死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #71



『死神の目を持つ者が自分以外の人間を見た時、その頭の上にその人間の実名と死を迎える瞬間の年月日時分秒を見る事が出来る。 しかし、死神にはハッキリと見える “死人帖を持つ者” の死を迎える瞬間の年月日時分秒、これを見る事は絶対に出来ない』


死人帖のルールである。

このルールに従って、ミーシャは日神太陽(ひがみ・レイ)がラーである事を見抜いたのだ。

自らの寿命を半分に減らした替わりに死神からもらった死神の目、それを用い上記のルールを逆手に取りラーを見つけ出したのである。

ラー・日神太陽を。

誰よりも先に。


ミーシャはその日はそれで “アガリ” だった。

マネージャーを急(せ)かせ、脱兎の如く階段を駆け下り、マネージャーの運転する車で自分のマンションに急ぎ戻った。

大急ぎで部屋に戻ると取る物も取りあえずウィンドウズのノート・パソコンを起動した。

ファイアー・フォックスを開き、グーグルの検索ページを呼び出した。

そして、


『日神太陽(ひがみ・たいよう)』


と入力した。


Enter ” キーを押した。


ブログ、ホームページがズラっと並んだ。

トップページを開いた。


それを見ながらブツクサ声を上げた。


「フ〜ン。 太陽って書いて 『レイ』 って読むんだ。 なんか DQN 。 それにしてもスッゴイなー日神太陽君。 中学2年と3年、温泉卓球の草津大会ジュニア部門で優勝。 今年はあの天下の俊英が入る京東大学入学式で新入生代表。 写真ないヶど、こんな DQN ネームあんま見ないし。 きっとこの人ネ。 でも、まさかラーがあんなに若くてカッコいいだなんて・・・。 ぅふ。 名前とガッコ分かっちゃたし、明日はオフだから新橋の名簿屋さん行けば住所とか分かっちゃうネ。 ヨッシャー!! 明日は早起きだー!! サッ!? お風呂入って、なんか食べて、寝ょ、っと・・・」











って。







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #72



『人間の命を奪うためにのみ使われるべき死人帖を、人間の延命のために使った死神は・・・死ぬ』



「ある死神を殺したければ、人間に恋をさせる事だ」


「それって素敵ぃ!?


ここは余海砂のマンション。

時は、ミーシャがラーを見つけ出したその日の深夜。

翌日は仕事がオフである事を利用して新橋の名簿屋に行くつもりにしているのだが、ラーを見つけ出した興奮で中々寝付けない。

そのミーシャがベッドの上に座り、宙を見上げ、相変わらずブツブツ独り言を言っている。

まるでそこにミーシャを見下ろして話し掛けてくる誰かがいるかのように。

ミーシャ以外誰もそこにはいないはずなのに。


「嫉妬(シット)という名の死神がいたんだょ」


「フ〜ン」


「嫉妬は死神界からズッと一人の娘(むすめ)を見続けていた。 いつもいつも来る日も来る日もだ。 嫉妬は恋をしていたのさ、その娘にネ。 だが、その娘の寿命は殆(ほと)んど残ってはいなかったんだ。 しかし嫉妬は見続けた。 そして終にその娘の寿命の尽きる時がやって来た。 ある晩、その娘は夜道を歩いていた、一人でネ。 周りには誰もいなかった。 その娘だけだった。 突然一人の男がその娘の目の前に現れた。 枝・・・屁田野 幸男(へだの・ゆきお)という男だ。 ストーカーってヤツか? そいつはその娘を待ち伏せしていたんだ。 そして交際を申し込んだ。 思っても見なかった出来事に驚いたその娘は、どぅしていいか分からず何も言わず、その場から逃げた。 するとその男は逆切れしてネ、持っていたダガーナイフを抜いてその娘を追い掛けた。 殺つもりでだ。 そいつはネ、ミーシャ。 初めっから殺すつもりだったのさ、もしも願いがかなわなかったら、ダガーナイフでその娘を。 その娘は直ぐにその男に追いつかれ捕まった。 胸にナイフを突きつけられ、今にも殺されようとしていた。 そしてそいつがナイフで娘を突こうと弾(はず)みを付けるために肘を後ろに引いた瞬間、そいつは地面にバッタリ倒れ、ナイフを投げ出し、胸を抑え七転八倒して苦しみ出した。 それからホンの数秒だった。 そいつが動かなくなるまでに掛かった時間はネ。 ホンの数秒で充分だったんだ、そいつが死ぬのに必要な時間はネ。 そぅさ。 そいつは殺されたんだ、嫉妬に。 嫉妬はその娘を守るためにそいつを殺したんだ、死人帖を使って・・・。 でもネ、ダメなんだょ、ミーシャ。 許されないのさ、そんな事。 そんな事、死神は絶対やってはいけないんだ。 ナゼだか分かるかい?」


