんだょ。 お姉ちゃんと違って」


俺様もオメェが大っ嫌いだょ〜。


「ったく、お姉ちゃんもお姉ちゃんだ。 こんなバカ猫拾って来るから、飼わなきゃなんなくなっちゃて」


!?


お、俺様、拾われて来たんか?

初めて聞いたぞ。

そんな話。


「今更そんな事言ってもしょうがないでしょ」


「だってママ。 コイツ、ほ〜〜〜んと可愛くないだもん」


「アリスは可愛いって言ってるぞ」


「パパは黙ってて」


「パパも可愛いと思うがなぁ。 屁もかけられるし」


「だからパパは黙ってて!!


「はいはい」


「そんな事より美琴、ご飯どうするの? 早く着替えてらっしゃいパジャマのまんまじゃない」


「は〜い」


「ご飯にする。 パンがいい?」


「パン」


!?


パンって言ったぞ。

つーことは、ミルクが出るじゃねーか、ミルクが。

良〜し、ここは一つ美琴に甘えるとするか。

嫌だヶど。


ヨッシャ―!!


美琴に続け。

部屋のドア閉める前に入んなきゃ。


「ガチャ!!


オットー!?

危うくセーフ。


「お!? 何だポチ。 オマエいつの間に人の部屋入ったんだ」


オメェと一緒にじゃねぇか、気が付かなかったんか。

しっかし、オメェほんとスタイル好いな〜。


美琴は身長165cmはある、多分。

ママさんもその位ある。

パパさんは180cmを超える大男だ。

しかし、理由は分からないがアリスは148cmしかない。


ナゼだ?


「こら!! バカ猫。 あたしの着替えるとこ見てたのか。 このスケベ猫」


あぁ、見てたよ。

それがどーした。

しっかし、オメェそのみじけぇスカート何とかなんねぇのか?

パンツ見えちまうじゃねぇか、パンツ。

今日は白か。

ベージュの方が汚れ目立たなくって良いんじゃねぇか。

ま、どうでもいい事なんだけどょ。


!?


何だ?

真っ黒いパンツ箪笥から出したぞ。


「おい、ポチ。 これ知ってるか? これ」


知らねぇよ。


「これはブルマーっていってだな〜。 パパみたいなスケベ親父にスカート覗かれてもだな〜。 下着見られないために穿くもんなんだょ」


へ〜、ブルマー?


そうか、そんな物が有ったんかぁ。

知らなかったぞ。

コイツも結構考えてるじゃねぇか。

しっかし、階段かなんかで下から見上げて 『見えたー!!』 と思ったら 『真っ黒ブルマーこんにちわ』 ってか。


クククククク。


ガッカリするオッサン達の顔が目の前にちらつくぜ。


クククククク。


オットー!?


忘れてたぞ、こいつに甘えんの。


「ニャー」


「な、なんだょ急に人の足に擦り寄って。 気ん持ちわりーな〜。 外出ろ、外」


「フミャー」 (こら!? ドア開けて俺様を蹴り出すんじゃねー)


「美琴〜。 仕度出来たわよ〜。 何してんの〜、早くしなさ〜い」


「は〜い」


「どけポチ。 邪魔なんだよ」


「フミャ」 (チッキショー、俺様の体を足で払うんじゃねぇ)


コイツほんとにアリスの妹か〜?

それにしちゃ性格悪りーな。

ま、階段駆け下りるとこなんか似てるっちゃ似てるか。


ところで諸君は疑問に思わんかな。

ナゼ、姉の名前が洋風の 『アリス』 で妹が純和風の 『美琴』 かって?

実際、我輩にも良くは分からないのだが。

何でも、ママさんがルイス・キャロルの “鏡の国のアリス” が好きで、女の子なら 『アリス』、男の子なら 『ジャヴァウォック』(“鏡の国のアリス” に出てくる変なヤツ)にしたかったらしい。

でもょ〜、女の子で良かったょな〜、女の子で。

もし、アリスが男の子だったらジャヴァウォックだったんだぜ、ジャヴァウォック。

その名もナント 『田原ジャヴァウォック』。 


クククククク。


そんな名前付けられた日にゃ、アンタ。 反抗期んなったら 『金属バットこんにちわ』 間違いなしだわな、金属バットこんにちわ。


と。

まぁ、アリスは良いとして問題は美琴だ。

ママさんとしては上が 『アリス』 なだけに、下は 『アリサ』 とか 『アイリ』 といった名前にしたかったらしい。

ところが、何故かパパさんが異常に美琴にこだわったらしく、


「僕ちゃん、美琴が良いー!! 美琴がー!!


