死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #91



「フフフフフ・・・」


声が聞こえる。

笑い声だ。

怪しい・・・女の。


そぅ。


女の怪しい笑い声だ。

それが聞こえている。

先程から・・・ズッと。


「フフフフフ・・・」


静かに。


ここは東京都内某所にあるマンション。

当然、表札が掛かっている。

その表札はこう読めた。


『高田馬場清美』


と。


如何(どう)やらここは高田馬場清美のマンションのようだ。


部屋の中に誰かいる。

ポツンと1人。

女のように見える。

ならばそれは高田馬場清美・・・か?


その高田馬場清美と思しき女が独り言を言い始めた。


「こぅして犯罪者達を裁いてゆけばいいのネ、このノートを使って」


その時。

何処(どこ)からともなく、


「あぁ」


という声が聞こえたような気がした。

姿なき同意の声が。


清美はまだ喋り続けている。


「でも、ナゼ? ナゼ、ラーは私にこのノートを?」


再び、姿なき声が聞こえた。


「ラーは今そのノートを使えない状態にある。 だが、裁きは続けなければならない。 それにはラーを引き継ぐ者が必要だ。 ラーのメガネに適(かな)ったな」


清美の声がした。


「それが私?」


再び、何処からともなく姿なき声が聞こえた。


「その通りだ。 高田馬場清美」


やはり、


その女は高田馬場清美だった。

そしてその話し相手と思われる姿なき声の主は勿論、死神。

しかも苦竜の死人帖を持っていた。


とすれば、


その死神は当然、苦竜・・・のはず。


だが、


その死神はナゼか・・・翠旻だった。











ナゼか???







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #92



「宇崎。 捜査を立て直そう」


日神が宇崎に言った。


ここはラー対策本部ビル23階司令室。

日神太陽監禁21日目の事である。


確かに今、捜査は行き詰まっていた。



― こんな状況だったのだ ―


監禁室の床の上でぐったりとして転がっているレイに、宇崎がマイクを通して呼び掛けた。

新たなラーの裁きが始まっているのを伏せて。


「レイ君、ダイジョブですか?」


「あぁ、大丈夫だ。 だが、ラーの裁きはどぅなんだ? 全くないのか?」


「はい。 レイ君監禁後は1度も。 だからレイ君。 どぅです。 そろそろ自分がラーだと認める気になりませんか?」


「なるわけないだろ。 僕はラーなんかじゃない。 信じてくれょ!! 断じて僕はラーなんかじゃないんだ!!


レイとはこうしたやり取りがズッと続いていた。



ミーシャとはこうだった。


拘束衣に身を包んだまま椅子に縛り付けられ、ぐったりと俯いているミーシャに向かって宇崎が聞いた。


「余海砂」


「何?」


「元気がないようだがダイジョブか?」


「アンタってホントどぅしようもないバカネ。 来る日も来る日もズーっとこれで元気があったらミーシャが異常ょ」


「はい。 そぅですネ」


「お願い!! もぅ止めてこんな事。 レイに会いたい。 レイに・・・」


「それは出来ません。 自分が第二のラーだと認めるまでは・・・」


「ま〜だ、そんな事言ってんの〜? どぅしようもない人ネ、アンタって・・・」


といったやり取りが空しく続いているだけだった。



日神達とは・・・


松山が言った。


「2人とも、もぅ限界って感じですネ」


相河がそれに同意した。


「あぁ」


それを受け宇田生が宇崎に聞いた。


「宇崎。 いつまでレイ君達を監禁する気だ? コレだけやればもぅ充分だろ・・・。 現にレイ君達が全く知らない犯罪者達が今、ラーの裁きを受けている。 それでもまだ納得できないのか?」


「はい。 私が納得出来たのは、レイ君に対する余海砂の異常なまでの愛情だけです。 そのためなら親兄弟をも殺しかねない位の」


といったやり取りだけだった。




でもさぁ。


この辺マンガ読んだり、 DVD 見たりしてる時いっつも思ってんだヶんど・・・

トイレどしてんのかなぁ?

特にウンチ。

誰が拭いてあげてんの?

戸田恵梨華のウンチ。

誰拭いてんの?

