死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #101



(ガタン!!



突然、それまで座っていた椅子を引きレイが立ち上がった。


『ハッ!?


突然の事にミーシャは驚いた。

そのミーシャにレイが声を掛けた。


「チョッと宇崎んトコに行って来る」


「エェー!? 一人にしないで。 寂しいから」


「あぁ、いい娘にしてれば直ぐ戻って来るょ」


「ホントょ。 直ぐ戻って来てょ。 ミーシャいい娘にしてるから」


「あぁ、分かった」


そう言って、それまで使っていたノート・パソコンを持ってレイは部屋を出た。



一方、


宇崎は相変わらずだった。

宇田生達の視線を受けながら鬱状態で黙々と甘い物を食べ続けている。

今は黄な粉餅だ。

そこへ、



(スゥー!!



ドアが開き、レイが入って来た。


「レイ」


レイに気付いた日神の口から思わずレイの名が衝いて出た。

別に呼び掛けた訳ではない。

反射的に口走っただけだ。

同じ事が、宇崎とワタセを除くその場にいた残り4人にも起こった。


「レイ君」


「レイ君」


「レイ君」


「レイ君」


と。


宇崎はレイに背中を向けていた。

その宇崎にレイが言葉を掛けた。


「宇崎」


宇崎は振り向く事もなく、返事もしなかった。

しかし、レイの次の言葉を待っているのはハッキリと分かった。

レイが続けた。


「元気がないな宇崎」


宇崎が姿勢はそのままで返事だけを返した。


「はい」


レイが聞いた。


「今、この状況で、宇崎の中で僕がラーである可能性はどの位だ?」


宇崎がハッキリとではなく、力なくボソボソと答えた。


「限りなくゼロに近いです」


「なら、僕は喜んでいいんだな」


「はい。 わたしもレイ君がラーでなくて良かったと思っています。 でも・・・」


「でも?」


「はい。 手掛かりが全てなくなってしまいました」


「それで落ち込んでたのか?」


「はい。 わたしはズッとレイ君がラーだと考えていました。 でも、良く良く考えてみるとラーは人の行動を操れます。 もし、ラーがレイ君達を操ってわたしがレイ君達をラーだと疑うように仕向けていたとすれば、それはそれで辻褄(つじつま)が合います。 とすれば今までの事は全てムダ。 一からやり直さなければなりません。 振り出しです。 それがショックで・・・」


「その考えだと、例え操られていたとはいえ、僕もミーシャもラーだったていう事になるジャマイカ」


「はい。 二人ともラーでした」


『ヌッ!?


レイはチョッとムッとした。


「確かに、監禁した時のレイ君はラーでした。 そしてラーの裁きは終わった。 だからレイ君がラーです。 でも、キッカリ二週間後から再びラーの裁きが始まった。 つまりレイ君はラーではなかった。 普通ならそぅ考えます。 しかしコレには別の考えも成立します。 そしてその方が正しいとわたしは思っています」


「ン!? 別の考え? 別の考えとは・・・」


「ラーの能力(ちから)は人を渡る」


「人を渡る・・・か。 ウム。 なるほど。 それはそれで成り立つ考えだ」


「はい、成り立ちます。 だからレイ君も余海砂もラー ‘だった’ んです。 今は兎も角」


「そぅだとすれば・・・。 そんなラーを捕まえるのは容易な事じゃないなぁ」


「だから参ってます。 落ち込んでます」


「なら!? もし僕がラーの手掛かりを見つけたと言ったら・・・どぅする?」


「エッ!? ホントですか?」


ここで初めて宇崎は振り返ってレイを見た。


「あぁ。 コレを見てくれ、宇崎」


そう言ってレイは持って来たノート・パソコンをテーブルに置き大型モニターに接続した。



(カチャカチャカチャ・・・)



