第9話



あれ〜?


おかしいなぁ、メリーちゃん今日は来てないぞ。

いつもなら、俺様より先にオレ様山公園来てんのに。


ナゼだ? 


ナンカあったんか?

下痢でもしたんか?


メリーちゃんは早起きだ。

というより、山田さん家が早い。

何をしている家か知らないが、7時前にはもう食事は終わっている。

だから大体いつも、メリーちゃんの方が先にオレ様山公園に来ている。


我が田原家も決して遅くはないんだが。


ま、たまにはこういう日があってもいっか。

陽気もいい事だし日向ぼっこでもして待つとするか。


ファ〜、眠い。


前にも言ったがオレ様山公園は、わりとリッチな住宅街の一角にある。

だから人通りも多くはない。

特に朝なんかは、誰も来ないなんて事は日常茶飯事だ。

昼頃からようやく人が集まりだす。

大体が近所の子連れのママさん達だ。

つーか、マダム達だ。

それも見事 “公園デビュー” を済ませたマダム達だ。

あの地獄の公園でビューを既に済ませたな。


たまに新参者が来る。

一目でそれと分かる。

オドオドしているからだ。

勿論、周りからは離れている。

マダムの世界って大変なんだな〜。

見ていてツクヅクそう思う。

オイラ猫でよかったぜ。

ホントそう思う。

素直な実感だ。


!?


マダム達だが、やる事はいつも決まっている。

どうでもいい世間話か、お互いの持ち物の褒めっこだ。

それも白々しく。

本気じゃないのが良く分かる。

聞いてて歯が浮きそうだ。

でも、この公園での唯一の救いは、主(ぬし)が居ない事だ。

そう。

この公園には、主が居ない。

つまり “お局様” が居ないという意味だ。

だからほかの公園と違って陰険な雰囲気は余り感じられない。

もっとも、我輩は “ほかの公園” とやらは知らないのだが。


!?


マダム達がペチャクチャやってる間子供達はどうしているかといえば、

砂場やブランコなんかで遊んでいる。


オレ様山公園には他にジャングルジムや鉄棒、滑り台等がある。

一応フル装備だ。

規模のわりにはな。

トイレだってある。

もちろん人間様用だ。

猫様用ではない。

猫様用は花壇だ。

否、花壇だった昨日までは。


オレ様山公園の大きさはといえば、そうだなぁ、田原家十軒分位かな〜。

適当に想像して欲しい。


・・・。


そうだ、その位だ!?


今アンタが想像した、その位の大きさだ。

ご協力ありがとう。


そこに猫とマダム達とその子供達がいるという訳だ。

犬を連れてくるヤツはいない。

子供がいるからだ。

暗黙の了解があるらしい。

これは嬉しい事だ。

何といっても犬は天敵だからな、我輩の。


我輩が砂場で日向ぼっこをしていると、たまに子供が触りに来る。

我輩は誰かに体を触られるのが大っ嫌いだ。

だからすぐ逃げる。

パパさんやママさんに触られるのもいやな位だ。

でも、食い物の為にいつも我慢している。

というのも、パパさんもママさんも猫を抱くのが大好きだからだ。

二人とも我輩を見るとすぐいじくり回そうとする。

暑い日なんかたまったもんじゃない。


美琴に至っては鳥肌が立つ位嫌だ。

もっとも美琴は猫が嫌いだ。

だから我輩を触るような真似は絶対しない。

これはいい事だ。

ホントは猫じゃなく、我輩が嫌いなだけかも知れないが。


だが、アリスは。

そう、アリスだけは例外だ。

触られても不快感はない。

むしろ嬉しい位だ。

不思議な話だ。

もっとも、 「ウリウリウリー」 と 「高い高い高〜い」 は別だが。


アリスは優しい子だ。

そして猫が好きだ。

我輩を見ると直ぐに抱き上げ、撫でてくれる。

我輩も気持ちよくて、ついゴロゴロ喉を鳴らしてしまう。

完全武装解除。

無防備だ。


休みの日などは何時も、我輩を膝の上乗せてノミを捕ってくれる。

これは嬉しい。

ママさんも時々捕ってくれるんで感謝しているんだが、やっぱりアリスの方がいい。


捕ったノミを両手の親指の爪でプチプチ潰しながら、アリスはいつもペチャクチャ独り言を言う。

否、我輩に話し掛けて来る。

我輩は目を瞑ってゴロゴロ喉を鳴らしながら、それを聞いている。


こんな調子だ。


「あのね、ポチ。

 あたしさぁ、今度ギターのアンプ買うんだょ。

 アンプ無いと音小っちゃくってさ。

 良く聴こえないんだょね〜。

 夜中なら良いんだけどさ。

 昼間はね、昼間は外うるさくって良く聴こえないから。

 だから買うんだょ。

 お友達に相談したら “ローランドのアンプ” が良いんだって。

 でもねポチ。

 インターネットで調べたら10月に新しいのが出るんだって、だからそれ迄買えないんだょ。

 10月っていったらさ、あと一ヶ月以上あるんだー。

 長いよね、一ヶ月って。

 それ迄我慢しなくちゃなんないのか〜。

 あ〜ぁ、早く10月なんないかなぁ。

 ねぇ、ポチ。

 あたし絶対、上手になってみせるからね。

 上手んなったらさ、ポチ。

 大塚愛みたいにギター弾きながら歌うんだょ。

 ポチにも聴かせて上げるからね」


「ゴロニャー」 (うん、楽しみにしてるぜアリス。頑張れよ)


アリスは今 “エレキギター” に凝っている。



9話 完