死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #121



「レイ君!! ノート!!


宇崎がそう叫んでレイから死人帖を奪うようにして取った。

右手人差し指と親指でそれを摘み上げた。

いつものようにだ。

そして急いでその中に書かれている名前をチェックした。

高田馬場清美の名前を探(さが)したのだ。

しかしノートのどこにも高田馬場清美の名前は見当たらなかった。

当然だ。

清美は確かに殺人ノートによって殺された。

だが、それに使われたのは今宇崎が手にしている死人帖ではなく、その死人帖の切れ端だったからだ。

予(あらかじ)めレイが家族からプレゼントされた腕時計に仕込んでおいた、 “例” の切れ端だったからだ。


突然の事に流石の宇崎も取り乱していた。

ほかの連中も皆同様だった。

そんな喧騒の中、たったの一人だけ冷静さを失ってはいない男がいた。


その男、それは・・・勿論・・・











日神太陽である。







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #122



「偶然起こった心臓麻痺によるショック死か・・・?」


日神尊一郎が呟(つぶや)いた。


ここはラー事件対策本部ビル23階司令室。

高田馬場清美がさくらんテレビ内のスタジオで死んだ翌日昼過ぎ。


死神・翠旻を前に、その司令室の中央に置かれた会議用の大きなテーブルを囲んでレイ、日神、宇田生、相河、松山、佐、そして宇崎の7人が昨日の高田馬場清美の死因を検討していた。

その部屋にはワタセもいたが、それには加わらずチョッと離れた所で一人パソコンに向かっている。

いつも通りのマイペースだ。

テーブルの中央部には鍵付きのガラスケースに入れられた死人帖がある。

丁度並んで座っているレイと宇崎の間だ。

もっとも鍵は掛けられてはいなかったが。


日神の言葉を受け、今度は宇田生が言った。


「否、高田馬場は自殺だったのでは? 人を殺せるんなら自分を殺す事だって・・・」


これを松山が否定した。


「でも、あの状況で高田馬場が死人帖を使うのは不可能ですょ」


宇田生が納得した。


「それもそぅだな。 ウ〜ム」


再び日神が言った。


「偶然の心臓麻痺か? それとも自殺か? あるいは他のラー又は死神? ウ〜ム」


そして翠旻に顔を向け、一発、



(ギン!!



ってして、聞いた。


「どぅなんだ?」


って。


翠旻はユックリと左右に首を振った。

そしてお惚(とぼ)けこいた。


「さぁ〜な」


って。


今度はレイだった。

ヤッパし思いっきり空っ惚(とぼ)けて。


「じゃぁ、今このノートを使えるのは誰だ?」


って。


ユックリとレイに顔を向けて翠旻が答えた。

以下、空っ惚けたレイと翠旻の会話が続く。


「ノートは誰でも使える。 お前達でもだ。 だが、所有者には一人しかなれない」


「所有者?」


「そぅだ。 死人帖には必ず一人所有者がいる。 死神、人間の別なくな」


「なら、このノートの今の所有者は誰だ?」


「それは言えない」


「ナゼ?」


「ルールだからだ。 死人帖のな」


このやり取りを宇崎は黙って聞いていた。


その時、



(トゥルルルルルー!! トゥルルルルルー!! トゥルルルルルー!! ・・・)



ワタセのデスクの電話が鳴った。



(カチャ!!



ワタセが受話器を取った。


「はい」


と一言返事をした。


「・・・」


ワタセが無言で聞いている。

そして、


「分かりました」


やはり一言しか言わず



(ガチャ!!



電話を切った。

そして顔を上げ、宇崎に言った。


「宇崎。 殺人ノートの切れ端による鑑定結果が出たそうです。 ノートの素材もノートの使い方を書いた物質も、今現在地球上には存在していない物だそぅです。 又、鑑定に半日も要したのは、鑑定に当たった者達が切れ端に直接手を触れないよう慎重に取り扱ったからだそぅです」


それを聞き日神は喜んだ。

そしてスッゲー嬉しそうにニンマリこいて言葉を吐いた。


「そぅかぁ。 やはり翠旻の言った通りだ。 そのノートは死神界の物。 使い方が書いてある理由はそれを人間が使う時のため。 それに間違いない」


これを松山が受けた。


「死神が実在している以上間違いないと思ってはいましたヶど、やっぱりハッキリして良かったですネ、局長。 書かれている内容から判断すればレイ君、余海砂は完全にシロです」


宇崎がこれを否定した。


「いえ、余はそぅかもしれません。 でも、このノートに書き込まれて死んでいった凶悪犯は、レイ君監禁以降の者達のみです。 だから、レイ君はまだ・・・」


ここまで宇崎が言った時、松山がそれを遮った。


「なら、これはどぅなる。 この使い方の最後から2番目のコレは・・・。 いいか、宇崎。 こぅなってるゾ。 『このノートに名前を書き込んだ人間は、最も新しく名前を書いた時から13日以内に次の名前を書き込み人を殺し続けなければ、自分が死ぬ』。 これが正しければ20日間以上監禁されていたレイ君やミーシャミーシャがラーならとっくに死んでいたはずだ。 ン!? どぅだ? 違うか、宇崎?」


