死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #6



杉上左京は語った。

以下の出来事を。



― それはその日から遡る事、23日 ―



ここは東京都内にあるとあるビルの一室である。

このビルはある目的のためある男によって秘密裏に、そして特別に建てられた建築物だった。

その目的とは、


『世間にその存在を全く知られる事なく、ある重大事件を解決するため』


その重大事件とは、


『世界的規模で行なわれている無差別大量殺人事件』


だが無差別大量殺人といっても、被害者の殆(ほと)んどが凶悪犯罪者及びそれに順ずる者達であったため、世論はこの犯罪行為に対し賛否両論、二分していた。 そしてこの行為に肯定的な人々はその首謀者を 『ラー』 と呼びこれを英雄視していたのだった。


当初、警察庁もこの犯罪の手口が全くつかめず、大集団による殺人、あるいは原因不明のウィルスによる死亡、・・・等々、幾多の仮説の元、捜査を続けていた。

しかし捜査は袋小路に陥り、手詰まり状態のまま何の進展も見られなくなっていた。


だがその時、ここに敢然と立ち上がった一人のナゾの男の存在があった。


その男は行動を開始するや即座に、この世界規模の無差別大量殺人の首謀者が日本に、それも関東地方にいる事を突き止めた。

その功績により日本国警察庁もこのナゾの男の力を借りざるを得なくなった。

更にこのナゾの男は、この無差別大量殺人の首謀者であるラーと呼ばれ賞賛されていた人間に、果敢に知能戦を挑んだ。

そして次々と奇策を繰り出し、終にこの無差別大量殺人の手口を解明する事に成功したのである。


だが、その手口は人知を遥かに超越した物だった。


その人知を遥かに超越したラーの犯行の手口とは何か?


それは、


『死神使い』


そぅ。


生身の人間が死神の技を使って人を殺すという、正にこれは前代未聞の大事件だったのだ。

そしてその内容が内容だけに、この事実がもしも表に出るような事があれば大パニックになるのは必定(ひつじょう)。

よって警察庁はこれを日本国国家第一級機密と決定し、このナゾの男とそれに従う警察庁刑事局局長・日神総一老(ひがみ・そういちろう)を中心とするホンの一握りの選りすぐりの警察関係者のみで、この恐るべきラーの犯行の手口を公にする事なく秘密裏にこの難事件を解決せざるを得なくなった。 そして長い苦闘の末、このナゾの男の指揮の元、日神達は終にこの難事件処理に成功したのである。


そしてこのナゾの男とは、


R


通称『 R 』と呼ばれる男であった。


この通称 『 R 』 は、実は ICPO(国際刑事警察機構)から差し向けられた今世紀最高の頭脳を持つと言われる名探偵だった。

しかもこれまで幾多の世界的規模の難事件(その中には既に迷宮入りし、殆んど解決不能の事件もあった)をその超人的頭脳と他の追随を許さない辣腕(らつわん)をフルに発揮し、次々と解決して来ていたのだった。

