死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #61



点けっ放しになっていたテレビに、さくらんテレビ局のワイドショー番組 『イ時っチャオ!』 と 『産時のアナだ!』 の間のスポットニュースが流れた。

その日の担当は女子穴 否 女子アナの子順田 豊(こじゅんだ・ゆたか)だった。



(二カッ!!



と、微笑んで子順田が原稿を読み上げ始めた。


「先日、タロちゃんの愛称で若者の間で絶大な人気を誇る麻生太 郎茶(あそうた・ろうちゃ)総理による、我々マスコミの超得意技 『重箱の隅を楊枝でほじくり返し』 を執拗なまでに繰り返し繰り返ししてやっとこさ見つけ出した、そぅ思えばそぅとも取れちゃうかも知れないなぁ程度のラー擁護発言を巡り、ただ今国会は紛糾致しております。 野党による不謹慎発言問題として追及しようとする動きのある中、その野党議員の中からもこれを支持する意見が出るなど、今の所、収拾(しゅうしゅう)の目処(めど)はたっておりません。 そんな中、民邪党若手議員のホープの一人、ミスターね・・・陰金(いんきん)、長・・・人妻漁(ひとづま・あさる)議員によるラー擁護発言が飛び出し物議をかもしております」


ここで、民邪党・人妻漁がインタビューを受けているシーンに画面は変わった。


「わったくすは、さつずんヌはヌするい有ると考えておるっす。 エェさつずんとワリィさつずん。 このヌするいで有るます。 国家だってネェ、戦争すて一杯さつずんすっじゃネェですか。 でンも、勝ってすまぇばエェさつずん。 負けつまったらワリィさつずん。 大東亜戦争がそれを証明すとるっす。 散々ず国民を虐殺すまくっとっても、戦勝国ならエェさつずん、これっ、つー狂の話っす。 のつに、オサルノオケツハ・マッカーサーですんらヌホンの戦争は防衛戦争だったつぅてハッツリ認めておったヌもかかわンらず、敗戦国だからっー事でヌホンのはワリィさつずん。 すかもそんれを未だに左翼のトンマどんもがンダンダつってほざいとるっす。 世の中み〜んなそんなモンっす。 そンれを思えんば、ラーのさつずんなんてネェ、アンタ。 エェさつずんに決まっておるっす。 悪を裁くエェさつずん。 そぅそぅ、ラーのは正義のさつずん・・・。 つって、社会保険庁の全〜然す事すねぇ、我が民邪党支持のずつろぅ組合員がソッとネタばれすてくれたっす。 アベッチ落とす入んれるたんめに・・・」


レイ達は呆れ顔で、バカをほざきまくるコイツのアップになった超醜悪な、醜〜〜〜い顔を見ていた。

マスコミにミスターね・・・陰金ともてはやされ、いい気になってあの不細工なそれでいて腹黒さ丸出しのアホ面こいた長・・・人妻漁を。


だが、


こいつを見ていたのはレイ達だけではなかった。



「誰だ!? こんなアホを国会議員にしたのは・・・」


警察庁長官・佐伯(すけ・のり)が怒鳴った。

怒鳴った先にいたのは日神尊一郎。

ここは本庁、警察庁長官室。

日神は佐長官に呼ばれラー事件の進捗状況(しんちょく・じょうきょう)の報告に来ていたところだった。

この佐は、今、日神の下で共にラーと戦っているあの紅一点・佐波(すけ・なみ)刑事の伯父だった。


直立姿勢のまま日神が答えた。


「ハッ!! 日本国民であります。 あの勘違いアホ丸出し芸無しお笑い芸人・古舘伊痔瘻(ふるたち・いじろう)に代表される、ポリシーは二の次で 否 そんな物は全く無く、目先の金に平気で転ぶ国賊マスコミによる “あの” 売国政党擁護のための偏向・捏造・インチキ・その他諸々の垂れ流し報道を真に受けたバカ者どもであります。 特に、団塊の世代のろくすっぽパソも使えず、ネットで情報の取れない愚か者どもであります。 全く 『キチガイに刃物、バカに選挙権』 とでも言いたくなるような “ WGIP War Guilt Information Program の略称)影響下の刷り込まれ左翼を後生大事に” のチンカス・マンカスどもであります」


この答えは的確だった。

否、

的確過ぎた。


「ウッ!?


