第37話
「美琴に嫌われっちゃったね、ポチ」
なぁ、アリスぅ。
嘘だょな、さっきの話。
作り話だょな、アリスの。
「あのね、ポチ。 続きがあるんだょ、まだ」
まだ?
続き?
「どうして美琴がポチに辛く当たるか」
どうしてだ?
「美琴がポチに辛く当たる訳、ポチ分かる?」
さぁ、どうしてかなぁ?
分かんねぇぞ、俺様。
「ポチが身構えるからだょ」
へ!?
「美琴が近付くとポチ身構えちゃうんだょ」
そ、そうかぁ?
美琴が近付くと俺様、身構えてるか?
今まで気付かなかったぞ、今まで。
こ、今度注意してみるぜ。
「何でか分かる?」
分かんねぇ。
「分かんないょね、多分」
うん。
分かんねぇ。
「ポチのトラウマだょ」
へ!?
「ポチのトラウマが原因なんだょ」
ト・ラ・ウ・マ・?
「あのねポチ」
何だ?
「ポチは気付いてる?」
何を?
「美琴の左目の目じりの傷」
左目の目じりの傷?
美琴の左目の目じりの傷?
・・・。
あ!?
あれ!?
あれって傷だったのか、皺(しわ)じゃなくって。
傷だったのか、あれ。
皺かと思ってたぞ。
「あの傷ね、どうして付いたと思う」
どうしてかな?
分かんね。
どうしてだ?
「ポチが付けたんだょ」
へ!?
「あの傷、ポチが付けたんだょ」
どうやって?
「引っかいて」
え!?
し、知らなかったぞ、そんな話。
い、いつだ?
いつの話だ?
「ポチが家(うち)来て一ヵ月位してからだったかなぁ。 ポチが美琴引っかいたの」
な、何でだぁ?
何で俺様、美琴引っかいたんだ?
何でだぁ。
美琴に殴られたからかぁ?
美琴に蹴られたからかぁ?
美琴にどつかれたからかぁ?
で、逆襲。
かな?
「子守唄だょ」
へ!?
「子守唄が原因だょ。 ポチ、美琴引っかいたの」
こ、子守唄〜?
子守唄が原因って・・・。
どしてだ〜?
子守唄なんかで引っかくかぁ、普通。
「美琴、声大きいょね」
大きいなんてもんじゃねぇぜ、美琴の声。
悪魔の雄叫(おたけ)びって言うんだぜ、ああゆうの。
「ポチ、いつも美琴と一緒に寝てたんだょ。 美琴の子守唄聞きながら」
ホ、ホントか?
し、知らなかったぜ、そんな事。
「でも、ポチ中々眠んなかった日があったんだょ、理由分かんないけど興奮してて。 でね、美琴がポチ眠らせようと思って、ポチの耳元でいつもより大きい声で歌っちゃたんだ。 そしたらポチびっくりしっちゃってね、突然だったし、まだ子猫っだたし」
で、美琴引っかいちゃったって訳?
「で、美琴引っかいっちゃたんだょ。 『シャー』 って言って」
で、目じりの傷はその時の傷って訳?
「で、目じりの傷はその時付いたんだょ。 幸い目には爪入んなかったから良かったんだヶどね。 危ないトコだったんだょ」
た、確かに危ねぇな、確かに。
「はじめ三本あったんだょ、引っかき傷」
一本しかねぇじゃねぇか。
一本しか。
「二本は浅かったから、カサブタ取れたら消えたヶど。 一本は深かったから痕残っちゃたんだ」
そ、そうか。
それで美琴のヤツ、俺様怨んで意地悪すんだな。
「パパ凄く怒ってね、ポチ捨てるって言ったんだょ。 大事な娘にそれも顔に傷付けたって。 あんなに怒ったパパ見たの初めて。 スッゴク怖かったんだょ」
ホ、ホントか?
ホ、ホントにあのお茶目というか幼稚なパパさんがか?
ホ、ホントか?
「その時も美琴がポチかばって反対したんだょ、ポチ捨てるの」
へ!?
