死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #76



『コイツを宇崎の前に出す。 コイツはヤツの顔を見る。 イコール宇崎の本当の名前を知る事になる。 そして宇崎は死ぬ。 それからだコイツを殺すのは。 捜査本部にいる奴等全員と一緒に。 そぅだ!! コイツはラーの正体を知るこの世でたった一人の人間。 コイツをいつまでも生かしておくのはマズイ。 ラーの正体を知る唯一の人間のコイツを・・・。 ケケケケケ』


って、レイは考えていちゃったのだった。

ミーシャを抱きしめながら、アッカンベーしながら。

レイって結構悪い奴だったのだ。

この二重人格性から鑑(かんが)みると、恐らくレイの血液型は・・・ AB 型・・・かな?

って、まぁ、どぅでもインだヶど・・・


レイがそんな事を考えてるとは露知らず、ミーシャがオネダリこいた。


「今度はミーシャにアナタの死神見せて」


って。


上目使いのオネダリの目してチョビっとかわゆく。

レイは思った。


『ウッ!? チョ、チョッと可愛いじゃネェか!? チョッと。 苦竜が見てぇってかぁ。 ま、いっか。 見せたからといって別に不都合はない』


って。


そして言った。


「あぁ、見しちゃる」


って。


こうも言った。


「なら、チョッとケツ見せてくれるか? じゃなくって 後ろ向いてくれるか?」


って。


ミーシャが椅子を回転させて後ろを向いた。

レイが、財布に隠してあったレイの持つ死人帖の切れ端をミーシャに見られないように取り出した。



(チッ!!



その切れ端をミーシャの左手小指に軽くおタッチさせた。


(コレって、ワタイならこぅやんだけんどなぁ。 先ず、ミーシャの愛情を利用して右でも左でもドッチでもいいからチチ出させて、それから目瞑(つむ)らせて、エヘッ、エヘッ、エヘッ、ってしながら乳首にチッ!! : 作者)


それから切れ端を再び財布に隠した。


「こっち向いていいょ」


「ウン」


ミーシャが再び椅子を回転させてレイの方に向き直った。

丁度1回転した形だった。


すると、



(ジャーーーン!!



ミーシャの目の前に苦竜の姿があった。

レイがミーシャに紹介した。


「死神・苦竜だ」


苦竜を繁々と見ながらミーシャが挨拶した。


「はじめまして苦竜。 よろしくネ」


って。



(ニカッ!!



ってして小首を傾(かし)げてスッゲーかわゆく。


それ見て苦竜が



(ポッ!!



ってした。


そして応じた。


「アィョ」


って。


苦竜と翠旻を見比べてミーシャが感心して言った。


「フ〜〜〜ン!? でも、随分デザイン違うのネ。 同じ死神でも、翠旻とは」


「まぁ、な」


仄々(ほのぼの)としたミーシャと苦竜の会話であった。


その続きをレイが遮(さえぎ)った。


「ところで、まだ友達の指紋付きのビデオテープや封筒は残っているのか?」


「ウン。 まだあるょ」


「ならそれらは、早急(さっきゅう)に処分しておかなくちゃな。 否、待て。 ・・・。 それは宇崎 否 R を誘(おび)き出すのに使えるか? ウ〜ム。 処分はそれから・・・でもいいか?」


「どぅするの?」


「あぁ。 それらは僕が処分しろというまで人目に付かないように隠して置くように」


「ウン。 分かった。 そぅする」


ここでレイは少し間を取った。

そしてミーシャの目を見据えて念を押すようにこう告げた。


「それともう一つ言って置く事がある」


「何?」


「大事な事だ」


「大事な事?」


「そぅだ!! もし、ミーシャが誰かに捕まっても決してお互いの事と死人帖の事は喋らない。 これを守ると誓えるか?」



(二カッ!!



ってしてミーシャが言った。


「はい。 誓います」


「良し」


すると、


も1回、かわゆく



(二カッ!!