佐長官は言葉に詰まった。

言葉に詰まって何も言えなくなった。

しかし、ここで何か言わなければ収まりがつかない。

そう佐は思った。

そして喚(わめ)いた。


「ゥーーー!! 何でもいいから早くラーを捕まえろ!! 金、人、物、必要な物は何でもワシが用意してやる。 だから一刻も早く捕まえろー!!


『ヤッター!! 言質(げんち)を取ったー!!


日神は思った。

そして佐長官の気が変わらない内に退散しなくっちゃとも思った。


「ハッ!! 金、人、物、必要な物は何でも。 確かに承りました。 早速、ラー対策本部に戻りラー逮捕に向け善処致します」



(サッ!!



素早く佐に敬礼して日神は長官室を出た。


そして、



(ニマァ〜、ニマァ〜)



ってしながらラー対策本部に戻ろうとした。


だが、


その時、



(ガチャ!!



今出て来たばっかしの長官室のドアが開いた。

中から佐が飛び出して来た。

そして日神を呼び止めた。


「オィ!! 待て日神!!


その声を聞き日神は、


「ウッ!!


ってした。


同時に思った。


『アッチャー!! 長官気付きやがったぁー!! 折角言質、取ったのに』


って。


そして振り返った。

見ていてそうとハッキリ分かっちゃう位ガッカリこいた顔してる日神に向かって佐が言った。


「大変な事になった、チョッと来い!!


「エッ!? 大変な事? 言質じゃ・・・?」


「ン!? 言質? 言質がどぅした?」


「さっき長官が仰(おっしゃ)った金、人、物、・・・」


「あぁ、そんな事か。 そんな事はどぅでもいい。 早く来い!!


「じゃぁ、他に?」


「テレビだテレビ!! いいから早く来い!!


訳も分からぬまま日神は長官室に戻った。


すると、


先程見ていたテレビ画面には・・・











今、・・・







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #62



丁度その頃・・・


「イマイチ盛り上がんないネ、さくらんテレビ祭りって」


日神雅裕が友達の奈奈死野奈奈子(ななしの・ななこ)に言った。


「そぅだネ」


奈奈死野奈奈子が答えた。


ここはさくらんテレビ建物内にある野外コンサート用大広場である。

今、その大広場では、さくらんテレビ主催による 『さくらんテレビ祭り』 が行なわれている。

もっとも大広場とはいっても、さえないローカル駅の駅前ターミナル程度の大きさなのだが。

そこにしょぼいセットが組まれている。

人数も大作映画(これは“たいさく映画”と、読んじゃいます。“だいさく映画”では有りませヌ。 アッ!? でも、コッチでもいいか。。。 何となくソレでも良いような悪寒 じゃなくって 予感)だったらスタジアム一杯のエキストラという所だが、予算がなかったのかケチったのか、残念ながら時々駅で見掛ける電車待ちをしている小学生の遠足程度の人数だった。

そんなセコ〜〜〜イ 『さくらんテレビ祭り』 に雅裕は奈奈死野奈奈子と二人で遊びに来ていたのだった。


奈奈死野奈奈子が言った。


「一人でいいからさぁ、誰かスターが来ればいいのにネ」


雅裕が相槌を打った。


「そしたらパニックだネ」


その時、


そのセコ〜〜〜ク組まれているセットの一つの、セコ〜〜〜ク組まれている割にはおっきめのテレビスクリーンに映し出されている映像が、それまでやってた 『イ時っチャオ!』 から、先程佐伯長官室で見た 『スポットニュース(本日担当 : 子順田 豊)』 に、そして 『産時のアナだ!』 に切り替わった。


ニュース原稿を手にした人気ニュースキャスターの上原錯乱(うえはら・さくらん)がアップで映った。

結構いい女だった。

あんなに顔良かったかなぁ? って思う程だ。

きっと顔面工作したに違いない。


!? どうでもいい事なんだけどネ。


チョッとおでれぇーちゃったモンだから・・・さ。(実写版でこの役やった上原さくら・・・に)



