死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #86



― 日神太陽、監禁3日目 ―


「どぅだ宇崎。 その後ラーの裁きは?」


「えぇ。 レイ君を監禁してからラーによるものと思われる殺人事件は一件も報告されていません」


「エッ!? 一件も報告されてない? それは本当か?」


「はい」


「なら、いよいよ僕がラーって事に・・・」


「否、まだ3日目ですょ、レイ君。 偶然と言う事も有ります」


宇崎は考えていた。


『おかしい? 日神太陽を監禁してもラーの裁きは終わらないと踏んでいたが、ピタリと止まるとは・・・? 日神太陽に何か策略ありと読んでいたのだが・・・。 やはり本人の言った通り無自覚の自我か? このままでは日神太陽 = ラーが略(ほぼ)確定する。 と、すれば最後は本人にラーの自覚があったかなかったかに掛かって来る事になる。 それが狙いか日神太陽。 自覚亡き殺人で通す気か? それではあまりにもラーらしくないゾ、日神太陽』



― 日神太陽、監禁5日目 ―


レイが宇崎に聞いた。


「宇崎。 ミーシャは? ミーシャは何か吐いたか?」


宇崎が答えた。


「それは言えません」


「そぅか。 相変わらず冷たいな」


「はい。 レイ君は第一のラー容疑者ですから」



一方、ミーシャは、


「ストーカーさ〜ん。 お風呂、お風呂入りたい。 ダメなら、せめて着替えだけでも。 ネェ、聞いてる〜? 着替え持って来て。 そしたらわたしの生着替え見れちゃうょ。 パンツだって脱ぐんだょ。 見たくない? わたしのパンツ脱ぐトコ」


宇崎は思った。


『パ、パンツかぁ』


って。


そしたら宇田生がニマ〜ニマ〜ってして言った。


「み、見たい。 余のパンツ脱ぐトコ。 見たい」


相河もエヘエヘエヘってして言った。


「お、おじさんも見たい。 あ、余がパンツ脱ぐトコ見たい」


松山なんかもう〜、目ー、血走っちゃって。

そんでもって宇崎にオネダリなんかこいちゃった。


「う、宇崎。 き、着替えだ、着替え。 余海砂の生着替えだ。 こ、こんなチャンスは二度とない」


って。


そしたら佐が怒っちゃった。


「コ、コラー!! 3人共ー!! こないだアタシの生着替え盗み見てたくせに、何つー事言うんじゃーーー!!


って。


今度はソレ聞いた日神が怒った。


「お、お前達。 そ、そんないいこと自分達だけでしておったんかぁーーー!!


って。


お茶目な3馬鹿トリオ + ツゥー


!!


オジャった。



― 日神太陽、監禁7日目 ―


宇崎がレイに聞いた。


「レイ君。 まだ一週間ですが流石にヤツレテ来ましたネ。 ダイジョブですか?」


レイが答えた。


「あぁ。 こんな姿、自分でもカッコいいとは思えんが・・・」


そして続けた。


「でも、そんなくだらないプライドは・・・。 ス!! テ!! ル!!


その時、レイの耳元で声が聞こえた。

姿なき声である。

その声はこう言った。


「今、 『ス、テ、ル』 って言ったな? アィョ、分かった。 お前は記憶を失うぞー。 じゃぁな、レイ。 あばょ」


と、濁声(だみごえ)で。


すると・・・











次の瞬間・・・







つづく





死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #87



『ン!? 日神太陽の目付きが変わった』


宇崎は思った。


レイも又、思っていた。


『ン!? ぼ、僕は一体・・・!? 一体なんでこんな事をしてるんだ?』


そして宇崎に言った。


「宇崎。 確かにこの監禁は僕が望んだ事だ。 だが、今ハッキリと気付いた。 こんな事をしていても無駄だ。 全く意味のない事だ。 理由は簡単ただ一つ。 それは僕がラーじゃないからだ。 だから僕をココから出してくれ。 そして二人で探すんだ本当のラーを」