レイがキーボードを叩き始めた。

するとパソコンを接続した大型モニターに三次元立体図形が二つ並んで表示された。

そのグラフはx軸、y軸、z軸で示される立方体で、その内部に多数のドットが表示されている。

それが左右に一つずつ、計二つだ。

ドットの色は向かって左側のグラフが青、もう一方が赤だった。

その二つのグラフをレイはユックリと同時に同方向に回転させた。

肉眼で見比べるとその二つには殆(ほと)んど違いがないように思われた。

レイがグラフの解説を始めた。


「これは僕が監禁される前のラーの裁きの傾向と監禁以後のラーの裁きの傾向だ。 左が前、後が右だ」


それを見てアンチャン松山がほざいた。


「コレって、何ら変わらないじゃないか」


って。


レイが応じた。


「そぅ。 こぅして見比べているだけではネ。 でも、こぅすると・・・」


そう言って再びレイがパソコンを操作した。

二つの立方体が一つに重ね合わされた。

すると肉眼では殆んど同じ位置にあるかのように見えていた赤青のドットが、ある部分では完璧に重なり合っていたが、微妙にずれている所も少なくなかった。


それを見て、今度はデブリン宇田生が驚きの声を上げた。


「こ、これは・・・!?


って。


ここで初めて先程までウンコ座りしていたソファーを離れ、いつの間にか自分専用パソコン前の椅子の上で右手に黄な粉餅を持ち、やはりウンコ座りしていた宇崎がやっとハッキリした言葉らしい言葉を発した。


「人間はどれ程シッカリ真似ようとしても真似しきれる物ではありません。 潜在的な好みや性癖が現れる物です。 それがこの違いでしょう」


レイが言った。


「その通りだ。 どぅだ、宇崎? 少しはやる気になったか?」


「はい。 さすがレイ君。 ありがとうございます」


ここで宇田生がレイに聞いた。


「で、この違いは?」


レイが画面を切り替えた。

いくつかの項目が映し出された。

ポンターでそれらを指し示しながらレイが解説を始めた。


「あぁ。 先ず、これら微妙にずれている要因の一つにワイドショーからの情報、所謂(いわゆる)ゴシップ・ネタ。 コレに若干ではあるが今のラーは反応している傾向が見られる。 次に、ジェンダー。 つまり女性問題。 コレにも強い関心を示しているようだ。 ゴシップとジェンダー、即ち今のラーは女性である可能性が考えられる。 恐らくそれで間違いないだろう。 そして最後にコレだ。 コレはある特定テレビ局の報道を主に参照している事が窺われる」


今度は相河が。


「あるテレビ局の? それは?」


ここで再びレイが画面を切り替えた。

すると画面上に現在日本で放映権を持っているテレビ局の内のいくつかの名前が映し出された。

日(ひ)テレが14、トロ朝が12NNK 13SOS 11、大王テレビが10、そしてさくらんテレビが616

さくらんテレビの数が圧倒的だった。


それが映し出された瞬間、レイ、宇崎、ワタセを除いた全員の口から一斉に同じ言葉が漏れた。


こぅ・・・











「さくらんテレビ!!







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #102



「えぇーっと。 ワイドショー・・・女性問題・・・さくらんテレビ・・・」


盛んに何か考えながら右手人差し指の先を右コメカミに当て、その辺を行ったり来たりしながらアンチャン松山がブツブツ独り言を言っている。


『ハッ!?


アンチャンの顔がパッと晴れた。

なにかナイスなアイデアが閃(ひらめ)いたのか?

アンチャンが右手をグー、左手をパーにしてグーを上から、その小指側を下からパーで一発、



(パシッ!!



ってして、勢い良くほざいた。


「さ、 『産時のアナだ!』 だ!? 最近、キャスターが変わった。 前キャスターが急死して変わったワイドショーの。 さくらんテレビの 『産時のアナだ!』 だ!!


『フッ』


レイが笑った。

そして言った。


「そぅです。 さくらんテレビの 『産時のアナだ!』 です」


それを聞き再び、松山が咳き込むように言った。


「高田馬場清美!! 今のキャスターは高田馬場清美だ!!