これまでこの R が乗り出して解決しなかった事件は唯の一件もなかった。

そのため流石の ICPO もこの男の実力を認めざるを得ず、今回のような難事件解決のためにはその協力を仰ぎ、且、協力を惜しまなかったのである。


R は決してその存在を公にする事はなかった。

自らは全く表に出ず、その代理人 『ワタセ』 というやはりなぞの人物を介して行動するのが常だった。

だが、今回終にその姿を人前に現した。

否、

現さざるを得なかった。

それは、

かつてない強敵ラーの前に小細工は効かず、捨て身の戦法で戦うしかなかったからだった。


そして今日、恐るべき死神の技を使う大天才 『ラー』 との人知の限りを尽くした壮絶な知能戦の末、終にこれに勝利したのである。


だが、そのため R は自らの名をある “ノート” に記さねばならなかった。

しかもそれは皮肉な事にラー本人が嘗(かつ)て使用していたノートだった。

そしてそのノートこそが正に死神の技の正体、


『このノートに名前を書かれた者は・・・死ぬ』


という死を操る恐るべき “殺人ノート” だったのである。


R はそれをチャンと承知していた。

それを承知の上で自らの名を書き込んだのだった。

否、

書き込まざるを得なかったのだ。

自らと同等、あるいはそれ以上の頭脳を持つラーを倒すためには。

その殺人ノートに自らの名を書き込んだ時、 R は共にラーと戦っている者達にこう告げていた。


「私は自分の命を諦(あきら)めました」


と。


つまり自らの命を掛けてトリックを仕掛け、終に狂気の大天才ラーを陥(おとしい)れたのだった。


だが、


その時点で、 R の寿命は残り後わずか23日となってしまったのである。











以下がその顛末(てんまつ)である。


(あの〜、コッから先はデスノ知らない人のため DEATH 、知ってる人は読まんで#135?へどんぞ・・・DEATH







つづく







死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #7



今、ここに一冊のノートがある。

人はそれを 『殺人ノート』 と呼ぶ。

だが、

そのノートには “真” の名があった。

そのノートの真の名。


そ、れ、は、


『死人帖(しびと・ちょう)』


そぅ。


『死人帖(しびと・ちょう)』


そして、


そのノートには1匹の死神が憑いている・・・死神が。

その名を


『苦竜(クリュウ)』


という死神が。


更に、


ノートはもう1冊あった。

そのノートにも1匹の死神が憑いていた。

その死神は、その名を


『翠旻(スイミン)』


といった。







つづく







死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #8



時は平成のある時、ある日。


東京都内に一人の大学生がいた。

その名は “日神太陽(ひがみ・レイ)”。

“太陽” と書いて “レイ( Ray )” と読ませる今どき流行(はやり)のキラキラネームだ。

レイは大学1年で既に旧制度司法試験現役合格者。

頭脳明晰で正義感に溢れた好男子だった。


彼は持ち前の正義感から将来は上級警察官僚を目指していた。

日神太陽の信念は “勧善懲悪(かんぜん・ちょうあく)”。

だが彼の目撃する現実は全くその逆、即ち “正直者が馬鹿を見る” ような事ばかりだった。

その矛盾した社会に対し常にレイは葛藤(かっとう)していた。


『世の中、本当にこれでいいのだろうか?』


と。


そんなある雨の日の夕暮れ時。

終にレイは、

憤(いきどお)りを押さえ切れない現場を目撃する事となる。

それは、

ある凶悪殺人事件の真犯人として逮捕されていた渋歩ッ歩丸 由紀夫(しぶポッポまる・ゆきお)が証拠不十分で起訴されないという現実だった。

渋歩ッ歩丸の犯行であるのは誰の目にも明らかだったにも拘(かかわ)らず証拠不十分だったのだ。

この現実に我慢ならなかったレイはその凶悪犯・渋歩ッ歩丸が入り浸(びた)る酒場を見つけ出し、客を装って入店した。

そしてそこで全く許しがたい現実、即ち、ろくすっぽ働こうともせず昼間っから酒を飲み、且、かつて自分の犯した凶行を仲間達に自慢げに話している渋歩ッ歩丸の姿を目撃したのだった。

レイは無力感と共にその酒場を後にした。

だが込み上げる怒りは抑えがたく、又そのやり場のなさからその時まで最も大切にして来ていた自らの信念のバックボーンとも言える 『基本六法』 を、雨の中ゴミ捨て場に投げ捨てたのだった。


そして無力感、脱力感、厭世観に打ちひしがれ雨の中呆然と立ちすくんでいた。


その時、

ふと、足元に一冊の見慣れぬ装丁の黒っぽいノートが落ちている事に気が付いた。

しかも激しい雨の中、奇妙な事にそのノートの周りだけ全く雨が降ってはいなかった。

サイズは大凡(おおよそ) A4 判。

レイは半ばやけっぱちな気分でそのノートを拾い上げた。

しげしげと見つめた。


表紙には日本語で


“死”、 “人”、 “帖”


の文字が銀で箔押しされていた。

一瞬、


『ン!? 死人帖(しびと・ちょう)? 死人帖(しにん・ちょう)?』


レイはそう思った。

そして雨の中、傘も差さずにノートを開く事を躊躇(ためら)い。

ショルダーバッグに入れ、何も出来ぬ無力感と共にそのまま帰宅の途に着いた。

自宅に戻った時には既にそのノートの存在などすっかり忘れていた。

濡れた体をシャワーで洗い清め、部屋に戻った。

そこでノートを思い出したレイは、急ぎバッグの中から引っ張り出した。

バッグの中はすっかり水浸しだった。

だが他の本やノートは水浸しだったにも拘(かかわ)らず、不思議な事に先程拾ったノートだけは全く濡れてはいなかった。

怪訝(けげん)そうな顔でレイはそのノートを開いた。

初めの数ページに渡って手書きの英文の文字が書かれてあった。

レイにとって英語は得意教科の一つだった。

そこに書かれている程度の英文はスラスラと読む事が出来た。


そしてホンの何行か読んだ瞬間、レイの顔が引き攣った。


「エッ!?