「ウゥン」


「死神はネ、ミーシャ。 人間の寿命を短くする。 ただそのためだけに存在しているのさ。 だから人間の寿命を延ばすなんて事はもってのほか、絶対にやってはいけない事なんだ。 だが、嫉妬はその絶対にやってはいけない事をやってしまった」


「それをするとどぅなっちゃうの?」


「ある人間の寿命を延ばすために死人帖を使った死神は・・・死ぬ」


「じゃ、じゃぁ、その死神は? 嫉妬は?」


「死んだ」


「もしその娘(こ)に恋をしていなかったら、例えその男を殺しても嫉妬は死なずに済んだ・・・の?」


「あぁ」


「・・・。 もしかしてあの時、・・・。 あの時、わたしを助けてくれたのは・・・」


「その通りだ」


「・・・」


ミーシャは無言で死人帖を抱きしめた。


「お前の命は嫉妬の命。 そして今、お前が手に持つそれは嫉妬の死人帖。 だからそれはお前の物だ」


「ゥ、ゥ、ゥ、・・・」


死人帖を抱きしめたままミーシャは静かに泣いた。


「大切に使え」


「ウン」


今のミーシャには一言頷くのが精一杯だった。


「死ぬ間際に嫉妬はその死人帖をわたしに託し、こう言ったんだょ、ミーシャ。 『あの娘を頼む・・・翠旻(スイミン)』 と」


そぅ。


今、ミーシャは独りっきりではなく死神と一緒だったのだ。

苦竜とは別の死神と。


そしてその死神は・・・その名を・・・











翠旻(スイミン)と言った。







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #73



「ドッコィショ!! これで全部だ。 宇崎」


デブリン宇田生が言った。


ここはラー対策本部ビル23階司令室。

さくらんテレビ祭り事件の翌日朝の事だ。

そこには宇崎、日神達5人、そしてワタセがいた。

レイはいない。

それに本来ならそこにいるはずの模木の姿もなかった。

当然だ。

昨日、第二のラーに殺されたのだから。

テーブルの隅っこには、その模木の黒い縁取りの小さい写真が置いてある。

その前には大福餅、おはぎ、草餅が1個ずつ全部で3個、供えられている。

供えられている物から察するに、宇崎だろうそれを置いたのは。


宇田生は小刑事・相河と二人で、さくらんテレビ局の関係者からタレント、そのマネージャー、アルバイト、果ては弁当屋の配達員に至るまで、昨日さくらんテレビ局に出入りした者達全員の名簿、プロフィール、履歴書といった物全てを捜査資料として押収して来たのだった。

その数、ザッと500人分。

大きいダンボール2箱に目一杯入っている。


それは宇崎の指示だった。

宇崎はこう考えていたのだ。


『第二のラーが模木を含め3人の警察官を殺したのは3人の姿がテレビに映っていたからだ。 事実、日神局長がテレビカメラを破壊した後は誰も死んではいない。 彼らと同じ事をしたにも関わらずだ。 という事は、第二のラーはテレビを見て3人を殺したという事になる。 とすれば手掛かりは何処(どこ)にもない。 だが、ホントにラーはテレビを見ていただけなのだろうか? ・・・。 否、違う!! 第二のラーは必ず現場近くにいたはずだ。 放火犯を見てみろ。 奴等は仮に一度はその場から逃げても必ず現場の様子を見に戻って来る。 殺人者だってそうだ。 現場がどぅなったか? 犯人は断定されたのか? そぅいった事が気になって必ず付近をうろつく。 まして第二のラー。 どぅやってやるのか知らないがヤツは顔だけで人を殺せる。 と、すれば・・・余程目立ったことをしない限り足が付く事はない。 そんなヤツが現場付近にいない訳がない。 ならば昨日、局にいた者達全てを洗い出せばもしかすると・・・』