宇田生が。


「高田馬場清美がラーか。 あの高田馬場清美が」


それを宇崎が否定した。


「否、まだ高田馬場清美だと決め付けるのは性急です。 もっとも最有力ではありますが」


ここで久しぶりに日神が、右手をズボンのポケットに突っ込み、体を半身にし、右眉毛を吊り上げ、斜に構え、



(ギン!!



ってして、言った。(ホントに久しぶりだ)


「良し、宇崎。 高田馬場清美をマークだ」


宇崎が答えた。


「はい」


そしてワタセの名を呼んだ。


「ワタセ」


「はい」


「高田馬場清美の部屋に盗聴器と監視カメラを仕込むのにどの位掛かる?」


「高田馬場が1人暮らしなら、明日一日あれば。 もし家族と同居の場合はもっと・・・」


「そぅか、分かった。 速やかに準備してくれ」


「承知しました」


そう言ってワタセは徐(おもむろ)に立ち上がると部屋から出て行った。

盗聴器と監視カメラのセット準備のためだ。











それから・・・







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #103



(キキキキ、キッ!!



ユックリとタクシーが止まった。



(ガチャッ!!



後部ドアが開いた。



(スゥー)



背の高い一人の女が降り立った。



(バタン!!



タクシーのドアが閉まった。



(スゥーーー!!



タクシーが走り去った。



(コツコツコツ・・・)



女が歩き始めた。

直ぐに5段程の階段に突き当たった。

その階段を上がった。

すると目の前にはマンションのエントランスがあった。



(スゥー)



自動ガラスドアが開いた。

女は中に入った。

もう一枚ガラスドアがあった。

女は右肩に掛けていた朱色の革製の、一目見てそうと分かる高級なバッグを開け中から鍵の束を取り出した。

その内の一つを壁際にある鍵の差込口に差し、時計回りに90°回転させた。



(スゥー)



ガラスドアが開いた。



(コツコツコツ・・・)



右手で鍵の束を持ったまま、再び女は歩き始めた。

エレベーターに突き当たった。

上向きの矢印ボタンを押した。

しばらくするとエレベーターが下りて来た。



(チーン)



ドアが開いた。

女が乗り込んだ。

6F のボタンを押し、 Close ボタンを押した。

ドアが閉まった。

エレベーターが静かに上昇し始めた。



(チーン)



エレベーターが止まった。

6階だった。

ドアが開いた。

女が降りた。



(コツコツコツ・・・)



女はユックリと歩き始めた。

程なく目指す部屋に着いた。

仕舞わずに手に持ったままだった鍵の束を見つめた。

その内の一つを選んだ。

ドアの鍵穴にその鍵を差し込んだ。

今度もそれを時計回りに90°回転した。



(カチャ!!



鍵の開く音がした。

女は鍵を戻し、引き抜いた。

そしてドアノブを掴(つか)んだ。



(ギィー!!



ドアを開けた。

中に入った。



(バタン!!



ドアを閉めた。



(カチャッ!!