ってしてミーシャが言った。


「じゃぁ、今度はアナタがわたしに誓う番」


「ン!? 何をだ?」


「アナタとわたしは恋人同士。 これを誓いますか?」


「・・・」


レイは困った。

それはミーシャが嫌いだったからではなかった。

むしろ可愛いとさえ思っていた。


だって、座るとパンツ見えてんだもん。

黒だけど・・・


ミーシャに情が移るような展開は極力避けねばならない。

さもなければ身の破滅を招く。

パンツ位でクラっとする訳には行かないのだ。(黒だけど)

という事をレイは良く承知していたからだった。


「誓いますか?」


チョッとじれてミーシャが語気を強めて再度聞いた。


『コイツの性格を考えたら否定するのはマズイ。 ここは一つ・・・』


「あぁ、誓う」


「ヤッター!! 恋人宣言完了!!


「・・・」


「では、アタシからの条件」


「何だ?」


「デートは最低週1回」


レイは、



(ムッ!!



とした。


「ダメだ!!


「エェー!? 何でぇ!?


「まだ僕の言う事が良く分かってないようだな」


「???」


「既に R は僕がラーじゃないかと疑っているんだ」


「エェー!? ホントー!? 凄ーい!? R って凄いんだ!! 世間じゃ、 『 R は何も分かってない』、 『 R はおバカだ』 ってダメポ扱いされてるのに。 ホントはもうそこまで・・・」


「あぁ。 お陰で僕も R と接触する事が出来た」


「エェー!? ラーのレイが R と接触!? それって、どっちも凄ーい!! な〜んかワクワクして来ちゃったぁ、アタシ」


「だからデートは出来ない。 分かったかい?」


「分かんない!!


「チッ!! だ〜からー、もし僕がミーシャとデートするんなら、ミーシャ以外の女の娘ともデートしなきゃなんなくなるんだょ。 カモフラージュのために」


「ダメー!!


「でも、そぅしなきゃなんなくなるんだ」


「そんなの嫌ー!!


「チッ!! 聞き分けのない事を・・・」


「もし、そんなトコ見たら、きっとアタシその娘殺しちゃう。 さっき渡した死人帖返して」


「・・・」


「・・・」


暫し二人は黙った。

ジッと見つめ合っている。

否、睨み合ったと言った方が近い。

レイは冷たく。

ミーシャは、



(プッ!!



とふくれて。

二人が固まったまま時は流れた。

そして先に動いたのはレイだった。


「なら、仕方がない。 僕の死人帖にミーシャの名前を書くしか・・・」


そう言いながらレイはカバンの中から、自らが所有権を持つ死人帖を取り出した。

そしてまだ何も書き込まれてはいない無垢のページを開いた。

胸ポケットから万年筆を取り出した。

キャップを外した。

顔を上げ、ジッとミーシャの目を見つめた。

ミーシャの顔は引き攣っていた。

息を殺し、固まったまま信じられないという表情でレイの一挙手一投足をただ黙ってみていた。

否、そうする事しか出来なかった。

レイが目線をノートに落とした。

そしてペン先をノートに押し付けようとした。











その時・・・







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #77



「そぅはさせないょ、日神太陽」


横から声がした。


翠旻だった。

翠旻は続けた、右手人差し指をレイの鼻先に突きつけて。

苦竜同様不気味な形をした右手人差し指を。


「もし、お前がこの娘(こ)を殺そうとしたら、その前にわたしがお前を殺す。 この娘の寿命は見えている。 それを全うせずにこの娘が死んだら、お前が殺したとしか思わない。 それだけじゃないょ、日神太陽。 この娘を殺そうとしているのが分かった時もだ。 そぅなったら、その時点でわたしはお前を殺す」


レイは思った。


『クッ!? な、何なんだ、この死神は?』


更に翠旻が追い討ちを掛けた。


「だからこの娘の希望通りにするんだ。 いいネ。 分かったかい?」


「・・・」


レイは混乱して黙っていた。

そのレイに翠旻が駄目を押した。


「分かったかい?」


「あ、あぁ。 分かった」


レイはそう答えるのがやっとだった。


その時、



(コンコン)



「レイ!!