と。


宇崎が食べ掛けの大福餅を右手親指と人差し指でいつものように摘み、椅子の上にウンコ座りしたまま宇田生達に言った。


「ご苦労さまです」


アンチャン松山が宇崎に聞いた。


「でも、これ一体何に使うんだ?」



(パサッ!!



宇崎が大福餅をかじりながらテーブルの上にそれまで持っていた A3 サイズのビニール袋を置いた。

そのビニール袋には黒のマジックで大きくハッキリと、


『第二のラー さくらんテレビ ビデオテープ 他』


と書かれてあった。

それは鑑識課から上がってきた物を日神がホンのチョッと前に持って来ていたのだった。

鑑識課から来た物だけに当然全て鑑定済みだ。


宇田生が聞いた。


「これがどぅした?」


「この中には、日神さんが押収した封筒に付着していた髪の毛、化粧品と思われる物の粉末、衣服の繊維など多数の証拠品が入っています。 これと今、宇田生さん達が持って来てくれた資料を参考にして第二のラーを割り出します」


宇田生が目をクリクリさせて言った。


「わ、割り出すったってこの数、こんなに一杯・・・」


松山もそれに同調した。


「そ、そぅだょ。 これっ、どぅ見ても500人分は・・・」


日神達も戸惑った様子でビニール袋とダンボールを夫々(それぞれ)見比べている。

ジッツに嫌そうな顔して。


『オィオィ、これ全部調べなきゃなんネェのかょ』


つー感じだ。


宇崎がテーブルの上に置かれている模木の写真を右手は大福餅を持っているので左手で、そして無礼にならないように指差すのではなく手の平全体で指し示して言った。


「模木さんの弔(とむら)い合戦(がっせん)です」


流石(さすが)宇崎。

たったの一言で全員にやる気を起こさせちゃったのだった。


「ヨッシャー!! 模木だー!! 模木の弔い合戦だー!!


「ヨッシャー!! 弔い合戦だー!!


「ヨッシャー!! 弔い合戦だー!!


「ヨッシャー!! 弔い合戦だー!!











ってな具合に・・・







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #74



(コツッ、コツッ、コツッ、・・・)



レイが考え込みながら歩いていた。


『第二のラー。 一体どんなヤツだ・・・』


例のさくらんテレビ祭りの翌日夕暮れ時の事だ。

自宅まではもう目前、後1分もあればという所まで来ていた。


突然、



(ジャーン!!



目の前にスッゲー可愛い女の娘(こ)が飛び出した。

ミニ・スカートだ。

パンツ見えそうだ。


その娘(むすめ)がレイに話し掛けた。


「日神太陽さんですょネ、今晩は。 あの〜、わたし・・・」


「あぁ、雅裕の友達?」


「いいぇ」


そう言ってその娘(むすめ)は持っていたバッグの中から1冊のノートを取り出した。

それをレイに差し出して言った。


「これ・・・」


そのノートを見た瞬間レイの顔が引き攣った。


『こ、これは・・・死人帖!?


娘(むすめ)が続けた。

可愛らしく首なんか



(コクッ!!



ってして。


そして、ニッコリ笑って言った。


「触ってみて」


即座にレイはその言葉の意味を理解した。

反射的に辺りを見回した。

誰かに見られていないか確認したのだ。

遠くの方には人影が見えたが、近くには誰もいなかった。

レイは思った。


『良し!! 大丈夫だ!! こちらの様子を窺(うかが)っている者はいない!!


そしてその差し出されたノートの端を右手の親指と人差し指で摘(つま)んだ。


すると、



(パッ!!



レイの眼前に身の丈4メートルは優にある死神・翠旻が現れた。

レイはしばしその姿を見つめた。


翠旻の姿は・・・



!?


