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「ポチ、美琴に懐(なつ)いてたんだょ。 アタシより」


エ、エェー!?


「ポチは覚えてないょね。 アタシがポチ拾って来た日の事」


うん。

覚えてない。


「ポチ、ゴミ捨て場に捨てられてたんだょ」


それはさっきママさんに聞いた。


「学校の帰りに通り掛かったら 『ミャー、ミャー』 って鳴く声が聞こえたんだょ、ゴミ捨て場から。 『何だろう?』 って思って近寄ったら、子猫が一匹箱の中にいたんだょ。 それがポチだょ」


・・・。


「チョッとおっき目の箱だったから、他に何匹かいたかもね。 だとしたらポチの兄弟だね、きっと」


ウ〜ム。

俺様の兄弟かぁ。

そうか、今まで考えた事なかったヶど、俺様に兄弟がいても不思議じゃないぞ。

猫は多産系だからな。


「でも、箱の中にはポチ一匹しかいなかったんだ。 みんな逃げっちゃったのかもね」


俺様、見捨ててか?


「箱の中でポチずぶ濡れだったんだょ」


な、何でだ?


「あの日は雨だったから」


そっかぁ。


「で、ね。 ポチがあんまり可哀想なんで見過ごせなかったんだ、アタシ」


で、俺様拾ったって訳か?


「で、ポチ拾って帰って来たんだょ」


アリガトょ、アリス。


「『パパ達きっと反対するだろうなぁ』 って思ったけど」


反対されたか?


「反対されなかったょ。 だってポチ弱ってたから」


そんなに弱ってたのか、俺様?


「きっと、長〜い事、雨に打たれてたんだろうね。 ポチ死にそうだったんだょ。 だからだと思うんだパパ達反対しなかったの」


フ〜ン。


「美琴だょ」


何が?


「美琴がやったんだょ」


だから、何を?


「ポチの体タオルで拭いて、ズーッとポチ抱いて、ポチの体暖めたの」


!?


ホ、ホントかー!?

み、美琴がそんな事を!?

ホ、ホントかー!?


「あの時、アタシ風邪ひいてたから。 代わりに美琴がズーッとポチの世話したんだょ。 風邪うつすといけないから」


ウ、ウッソー!?

嘘だろー!?

嘘に決まってるよな、嘘にー!?


「運良く、ポチ拾った次の日から3連休だったんだょ。 ポチついてたね」


ど、どしてだ?


「その間、アタシ熱出して寝てたんだ。 でも、ポチはズーッと美琴のブラウスの中に入ってたんだょ。 そうやって美琴、ポチの体冷やさないようにしてたんだょ」


っつー事は・・・。

俺様、美琴のボインボインに挟まれてたって訳?

チョ、チョッと嬉しいような。


「ポチったら、美琴のブラウスの中でウンチやオシッコしたんだょ」


!?


う、嘘だろー?

ホ、ホントかょ。

し、信じらんねぇぞ、そんな事。

で、

どしたんだ?

その後、美琴どしたんだ?


「そのたんびに美琴、シャワー浴びたんだょ。 1日に何回も」


ホ、ホントか?


「寝る時はもっと大変だったんだょ。 美琴、居間の床の上に寝たんだょポチと一緒に。 布団にウンチされたら拙(まず)いから。 床に座布団引いてね、美琴その上で寝たんだょ。 ポチはその横で、たっくさん敷いた新聞新の上にバスタオルで包んで、その上から美琴と一緒に毛布と掛け布団掛けて。 そうやって寝たんだょ。 アタシ代わって上げたかったヶど、熱出してダウンしてたから」


ホ、ホント・・・。


「でもね。 美琴、一言も文句言わなかったんだょ。 ホントにポチが可愛かったんだね。 塾だって休んだんだょ」


ホ、ホン・・・。


「パパもママもホントは、もし、ポチが元気になれたら捨てるつもりっだたらしいょ。 でも、美琴見てたら出来なくなっちゃたんだって、後でそう言ってたょ」


ホ、ホ・・・。


「もっとも、アタシもパパもママもポチはもうダメだろうって思ってたんだヶどね、ホントはね。 その位ポチ弱ってたから」


ホ、・・・。


「でも、美琴。 『絶対このコ、死なせない』 って頑張ったんだょ。 獣医さんトコ入院させれば良かったんだヶど、たまたま連休で近くの獣医さんも休んでたから」


・・・。


「3日目位だったかなぁ、ポチが自力でミルク飲みだしたの。 それまではガーゼにミルクしみ込ませて、それ吸わせてたんだヶど。 3日目位だったかなぁ」


・・・。


「それから、どんどん元気になってね。 1週間位したら飛び回ってたょ」


・・・。


「でね、看病してる間にいつの間にか美琴が、ポチポチって言うようになってね。 それで、ポチの名前 『ポチ』 になっちゃったんだ」


・・・。


「初めてポチ、お風呂入れたのも美琴だょ。 ポチ、毎日(まいんち)美琴と一緒にお風呂入ってたんだょ」


・・・。


「それとね、これは一番大事なことなんだけどさ。 ポチ雄猫だょね」


・・・。


「飼い猫の雄って、普通、去勢されるょね」


・・・。


「でも、ポチ去勢されてないょね。 何でか分かる」


・・・。


「美琴だょ」


・・・。


「美琴が反対したからだょ」


・・・。


「アタシとパパとママが 『去勢しよう』 って言った時。 美琴が猛反対したんだょ。 『人間の都合で去勢するのは可哀想だょ。 そんな事したらポチがポチじゃなくなるょ』 って猛反対したんだょ美琴。 泣きながら」


・・・。


・・・!?


「ニャ、ニャー」 (ウッ、ウァ〜〜〜)


「ガリガリガリガリガリ・・・」 (ドアを引っかく音)


「ニャー」 (ウァ〜〜〜)


「ガリガリガリガリガリ・・・」


「ニャー」 (ウァ〜〜〜)


「ガリガリガリガリガリ・・・」


「どしたのポチ。 トイレ? チョッと待っててね。 今ドア開けるから」


「カチャ、キィ〜〜〜」


ダァー!!


「ガリガリガリガリガリ・・・」 (美琴の部屋の戸を引っかく音)


「ニャーニャーニャー」 (美琴ー美琴ー美琴ー!!


「ガリガリガリガリガリ・・・」


「ニャーニャーニャー」 (美琴ー美琴ー美琴ー!!


「ガリガリガリガリガリ・・・」


「ニャーニャーニャー」 (美琴ー美琴ー美琴ー!!


「カタン、ツゥ〜〜〜」 (美琴の部屋の戸があく音)


「何だ、うるせぇなー。 『ニャーニャー。 ニャーニャー』。 うるせんだよ!! バカ猫!! 失せろ!!


「バッ、ターン!!


!?


み、こ、と、・・・。


・・・!?


ホ、ホントかー!?

さ、さっきの話ー!?

ホ、ホントかー!?


う、嘘だー!!

ぜってぇー、嘘だー!!

嘘だと言ってくれ〜〜〜!!




36 完