31



「クンクンクン・・・」


!?


カレーの臭いがつおくて気付かなっかったけど、パパさんチョッと汗臭いぞ。

きっとママさんに何か言われるぞ。

シャワーした方が良いんじゃねぇか。


!?


でも今、美琴が入ってるか。

んじゃ、しゃーないな。

後だな後。

美琴の後。


!?


アリスだ。

アリスが来たぞ。

ちゃんと服着てるぞ。


「あ〜、お風呂入ってスッキリしたー。 ママ、ご飯。 早くカレー食べた〜い。 あ!? お帰りなさい、パパ」


「はい。 ただいま」


!?


パパさん、さっきと態度全然違うぞ。

親父みたいだ。

お父さんみたいだ。


「アリス、テーブルの反対側。 ママの前に座りなさい」


「はい」


!?


ママさん急に顔つき変わったぞ。

チョッと怖いぞ。


「さっきの話だヶど。 会社辞めるってどういう事。 チャンと話してくれるわね。 カレーはその後。 いぃい?」


「うん」


そっかー。

ママさんそれが原因だったんだ、さっき機嫌悪く見えたの。

アリスの仕事の事、気にしてたんだ。

そっかー。

うんうん。


「え!? 何だアリス、会社辞めるのか? どう言う事だ。 ん? 結婚か? 結婚するのか? ま、まさか 『出来ちゃった結婚』 じゃないだろな? 『出来ちゃった結婚』 じゃ?」


おいおい、パパさん、何言い出すんだ!?

いきなり飛躍すんじゃねぇょ。

いきなり飛躍。


「またまた、パパは直ぐ飛躍するんだから・・・。 それに私の隣に来ないで。 端っこに座って」


「え!? 何で? ママの隣じゃダメなのか」


「ダメょ」


「何でだ」


「臭いから」


「え!?


「汗臭いから」


「 (ガーン!!) そ、そんなに臭うか」


「えぇ、とっても」


「うん、臭うょ。 パパ」


すっげー臭うぜ、パパさん。

『オヤジのかほり』 だ。

『加齢臭』 だ。


↑これ、分かってくれたか。 『カレイしゅう』 って読むんだぜ。

『カレー』 に掛けてみたんだが、分かってくれたか?

ん?

分かってくれたか?


「じゃ、一っ風呂浴びて来る」


「ダメょ」


「何でだ?」


「今、美琴が入ってるから」


「そ、そうか。 なら、仕方ない。 端っこにな、端っこに。 ここなら良いか。 ん? ここなら。 どうだママ、アリス。 どうだここなら」


「うん、大丈夫だよ、パパ。 そこなら。 ね、ママ」


「えぇ、そこならね」


カレーが臭うから丈夫だぜ、パパさん。

そこなら。


「そ、そうか。 ここならな、ここなら。 うん。 ここならな。 ウウウウウ・・・。 ところで、さっきの話だがどういう事だアリス。 ん? どういう事だ」


「うん。 あのね、パパ。 こないだ話したでしょ。 牛肉くれた先生の事」


「あぁ、あのすき焼きのか?」


「そ」


「あの先生がどうしたんだ? ん? 口説かれたのか? エ、エッチな関係になったのか? そ、そんでもって子供が出来て、『出来ちゃった結婚』 か? ダ、ダメだ、ゼターィ、ダメだ!! パ、パパ許さんぞそんな事!! ア、アリスー!! オ、オマイという子はいつからそんなふしだらな子に!! パ、パパ、オ、オマイをそんな子に育てた覚えは・・・」