ドアの向こう側から幸子が声を掛けた。


「な、何? 母さん」


「いぃい? 入るゎょ」


「あぁ、いいょ」



(ガチャ。 キー)



幸子が一歩だけ部屋に足を踏み入れ、部屋の中を覗き込んだ。

そして言った。


「もう11時ょ、レイ。 女の娘をこんなに遅くまで、電車なくなったらどぅするの?」


「そ、そぅだネ。 つ、つい話し込んじゃって・・・」


チョッと取り乱したレイであった。


一方、


ミーシャは落ち着いていた。


「すみません、お母さん。 すっかり長居しちゃって」


こんな時、やっぱ女はツオイ。


そして帰り際、


「これ!? アタシのメルアド。 はい」


つって、レイに自分の名刺の裏にメルアド書いて手渡し、


「夜分遅くにお邪魔して済みませんでした」


つって、幸子と雅裕にお別れの挨拶なんかしちゃった。


余裕のヨッチャンこいてスキップなんかして、ルンルン気分で帰って行くミーシャであった。

それをレイ達3人が見送った。


ミーシャは大満足だった。

確(しっか)り、レイと恋人宣言しちゃったし・・・


タクシーを拾うまでの間、ミーシャが鼻歌気分で翠旻に聞いた。


「ラー( Ra )って神様の事だょネ、翠旻」


「あぁ、そぅだ。 太陽神だ。 エジプトのな」


「フ〜ン。 ラーってエジプトの太陽神かぁ。 で、日本のラーが日神太陽。 その日神太陽がミーシャの王子様。 白馬には乗ってなかったヶど、悪魔でもなかった。 素敵なミーシャの、白馬に乗らない白馬の王子様」


「そんなに嬉しいかい、ミーシャ?」


「ウン」


「良かったな」


「ウン。 それもこれも死人帖くれた翠旻のおかげだょ。 アリガト、翠旻。 でも、最後はチョッと強引だったかな」


「あぁ。 そぅだったな」


「ウ〜ム。 ま、いっか。 王子様ゲット出来ちゃった事だし・・・。 結果オーライ、っかな。 やっぱ・・・。 ヶどダメだょ、翠旻」


「何がだ?」


「ホントにレイ殺しちゃ」


「あぁ」


「ホントだょ。 約束だょ」


「あぁ、分かった」


って事で、


メデタシメデタシ・・・だった。



それから何事もなく3日が過ぎた。


もっとも、相変わらずラーの裁きは続いてはいたが。


そして4日目・・・











終に事件は起きた。







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #78



(カキッ!! ポリッ、ポリッ、ポリッ。 カキッ!! ポリッ、ポリッ、ポリッ。 ・・・)



『ハッ!?


瞬間、レイが振り向いた。


不意に背後から奇妙な音が聞こえたからだ。

それは板チョコをかじる音だった。


レイの後ろの後ろに宇崎が座っていた。

例によってウンコ座りだ。

板チョコ食いながらの。



(カキッ!! ポリッ、ポリッ、ポリッ。 カキッ!! ポリッ、ポリッ、ポリッ。 ・・・)



って。


ここは京東大学のとある教室。

収容人員500人の大教室だ。


レイはその最前列で一般教養の講義を受けていた。

たった今終わったばかりだ。

教室を移動するためそれまで使っていた教科書をカバンに仕舞い、立ち上がろうとした正にその時の事だった。


レイは不意を突かれ驚いた。


「宇崎!?



(カキッ!! ポリッ、ポリッ、ポリッ。 カキッ!! ポリッ、ポリッ、ポリッ。 ・・・)



ジッとレイの目を見据え板チョコを食べ続ける宇崎。

気を取り直しレイが聞いた。


「何でこんな所に?」


「えぇ。 チョッとした事件が」


「事件?」


「はい」


 ・・・


そして二人は教室を出た。

レイのその日の授業はそれで終わりではなかった。

教室を移動する必要があった。

二人は校庭内を歩いた。

こんなやり取りをしながら。


「しかし、いいのか? 素顔を晒(さら)しても」


「第二のラーに見られたらアウトです」


「なら、出ない方が」


「その心配は無用です」


「ナゼ?」


「はい。 ここでわたしが R だと知っているのはレイ君だけですから。 たとえ第二のラーに見られても殺される心配はありません。 もっともレイ君がラーで、既に第二のラーとコンタクトを取っていたら話は別です。 ですから日神さん達には、もしわたしが死んだらレイ君がラーで決まりだと言って置きました」


レイはムッとなった。

その表情を見て宇崎が言った。


「わたしがその事を話した時、皆さん今のレイ君と同じ顔をしましたょ」


「当然だ」


「当然?」


「あぁ、当然だ。 なぜなら僕はラーなんかじゃないからだ」


「そぅですか。 だといいですネ」


再びレイはムッとした。

そして、


「いい加減にしろょ、宇崎・・・」


とそこまで言った時、二人の背後からレイに呼びかける声がした。


「レイ、みっけー!!