水洗だったとしてもそのまんまつー訳いかんょネ・・・


って。。。


超ーーーーーーーーーー気になっちゃうょ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。。。。。。。。。。




こんな状況を打破しようという意図だったのだ。

日神がこう言ったのは、


「宇崎。 捜査を立て直そう」


と。


宇田生が同意した。


「そぅだ、宇崎。 もぅこんな事は止めよう」


相河も続いた。


「これ以上続けても意味ないんじゃないか?」


松山も。


「悪いが宇崎。 レイ君がラーだという自分の推理が外れたのを認めたくないからこんな事を続けているじゃないのか? 僕にはそぅ見える」


佐も。


「私にもそぅ見えるゎ」


それらを受け、日神が宇崎に聞いた。


「どぅだ、宇崎? まだ続けるのか?」


「・・・」


宇崎は黙っていた。

考えていたのだ。

次の行動を。

宇崎のその姿を見て、言葉を出そうとする者は誰もいなくなった。

宇崎が何を言うのか待ったのだ。

そのままその場が



(シ〜ン)



と静まり返った。

しばらくその状況が続いた。

そして、宇崎が口を開いた。


「分かりました。 いいでしょう。 二人を解放しましょう」


と。


だが、宇崎が言ったのはそれだけではなかった。

その後にこう続けていた。











「しかし、日神さん。 一つお願いがあります」







つづく





死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #93



直ちに二人は夫々(それぞれ)の監禁室から出され、別々の独房に移された。

もっとも独房といっても、結構広いワンルームマンションのような快適空間だったのだが。

しかし、相変わらず監視されているのは言うまでもない。

それに、二人が接触する事も全く許されずにいた。

二人はそこで3日間過した。

勿論、ミーシャの目隠しは今はもう外されている。

だが、宇崎は京東大学で一度顔を会わせたきり二度とミーシャと直接接触しようとはしなかった。

極力素顔を晒すのを避けたのだ。


一方、長い監禁生活でそれまで憔悴(しょうすい)仕切っていたレイとミーシャだったが、監視されているとはいえ、又、そこから出る事は許されてはいなかったとはいえ、何不自由ない生活と若さと宇崎の雇った専門医の的確な治療により、たったの3日で元の健康体に戻った。


それを見て宇崎は思った。


『良し!! いい頃合だ。 この状態ならダイジョブだ』


そして、日神に向かって言った。


「日神さん。 今の二人の状態ならダイジョブでしょう。 先日お話した件、お願いします」


「今からか?」


「はい」


「ウム。 分かった」



― それから1時間後 ―


日神は自分の愛車・トヨタクラウンを運転していた。

助手席には誰も乗ってはいなかった。


だが、


「では局長、お願いします」


そう宇田生が言って、レイとミーシャを日神のクラウンの後部座席に押し込んだ。

二人は後ろ手に手錠を掛けられている。

しかし、目隠しはされてはいない。

ここはラー対策本部ビル地下駐車場だ。

レイとミーシャには久しぶりの再会を喜んでいる暇はなかった。


日神が無言のまま静かにアクセルペダルを踏んだ。

ユックリとクラウンが走り出した。

しばらくしてレイが聞いた。


「父さん。 これはどぅいう事だ?」


それを聞き、ミーシャがレイに聞いた。


「エッ!? 父さん? この人がレイのおとう様?」


「あぁ、そぅだ。 僕の父さんだ」


レイが日神に話し掛けた。


「やっと疑いが晴れて自由にしてもらえるのかい、父さん?」


日神がキッパリとそれを否定した。


「否!!


そして続けた。


「これからお前達二人の行く先は・・・死刑台だ!!


これを聞きレイが叫んだ。


「死刑台!? な、何言ってるんだ、父さん!?


ミーシャも。


「し、死刑台!? じょ、冗談ですょネ、おとう様!? アハッ!!


平然と表情を変えずに日神が答えた。


R はお前達二人を第一のラーと第二のラーであると断定し、お前達の処刑を決定した。 そしてそれを国連、日本国政府、世界中の指導者、要人達が認めた。 よって、これからお前達を表に出てはいないある施設内に作られた極秘処刑場に連れてい行く」


「ご、極秘処刑場って・・・」


「う、嘘ー!! 嘘ですょネ、おとう様」


「いいゃ。 本日、■年■月■日午後■時、お前達は極刑に処せられる。 せめて我が子の護送役をと買って出て、私がお前達を護送する事になった」


「バ、バカな!? 待ってくれ、父さん!! 僕は決してラーじゃない。 ラーなんかじゃないんだ」


「わ、わたしだって第二のラーなんかじゃ・・・」


「無駄だ、二人とも。 これはもぅ決定なんだ。 覆(くつがえ)る事はない」


「ま、待ってくれ、父さん!! もっと良く調べて・・・」


「そ、そぅですょ、おとう様!! もっとチャンと・・・」


「止めなさい!! 二人とも・・・。 これは決定なんだ!! 国家が決めた事なんだ!!


「・・・」


「・・・」


そこで会話が途切れた。


しばらく車を走らせてから突然、



(キキキキ、キー!!