「チョッと、チョッと待ってょパパ。 いきなり興奮して。 アリスはそんな事何も言ってないでしょ」


「お!? おぉ。 そ、そうだったな。 いゃ、その何だ。 つまりその・・・。 つい、な、つい」


「アリスどういう事かチャンと話して頂戴」


「うん。 あのね。 あの先生の書いたアタシが担当した本なんだヶど。 ホントは違う人が挿絵とイラスト描く事に決まってたの。 チャンとしたプロのイラストレーターが」


「え!? そうだったの?」


「うん。 ママ」


「でも、あれ、アンタが描いてたじゃない」


「うん。 そうなんだヶどね、ママ。 話すと長くなっちゃうんだ」


「長くなっても良いからチャンと話しなさい。 パパにも分かるように」


「はい、パパ。 ・・・。 あのね、あの本なんだヶど。 一応アタシが編集担当だったから、先生と打ち合わせがあって。 でね、何回か打ち合わせしてた時、たまたまアタシが絵が好きだっていう話になっちゃって。 でね、先生がアタシの絵見てみたいって言ってくれたの。 たぶん冗談で。 でも、アタシ本気にしっちゃって、描いた絵先生に見せたんだ、次の打ち合わせの時に。 そしたら先生私の絵見て固まっちゃったの、喫茶店で。 見せたの全部で3枚なんだヶど。 そしたら先生が他にもあるかって聞くから、ありますって言ったら。 全部見せろって言うの。 でも、全部はムリだから、ほらアタシ子供の頃から描いてるでしょ、だからムリだって言ったら。


つー、まー、りー、・・・


『無理ーーー!! 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


だって言ったら。 じゃぁ、いくつか選んで見せてくれって言うから10枚選んで持ってったの。 そしたらそれ見て先生、又固まっちゃたんだ。 でね、 『こぅ、こぅ、こういう感じの絵を描いてみてくれ』 って言うから。 先生の見てる前で鉛筆で描いたのね、10分位で。 そしたら先生、 『う〜ん』 って唸って又固まっちゃて。 『なら、今度は、こぅ、こぅ、こういう感じの絵を描いてみてくれ』 って言う訳。 で、又10分位で描き上げたの、鉛筆で。 そしたら先生又固まっちゃて、 『なら、今度は、こぅ、こぅ、こういう感じの絵を描いてみてくれ』 って、又言うからさ、又10分位で描いたら。 先生今度は固まらずに 『うん、うん』 頷くだけだったの。 で、その日はそれで終わったのね」


「で、どしたの」


「うん、ママ。 次の日アタシが会社に行ったら。 社長に呼び出されたの。 突然なんでビックリしっちゃた」


「で、どしたんだ」


「うん、パパ。 社長に直(じか)に会うの初めてだったから、もう怖くて怖くてドキドキだったんだ。 何で呼び出されたか分かんないし」


「で、どしたの」


「うん、でね。 恐る恐る社長室ノックして入ったら。 社長とあの先生がいたの」


「で、どしたんだ」


「うん、でね。 中に入ってドア閉めたら直ぐに社長がね。 先生と社長、仲が良いって話し始めたの」


「で、どしたの」


「うん、でね。 何の事か良く分かんなかったから。 ただ聞いてるだヶだったの」


「で、どしたんだ」


「うん、でね。 話し終わったら社長がね、 『今作ってる先生の本の挿絵とイラスト。 キミが描きなさい』 って言うの。 ビックリしっちゃた」


「で、どしたの」


「うん、でね。 出来ませんって言ったの。 だって、その本の挿絵とイラスト描く事になってた人とも何度も打ち合わせして顔見知りになってたし、良い人だったし。 だからその人に悪くって」