反射的に二人は同時に振り返った。

そこにミーシャの姿があった。


ミーシャがレイに駆け寄った。


「たまたま近くで撮影があったから来ちゃった。 良かったー、会えて。 でも、ひっろいネェー、ここ。 それに大学って誰でも入れちゃうんだネ」


一瞬レイの顔が引き攣った。


『ミ、ミーシャ!? バカが!! 何でここに・・・』


ミーシャが宇崎を見てレイに聞いた。


「レイのお友達?」


レイが考え直した。


『い、否。 これは幸運。 千載一遇の大チャンスだ』


ミーシャにワザトらしく宇崎を紹介した。


「あぁ。 う! ざ! き! っていうんだ」



(ジィィィィィーーー!!



異様な形相でそのミーシャを見つめる宇崎。

宇崎は何かを感じ取ろうとしているように見える。

それとも単にミーシャを観察しているだけなのか?



(ブルッ!!



宇崎に見つめられミーシャが気味悪そうに身震いした。

そしてレイの腕に抱きついた。


「な、何!? なんなのこの人?」


「あぁ、心配しなくていい。 シャイなヤツなんだ」


「ウン。 ならいいヶど・・・」


それを聞き、チョッと安心したのか?

ミーシャの肩の力が抜けた。

その時、宇崎がミーシャに自己紹介した。


「宇崎です」


「アッ!? わたしレイの恋人の余海砂です。 よろしく宇崎さん」


「こちらこそ」


そう挨拶してからミーシャは・・・


「ン!? う、ざ、き、さん?」



(ギラン!!



ミーシャの目が妖しく輝いた。

宇崎の頭の上を見ている。

不可解だという表情を浮かべて。


宇崎に関してミーシャがレイに何か言いたそうだった。

そして口を開こうとした瞬間、宇崎がミーシャの機先を制した。

そしてレイを見ずミーシャを見つめて言った。


「羨ましいです、レイ君」


直ぐさまミーシャの両手を取った。


「『こぶたのミーシャ』 聞いてます」


ミーシャが喜んで言った。


「エッ!? ホント? 嬉しぃ」


そしてレイの方を向いて何か言おうとしたその時。


「アッ!? アレ!! ミーシャミーシャじゃネ?」


「エッ!? ミーシャミーシャって・・・」


「アッ!? そぅだょそぅだょ、ミーシャミーシャだょ」


「か、かわゆぃ」


 ・・・


ミーシャを知っている学生達が集まり始めた。

ミーシャ、レイ、宇崎は、


「アッ!?


っという間にその学生達に取り囲まれた。

みんな口々に言っている。


「ウァー!? 意外とチッチャィ!?


「だから余計かわゆぃ。 超かわゆぃ」


「メンコイのぅ、メンコイのぅ」


「オラ、な〜んも言えネ」


 ・・・


って。


ミーシャがグルっと学生達を見回して言った。


「皆さん日本で一番頭の可笑しい じゃなくって いい学生さん達なんですょネ」


相変わらず学生達は興奮して訳のわかんネェ事をほざきまくっている。


「ンだンだ」


「そぅだべそぅだべ」


「あぁ〜〜〜。 ドスコィ〜、ドスコィ〜、っと」


 ・・・


って。


その時宇崎が怪しい動きをした。

素早くミーシャの後ろを取ったのだ。

ミーシャが悲鳴を上げた。


「キャ!! 誰かケツいじった」


って。


すかさず宇崎がジッツにワザトっぽ〜く、自分達を取り囲んでいる学生達を見回して言った。


「許せませんネ、ミーシャミーシャのケツいじるなんて。 羨ましいじゃないですか。 犯人は誰ですか? 自首しなさい。 さもなければ・・・死刑!!