鍵を掛けた。

その部屋は616号室だった。











高田馬場清美の部屋である。







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #104



「今時、大学ノートで日記ですかネェ」


アンチャン松山がほざいた。

モニターを見つめながらの事だ。


ここはラー対策本部ビル23階司令室。

時は夜10時過ぎ。

そこに設置されたモニターを今、宇崎たちは見詰めている。

モニターの数は、

1、2、3、4、5、・・・、10

全部で10台。


映し出されているのは、高田馬場清美の部屋の中。

その日の午後、高田馬場清美が部屋を留守にしている間にワタセが盗聴器と監視カメラを仕掛けて置いたのだった。

モニターの中で今、高田馬場清美は机に着き、机の袖の引き出しの中から1冊の、もしそれが既製品だとしたらチョッと見慣れぬ作りのノートを取り出していた。

そしてそれを広げ、何やら書き込み始めている。

それを見て松山は日記でも付けているのだろうと思ったのだ。

デブリン宇田生がそれを否定して言った。


「否。 何かを書き写しているようだ」


確かに、清美はデスクトップ・パソコンのモニターを見ては手元のノートに何かを書き込み、又モニターを見てはノートに書き込む、といった動作を繰り返していた。


宇崎が画面操作を担当している紅一点・佐波(すけ・なみ)に命じた。


「あのノート、ズームにして下さい」


「はい」


ノートの文字がハッキリと読み取れるところまで大写しされた。

それをアンチャン松山が大声で読み上げ始めた。


「えぇーっと、ナニナニ・・・。 小沢 為痴呆(おざわ・いちほう)、 オザ・ジョンイル、 汚縄 一郎(おなわ・いちろう)、 阿呆歩ッ歩 由紀夫(あほぽっぽ・ゆきお)、 馬鹿歩ッ歩 由紀夫(ばかぽっぽ・ゆきお)、 糞歩ッ歩 由紀夫(くそぽっぽ・ゆきお)、 螻蛄 克也(おけら・かつや)、 フランケン岡田、 馬菅 直人(ばかん・なおと)、 阿呆菅 直人(あほかん・なおと)、 糞菅 直人(くそかん・なおと)、 菅 能低(かん・のうてい)、 山岡 魔漏恥(やまおか・まるち)、 塵石 東(ごみいし・あずま)、 毒島 ミズポ(ぶすじま・みずぽ)、 辻本 売侮(つじもと・ばいぶ)、 志位 滓夫(しい・かすお)、 穀豚 恵二(こくぶた・けいじ)、 酵膿 洋平(こうのう・ようへい)、 腔脳 太郎(こうのう・たろう)、 強盗田 正純(ごうとうだ・まさずみ)、 火盗 紘一(かとう・こういち)、 山崎 濁(やまざき・だく)、 鳥越 糞太郎(とりごえ・バカ・ふんたろう)、 赤絵 駄目江(あかえ・だめえ)、 馬鹿絵 珠江(ばかえ・たまえ)、 山口 滓臣(やまぐち・かすおみ)、 豚園 訓(ぶたぞの・さとし)、 三反園 糞(みたぞの・くそ)、 愛川 欽玉(あいかわ・きんたま)、 大和田 莫迦(おおわだ・ばか)、 川村 乞食(かわむら・こじき)、 黒田 河豚美(くろだ・ふぐみ)、 黒田 腐栗(くろだ・ふぐり)、 黒田 無気味(くろだ・ぶきみ)、 池塵 彰(いけごみ・あきら)、 塵屋 悦子(ごみや・えつこ)、 勝谷 魔羅彦(かつや・まらひこ)、 小西 狆滓哉(こにし・ちんかすや)、 小西 馬克哉(こにし・ばかつや)、 松本 ボボ子、 武田 屑顕(たけだ・くずあき)、 大江 下衆三郎(おおえ・げすざぶろう)、 井上 賤し(いのうえ・いやし)、 悪面 智昭(おづら・ともあき)、 愚賂 智昭(ぐろ・ともあき)、 佐邪気 凶子(さじゃき・きょうこ)、 デーブ・スケベダー、 諸惚 裕(もろぼけ・ゆたか)、 惨萎 佑月(むごい・アホ馬鹿マヌケ・ゆづき)、 室井 汚物(むろい・マンカス・おぶつ)、 末代迄之 恥知(まつだいまでの・はじとも)、 阿呆山 祐子(あほやま・ゆうこ)、 荒川 凶悪刑(あらかわ・アーだのウーだのほざいて間を取んなきゃコメントも出来ない、ニュース原稿を読むっきゃ能のないバカ・きょうあくけい)、 坂本 邪気子(さかもと・そのニュース原稿すらカミカミで満足に読めたためしのないマヌケ・じゃきこ)、 田原 憎一郎(たはら・嘘こきバカ・ぞういちろう)、 姦 惨事(かん・ボソボソ・さんじ)、 大壁蝨 昭宏(おおだに・あきひろ)、 安藤 雲子(あんどう・うんこ)、 永 雲助(えい・くもすけ)、 関口 酷死(せきぐち・ひどし)、 金子おさる、 森永 アホ バカ カス トンマ マヌケ クソ ボケ ダメ郎、 寺脇 癌(てらわき・がん)、 吉永小漏合(よしなが・さるり)、 デメー伊藤、 膳馬鹿 貴子(ぜんばか・たかこ)、 ミラー植草(てかがみ・うえくさ)、 汚壁蝨 真生子(おだに・ちぅごくマンセー嘘ニュースで多くの情弱中小企業経営者を迷わせ、最悪、電車まで止めさせた可能性のある、嘘こき、売国、国賊・まおこ)、 越前屋 知子(えちぜんや・お主もワルょのぅ、フォフォフォフォフォ・ともこ)、・・・。 こ、これは昨日死んだ人間のクズ じゃなくって 国賊 じゃなくって 売国奴 じゃなくって 極悪犯罪者達の名前だ!! それもオールスター・キャストだ!! 売国政党の国賊党首なんてのもいるゾ!!