「で、どしたんだ」


「うん、でもね。 社長にね。 これは先生のたっての頼みだし社長命令だって言われたの」


「で、どしたの」


「うん、でね。 挿絵とイラスト描く事になってた人には別の人が断りいれるから、キミが描きなさいって社長に言われたの」


「で、どしたんだ」


「うん、でもね。 やっぱり挿絵とイラスト描く事になってた人に悪いからって一所懸命断ったの」


「で、どしたの」


「うん。 そしたら先生益々わたしの事気に入っちゃったみたいで、どうしてもキミに描いて欲しいって言って、聞かないの」


「で、どしたんだ」


「うん、でね。 とうとう断り切れなくなっちゃて結局アタシが描く事になっちゃったの・・・。 後はパパも知ってるょね」


「あぁ」


「でね、先生がね 『キミにお礼がしたい』 って言ってね。 お友達の作家の先生たっくさん紹介してくれたの」


「で、どしたの」


「うん、でね。 あの本見て 『今度出す本のイラスト是非キミに描いて欲しい』 って言ってくれる作家の先生が出て来たの。 それも何人も」


「で、どしたんだ」


「うん、でね。 大体は表紙のイラストだけなんだヶど。 本によってはたっくさん 『挿絵』 のある本もあるの」


「で、どしたの」


「うん、それでね。 会社の人達も 『やってみたら』 って言ってくれるし、社長もね。  『キミの才能を今の編集の仕事で埋もれさせるのはもったいない。 是非やってみなさい』 って言ってくれてね。 アタシもやって見ようかなっていう気になったの」


「・・・」


「・・・」


「そうかぁ。 『えぇ話』 やないけー。 それに社長も中々立派だ。 うん。 パパそう思うぞ」


「ホント? ホント? パパそう思ってくれる」


「あぁ」


「有難う、パパ。 ・・・。 でね、ママ」


「何?」


「これ引き受けちゃうとね。 今の仕事続けらんなくなちゃうんだ、時間なくって。 だから思い切って会社辞めて独立しようかなって」


「そぅ〜。 そういう事だったの。 ・・・。 良い話かもね、アリス。 ね、パパ。 アリスの才能認められて」


「ウ〜ム。 『アリスの才能』 かぁ。 ウ〜ム」


「まだあるんだょ」


「何にがだ、アリス? まだ何かあるのか?」


「うん、パパ。 社長がね」


「社長が何だ?」


「うん。 社長がね。 もし、アタシが独立したら全面的にバックアップしてくれるって」


「バックアップって?」


「うん、ママ。 アタシを一人の立派な挿絵画家としてお仕事回してくれるんだって。 これ、リストラじゃないんだょ」


「分かってるわょ、それ位」


「でも、才能の世界だから大変だぞ、覚悟は出来てるのか?」


「はい、パパ」


「ウ〜ム。 そうか、そういう事なら良いんじゃないか。 なぁ、ママ」


「えぇ、そうねぇ。 でも、仕事場は? 仕事はどこでするの」


「お家。 お家だよ、ママ。 お家で仕事出来るんだょ」


「家でか。 ウ〜ム」


「パパ、ママ。 お家で、お家で仕事させて下さい。 お願いします」


「・・・」


「・・・」


「良し、アリス!! パパは賛成だ。 ママが良いと言ったらやってみなさい」


!?


パパさんカッコいぞ。

さっきとは別人だ。


「そういう事ならママも賛成ょ。 やってみなさい、アリス」


ヨッシャー、アリスー!!


いかったなー。

俺様、大賛成だぜ。

スッゲー嬉しいぜ。


「賛成ー!! アタシも大賛成だょ、おねーちゃん!! 頑張ってね!!


「お!? なんだ美琴、聞いてたのか。 って、そのカッコ・・・」


!?


美琴だ。

裸だぞ。

バスタオル体に巻いてるだヶだ。

早く服着たほうが良いじゃねぇか、美琴。

パパさん変な目で見てるぞ。


「パパが変な目で見てるわょ美琴、そんな格好で。 早く服着てらっしゃい」


「は〜い」


「マ、ママ。 変な目ってなんだ、変な目って」


「アハハハハ。 冗談ょ、パパ。 冗談」


「そ、そっかぁ。 な、なら、いんだが。 なら」


のどかな田原家の

『ほ・の・ぼ・の』

とした会話であった。


いかったなー、アリス。

み〜んな賛成で。


も・ち・ろ・ん。


オ・レ・さ・ま・も。。。




31 完