とかナンタラカンタラ・・・超ワザトらしく。

特に最後の 『死刑!!』 はデスノ単行本11巻の82ページ最上段にある、ミサミサが高田清美に対して取ったポーズだった。

(コレって、 『がきデカ』 とかナンとか言ふ漫画の “こまわり君” つー、主役キャラの決めポーズにソックリじゃって知り合いのオッチャンが言っとったでオジャル・・・)



今度はそこへマネージャーの “七島 寧蛇(ななしま・ねいじゃ ; 性別:メス)” が乱入して来た。


「いたいた。 何やってんの、ミーシャ。 こんな所で油売って。 早くしないと次、遅刻するわょ」


「アッ!? 七島(ななしま)。 メンゴメンゴ」


七島に強引に手を引っ張られながら、ミーシャがレイと宇崎に別れ言葉を掛けた。


「じゃネ、レイ。 又今度ネ。 宇崎さんもネ。 バィバ〜〜〜ィ」


マネージャーの七島 寧蛇(ななしま・ねいじゃ)に引っ張られて行くミーシャを追っかけてその場に集まっていた学生達もいなくなった。

後に残るはレイと宇崎のみ。


宇崎が言った。


「では、私はこれで」


「あぁ。 僕も次の授業があるから。 じゃぁな。 う、ざ、き」


二人は互いに背を向けた。

逆方向を目指して歩き始めた。


レイは笑った。


「フフフフフ」


そして思った。


『良し!! やった!!


それから徐(おもむろ)にポケットから携帯電話を取り出した。

予(あらかじ)め記憶させてあったミーシャの番号に掛けた。

勿論、ミーシャにミーシャがさっき見たはずの宇崎の本当の名前を聞き出すためにだった。

レイはフンフンフンってしながら携帯を耳に当て、期待しながらミーシャの声を待った。



(ペーペケ、ペケペケ、ペケッケ。 ペーペケ、ペケペケ、ペケッケ。 ・・・)



ミーシャの携帯の受信音だ。

それはサー・エドワード・ウィリアム・エルガー( Sir Edward William Elgar ) の 『愛の挨拶』 だった。


「もしもし」


って可愛らしいミーシャの声が聞こえて来・・・


!!


はずだった。


!?


その声は、ちっとも可愛くない “オス” の声だった。

平板で無感情、且、なんか頬張(ほおば)りながらのオスのだみ声だった。


「もしもし」


宇崎の声だ。


レイは言葉なく天を仰(あお)いだ。

そして振り返った。

宇崎の方に。

同時に宇崎も振り返っていた。

レイの方に。

二人の距離約10メートル。

互いに見つめ 否 睨み合った。

宇崎は左手に棒付きキャンディを持ち、右手親指と人差し指でミーシャの携帯を摘み上げ、右耳に当てていた。

レイが携帯に話し掛けた。


「何がもしもしだ」


宇崎が返事をして来た。


「この携帯。 さっき誰かが落としたみたいです」


『コイツだなぁ!? さっきミーシャのケツいじったの。 その時ミーシャのバックから抜いたのか? 携帯を』

「それはミーシャの携帯だ。 返してもらおう」


「そぅですか。 分かりました」


二人は無言で近付いた。

レイが宇崎からミーシャの携帯を引っ手繰(たく)るように受け取った。


その時、



(ポーポ〜、ポポポ、ポポポポ、ポッ、ポッ、ポポッ、ポ〜〜〜。 ・・・)



今度は宇崎の携帯の着信音が聞こえて来た。

それは鼬(いたち)後輩の 『ギゴホン(五本木)』 だった。

(アレって結構良い曲なんだょなぁ。 ポーポ〜〜〜って・・・ギロポン by 鼠先輩・・・一曲で消えちゃったヶど)


宇崎が出た。


「もしもし。 はいはい。 ウンウン。 そぅですかそぅですか。 分かりました」



(ピッ!!



宇崎が携帯を切った。

レイを見据えた。

そして言った。


こう・・・











「たった今。 宇田生さんと松山さんが、第二のラー容疑で余海砂の身柄を確保しました」







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #79



(サッ!!



レイの顔が一瞬にして青ざめた。


「ヌッ!? ミ、ミーシャの身柄を確保?」


「そぅです。 余海砂の身柄を確保しました」


「ナゼだ? ナゼ、ミーシャを」


「はい。 余海砂はさくらん祭り警察官殺人事件の時、局内にいたからです」


「きょ、局内にいたからですって。 たったそれだけの理由でか?」



(ジィィィィィーーー!!