日神がブレーキペダルを踏んだ。

そして振り返らず前を見据えたまま言った。


「さぁ、着いたぞ」


レイとミーシャが後部座席の窓から外を見回した。

怪訝そうな表情をしている。

無理もない。

日神が愛車クラウンを止めた場所は人気の全くない大きな橋の下だったからだ。


不可解だという顔をしてレイが聞いた。


「何処だ、ここは? こんな所に処刑場が?」


「アッ!? もしかしてお父様、わたし達を逃がしてくれ・・・?」


ここまで言ってミーシャが絶句した。



(カチャッ!!



日神が懐に仕舞ってあった拳銃を抜き、その銃口をレイの眉間にピタリと押し当てたからである。


「ここでお前を殺し・・・わたしも・・・死ぬ」


と、一言・・・











そう言って。







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #94



「ここでお前を殺し・・・わたしも・・・死ぬ」


日神が、抜いた拳銃をレイの眉間に押し当ててそう言った。


「な、何を言ってるんだ、父さん!?


「レイ。 刑事局長としてではなく親の務めとしてわたしはお前をここで撃ち殺す。 そしてその責任を取り、わたしもここで一緒に死ぬ」


ミーシャが叫んだ。


「や、止めてー!!


日神がミーシャに言った。

但し、目はレイの瞳を見据えたまま。


「余。 わたしと息子レイはここで死ぬが、わたしがお前を殺す道理はない。 どの道ここへはその内警察が来るだろう。 だから、それまでおとなしく待っていてくれ」


興奮状態のままレイが叫んだ。


「ほ、本気か、父さん!?


「あぁ、本気だ」


ミーシャが叫んだ。


「そ、そんなの狂ってるー!! じ、自分の子供だょー!! 自分の子供を殺すなんてー!!


「や、止めろ!! 止めてくれ、父さん!! 僕はラーなんかじゃない!! 誓う!! 誓ってラーなんかじゃないんだ!!


「うるさい!! 黙れ!! これ以上何も言うな!!


「と、父さん・・・」



(カチャッ!!



日神が右手親指で拳銃の撃鉄(げきてつ)を引いた。


その音を聞き、



(ゴクッ!?



レイは生唾を飲み込んだ。


日神が言った。


「レイ。 殺人犯同士、地獄で会おう」


レイが思いっきり目を瞑り、顔を背けて叫んだ。


「や、止めろー!!


ミーシャも。


「ィヤーーー!!


その瞬間、



(ドギューン)



終に日神が引き金を引いた。


一瞬にして、


車内はレイの打ち抜かれ砕け散った頭蓋骨の破片と、飛び散った脳味噌と、噴き出した血しぶきで散々な有様になっている・・・はず・・・。


だが、


レイは無事だった。

ならミーシャは?

やはりミーシャにも何ら変わった様子はない。


!?


ナゼだ?

如何(どう)した?

何があった?


そんな中、レイが呟(つぶや)いた。


「く、空砲・・・?」


その一言が合図ででもあったかのようにそれまで鬼の形相でレイを見つめていた日神の体から、



(スゥ〜)



一気に力が抜けた。

それから無言でユックリと体勢を入れ替えた。

ガックリと上体をハンドルに預けている。

表情はホッとしているといった感じだ。

そしてその状態のまま日神が言った。


「よ、良かった・・・」


レイが聞いた。


「よ、よ、 『良かった』 って。 こ、こ、これはどぅいう・・・」


レイもあまりの出来事の後だけに上手く呂律(ろれつ)が回らなかった。

ミーシャは絶句したまま何も言えない。

日神がハンドルに上体を預けたまま、力なく淡々とした調子で呟(つぶや)いた。


「許してくれ二人とも・・・。 これはお前達の疑いを晴らすために仕組んだ芝居だ。 他に方法がなかったんだ。 分かってくれレイ。 お前がラーではないと信じていればこそ出来た事だ」


そして顔を上げ、バックミラーに向かって言った。

そのバックミラーには監視カメラが取り付けてあった。

勿論、取り付けたのは宇崎だ。


「見たか、宇崎? 言われた通りにやったぞ。 結果はこの通りだ」


その車のスピーカーから宇崎の声が聞こえて来た。


「はい。 お見事でした。 迫真の演技です。 余海砂の異常なまでのレイ君に対する愛情を考えれば、もし余が第二のラーなら日神さんの命は既になかったでしょう。 余が顔だけで殺せる第二のラーなら。 又もし、レイ君が第一のラーなら・・・私の中の第一のラーは必要とあらば親でも殺します。 でも、レイ君はそれをしなかった。 もっともレイ君なら日神さんの演技を見破っていたかもしれませんが・・・。 しかし、約束は約束。 二人の監視は続けたいと思いますが監禁はこれで終わりです。 ご苦労様でした日神さん」