スクリーン越しにその上原錯乱が静かに語り出した。


「四日前、当テレビ局宛てに4本のテープが送られて来ました。 その内の1本には先日逮捕された墓場一世(はかば・いっせい)、二世(にせい)両容疑者の死亡予告が入っており、そして昨日午後7時、予告通り二人は心臓麻痺で死亡しました。 この4本のテープは実は第二のラーを名乗る者から送られて来た物だったのです。 その1本目のテープの中でラーは、2本目を本日午後3時9分丁度に放映するよう告げて来ました。 そしてもしこのテープを無視するような事があれば、局の関係者を上から順に殺して行くと言って来ています。 つまり我々さくらんテレビ関係者全員がラーの人質である、という事です。 このため、そして報道に携(たずさ)わる者の務(つと)めとして我々はこのテープの放映を決定致しました」


ここで錯乱はAと書かれているビデオテープをカメラの前に差し出した。


「コレがそのテープです」


それまでジッとこの画面に見入っていた雅裕が奈奈死野奈奈子に言った。


「コレって今やってんだょネ。 録画じゃないょネ」


雅裕には一瞥もくれずジッと画面を見つめたまま、奈奈死野奈奈子が頷いた。


「ウンウンウンウン」


って。


その間も錯乱は続けていた。


「実を言えば我々もまだこのテープの中身を見てはいません。 しかし第二のラーに寄れば、この中にはこのテープが間違いなく第二のラーからの物である事の証明と第二のラーのメッセージが入っているとの事です」


錯乱がアシスタント・ディレクターと思(おぼ)しきアンチャンにテープを手渡した。

そしてカメラを見つめて言った。


「時刻は3時9分になりました。 ではご覧下さい」


と。











ワクワク感丸出しで・・・







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #63



「時刻は3時9分になりました。 ではご覧下さい」


この番組は、レイや宇崎達全員も見ていた。


日神尊一郎だけは本庁に出向していたためその場にはいなかった。

が、日神も又先ほど帰り掛けたところを佐伯(すけ・のり)長官に呼び返され、これを本庁の長官室で見ていた。


画面が出た。


画面一杯にデカデカと 『 Ra (ラー)』 の二文字が映し出された。

手書きのヘタッピなカリグラフィーだった。

始めて宇崎がその存在を現した時に使った “ R ” の文字の書体を意識して書いたようだった。

それをホームビデオで撮ったのだろう、画質が荒い。

音声もあった。

パソコンで作った合成音だ。

その音も又、録音が悪く荒れていた。


それを見た誰しもがこう思った。


『こいつぁトウシロウの作ったもんだ』


と。


画面に変化はなく、音声だけが流れた。


こうだ!!


「わ、た、し、は、・・・・」


つー平板な感じで次のように流れた。


「わたしは第二のラーです。 このビデオが正しく■月■日午後3時9分丁度に流されていれば、今は、3時9分、383940秒。 チャンネルを大王(だいおう)テレビに切り替えて下さい。 メインキャスターの鳥肥 異臭太郎(とりごえ・いしゅうたろう)氏がウンチを漏らしてオッチニます。 死因は心臓麻痺です。 ・・・」


ここでさくらんテレビスタジオの 『産時のアナだ!』 チーフディレクターの出歯亀 仁(でばかめ・ひとし)が大慌てで指示を出した。


「枠を作れ!! 急いで大王テレビの枠を作れ!! 早くしろ!! チャンネル替えられちまうゾ!! 何にやってんだ!! 早くしろ!!