宇崎がレイの目を見据えた。

しばらくその状態が続いた。

宇崎が言った。


「それだけでは有りません。 余の部屋からは第二のラーがさくらんテレビに送った物と全く同じ筆跡で宛名が書かれた封筒、それに同じメーカーのビデオ、その他。 それから封筒に付着していた毛髪、化粧品、衣類の繊維などといった物とやはり全く同じ物。 即ち、余が第二のラーである事を裏付ける物証が多数押収されました。 だからです」


「・・・」


「オヤッ!? レイ君。 顔色が優れませんネ。 ダイジョブですか?」


「・・・」


「恋人が第二のラー容疑で身柄確保。 ま、気持ちは分かります」


レイは考えていた。


『クッ!? し、しまった。 失敗した。 余計な事は考えず、やはり足がつかないよう封筒やビデオテープなどを全て処分させて置くべきだった。 それに今の電話。 これも裏目。 だがそれ以上に、ミーシャを第二のラーとして身柄確保した以上、宇崎の僕への疑いは既に確信に変わっているはず。 と、すればミーシャが口を割った時点で全てが明るみに。 ・・・。 ミーシャを殺す。 それしか方法は・・・。 しかしコイツ、一体いつからミーシャの存在を・・・。 ハッ!? つ、付けられていた!! そぅだ、それしかない!! 僕は付けられていたんだ。 あ、甘かった。 コイツを甘く見過ぎていた。 コイツはそんなに甘いヤツじゃなかったんだ。 だが、それなら苦竜が気付いたはず、岩清水霊寺の時と同様に。 しかし、気付かなかった。 ナゼだ? 一体どのように・・・』


長い沈黙があった。


その時、苦竜が姿を現した。

宇崎の真横にだ。

勿論宇崎には見えてはいない。

その宇崎には見えない苦竜が宇崎の頬を、チクンチクン気色悪い位にゴッツイ右手人差し指で突っつきながらレイに言った。


「どぅだ〜? レイ。 死神の目が欲しくはないか〜? ン!? コイツを殺せるぞ〜、今直ぐ〜」


「・・・」


レイは無論、無言でその言葉を聞いていた。

考え込みながら。


宇崎にしてみれば長い沈黙が続いていた。

それを宇崎が破った。


「余のその携帯。 証拠として押収してもいいですか」


「あ、あぁ・・・」


レイは言葉に詰まりながらも手にしていたミーシャの携帯を宇崎に差し出した。

宇崎がそれを受け取った。

そして止めを刺すようにダメ出しした。


こう・・・











「当分の間。 レイ君にはラー事件捜査本部への出入りは遠慮してもらいます」







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #80



「こ、これは・・・」


日神が絶句した。


ここはラー事件対策本部ビル23階司令室内。

たった今、余海砂の身柄確保の知らせを受け、これまでの経過報告のため警察庁長官室にいた日神尊一郎が大急ぎで駆けつけて来た所だ。


目の前には巨大スクリーンが用意されていた。

そこには目隠しをされ、全身を拘束衣(こうそくい 英:Strait Jacket )に雁字搦(がんじがら)めにされた余海砂の姿が映し出されている。

↑この姿はデスノ4巻の166ページ目に載ってますょン。

(し、しっかし・・・こ、この縛りは美しい!! オマタを下から持ち上げるように縛り上げてるベルトがエッチだー!! あぁ〜!? ベルトうらやましす : 作者)



それを見ながら日神が言った。


「こ、こんな事が、こんな事が日本で許される・・・。 し、しかもあのベルト・・・。 ウ〜ム。 エッチだ」


目線を余から日神に移す事なく宇崎が平然と言い返した。


「第二のラーとして確保したんです。 この位当然です。 ベルトはシャレです。 お気に召しましたか?」


「あぁ、気に入・・・。 い、否。 し、しかし・・・」


「心配いりません。 余が第二のラーである事はハッキリしています」


これに横から松山が嘴(くちばし)を入れて来た。


「そぅです。 日神局長。 証拠も揃っています」


更に宇崎が付け加えた。


「それにこの余海砂は熱狂的なラー信者です。 余は数年前、小西滓 邪郎(こにしかす・やろう)と言う名の強盗に両親を殺されました。 それを裁いたのがラーだったのです。 それがラー信者になった理由と思われます。 しかしどのようにして第二のラーになったのか。 既に第一のラーと接触しているのか。 接触しているのなら第一のラーは誰なのか。 そぅ言った事も聞き出せるかも知れません、だが。 それが無理だとしても最低限・・・」