一言そう言ったまま絶句している。


レイは改めて慎重に一語一語、一行一行初めから読み直した。

書いてある内容を誤訳しないためにだ。

レイがそうしなければならないような内容だったのだ、そのノートに書かれてあった文章は。

そこには信じようとしても全く信じられない恐るべき言葉が記されていたのである。











それは・・・







つづく







死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #9



『この死人帖に名前を書かれた者は・・・死ぬ』


から始まっていた。


そぅ。


そこに書かれてあった言葉によればそのノートは恐るべき殺人ノートだったのだ。

レイは目を疑った。

否、それ以上にノートを。


『フン。 こんな事がある訳ないさ。 誰の悪戯(いたずら)かは知らないが、なんと幼稚な子供だましだ。 ま、こんなノートでも一応、拾得物だ。 今日は雨が酷い、交番に届けるのは明日でもいいな』


その時、レイはそう思った。

否、

そう思おうとした。

ムリにだ。

そうせざるを得なかったのだ。

そのノートが水に濡れても濡れない不思議なノートだったからだ。

そしてそれを閉じた。


夕食までには時間があった。


何気なく部屋のテレビを点けた。

丁度夕方のニュースをやっていた。

凶悪犯罪の報道が流れている。

現在進行形の立てこもり事件だ。

犯人は人を数名殺め、人質を何人か取っての立てこもりだった。

その犯人には前科があった。

従って、既に名前が割れ、実名報道されていた。


そこでレイは先程の死人帖を思い出した。

別に試すつもりではなかった。

他人のノートだという事も分かっていた。

深く考えた訳でもなかった。

ただ何となくそうしたのだ。

つまり報道されている凶悪犯の名前を書いたのである。

そのノートに。


こう。


『三岡智弘(みおか・ともひろ)』











と。







つづく







死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #10



「ただ今人質が開放された模様です!!


テレビで実況していた女史アナが興奮気味に絶叫した。

これを聞き、


「山本さん!! 山本モナミさん!! な、何が起こったんですか?」


キャスターの緑川(みどりかわ)モンチッチが訳が分からないという表情で、実況している女子アナの山本モナミに問い掛けた。

スタジオでこの実況を固唾を飲んで見守っているコメンテイター達も突然の人質解放に驚き、混乱していた。


山本モナミの返事が帰って来ないので、モンチッチが気を取り直していつものお惚(とぼ)け口調でもう一度大声で叫んだ。


「モナミちゃーーーん!! ゴシップ・モナミちゃーーーん!! ナーニが起こってるんですか〜?」


すると、今度は返事があった。


「そ、それがまだ何も!! はい、まだ何も・・・。 アッ!? ここで・・・」


開放現場から急ぎ戻ったアシスタント・ディレクターから走り書きのメモを受け取り、ゴシップ・モナミが呼吸を整えて言った。


「アッ!? ここで新しい事実が判明致しました。 人質に取られていた方の目撃証言です。 それによると犯人の “三岡智弘(みおか・ともひろ)” 容疑者が先程突然胸を抑えて苦しみ出し、口から大量の泡を噴いて倒れたそうです。 他の目撃証言によれば恐らくその場で急死したものと思われます。 現在判明しているのは以上です。 詳しい事は今後の警察発表を待ちたいと思います」


モンチッチがゴシップ・モナミにお茶目に呼びかけた。


「ハーィ!! モナミちゃーーーん、ご苦労さマン。 後で股 否 又何かあったら伝えて下さーーーい」


モンチッチがここでカメラ目線にして、ほざいた。


「さぁ、これは一体どういう事でしょうかネェ。 それでは本日のコメンテイターにお聞きしましょう。 浅脳耳漏(あさのう・じろう)さん。 どうです、どう思いますか? これを?」


コメントを求められた浅脳耳漏が言った。


「やはりこれは都知事の責任でしょう。 こういった凶悪事件は・・・。 この私、浅能耳漏が都知事になった暁にはこのような事件は絶対に起こさない事を誓います。 どうか東京都民の皆さん次回選挙ではこの浅脳、浅脳耳漏に清き一票を是非お願い致します」


これを聞いたモンチッチが、


『チッ!? しょうがネェなぁ、ったく』


つー顔こいて、


「ハィ!! 浅脳さん、有難うございました。 相変わらずの軽い頭で。 これで本日の夜ズボを終わります」


と打ち切っちゃったとさ。











チャンチャン。。。







つづく