さくらんテレビの画面上に大王テレビの枠が出来た。


大王テレビはバラエティ番組をやっていた。

番組名は 『 WBS (ワイルド・ブリッテ・サデナイゾ)』。

司会は小壁蝨 真生子(こだに・まおこ)さま。

その中では丁度今、悪名 否 有名お笑いタレント達が悪ふざけをしていた。

文化人コメンテーターのフリだ。

その内の一人、鳥肥 異臭太郎さまが


『フン。 俺様はいかしてるゼ』


つー、顔していつも通りのおマヌケこいていた。

相変わらずのおバカっぷりだ。 (あの髪型も)


「あのですネェ。 不法就労の “方々” が・・・」


ってほざいちゃったりして。(フ〜ン。 不法就労の “方々” ネェ。 フ〜ン)


突然、


「ゥゥゥゥゥ・・・」


鳥肥 異臭太郎さまが胸を押さえて苦しみ始めた。

数秒間その場で七転八倒して転げまわった。



(ブリッ!!



ウンチを漏らした。


「ウッ!? クッセェー!!


って、スタジオ内の他のお笑い芸人達 じゃなくって コメンテイター達がほざいた。

当然、小壁蝨 真生子さまも・・・

その肥 じゃなくって 声を奇麗にマイクが拾った。


すると、



(ピタッ!!



鳥肥 異臭太郎さまの動きが止まった。

オッチンだのだ。

ラー・ビデオの予告通り。

心臓麻痺で。


ラーの合成音が続いた。


「鳥肥氏はラーを悪だと主張し、捏造・歪曲・おバカ丸出し・インチキ・その他諸々・といった報道をし続けてきました。 明らかにネットで正しい情報を取れない人達を、特に団塊の世代の刷り込まれた左翼思想を卒業出来ないチンカス・マンカスどもをミスリードし続けて来ました。 その報いです。 その報いでオッチンだのです。 これでお分かり頂けたと思います、わたしが第二のラーである事が。 ラー!! わたしはアナタに会いたい。 是非会いに来て下さい。 わたしは “目(め)” を持っています。 だから来てくれれば直ぐに分かります。 わたしが第二のラーである事はその時お互いのノートと死神を見せ合えば確認出来ます。 待ってます。 だから会いに来て下さい。 そして二人で力を合わせ、この世の中を変えて行きましょう。 犯罪の無い世の中へ。 平和な世の中へ。 そして今、このテレビを見ている皆さん。 ラーと共に戦いましょう。 集うのですラーの元へ。 今日はその記念すべき第一歩なのです。 ラーを崇めましょう。 皆さん、ラーこそは神です。 そぅです、ラーは神なのです。 来るべき新世界の神なのです。 ラーこそは来るべき新世界の神なのです。 ラー万歳!!


これを聞きレイは思った。


『バ、バカか・・・コイツ!? 目の事を。 それにノート、死神。 ・・・。 ダメだ!! コイツを早くナントカしないと・・・』


これを聞き宇崎は考えていた。


『目!? 目を持っている? 何の事だ? ・・・。 ノート? 死神? どぅいう意味だ? ウ〜ム』


瞬間、閃(ひらめ)いた。


『ハッ!? R しっているか 死神は リンゴ・・・。 し、に、が、み、・・・』


全身に衝撃が走った。

そのため、



(ガッチャーーーン!!



ウンコ座りしていた椅子から仰向(あおむ)けに落っこちた。

床の上で仰向(あおむ)けの “赤ちゃんバンザイ” をしている。

それまで舐めていた飴も床に落ちた。

口を開け、トロンとした目だ。

これがミニスカートの可愛い女の子だったら超嬉しいポーズだ。


『ラッキー!!


な〜んて言いたくなっちゃう位だ。


『写真取っちゃうぞー!!


って、思っちゃう位だ。



そんな宇崎が口走った。


「し、死神!? そ、そんな物が・・・」


レイが空かさずフォローを入れた。


「殺傷能力の事を暗に指し示しているんジャマイカ」


って。


それを聞き、デブリンやアンチャン達が納得気に・・・


「ウンウンウン」


「ウンウンウン」


「ウンウンウン」


「ウンウンウン」


「ウンウンウン」


って、・・・











頷いっちゃったのであった。







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #64



「怖いょ。 もぅ帰ろ」


雅裕が奈奈死野奈奈子に言った。


「うぅん。 もぅチョッといょ。 いて様子見ょ。 実はアタシもラー肯定派なんだ」


奈奈死野奈奈子が雅裕に答えた。


「ラー肯定派って、何に言ってんの奈奈子」


その時、それまで黙ってその放送を見ていた群集が第二のラーと名乗る者の言った言葉に反応し始めた。

第二のラーの言った。


「平和な世の中へ」


という言葉に。

そして、ザワメキ出した。

そこにいた者達の殆(ほと)んどが奈奈死野奈奈子同様ラー肯定派だったのだ。

そのザワメキは徐々に大きくなっていった。

夫々(それぞれ)が声を上げ始めた。


「ラーが世の中を変えてくれるゾ!!


