第5話



「あ〜、スキッリした」


!?


パパさん風呂から出て来たぞ。


「あら、パパどしたの? 裸で腰にバスタオルなんか巻いて。 それに頭濡れてるじゃない」


「あぁ、チョッとな。 うん、チョッとシャワーをな。 うん。 トイレで気張ったら汗かいちゃってな。 だからチョッとシャワーをな。 うん。 チョッとシャワーを」


ククククク。


苦しい嘘を。

でも良かったなパパさん、ママさん気が付かなかったみたいで。

トイレからでた時、パパさんのパジャマあんなに臭かったのにな。


「いゃー、トイレと比べてここは冷房が効いてて、快適快適。 やっぱリビングはこうでなくっちゃな。 うん。 しっかし今年の夏は暑い。 もう8月も半ば近いのにこの暑さだ」


それは言える。

確かに今年の夏は暑い。

今年とは平成18年だ。


「パパは人一倍暑がりだから、なお更ね」


「あぁ」


「ところでパパ。 汚れた下着は?」


「うん、洗濯機に入れた」


「パジャマは?」


!?


雲行きが。

パパさん大丈夫か、雲行きが怪しくなって来たぞ。


「え!? パジャマ」


「そ、パジャマ」


「・・・。 パ、パジャマも洗濯機。 チョ、チョッと汚れてたからな〜。 うん」


「汚れてた? 変ね。 昨夜取り替えたばっかりなのにねぇ」


「え!? そ、そうなんだけどさ〜。 ・・・。 あ、ほら、昨夜暑かったじゃないか、な。 だから寝汗かいちまってさ〜。 汗びっしょ。 な、だから、うん。 そう、そういう事」


「フ〜ン。 寝汗ね〜。 昨夜、冷房効かせ過ぎて毛布被って寝てた人がいたような、いないような」


あ〜ぁ、駄目だこりゃ。

ママさんの目見てみろ、笑ってるぞ。

どうするパパさん、完全にばれてるぞ。

寝汗かいたなんて言わねーで、トイレで汗びっしょで押し通しゃ良かったものを。

こういうのを自爆って言うんか?

それにしてもママさん、性格悪くねーか。 チクチクと。


「いや、その、だからな。 その〜。 ・・・。 あ、そうそう、寝汗もそうなんだがな、夜トイレに起きた時にさ〜、喉渇いちゃってさ〜。 ジュース飲んだんだょ、ジュース。 そん時ジュースこぼしちゃってさ〜。 胸にばっちりジュースのしみが。 うん」


「『胸にばっちりジュースのしみが』。 フ〜ン。 そんなのあったかしらねぇ。 気が付かなかったな〜」


「あ、あったんだょ。 ママが気付かなかっただヶで。 うん、そう、あったんだょ」


「フ〜ン。 お尻にはあったような、なかったような」


「う!? ・・・」


プププププ。


も、もう駄目だ。

き、聞いちゃらんねー。


ククククク。


諦めろパパさん。

パパさんの勝てるような相手じゃない。

分かってた事だヶど。

考えてみりゃ〜。 猫の俺様にも分かっちまう事が、しっかり者のママさんに分かんないはずねぇんだょな〜。

甘かったぜ、俺様も。


「い、いゃ。 む、胸だ。 胸にあったんだ。 胸にばっちりジュースの印なんちゃって」


!?


パパさん開き直ってやんの。

子供だね〜、全く。


「まさかその、 『胸にばっちりジュースの印』 とやらを、そのまんま洗濯機に入れたんじゃないでしょうね」


「そ、そのまんま入れる訳ないだろー。 あんな汚い物」


「あんな汚い物?」


あ〜ぁ、とうとう語るに落ちたか。


「い、いゃ。 ジュ、ジュースの印だジュースの印。 綺麗ーに綺麗ーに洗ってから入れたぞ。 跡形もない位、綺麗ーに洗ってからな」


「そう、だったら良いのょ。 それならね。 それよりパパ、早くしないと遅刻ょ」


「おぅおぅ。 そうだったそうだった。 遅刻だ遅刻だ。 急がねば」


いょっ、ママさん大人だねぇ。

この勝負ママさんの勝ちー。

って分かってた事なんだヶど。


それからが大変だ。

第二波が来て、パパさん慌ててトイレに飛び込む。

今度は大丈夫だったが、何時第三波がくるか分からない。

チョッと心配だ。

しかし、本人は全く気にしてない様子だ。

のんびりした性格とは裏腹に着替えは素早い。

この辺はアリスと全く一緒だ。

やっぱアリスはパパさんの子だったんだな〜。 そう思う。


しっかし、スーツ姿のパパさんか〜。

背が高いから押し出しが立派だ。

加えてハンサムだ。

映画スターみたいだ。

だが、さっきお漏らししたヤツだ。

パパさん、会社で粗相(そそう)すんじゃねーぞ〜。


こんなパパさんだが、ママさんにとっては頼もしい人なのかも知れない。


「じゃ、ママ行って来るょ。 はい。 行ってらっしゃいのチューは? チュー!! チューしてくんなきゃ、ヤダー。 僕ちゃんチューして欲しいょー。 チュー」


「しょうがない人ねぇ。 はい、チュッ」


否、


ママさんにとってパパさんは・・・第3番目の子であった。




第5話 完