ここまではレイとミーシャにも聞こえるよう意識しながら日神に言った。

次はミーシャに。


「余海砂」


「何?」


「さくらんテレビに送ったビデオ関連の証拠がある以上、ラーが捕まり事件の全貌が明らかになるまではこれまで通り私の監視下に置く」


「エェー!? ヤダー!! 何それ。 まだ疑ってんの?」


「もちろん疑ってますょ。 でも、今日からは又元通り芸能界に復帰できます。 ただし、マネージャーは松山さんにやってもらう事になりますが・・・」


「松山さんって?」


「刑事です。 後で会えます」


「おじさん?」


「ゥ〜ン。 そぅですネ、否定はしません」


「エェー!? おじさん!? ヤダなぁ」


宇崎にとって変わって松山がマイクに向かった。

むかっ腹立てて。


「コラッ!! 余海砂!? 何が 『ヤダなぁ』 だ!!


って。

結構大きい声で。

マジ切れしちゃって・・・



最後はレイだった。

宇崎が言った。


「レイ君には・・・24時間わたしと行動を共にし捜査協力してもらうという事で如何(どう)でしょう? これまで通りその優秀な頭脳を是非わたしに貸してくれませんか? そぅすればレイ君の監視と捜査協力。 一石二鳥です。 如何(いかが)ですか、レイ君? 監視下の協力はお嫌ですか?」


宇崎のその言葉を聞き、一瞬にしてレイの顔に生気が甦った。


「いいゃ、宇崎。 僕だってこんな思いをさせられた以上、ラーにリベンジしたい。 監視下という所が少し気に入らないが・・・。 まぁ、いいだろう。 宇崎、一緒にラーを捕まえよう」


「はい。 よろしくお願いします」


この瞬間終に、


宇崎こと世界一の名探偵 “ R ”

京東大学始まって以来の俊英、且、温泉卓球草津大会ジュニア部門の覇者・日神太陽。


名・・・迷・・・謎・・・コンビ誕生・・・











か?







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #95



「世論調査の結果が出ました」


テレビカメラに向かって高田馬場清美が言った。


ここはさくらんテレビ局内 『産時のアナだ!』 収録スタジオ。

今、正にその番組の本番中。

それも開始直後のラー特集の時間帯。

この 『産時のアナだ!』 はオープニングからの15分間は毎日ラー特集を放映し続けて来ていた。

そのメインキャスターは上原錯乱。

ラー事件を追い続けているレポーターは高田馬場清美。

中央部メインキャスターの席に着いている上原の横に座った高田馬場清美がボードを手にしている。

その清美とボードがアップになっていた。

そのボードにはラー肯定派、否定派、その他、のパーセンテージを同一円グラフに色違いで表示してあった。

色は青、赤、黄の三色。

70%、赤25%、黄5%。

肯定派が青、否定派が赤である。

黄色はその他だ。

結果は肯定派の圧勝。

つまりその世論調査の結果は、ラーは日本国民の圧倒的支持を受けている事を表していた。(タロちゃんトコもこん位あの売国奴んトコ引き離しってっといんだヶどなぁ・・・。 マスコミの異常なミスリード真に受けちゃってるオツムの足りないチンカスちゃん、マンカスちゃん達多ひからなぁ。。。 アーメン!! チィ〜〜〜ン!! : 作者)


清美が続けた。


「ご覧下さい。 このグラフを。 これを見ますとタロちゃんトコ じゃなくって ラー肯定派が圧倒的多数を占めています」


上原が清美を見ながらコメントした。


「意外な数字が出ましたネ」


清美がそのコメントをアッサリと否定した。


「そぅでしょうか?」


「エッ!?


錯乱が驚いた。


それまで見下して全く意に介していなかった清美が、小生意気にも生放送中にメインキャスターである自分に恥をかかせるような事を平然とやってのけたからだ。

錯乱には自負があった。

この 『産時のアナだ!』 は自分の人気で持っているのだという。

その自分に対し、それまで完璧なまでに見下していた清美が逆らったのだ。

それも本番中に。


そんな錯乱を全く無視して清美が続けた。


「ラー登場以来、日本における、否、世界における凶悪犯罪数は間違いなく減っています。 それも絶対的にです。 それを思えば当然の結果ではないでしょうか」


錯乱は憮然とした表情で清美のコメントを聞いていた。


そのやり取りをモニタールームで見つめているオッサンがいた。

その名を出歯亀仁(でばかめ・ひとし)と言った。

あの出歯亀である。

その出歯亀が鼻先三寸でせせら笑いながらこう言った。


「フフン。 女王様、お冠だゾー。 フフン」











って。







つづく