死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #46



(テュルルルル、テュルルルル、テュルルルル、・・・)



レイの携帯電話がなった。


カバーを開きレイが液晶を見た。

発信者は悪野死火璃だった。


「もしもし」


レイが電話に出た。


「アッ!? レイ? アタシ・・・」


「あぁ、死火璃。 どした?」


「レイ、今どこ?」


「家だけど。 それが?」


「うぅん。 あのさぁ、今時間あるかなぁ? もしあればアタシ今、名欧美術館(めいおう・びじゅつかん)にいるんだヶど。 ほら、こないだ来そびれた芽芽有(がめあり)公園の名欧美術館。 良かったらこない?」


「何で又、名欧美術館?」


「ウン。 あのネ。 今ここでアタシの好きな 『サイレント魔女リティ』 の原画の展示即売会やっててネ。 で、もし良かったらレイもどぅかなって急に・・・」


「『サイレント魔女リティ』 か!? ウン。 面白そうだ。 丁度明日までのレポート書き終えたとこだから・・・。 じゃ、直ぐ行くょ」


「ホント? 良かった。 嬉(うれ)しい。 じゃ、直ぐ来てネ。 1階特設会場だから、場所。 来れば直ぐ分かるトコだから」


「あぁ、分かった」


ここで、レイと死火璃の電話でのやり取りは終わった。


そしてレイは例の東西南北バスに乗り・・・











名欧美術館のある芽芽有公園へと向かった。







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #47



(カチャ!!



死火璃が携帯電話を閉じた。

それを両手で持ち、丁度祈るような格好で胸に押し当てた。

両目を瞑(つむ)り、息を止めている。


その時、背後から声がした。


「良くやったゎ」


声の主は美空スズメだった。

スズメはコートのポケットの中にピストルを隠し持っていた。

銃口を死火璃に向けて。


時は、200?年■月■日午後4時15分。

ここは芽芽有(がめあり)公園内にある名欧美術館1階特設会場。

ただし 『サイレント魔女リティ』 の原画展示販売会は催されてはいなかった。

嘘をついたのだ死火璃は。


ナゼか?


レイを誘き寄せるためにである・・・美空スズメに脅されて。


「何でこんな真似するの?」


死火璃が震えながらスズメに聞いた。


「敵(かたき)を討つためょ、霊寺の」


スズメがキッパリと言った。

その目には覚悟の光がハッキリと見て取れた。


何の覚悟か?


命を懸けた戦いの覚悟だ。


それはナゼか?


相手が相手だからだ。


その相手とは誰か?


勿論、人類史上かつてない凶悪犯 『ラー』 だ。


美空スズメはラー、即ち、日神レイの化けの皮を剥(は)ごうとこの数日間レイを追った。

だが、残念ながらスズメにはレイの尻尾を握る事は出来なかった。

当然だ。

史上最高の名探偵 『 R 』 ですらレイがラーであると疑って掛かっても、未(いま)だ何ら証拠を挙げる事の出来ない程の相手。

いかに嘗(かつ)ては有能な FBI 捜査官だったとはいえ、そんなレイに歯が立つはずがなかった。

しかし歯が立たないといってもそれは “知能戦” での事。


これがもし実戦ならば・・・如何(どう)か?


それならば如何(いか)に優秀とはいえレイは素人。

スズメは元 FBI 捜査官。

よって一日の長がある。


スズメはそこに賭けたのだ。

そして勝負に出た。

自らの命を懸けてレイに口を割らせるという勝負に。


そぅ。


美空スズメは今、最後の大勝負に出たのである。

自らの命を犠牲にしてラーの正体を暴き・・・











後を R に託すと言う。







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #48



「宇崎。 美空スズメから電話です」


ワタセが、今はあんころ餅にウンコ座りの宇崎に告げた。


「美空スズメから?」


「はい」


「良し。 ではそのやり取りが聞こえるように回線をスピーカーに繋(つな)いで話してくれ」


ワタセが携帯電話の回線をスピーカーに繋ぐため別室に移り、そこで美空スズメと話し始めた。

宇崎がその会話を聞くためにヘッドホンを耳に掛けた。

日神達はその様子を黙って見つめている。

当然、ワタセとスズメのやり取りを聞いているのは宇崎だけだ。


宇崎はしばらく黙ってヘッドホン越しの会話を聞いていた。

会話が終わったのだろう、宇崎がヘッドホンを外した。

それをテーブルの上に置いた。

そしてテレビモニターを操作してそれまでの画面とは全く違う画面に切り替えた。

画面が切り替えられたモニターは全部で5台。

それぞれ同じ室内を違う角度から映している。

その画面に何が映し出されているのかを確認して、納得したのだろう。


「ウム」


宇崎が軽く頷いた。

その宇崎の一挙手一投足を日神達は無言のままジッと見守っている。

宇崎が日神達6人の方に向きを変え、モニターを指差し、徐(おもむろ)に言った。


「皆さん。 ここが何処(どこ)かお分かりになりますか?」


6人が身を乗り出してモニターを見つめた。

日神が言った。


「名欧美術館か? 名欧美術館の特設会場のようだが」


「そぅです。 ここは名欧美術館1階特設会場です」


宇崎が答えた。


「名欧美術館がどぅかしたのか?」


と、デブリンが。

宇崎がそれに答えてこう言った。


「これからここでラーの正体が明かされます」


「エェー!?


「エェー!?


「エェー!?


「エェー!?


「エェー!?


「エェー!?