「それはダメです」


「ナゼ?」


「『僕が間違いなくラーではないと宇崎が確信するまで、例えどんな事になろうと絶対に僕を解放しないでくれ』 と言ったのは他ならぬレイ君自身なんですょ」


「あぁ。 確かに僕はそぅ言った。 だが、あの時僕はどぅかしてたんだ。 考えてもみろ宇崎。 ラーという殺人鬼が行なって来た事を・・・。 あんな事自覚なしにやっていたなんて思えるか?」


「はい。 私もラーが自覚なしにやっていたなどと考えてはいません」


「だったらその自覚のない僕はラーじゃない」


「しかし、レイ君がラーだとすれば、殆(ほと)んど辻褄(つじつま)が合うんです。 レイ君がそれを認めていないという以外。 それにレイ君を監禁した途端(とたん)ラーによるものと思われる殺人はピタリと止まりました」


「だが、僕はラーじゃない。 ラーなんかじゃないんだ僕は。 信じてくれょ」


宇田生が言った。


「どぅしちまったんだ、レイ君は・・・?」


相河も。


「一週間の監禁で取り乱し、我を忘れてるのか?」


松山も。


「レイ君監禁後ラーの裁きが行なわれなくなった以上、出す訳には行かない。 誰にだって分かる事です」


佐が締め括った。


「日神局長には申し訳ないんですが、やはりこれはレイ君がラーという事に・・・」


日神は黙っていた。


「・・・」


だが、その丁度一週間後。

即ち、レイ監禁14日目。


事件は起こった。











終に・・・







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #88



― 時を前後して ―



『全くもぅ、ウンザリょ』


高田馬場清美は思った。


高田馬場清美は長身細身の八頭身だった。

今では死語になった感のある “ナイス・バディ” ってヤツだ。

それに身長は170cmをはるかに越えている。

だからまるでモデルのようだ。

もっともチチは、それ程ハレてはいなかったが・・・


ここはさくらんテレビ局内にある女子トイレの手洗い場。

そこに設置されている大型の鏡に映った自分の顔を見ながら清美は考えていた。


『アイツ一体何様? 私がコレまで必死に取材して来たラーの情報、まるで自分の手柄ででもあるかのように。 エッラそぅに・・・』


化粧を直しルージュを付け、それを右手小指で薄く引き伸ばした。

トイレを出ようとした。

その時、床に転がっているアル物に気付いた。

上原錯乱のさくらんテレビ局内入局許可証だった。

コレがなければテレビ局に入局出来ないのだ。

もっとも、上原錯乱ほどの売れっ子になればそんな物はなくても入局出来るのだが。

普通ではコレがないとダメという品だ。


それを清美は屈み込んで拾った。

繁々と見つめている。

何か思ったようだった。

そしてトイレを後にし、スタジオに戻った。

時間は丁度 『産時のアナだ!』 の公開生放送後の反省会が終わった後だった。

デスクの上を上原錯乱が必死に引っくり返している。

こう呟(つぶや)きながら。


「あれ〜。 誰か知らないアタシの入局許可証? アレがないと・・・」


と、目をサラのようにして捜していた。

その脇を今、高田馬場清美が通り過ぎた。

何も言わず、平然と。



― その3時間後 ―


ここは清美のマンション。

そのベランダ。


何食わぬ顔で清美はアロマ・キャンドルを燈している。

そのアロマ・キャンドルは大き目のガラスの灰皿の中に入っていた。

そのキャンドルの火の上に清美が手にした何かを上から近づけた。

上原錯乱の入局許可証だった。


燃やす気か?


清美はそれを。



(ボッ!!



錯乱の許可証に火が点いた。

その火が徐々に広がって行く。

熱くなって来たのだろう、清美が手を離した。



(ポトッ!!



それが灰皿の中に落ちた。

しばらくそれは燃えていた。

そして燃え尽き、灰に変わった。


それを見て、


「フッ」


清美は笑った。

そして思った。


『いい気味!!