「・・・」


巨大スクリーンに映し出されているミーシャの姿に目が釘付けとなったまま日神は黙っていた。

目線はシッカリミーシャの股間だ。

宇崎が続けた。


「必要なのは殺し方。 殺し方です。 それさえ吐かせる事が出来れば全て解決です」


「・・・」


宇崎の話には上の空で、相変わらず日神は黙ったまま余を見つめている。

特にオマタを縛り上げているベルトをジッと。

こんな事を思いながら。


『アレって、どぅせなら2本じゃなく1本で、下から真上に向かってこぅ〜、キュッって・・・』


って、身振り手振りを交えて。。。


それを感じ取って(かどぅかは知らんヶど)、宇崎が始めて日神に目線を移して言った。


「あぁ、そぅそぅ日神さん。 余は・・・この余海砂は、既にレイ君と接触しています」


「フムフム。 レイとネ、レイと・・・ウン」


相変わらず日神は上の空だ。

ミーシャの映し出されている巨大スクリーンに向かって身を乗り出し、ミーシャの股間を見つめながらブツブツ独り言を言っている。

身振り手振りを交えて。


こぅだ!!


「こぅ〜、キュッって。 こぅ〜、キュッ・・・」


だが、


冷たい宇崎の視線を受けながら暫(しば)しそんなお茶目な真似をしていた日神だったが、突然我に返った。

『こぅ〜、キュッって』 ってしたまま固まって、



(クルッ!!



宇崎に顔を向けた。


「エッ!? レイと?」


そんなお茶目な日神に対し、宇崎が冷ややかに言った。


「知らなかったんですか。 ご自宅で会っていますょ」


「自宅で?」


相変わらず日神は固まったままだ。


「はい。 恐らくご家族がご存知かと。 だからレイ君にはここへの入室は遠慮してもらいました」


「ウ〜ム。 レイが余と・・・。 しかしナゼそれを?」


やっといつもの日神に戻った。


「私が密かに雇った私立探偵 “達” からの報告です」


「私立探偵 “達” ?」


「そぅです。 岩清水霊寺は一人でラー容疑者を追いました。 それで失敗しました。 その教訓に習い、私は必要以上の人数の私立探偵を雇い、レイ君に悟られないようコマメに引継ぎ引継ぎでレイ君を見張らせました。 その結果、余海砂が捜査線上に浮かんで来たのです」


「・・・」


日神は再び黙って宇崎の話を聞いていた。

しかし今度は先程とは違い、宇崎の冷たい視線を受けながら困惑した表情で、突きつけられた現実にぐうの音も出せずにだった。


そこへ横からアンチャン松山が、再び嘴(くちばし)を突っ込んで来た。


「あぁ、それでか。 それでさくらんテレビの押収資料の中に余の資料が有るのを見て我々に余の部屋の捜索を命じたのか」


「そぅです。 その通りです。 あの報告がなければ私も見落としていた所です。 全ては、岩清水霊寺達のお陰です。 彼らは決して犬死してはいなかった」


それを聞き全員が黙った。

いかに自分達の仲間を見張っていたとはいえ、やはり自分達同様凶悪殺人犯・ラーを追い、逆にそのラーの返り討ちにあった FBI 捜査官達の死が無駄ではなかった。

それはもしかしたら明日の自分達の姿かも知れない。

だから日神達には感慨無量だったのだ。

一瞬では有ったがレイの事は忘れて・・・


再び、日神の目を見つめて宇崎がキッパリと言い切った。


「次にレイ君がここに来る時、その時は今回の事件の最重要参考人としてです。 もちろん第一のラー容疑者として」


「だ、第一のラー容疑者・・・」


第二のラー容疑者である余海砂がレイと接触していたという決定的な証拠を突きつけられ、うろたえる日神尊一郎。

その日神尊一郎に容赦なく宇崎が言い放った。

まるで止めを刺すかのように。


こぅ・・・











「覚悟しておいて下さい。 日神さん」







つづく