書こうと思ったがぁ。

めんどっちぃのでぇ。

翠旻はデスノの


“レム”


!?


パクっておるのでオジャル。

ヨ・ロ・ピ・コ



娘が言った。


「初めまして、余海砂(あまり・ミーシャ)です。 宜しく。 もし、あのテレビ見てくれてたら今頃心配してるんじゃないかなって、そぅ思ったら居ても立っても居られなくってアタシ・・・」


ここでレイが素早く左手を上げ、ミーシャがそれ以上喋るのを制した。

もう一度、誰かに見られていないかと辺りを見回した。

近くに誰もいないのを確認してからレイがミーシャに言った。


「ここで話すのもなんだ。 家へ入ろう」


「いいんですか?」


「あぁ、ここよりはマシだ」



(ピンポーン!!



「ただ今ぁ」


レイが玄関を開けた。

雅裕が出て来た。


「お兄ちゃん、お帰・・・」


雅裕が絶句した。

レイと一緒に玄関に入って来たスッゲェかわゆいミーシャを見て。


あ〜ぁ、雅裕のヤツ、


ポッカ〜〜〜ンって口開けちゃってるょ。

思い掛けない出来事に驚いちゃったのであった。


母・幸子も出て来た。


「レイ、お帰・・・」


幸子も雅裕と同じリアクションだった。

やはりポッカ〜〜〜ンって、しちゃって。

雅裕同様驚きを隠せなかったのだ。


「あぁ、チョッと友達を連れて来たんだ。 帰りにそこで偶然会ってネ」


そしてミーシャに向かって、然(さ)も前々からの知り合いっぽい素振りで白々しく言った。


「ここが僕の家さ。 サッ、上がって」


ミーシャが上がった。

そして挨拶した。


「今晩ゎ」


先ず幸子に。


「お邪魔します」


次に雅裕に。


そのミーシャにレイが言った。


「さぁ、コッチだ。 2階が僕の部屋だ」


レイとミーシャが階段を上がり掛けた。

レイが立ち止まった。

幸子に言った。


「あぁ、母さん。 気を使わなくていいょ。 何もいらないから。 大事な話があるんだ」


「ゥンゥンゥンゥンゥン・・・」


幸子はただ頷(うなづ)くばかりであった。

幸子と雅裕はレイ達が階段を上がり、部屋に入るのを相変わらず口をポッカ〜〜〜ンってしたままジッと見つめていた。

信じられないという表情で。(これは別にミーシャのパンツが見えそうだったからではない : 作者)


「お、お母さん。 い、今の人どっかで・・・」


「ミーシャょ、ミーシャミーシャ。 余海砂」


「アッ!? あのー、あのナントかっていう歌、歌ってる・・・。 余海砂!!


「そぅょ、そぅそぅ。 余海砂。 あのナントかっていう歌、歌ってる。 あのアイドルの」


「な、何で、お兄ちゃんがアイドルなんかと・・・」


 ・・・


これが二人が先程大袈裟に驚いた理由であった。(パンツではなかった)


そぅ。


余海砂は売れっ子アイドルだったのだ。

それも超売れっ子アイドル。











“あのナントか” つー歌、歌ってる。







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #75



「で!? どぅして僕が分かった?」


ここはレイの部屋。

二人は向かい合って座っている。

レイがベッドに、ミーシャが机の椅子に。


当然、そこには苦竜と翠旻もいる。


「あぁー、ヤッパー!? 目の取引してないんですネ!!


「目の取引?」


「はい。 目の取引すると人の頭の上にその人の本名と死ぬ時間が見えるんです、ヘンテコな文字で。 ヶど、死人帖を持ってる人の場合、見えるのは本名だけで死ぬ時間は見えないんです。 だからさくらんテレビの玄関ホールで一目見て分かりました」


それを聞きレイが苦竜を睨んだ。



(ギロッ!!



って。


バツが悪そうに苦竜がソッポを向いた。

そして



(タラ〜!!