デブリン宇田生が感嘆して言った。


「いゃぁ〜〜〜。 こんだけ極悪人が揃うとまぁ何と言うか、反って壮観だなぁ」


って。


その場に居合わせたレイ、宇崎、ワタセを除く全員が同意した。


「ウンウンウン・・・」


って。(勿論ワチキも同意した。 「ウンウンウン・・・」 って。 もっとも、これらはホンの一部でまだまだこんなモンじゃないんだヶ怒さぁ。 : 作者)


レイが佐に聞いた。


「佐さん。 ここに書かれている名前と昨日までにラーの手に掛かって死んだと思われる犯罪者や犯罪容疑者達の名前を照合出来ますか」


「はい」


佐が素早くノートに書かれている名前をキーボード入力した。

こんな奴等の名前なんか見たくもネェょなぁー、つーイヤイヤの顔して。(気持ちは良〜っく分かるぉ。 ワチキも見たくもネェゼ、こげな名前。。。 : 作者)

そして照合開始。

即座に結果が別のモニターに映し出された。


佐が言った。


「ノートの左ページに書かれている人名らしき物に該当する名前が、これまでにラーの手に掛かって死んだと思われる犯罪者及び犯罪容疑者名簿の中に全て存在しています。 それも全員が昨日死んだ者達です。 そして右ページの、今、高田馬場が書き込んでいる人名らしき物に該当するであろうと思われる犯罪者や犯罪容疑者も又、全て存在しています。 それも凶悪犯ばかり。 でも、まだ誰も死んではいません」


モニターには清美が書き込んだ物と同名の犯罪者や犯罪容疑者名が白ベースの画面の上に黒で表示されている。

既に死んでいる犯罪者や犯罪容疑者達はその名前の横に赤い文字で 『死亡』 と、まだ死んではいない犯罪者及び犯罪容疑者名の横には緑の文字で 『生存』 と書かれてあった。


日神が右手をズボンのポケットに突っ込み、体を右半身(みぎ・はんみ)にし、右眉を吊り上げ、斜(はす)に構え、



(ギン!!



ってして、言った。


「良し!! 高田馬場清美、身柄確保だ!!


宇崎が止めた。


「否、まだダメです。 今書き込んでいる犯罪者並びに犯罪容疑者達全員が死んでからでないと」


「ナゼだ?」


「ただ書き写していただけだと言い逃れ出来るからです」


「ウ〜ム」


その時、佐が声を上げた。


「局長。 獄中の犯罪者達が死んでゆきます。 それも犯罪容疑者達を除けば高田馬場がその名前を書いた順に」


モニターの画面に出ていた生存の文字が次々と死亡に変わり始めた。

獄中の犯罪者達の死亡は、即入力されるため直ぐにそれが表示された。

しかし、犯罪容疑者達はあくまでも容疑者であるため必ずしも警察の手の届く範囲にいるとは限らない。

よって仮に死亡したとしても、残念ながら直ぐには表示されなかった。

だが、それでもそれらは高田馬場清美をラーと断定するのに充分な結果だった。


レイが立ち上がった。


「決まりだ!! 高田馬場清美がラーだ!!