6人全員が一斉に驚きの声を上げた。


「どぅいう事だ、宇崎?」


日神が聞いた。

宇崎が日神の眼をジッと見つめて言った。


「皆さんご存知の通りここは名欧美術館です。 そしてここには5台の監視カメラと盗聴器がセットしてあります。 この映像はその監視カメラによるものです。 昨日ワタセが美空スズメに頼まれて設置しました。 その美空スズメからたった今連絡が入りました。 今日これからここで美空スズメが命を懸けてラーの正体を暴くと」


それを聞き、


「ゴクッ!!


「ゴクッ!!


「ゴクッ!!


「ゴクッ!!


「ゴクッ!!


「ゴクッ!!


日神達6人が同時に生唾(なまつば)を飲み込んだ。

そして名欧美術館1階特設会場が映し出されているモニターの画面に見入った。











期待と不安の入り交ざった複雑な表情で・・・







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #49



ここは名欧美術館1階特設会場。

造りは正方形ではなく、長方形。

一辺が30メートルの正方形を三等分した位の大きさだ。


丁度昨日まであるイベントに使用されていたがそれも終わり、次のイベントの予定は二日後からだった。

つまり今日は、中日(なかび)だったのだ。

従って何も展示されてはおらず、人気(ひとけ)もなくガランとしている。


その人気のないガランとした特設会場中央に二人の見目麗(みめうるわ)しき女性が立っていた。


一人は、スラッとしたそれでいて適度にチチの張った、黒く豊な長髪で、全身黒ずくめの皮のツナギに身を包んでいる。

それに黒いロングブーツ。

チョッと飛んだオネェつー感じだ。


もう一人は、ほんのチョッと色を抜いたショートヘアーで、オレンジのタートルネックのセーターに赤いミニスカート姿。

若干高めのベージュのパンプス。

今風(かどうかは分からないが)の女子大生っぽい。

その赤いミニスカートは、駅の階段をバッグでカバーしないで上っていくのを下から見上げると、


『ウ〜ム。 もぅチョィ、もぅチョィ、もぅチョィ、・・・』


って思う位の短さだ。


その二人のスティエイションは、会場中央で、右手をポケットにジッツに意味有り気に突っ込んだチョッと飛んだオネェが、左腕をもぅチョイスカートの女子大生と思(おぼ)しき女の肩に回してその女が逃げられないようにしているっぽい。


そこにはワタセが監視カメラを仕掛けてある。

とすれば、当然監視モニターに映像として映っている。


つまり今この二人は、息を殺してモニターの画面に見入っている宇崎達に見られている。


宇崎達が監視モニターで見ている以上、その二人の女が誰かは明白だ。


勿論、


長髪黒ずくめは、美空スズメ。

もぅチョィスカートは、悪野死火璃。


しっかし、もぅチョィスカートって、ホントにもぅチョィなんだょなぁ、全く。

もぅチョッとどぅにかなんネェのかなぁ、ホ〜ント。











ブツブツ、ブツブツ、ブツブツ、・・・







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #50



R 見てる?」


何処(どこ)に設置されてあるのか分からない盗聴器に向かって、美空スズメが大声を上げた。


「見てなさい R 。 そろそろ来る頃ょ、ラーが。 暴いてやるゎ、あいつの正体」


宇崎と日神達は監視モニターに見入っている。

誰一人、瞬(まばた)き一つしようとはしない。


一人ワタセだけがモニターの画面と手元の機械装置を交互に見比べている。

恐らく監視カメラと盗聴器を操作しているのだろう。

映像に関心はなさそうだ。

特設会場で起こりつつある事にはまるで無頓着のように見える。

普通なら手を休めて見入ってしまうはずだ。

しかし、恐らくワタセはそういった事は全て宇崎に任せてあるのだろう。

自分は宇崎の指示を忠実に実行するのみ。

そんな感じだ。

宇崎を信ずればこその行動なのだろう。

逆に、

ワタセのこの与えられた任務のみに徹しようとする所に又、宇崎は絶大な信頼を寄せているに違いない。


見事な信頼関係である。


その年の差は恐らく、祖父と孫程も違いそうなのに。


その時、



(タタタタタ・・・)



モニターと連動させてあるスピーカーから人の走る足音が聞こえて来た。

結構な反響音だ。

その建築物の構造のなせる技か?

それとも部屋に展示物が何もなく、ガランドウの所為(せい)か?

そのため誰かがその部屋に近付きつつあるのが良く分かった。


スズメが再び大声を上げた。


「聞こえてる R ? この部屋に近付く足音が・・・。 来たゎ」


そう言い終わった直後、特設会場に一人の若い男が飛び込んで来た。

モニター越しにその若い男の顔を見て日神達は愕然とした。


レイだった。


みんな口を開けたまま声も出ない。

宇崎のみ一人冷静だった。

そして言った。


「やはり、レイ君でしたか」


『ハッ!?


その台詞(せりふ)で我に返った日神が宇崎を怒鳴りつけた。


「き、貴様ー!! まだレイを疑っていたのか!?


その言葉を聞き、モニターから目を切り、ユックリと日神のほうに顔を回して宇崎が冷静に返した。


「いいぇ。 疑っているのは美空スズメです。 わたしは彼女にレイ君の事は全く教えてはいませんでした。 無論ワタセもです。 美空スズメはフィアンセの岩清水霊寺が追っていた人物達を独自に調査判断する中でレイ君に疑いを抱き、レイ君に的を絞って調べ上げ、終にレイ君がラーであるという結論に至ったのです。 わたしも今の今までここに誰が来るのか知りませんでした。 今始めて知ったのです。 美空スズメがラーとして追っていた人物がレイ君だったと。 もっとも、ある程度予想はしていましたが」


「クッ!?


日神はグーの音も出なかった。

そんな日神に冷たく宇崎が言った。











「もう少し成り行きを見ましょう」







つづく