って、冷や汗流して言った。


「い、否。 なんだぁ。 その〜。 そこまで詳しく知らなかったし・・・。 アハハハハ。 わし」


苦竜はひょうきんモンだった。


レイがミーシャに聞いた。


「君はアソコで何をしていた? アルバイトか?」


ミーシャが素早く反応した。


「アッ!? あの〜、こう見えてもアタシ・・・」


そう言いながらバッグの中から、1枚のアニメの CD を取り出した。

それを両手でレイの目の前に差し出した。

そして続けた。


「ソコソコ売れてるんですヶど・・・」


レイが差し出された CD を見た。

ジャケットにはミーシャの写真ではなくイラストが描いてあった。

それはズボンを穿(は)き、シャツを着て二本足で立っているマンガチッくなこぶたのイラストだった。

レイはタイトルを読んだ。

こうだった。


『こぶたのミーシャ』


サブタイトルが


『ノルマリーナ・ミーシャ(好きだわミーシャ)』


って言ふアニメのテーマソングだった。


「君はアニソン歌手か?」


「はい。 アニソンも歌ってます。 でも、普段はグラビアとかテレビのバラエティとかアニメのアテレコとか・・・。 アッ!? 今度は映画にも・・・」


それを聞きレイは、


『なんだコイツ。 そんな有名人かょ。 ヤレヤレ』


つー顔をした。

さしものレイもこの分野だけは疎かった。

そしてしょうがネェなぁ、全く、つー感じで言った。


「もし、君が捕まっていたらラーの秘密はバレていた」


即座にミーシャが言い返した。


「でも、まだわたしは捕まってない。 それにこれからはアナタの言う通りにする。 そぅすれば捕まらない。 そぅでしょ?」


「あぁ、そぅだ」


「わたしはアナタの目になる。 そしてわたしが R 達、アナタの邪魔をする者達の名前を見る。 ・・・。 だから・・・」


「ン!? だから?」


「アナタの彼女にして下さい」


レイは思った。


『彼女? 何考えてるんだ、コイツ』


って。


そして言った。


「ダメだ!!


「エェー!? 何でぇ?」


「僕達が一緒にいるのは危険だからだ」


「危険だから?」


「そぅだ。 君がテレビ局に送った封筒やテープ等には同じ指紋が付着している。 その指紋を取られ、君の物だと断定されたら、第二のラーは君だと分かってしまう」


「アレに付いているのはわたしの指紋じゃない。 友達の指紋です」


「ン!?


「アレはオカルト好きな女友達の指紋です。 わたしだって少しは考えて行動してます」


「?」


「コッチ来る前、私は関西にいました。 少し前の話です。 そして今回これを計画した時、わたしはインチキな心霊写真作ってその子に見せ、名前を伏せてそれを色んなテレビ番組に送ろって持ち掛けました。 一応、アイドルしてるわたしの名前がバレルとやばいからって。 そしたらその子乗って来て、だからその子に必要な物全部用意させました。 そしてそれに、わたしの指紋が付かないよう用心してビデオ作ったり脅迫文を書きました。 だからアレに付いてた指紋はわたしのじゃなくって全部その子の指紋です」


「その子は今どぅしてる?」


「ウッ!?]


ミーシャは一瞬黙った。

それから覚悟を決めたように言った。


「アナタがそぅしろと言うなら殺します」


「・・・。 否、それはマズイ。 そんな事をすれば友達の君に捜査の手が及ぶ危険性がある」


「・・・」


「・・・」


しばしの沈黙の後、ミーシャはバックの中から再び死人帖を取り出し、それをレイに差し出して言った。


「そんなにわたしが信じられないならこの死人帖、アナタが持ってて下さい」


ミーシャが翠旻に聞いた。


「これなら所有権を放棄した訳じゃないから目の力は持続する。 そぅょネ、翠旻?」


翠旻が答えた。


「あぁ、そぅだ。 ノートの保管場所が日神太陽の手の内という事になるだけだからな」


レイが死人帖を受け取った。

そのレイを見つめてミーシャが言った。


「これならわたしはアナタを殺せない。 警察だってアナタからしか死人帖を手に出来ない。 アタシが不要になったらいつでも殺せる」


「だが、君がこの死人帖の切れ端を隠し持ってないという保障はない」


「切れ端?」


「あぁ、切れ端だ。 死人帖はその切れ端だけでも本体同様人が殺せる」


「ヘッ!? そんな使い方が? ・・・。 そんな使い方今の今まで知らなかった。 第一、死人帖が破かれているかいないかはアナタなら分かるでしょ。 なんでそんなに疑うの?」


「・・・」


ミーシャが語気荒く口答えしたためレイがチョッと退いた。

それを見て、


『マズ!?