「『ポチ脅かした私が悪いんだ』 って言って」
そ、それが信じらんねぇの。
そ、れ、が。
「でも、その後だょ」
何が?
「その後なんだょ」
だから、何が?
「美琴、声出なくなったの」
何で?
「声、全然出なくなっちゃたんだょ。 美琴」
だから、何で?
「ポチが身構えるようになっちゃたから、美琴見るたびに」
何でだ?
何で、そんな事ぐれぇで声出なくなっちゃうんだ?
何でだ?
「ショックで」
え!?
「自分を見るたび身構えるポチ見て、美琴ショックで声出なくなっちゃたんだょ。 その位ポチの事、可愛がってたんだょ」
・・・。
「ポチに引っかかれて顔に傷つけられても、かばう位ポチの事可愛がってたんだょ。 美琴、ポチの事。 そのポチがさ。 美琴見るたんびに身構えるようになっちゃったんだょ」
・・・。
「アタシだってポチにそんな事されたら悲しいもん」
しねぇょ、アリスにゃ、そんな事。
ゼッテーしねぇょ。
「きっと、美琴もっと悲しかったんだね、自分を見るたび身構えるポチ見て。 だから美琴・・・」
・・・。
「半年位かなぁ」
何が?
「半年位だったと思うょ」
だから、何が?
「声出るようになったの」
そ、そんなに出なかったのか?
そんなに?
「美琴、ホントに頑張りやさんだから、一所懸命ボイス・トレーニングしたんだょ。 声出るようにって。 学校だってチャンと休まず行ったんだょ、声出なくて大変だったのにね。 先生やお友達に助けられたんだって、美琴そう言ってたょ。 声出るようになってから」
ウ〜ム。
美琴らしい。
確かに、美琴は頑張りやだもんな。
「『声出るようになれば前みたいに、ポチに子守唄歌ってあげられる』 って言って、一所懸命ボイス・トレーニングしたんだょ。 美琴」
え!?
・・・。
「でも、ダメだったね」
何が?
「ポチ、身構えちゃうもんね。 美琴見ると今でも」
う、うん。
言われてみれば、身構えてるような気も。
条件反射ってヤツかもな。
条件反射。
アハハハハハ。
アハハハハ、ハァ〜。
・・・。
「でも、良い事もあったんだょ」
どんな?
「うん。 良い事の方が、大きいかなぁ」
だから、どんな?
「お陰で美琴。 声楽家の才能目覚めたもんね」
そ、そうかぁ、そういう事になるかぁ。
そういう事に。
「あれってポチのお陰だょね。 ポチ良い事したかもね」
そ、それって、褒めてんのか俺様の事。
ナ、ナンカあんまり嬉しくないぞ、あんまり。
褒められてる気しないぞ、褒められてる気。
「怪我の功名だね」
うん、確かに怪我の功名だ。
うん、怪我の功名。
ま!?
『結果オーライ』
という事で如何(いかが)でしょうか。
結果オーライという事で。
「美琴がもし、世界的なプリマになっちゃたら凄いょね、ポチ」
うん、スゲーぜ。
「なれると思う?」
ウ〜ム。
「アタシはなれると思う」
お、俺様も思う。
ってか、なって欲しい。
色々、経緯(いきさつ)聞いちまったから、なおさらそう思う。
そしてアリスも凄い画家になる・・・・・・・・・・ような気がする。
「やっと眠くなって来たね。 さ、寝よっかポチ」
うん。
「夜トイレ行けるようにドア少し開けとくね。 暑くなるけどクーラー切るからね」
うん。
「じゃ、おやすみ。 ポチ」
あぁ。
おやすみアリス。
良い夢見るんだぜ。
な〜んか俺様、眠れそうにねぇな〜。
そっかー、そんな事があったんか〜。
アリスと美琴と俺様。
ウ〜ム。
複雑。
ま、考えてもしょうがねぇか〜。
ファ〜ァ。
うん、チョッと眠くなって来たぞ。
後は、明日だ明日だ。
考えてもしょうがあんめ〜。
さ、寝ょ寝ょ、俺様も寝ょっと。
フ〜ム。
スヤスヤ、スヤスヤ、スヤスヤ。
第37話 完