「犯罪の無い世の中だ!!


「そぅだ!! 平和な世の中だ!!


「そぅだ!! そぅだ!! ラーは正しい!!


「ラーは正義だ!!


「そぅだ!! そぅだ!! ラーは正義だ!!


「ラーは神だ!! ラーの元へ集おう!!


「そぅだ!! ラーは神だ!! ラーの元へ集うんだ!!


「ラーは神だ!!


「ラーは神だ!!


「ラーは神だ!!


 ・・・


「ラーっァ!!


「ラーっァ!!


「ラーっァ!!


 ・・・


群集心理である。

とすれば、

直ぐにパニック。

集団ヒステリー状態になった。


そこへ・・・



(ゥー、ゥー、ウ〜〜〜!!



一台のパトカーが駆け付けて来た。

パトカーが止まった。



(ガチャ!!



中から一人の刑事と思(おぼ)しき私服警官っぽいオッサンが飛び出して来た。

パニックになっている群集を解散させようとした。


「解散しなさい!! ここは危険だ!! 早く解散しなさい!!


その私服が雅裕の近くを通り過ぎた。

そしてパニックになっている集団に近付いていった。

その刑事は模木完造(ぼき・かんづくり)だった。

その日、模木はたまたま所用で日神同様、しかし別の用件で本庁に出向していた。

その帰り際、本庁ロビーに設置してあったテレビでこの事件を見たのだ。

そしてこの状況に対して刑事としての血が騒ぎ、放送を止めさせるため単身ここさくらんテレビに乗り込んで来たのだった。


「模木さん?」


雅裕が思わず口走った。

雅裕はかつてチチ 否 父、尊一郎に連れられて何度か日神家に遊びに来た事のある模木の顔を覚えていた。


「ラーは正義なんかじゃない!! 神なんかでもない!! 犯罪者だ!! ただの殺人者だ!! だから解散しなさい!! ここは危険だ!! 早く解散しなさい!!


相変わらず必死で模木が声を上げている。

だが、その集団に解散する気配は全くない。

逆に、みんなが模木を取り囲み、食って掛かった。


「アンタは何だ?」


「警察か?」


模木が応じた。


「そぅだ!! 警察だ!! だから早く解散しなさい!!


それまでは半ばお祭り気分で騒いでいた群集が怒りの集団に変わった。


「警察は何をした?」


「アンタら警察官が何をしてくれた?」


「ラーは悪を裁いてくれてるゾ!!


「そぅだ!! そぅだ!! ラーのお陰で確実に犯罪は減ってるんだ!!


「何の役にも立たないアンタら警察なんかよりズッとラーの方が役に立ってるゾ!!


「ラーは正義の裁きをしてくれてるんだ!!


「そぅだ!! そぅだ!! ラーは正義の裁きをしてくれてるんだ!!


「警察は帰れー!!


「そぅだ!! そぅだ!! 警察は帰れー!!


「帰れ!!


「帰れ!!


「帰れ!!


 ・・・


終に帰れコールの大合唱となった。


一瞬、模木が如何(どう)して良いか分からないという顔をした。

全くのお手上げ状態だ。


その時、



(キューーーン!!



不意に模木の胸に差込が・・・

直ぐにそれは激しい痛みに変わった。


「ゥゥゥゥゥ・・・」


手で胸を抑え、模木が苦しそうに呻(うめ)き始めた。

模木の手は丁度心臓付近に当てられている。



(バタン!!



その場に模木が倒れ込んだ。



(ピクピクピクピクピク・・・)



全身が痙攣している。

それが数秒間続いた。

不意に、



(ピタッ!!