って。











その時・・・







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #89



『ハッ!?


高田馬場清美は驚いた。


ベランダの天井から、その天井を突き抜けて、



(バサッ!!



何かが落ちて来たのだ。

清美の足元に。


何かが!?


不思議そうな表情で天井を見上げる清美。

こう思っていた。


『ど、どっから? こんな物この天井の一体どっから』


そして清美は恐る恐るそれを拾い上げた。

それは A4 サイズのノートだった。

表紙には日本語で


“死”、 “人”、 “帖”


の文字が銀で箔押しされている。

苦竜の死人帖と同じだ。

清美は繁々とそれを見ながら思った。


『ン!? しにんちょう? それとも、しびとちょう?』


そして無意識に清美は振り返っていた。

その瞬間、


「キャー!!


悲鳴を上げ・・・ようとした。

目の前に身の丈4メートルはあろうかという化け物が立っていたからだ。

だが、

化け物の方が一瞬早かった。

清美の悲鳴より先に化け物が不気味な形をした手で素早く清美の口を塞いだのだ。

だから清美は悲鳴を上げる事が出来なかった。

その状態のまま化け物は言った。


「静かにおし。 そぅすれば何もしない。 黙って聞くんだ。 いいネ」


恐怖の余りメンタマをおっぴろげている清美が首を縦に振って同意した。

化け物が手を離した。

清美と化け物が見詰め合った。

化け物が続けた。


こぅ・・・











「そのノートはラーからお前へのプレゼントだ」







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #90



― その頃 ―



「ど、どぅなってるんすかぁ!?


松山が血相変えて部屋に飛び込んで来た。

ここはラー対策本部ビル23階司令室である。

松山が宇田生に聞いた。


「今夜一晩で、この2週間全く裁かれていなかった犯罪者が一気に・・・」


「あぁ。 ラー復活だ」


松山が喜び勇んでレイに知らせるためマイクに近付きスイッチを入れようとした。

その手を宇崎が掴(つか)んで制止した。


「ダメです。 まだレイ君には教えないで下さい」


「エッ!? ナ、ナゼ?」


「今はまだダメです」


宇崎がマイクに向かった。


「レイ君」


床の上で後ろ手に手錠を掛けられたまま仰向けになり、顔には無精ひげ、目は虚ろで、ぐったりしているレイが答えた。


「なんだ宇崎?」


「この2週間、1度もラーの裁きはありません。 いい加減自分がラーだと認めてもらえませんか?」


「バカを言うな、宇崎。 お前が僕をラーだと思う気持ちは分かる。 でも、僕はラーなんかじゃない。 誓ってラーなんかじゃないんだ」


宇崎はマイクをミーシャの監禁房に切り替えた。


「余海砂、聞こえるか?」


相変わらず拘束衣を着せられてはいるが、今は椅子に座った状態で縛り付けられ、ぐったりと前屈みになっている余海砂がそのままの姿勢で答えた。(もうオマタは下からキュってされてはいない・・・残念ながら : 作者)


「聞こえる」


「どぅだ、ダイジョブか?」


「『どぅだ、ダイジョブか?』。 アンタバカでしょ。 こんな事されて大丈夫な訳ないじゃん」


『バ、バカ!? 私がバカ!?


宇崎は思った。

そして続けた。


「余海砂。 本当にラーが誰なのか知らないんだな」


「はぁ〜。 またそれ〜? ラーが誰だかミーシャの方が知りたいょ。 ラーは、ミーシャの家族を殺した小西滓を裁いてくれた正義の味方だモン。 ・・・。 そんな事よっかレイだょ、レイ。 レイに会いたいょ。 レイに会わせてょ、このド変態!!


『ど、どぅいう事だ!? 何がなんだか・・・?』


流石の宇崎もお手上げとなってしまっていた。

否、パニックだ。


それでなくてもミーシャとレイの劇的な変化に混乱している宇崎に・・・


更に追い討ちを掛けるような・・・











突然のラーの復活で。。。







つづく