そう言って宇崎を見た。



(サッ!!



宇崎が無言で素早く右手を拳に握り親指を立て、レイに向け突き出すポーズを取った。


『やったねポーズ』 だ。


GJ (グッジョブ)ポーズ』 と言っても良い。


日神が前同様、



(ギン!!



ってして、言った。


「良し!! 全員コレより直ちに高田馬場清美の身柄確保に向かう!!


即座に、宇崎がそれを制した。


「待って下さい、日神さん。 まだ、証拠がありません」


「ン!? 証拠?」


「そぅです。 証拠です」


「し、しかし・・・」


「お気持ちは分かります。 でも、今分かったのは高田馬場清美がノートに書き込んだ人間の名前と思われる物と全く同じ文字をその名前とする犯罪者達が死んだ。 ただそれだけです。 それにその他の犯罪容疑者達の死亡はまだ確認されてはいません。 確かに偶然といってはあまりの的中率。 しかし、どぅやって殺しているのか? まだその殺し方が分かりません。 それが分からない以上、身柄確保は無意味です」


宇田生が言った。


「なら、又、この間のレイ君達と同様、監禁取調べをすればいいジャマイカ」


「ダメです」


横から相河が聞いた。


「何でだ?」


「お忘れですか? ラーの能力(ちから)は人を渡る可能性のある事を」


「ウッ!?


相河が言葉に詰まった。


「高田馬場清美を監禁した途端。 ラーの能力が他に移ってしまったら元の木阿弥(もくあみ)。 折角ラー容疑者を特定出来たのに、又、一からやり直しになってしまいます」


「そ、そぅか・・・」


相河が納得した。


「皆さん。 ここは一つ慎重に策を立て、ラーを追い詰めましょう」


ここでレイが。


「僕も宇崎と同意見だ」


更に宇崎が。


「殺し方です。 殺し方なんです、分からないのは。 それさえ分かれば全て解決なんですが・・・」


レイが聞いた。


「どぅする宇崎? 高田馬場清美に吐かせる手立ては・・・。 何かいい方法はあるか?」


「ウ〜ン。 そぅですネェ。 ・・・」


宇崎はチョッと考え込んだ。

そして何か考え付いたのか。

アンチャン松山の方を向いて言った。


「松山さん。 折り入って頼みがあります」


「ン!? 何だ?」


「はい。 危険を伴う重要な役割を演じてもらいたいのですが、宜しいですか?」


「危険を伴う? 重要な役割?」


「そぅです」


「どんな?」


「高田馬場清美とコンタクトを取る」


「エッ!?