模木の動きが止まった。

その様子を群集が取り囲んで恐怖に顔を引き攣らせて覗き込んでいる。

既に興奮は収まっていた。



(タタタタタ・・・)



雅裕がその輪の中に割って入った。

倒れ込んで動かなくなっている模木の側にしゃがみ込んだ。

模木の体を揺すった。

模木の名を叫びながら。


「模木さん!! 模木さん!! 模木さん!! ・・・」


と、











繰り返し何度も・・・







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #65



(キキキキキ、キーーー!!



さくらん祭り会場へもう1台別のパトカーが入って来た。



(ガチャ!!



ドアが開き中から二人の巡査が飛び出して来た。

二人共手に拡声器を持っている。

その拡声器を通して、


「警察だ!! ココは危険だ!! 速やかに解散しなさい!!


何度も警告しながら、倒れ込んでいる模木に近付いた。

助け起こすためだ。


だが、


突然、


二人のうち一人が胸に手を当て顔を歪め苦しみ始めた。

そして手にしていた拡声器を落とし、七転八倒してその場に倒れ込んだ。

しばらくピクピク痙攣していたが、直ぐに動きが止まった。

その一連の動きは、チョッと前の模木と全く同じだった。


愕然として模木の横に跪(ひざまず)いたまま雅裕はそれを見ていた。


その時、


駆けつけて来たもう一人の巡査も突然胸を押さえて苦しみ始めた。

そして先ほどの巡査同様、地面に倒れ込み動かなくなった。

まるで再生されたビデオでも見ているかのように。


一度は狂気の集団と化した見物人たちも、今は恐怖に顔を引き攣らせこの状況を声を出せずに見つめている。

当然だ。

目の前で次々と人が死んで行くのだから。


だが、


如何(どう)やら殺されるのは、その半ばパニックになった集団行動を止めようとする者達だけのようだった。

つまり、みんなと一緒になってお祭り気分で騒いでいる者達や何もしない者達が殺される心配はなかったのだ。


これらは全て、その場に設置されてあったさくらんテレビのカメラに収められ、実況中継されていた。

先程、佐長官がその長官室から帰り掛けていた日神を呼び戻したのはこの番組を日神と共に見るためだった。

又、この番組はレイと宇崎それにワタセ、そして宇田生、相河、佐、松山も見ていた。

堪(たま)らず宇田生達が司令室を飛び出そうとした。

空かさず宇崎がテレビ画面から目を離さずに声だけで呼び止めた。


「皆さん!! 今行ったら殺されますょ」


興奮して宇田生が宇崎に食って掛かった。


「殺される!? どぅいう事だ?」



(チラッ!!



宇田生に一瞥をくれ、冷静に宇崎が返した。


「どぅやら第二のラーは顔を見ただけで人を殺せるようです。 だからです。 今行ったら犬死するだけです」


宇田生が驚いた。


「か、顔を見ただけで!?


「・・・」


「・・・」


「・・・」


他の3人は無言でこのやり取りを聞いている。

レイが宇崎の肩を持った。


「宇田生さん。 皆さん。 宇崎の言う通りです。 どぅやら第二のラーは顔だけで人を殺せるようです。 今は我慢が肝心。 ここは一つ自重して下さい」


それを聞き、宇田生、相河、佐、松山がこの順に呟(つぶや)いた。


「し、しかし模木が・・・」


「模木・・・」


「模木さん・・・」


「模木さん・・・」


口々に唇を噛み締め、無念の表情で、アップになっているモニター上の模木の死顔を見つめた。



この殺人シーンは当然、さんらんテレビの画面のモニタールームにも流れていた。


「死んでんゾーーー!!


次々に倒れ込んで行く警察官の姿を見て、ディレクターの出歯亀が嬉々(きき)として叫んだ。

顔を紅潮させ、大喜びで指示を出した。


「カメラー!! アップだアップ!! 倒れ込んでくたばってるヤツらの顔のアップだー!! 順番にアップだー!!