って思い、少しトーンダウンしてミーシャが言った。


「わたしはアナタに利用されるだけでもいいの」


「・・・」


「お願い、信じて!!


「ナゼだ? ナゼそこまで僕に?」


「一年前、わたしの両親は強盗に殺されました。 犯人は直ぐに逮捕されました。 名前は小西滓 邪郎(こにしかす・やろう)。 覚えてますか? アナタに殺された小西滓です。 自称国際ジャーナリスト、その実、ただの芸無しお笑い芸人の。 英語は上手らしいヶどその分日本語ダメポで、国際ジャーナリストを名乗ってるくせにあのリーマン・ブラザースが潰れた丁度その日。 それに全く触れようともせず、つまんない世間話を自分がパーソナリティやってるラジオ番組でダラダラとバカ騒ぎしていた、何を根拠にそれを名乗るのか全く持って理解不能の自称国際ジャーナリスト。 アメリカ民主党の代表選挙戦の分析も全くダメポだった。 そして日本の民主党を持ち上げ、麻生政権を貶(おとし)めるためなら捏造、歪曲、嘘、なんでも有り。 もっともその空っぽ頭のパッパラパーの所為(せい)でタロちゃん達の悪口をホザケばホザク程まともな人間から見放される、全く面白くも何ともないただのおバカお笑い芸人、あの芸無し低能売国国賊ハナクソの小西滓です」


「小西滓? あぁ、あのチンカスか・・・」


「証拠はわたしの目撃証言だけ。 裁判ではその信憑性が疑われ、冤罪の見方さえ出て来ました。 ハッキリ見たのに!! わたしはこの目でハッキリと小西滓が逃げていくトコ見たのに・・・」


「・・・」


目に涙を浮かべて話すミーシャの姿をレイは無言で見つめた。


「そんな時です。 そんな時、犯人の小西滓をラーが裁いてくれました」



(タラ〜)



涙のしずくが一滴ミーシャの頬を伝わった。


「・・・」


レイは黙ったままだった。


「嬉しかったぁ・・・。 心のそこから感謝しました。 ラーに 否 アナタに。 だからわたしに取ってラーは・・・アナタは・・・絶対的な存在・・・」


ここでレイがミーシャを遮った。


「だが、君は・・・。 君は罪のない警察官を3人も殺した。 それは君の両親を殺した小西滓と何ら代わらないんじゃないのか?」


目に大粒の涙を一杯に浮かべ、ミーシャが即座に言い返した。


「ウッ!? そんな事・・・。 そんな事アナタに言われたくない!!


「・・・」


レイが押されている。


【「いゃぁ〜、涙は女の最大の武器と言うからね。 泣かれると男は太刀打ちできないでしょう」 だったっけ? ン!? 小泉さん家(ち)の純ボゥ】


「アナタだって悪を裁くには犠牲が出る。 そぅ考えてるはず。 わたしだって・・・。 わたしにはアァするしか思いつかなかった。 アナタを見つけ出すためには、アナタに会うためには・・・。 わたしはどぅしてもアナタに会いたかった。 ただそれだけ、ただそれだけで・・・」



(ガバッ!!



不意にレイがミーシャを抱きしめた。

そして耳元で囁いた。


「分かった、もぅいい。 もぅいいょ」


「・・・」


「ミーシャって言ったネ」


「ウン」


「ありがと、ミーシャ。 君のその目は武器になる。 残りの寿命半分と引き換えにして手に入れた君のその目はネ」


「嬉しい」


ミーシャがレイを抱き返した。

そして続けた。


「わたし頑張る!! アナタのために・・・」











って。







つづく