とか何とか喚きながら床の上、仰向(あおむ)けんなって手足をバタつかせて半ば強引に決めたとの事だ。

まるで駄々っ子だぜー、駄々っ子。

普通、大人がやるか〜、そんな事。

でもな〜、パパさんお茶目だからな〜。

やりそうな気もしないでもない。

っというよりパパさんならやりそうな気がする。


ウ〜ム。


ちょっと怖い。


大方、初恋の相手かなんかの名前が美琴だったんでどうしても付けたかった。

まぁ、そんな所だろう。

ママさんも薄々感ずいているようだが、全く顔に出さない。

これも役者の違いか? 

どう贔屓目(ひいきめ)に見てもパパさんが勝てるような相手じゃないからなぁ〜、ママさんは。


オットー!?


こんな事してる場合じゃなかったぞー。

早くしないとミルクが無くなる、我輩の大好きなミルクが。


「お!? おー、ビックリした〜!? な〜んだ、ポチじゃねぇか。 何だ、いきなり? 人の足に体こすり付けてんじゃねーょ、ビックリすんだろう」


「ニャー」 (美琴〜。 ミルクくれょー、ミルク〜)


「なんだ、お前〜。 急に愛想使って? 気ん持ち悪り〜な」


「ン? これか、これ? ン? もしかしてお前ミルク欲しいのか、ミルク? ン?」


「ニャー」 (うん、欲しいんだょミルク〜)


「ホレッ。 ホレホレホレッ。 美味いぞー」


「ニャー」 (な〜。 そんなじらさないで、くれょミルク〜)


「ホレホレホレ」


「ニャーニャーニャー」


「ホレホレホレ」


「ニャーニャーニャー」


「ホレホレホレ。 って、やんねぇょ。 誰がやるかお前なんかに」


「ニャー」 (そ、そんな事言わねぇーで、くれょミルク。 な。 くれょ〜)


「やーだょ。 おとつい来な。 あ〜、うめっ」


!?


これ見よがしにゴクゴクと。


アァー!?


ぜ、全部飲みやがった、ゴクゴクと。

チッキショウー、何てヤツだ!!

下痢すんぞ。


「あー、美味かった〜!?


しっかし、オメぇってヤツぁ、ホ〜〜〜ントやなヤツだな〜。

オメェみてぇなヤツは電車ん中で体触られちめぇ、ギラギラ脂ぎったオッサンに。

チッキショー!!


「お。 何だポチ。 その反抗的な目は? ン? ミルクが欲しきゃお姉ちゃんにもらえ、お姉ちゃんに。 お前拾ってきたのお姉ちゃんなんだからな」


「まぁまぁ美琴。 そんな意地悪して。 いいわょ、ママがやるから。 ホラ、ポチおいで」


「ニャー」 (ヨッシャー、さすがママさん)


「でもなぁ、ママ。 ポチは煮干の頭食わん猫だからなぁ。 あんまり甘やかすのもなぁ」


「パパの言う通りー!!


「ななな。 だろ? な。 そうだよな、美琴」


そ、そんな事言うんじゃねぇょ、パパさん。

ママさんの気が変わるじゃねぇか、ママさんの気が〜。


「良いじゃないの、その位」


よっ。

さすがママさん。

話が分かる。


「誰だったかしらね〜。 オナラでポチ気絶させたの」


「ン? ウ〜ム。 まぁ、それもそうだな。 うん。 カレーライス砲も控えてる事だしな。 うん。 ま、いっか、ワハハハハハ」


「アハハハハハ。 もう、パパったら。 いい加減にしなさい。 アハハハハハ」


「最低」


「さ、最低って。 オマエ・・・」


何なんだ、コイツらのこの会話は。

ったくコイツら〜ったら、この俺様を完璧なまでに玩具(おもちゃ)にしやがって。

なんてヤツらだ、全く。


少しは動物愛護の精神はねぇのかーーーーー!!!!!


「ポチ。 おいでミルクょ」


「ニャー」 (はーい、ママさん)


猫は記憶力が悪い。




3話 完