一瞬、松山は言葉に詰まった。

だが、直ぐに気持ちを切り替えた。

そして、


「は、話を聞こう。 く、詳しく話せ」


話に乗って来た。

今まで無視されっぱなしだったアンチャン松山。

初めて回って来た主役の座・・・

話に乗らない訳がない。


それを見て宇崎がたった今、閃(ひらめ)いた計画を話し始めた。


「はい。 実は・・・」


から始めて、











詳しく・・・







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #105



「はい。 もしもし・・・」


高田馬場清美が携帯電話に出た。

たった今、何処(どこ)からか掛かって来たのだ。

見知らぬ番号ではあったが非通知ではなかった。


ここはさくらんテレビ局内。

後数分もすれば 『産時のアナだ!』 本番が始まろうという、その直前の出来事だった。


「高田馬場清美さんですネ」


携帯電話を通し相手が聞いて来た。

男の声だ。


『初めて聞く声。 20代後半位ネ、誰かしら?』


清美は思った。


「アナタは?」


「せ・・・監獄由人(かんごく・よしと)と申します。 始めまして」


「カンゴクさん? ドコでこの番号を?」


「と、いう事は・・・やはり高田馬場清美さんでよろしいんですネ」


「・・・」


清美は黙っていた。


「ハ〜ィ。 調べさせて頂きましたょ。 ワ、タ、ク、シ、局に顔がきくモンで。 ハ〜ィ」


「局の誰から?」


「それは申せません」


「申せませ・・・。 いいゎ、何の御用かしら?」


「実はアナタに買って頂きたい物がありまして」


「・・・!?


「テープです。 ビデオテープ。 アナタの映っている」


「わたしの映っている? どぅいう事かし・・・? ン!? 何にコレ!? 脅迫!? なら、警察に連絡しますょ!!


「チョ、チョ、チョ、チョッと待って下さい、高田馬場さん。 否、ラー」


「エッ!?


清美は驚いた。

と、同時に顔が引き攣った。

言葉も詰まっている。


「オットー!? そのリアクション。 やはりアナタがラーですネ。 なら、話は早い。 買って欲しいんですょネェ〜、ア、ナ、タ、が、ラーだという証拠のテープ」


「証拠のテープ? どぅいう事? そんな物ドコで?」


「アナタの部屋で。 実はワタクシ盗撮が趣味でして、ハ〜ィ。 そして盗撮させて頂いた〜んですょネェ〜、アー、ナー、ター、のー、おー、部ー、屋ー。 そしたらナ、ナ、ナント・・・映ってるじゃないですか、アナタが。 アナタがノートにナ〜ンか書いてるトコ・・・が。 それもシッッッカリと。 えぇ」


「・・・」


清美は再び言葉に詰まった。


「それをネ。 それを是非(ぜひ)!! 他の誰でもな〜い、アー、ナー、ター、にー、ネ。 アナタにお譲りしたいと思いましてネ。 えぇ。 それで一度お会い出来たらなぁ〜。 ナ〜ンてネ。 チョッと思ったモンですから。 ハ〜ィ」


これを聞き清美は誰かに聞かれないよう口と受話器を手でカバーして、体勢を入れ替えた。



(ササッ!!



誰か見ていないか素早く周りをチェックした。

清美に視線を向けている者は誰もいなかった。

それを確認してから小声で、しかしキッパリと言った。


「盗撮って、・・・。 アナタそれ犯罪ょ」


「えぇ。 分かってますょ〜。 でもネェ〜、高田馬場さん。 否、ラー。 人殺しよっかいいんじゃないですかネェ、人殺しよっか。 ハ〜ィ」


「・・・」


「どぅしましたかぁ〜? 急に黙ったりして。 ・・・。 いいんですょ〜、コチラは。 嫌ならネ。 アナタが嫌なら他を当たるだけですから。 ハ〜ィ。 驚くでしょうネェ〜、コレ持ち込んだら、きっと。 テ、レ、ビ、きょ、く。 えぇ。 いいんですょ〜。 コチラはネ、コチラゎぁ。 ハ〜ィ」


「分かったゎ、いくら欲しいの?」


「それはまぁ、お会いした時にユックリ・・・。 とネ。 ま、少なくない額とだけ・・・今はそぅ申して置きましょうか。 ハ〜ィ」


「そぅ。 いつ? ドコで?」


「今夜7時。 局内のレストランで。 来られますか?」


「7時ネ。 7時なら行けるゎ。 でも、ワタシにはアナタが誰だか分からない。 目印は? アナタの目印を教えて頂戴」


「その必要はありません。 コチラが分かってますから」


「・・・。 そぅ」


「ハ〜ィ。 では、7時に」



(カチャ!!



せ・・・監獄由人と名乗った男が電話を切った。











ここはさくらんテレビ局内である。







つづく