大広場のスクリーンにも倒れ込んでいる模木達の顔が大写しされた。


突然、雅裕が立ち上がった。

そして、叫んだ。


「もー止めてー!!


それを見ていたレイが驚いた。


「雅裕・・・!? 何で雅裕がそこにいるんだ!!


雅裕が見えない誰かに向かって叫び続けている。


「もー止めてー!! どーしてこんなに簡単に人が殺せるのー!! 人殺しー!!


画面に映し出されている雅裕に向かってレイが言った。


「止めろ雅裕!! ラーを刺激するんじゃない!! 止めるんだ、雅裕!! 殺されるゾー!!


しかし雅裕は止めない。


「人殺しー!! 人殺しー!! 人殺しー!! ・・・」


雅裕危うし!!


だがその時、



(キキキキキ、キー!!



そこへ囚人護送用の護送車が猛然と突っ込んで来た。



(キキキキキ、キー!! ドッカーーーン!!!!!



それはその辺の小道具を蹴散らし、さくらんテレビの正面玄関のドアに突っ込んだ。

その状況はテレビカメラを通し、画面に映し出されている。

唖然としてレイも宇崎達もその状況を見つめていた。



(ガチャ!!



ドアが開いた。

中からフェイスガード付きのヘルメットを被った私服の大柄なオッサンが飛び出して来た。

刑事のようだった。

そしてその大柄なオッサンは、フェイスガードの濃いスモークが邪魔で顔や目付きは見えなかったが、



(ギン!!



つって・・・多分そんな感じで周囲にガンを飛ばした。(と思ふょ)

それからその場の状況をハンディカメラで撮影しているカメラマンに近寄った。

強引にカメラを奪い取ると、地面に投げ付け、ぶっ壊しちゃった。



『もったいネェー!! アレってゼッテー壊れてるヤツだょな、使えるヤツじゃネェーょな!! ゼッテー壊れてるヤツだょな!!


って、ワチキは実写版のそのシーンを見ながらそのように思っていたのであった。



次々とカメラを奪い取り、オッサンはぶっ壊していった。

そして、最後の一台が壊れると、



(プチッ!!



大広場の映像が消えた。


最後の一台を壊し終えるとオッサンは斜(はす)に構え、



(パサッ!!



ヘルメットを取った。

そして今度は周囲を取り囲んでいる群衆に、



(ギン!!



つって、一瞥をくれた。


雅裕がオッサンの顔を見た。

驚いた。

そして口走った。


「お、おっさん じゃない お父さん!?


そぅ。


その 『ギン!!』 てして、斜(はす)に構えて、ヘルメットをパサッてして、も1回 『ギン!!』 てしたオッサンは日神尊一郎その人だった。

日神も又テレビで見てその場に駆け付けたのだ。

そして宇崎同様第二のラーは顔だけで人が殺せる事を察知し、ヘルメット着用で駆け付けたのだった。

日神は倒れ込んだまま動かず明らかに既に死んでいると思われる模木に近付き、頚動脈を抑え、脈がないのを確認し、

まだ、


(パカッ!!



って開いたまんまの模木の目を閉じてやった。(本来ならこの時点で、模木達はウンチやオシッコをお漏らししちゃってるんだヶど、それ書いちゃうとリアルんなっちゃうんで・・・ボツ あ!? あと、模木にしても日神にしても随分都合良く到着するょな!? つー突っ込みはナシでオネゲー致しゃす・・・本庁とさくらんテレビはチケー(近い)ンだって、思ってチョ : 作者)


「お父さん!!


雅裕が日神に駆け寄り抱きついた。


「模木さんがぁ、模木さんがぁ!!


「あぁ、分かった。 雅裕、これを被っていなさい」


そう言って日神が着ていた上着を脱ぎ、雅裕の頭に掛けた。

顔だけで殺せる第二のラー避けのつもりだった。(って言っても、もうシッカリ顔見られちゃってんだヶど・・・)


だが、


一瞬、雅裕の顔が醜(みにく)く歪(ゆが)んだ。


雅裕は思ったのだ。


『ウッ!? クセッ!!


って。。。











黙ってたヶど。







つづく