宇崎が答えた。


「はい。 そぅなりますネ」


そして翠旻に聞いた。


「死神さん?」


翠旻が毅然として言った。


「私の名は翠旻だ」


「なら、翠旻さん」


「何だ?」


「今、人間界には少なくとももぅ1冊死人帖が存在していますネ?」


「さぁ〜な。 それを否定もしなければ肯定もしない。 私が関知しているのはその死人帖だけだからな」


「そぅですか。 ならばもぅ一つ」


「何だ?」


「もし、それ以外のノートが人間界に存在していた場合。 死人帖の規則は全て同じですか?」


「あぁ。 同じだ。 死神界に行けば死人帖は腐るほどある。 だが、規則は間違いなく全て同じだ。 人間が使おうと死神が使おうと」


「という事は、その使い方の最後に書いてある 『このノートを刻む焼くなどして使えなくすると、それまでにノートに触れた全ての人間は死ぬ』。 当然これもですネ?」


「あぁ。 勿論だ」


「そぅですか・・・」


宇崎は黙った。


このやり取りを聞いていた松山が天を仰いだ。


「あ〜ぁ!? 成り行き上だったとはいえ、何で死人帖なんかに触っちゃったんだぁ。 それ処分されたら、ここにいるみ〜んな死んじゃうじゃん」


って。


それを無視して宇崎に宇田生が聞いた。


「どぅだ、宇崎。 レイ君と余海砂の疑いはこれで完璧に晴れたはずだ。 違うか?」


相河がこれに続いた。


「そぅだ。 レイ君が第一のラー、余海砂が第二のラーだったというのは宇崎の言い掛かりに過ぎなかったんだ。 二人の無実は明々白々だ」


これに佐も加わった。


「もぅ、これで二人の監視は終わりょ。 終わりにすべきょ」


「・・・」


宇崎は黙って考えていた。

そして言った。


「分かりました、みなさん。 レイ君と余海砂さんの監視はこれで終わりにします」


ここまで言ってレイの方を向き、謝罪した。


「レイ君。 今までの事、申し訳ありませんでした。 謝ります」


レイが言った。


「あぁ。 いいんだ、宇崎」


日神が椅子から立ち上がり、



(ニマァ〜ニマァ〜)



ってしながらレイに近寄った。


「良かったな、レイ」


「あぁ、父さん。 ありがとう」


宇田生、相河、松山、佐も椅子から立ち上がって、ニコニコしながらレイに近寄って来た。

口々に順次こう言いながら。


「ヤッ!! 良かったな、レイ君」


「良かった良かった」


「これでやっと・・・。 良かったネ、レイ君」


「良かったゎネ、レイ君」


レイが皆(みんな)に礼を言った。


「皆さん。 有難うございます。 ご心配お掛けしました」


再び日神が。


「じゃ、早速帰り支度だ。 喜ぶゾ、母さん。 心配してたからなぁ。 それに雅裕もだ。 お前の監禁秘密にして置くのに、父さんどれだけ苦労したか」


即座にレイが日神の方に振り返った。


「否。 待ってくれ、父さん」


「ン!? 何だ、レイ?」


レイは今度は宇崎に顔を向けた。


「事件はまだ終わっちゃいない。 そぅだろ、宇崎?」


「はい。 まだ終わってはいません」


再び日神に。


「父さん。 そのノートに書かれた犯罪者の名前は高田馬場清美が現れて以降の者達だけ。 それ以前にラーの手に掛かったであろう凶悪犯の名前はどこにもない。 とすればやはり宇崎の言った通り、少なくとももぅ1冊ノートは存在する。 第一のラーが使っていたと思われる物が。 その第一のラーが使っていたはずのノートが見つかるまで。 そして第一のラー、第二のラーが誰だったのか? 又、それらと高田馬場清美との関係は? などがハッキリするまでこの事件は終わった事にはならないんだ」


「し、しかし、お前の無実が明らかになった以上・・・」


「否。 ダメだ、父さん。 僕は最後までここに残って事件を解決する。 どぅだ、宇崎? ここに僕は必要なはずだ」


「はい。 必要です。 でも」


「でも?」


「はい。 そぅなるとミーシャさんとはお別れする事になりますょ。 無実である以上、捜査員でもない人間をここに置いておく訳には行きませんから」


「あぁ。 それで結構だ。 会いたい時は外で会うさ」


宇崎は無言で頷いた。

そしてワタセに命じた。


「では、ワタセ。 余海砂さんを開放するように」


「はい」


一言だけそう返事をしてから、ワタセがユックリと立ち上がった。











余海砂を開放するために。。。







つづく





死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #123



「いいかい、ミーシャ。 これから僕の言う事を良〜く聞くんだ。 いいネ」


レイがミーシャを抱きしめ、耳元で囁(ささや)いた。


ここはラー対策本部ビル1階エントランス。

高田馬場清美が死んだ日の翌日夕方。

今、正に余海砂が開放されようとしている。

その場にいるのは、レイ、ミーシャ、そしてワタセの3人。

レイはそのままここに残るが、ミーシャは開放されワタセがミーシャのマンションまで車で送り届ける手筈になっていた。

そして二人が別れの挨拶をしている時の事だ。


その二人の様子を監視カメラのモニター越しに見つめている者がいた。

宇崎だった。

宇崎はシックリしなかったのだ。

レイとミーシャがシロであるという事が・・・如何(どう)しても。

宇崎の中では未だに第一のラーはレイ、第二のラーはミーシャ、のままだった。

だからこの期に及んでも、まだ、二人の一挙手一投足が気になっていた。

その無意識の意識が宇崎にモニターを見つめさせていたのだった。

そこへ、



(ツカツカツカ・・・)



宇田生が歩み寄った。



(カチッ!!



モニターのスイッチを切った。

そして言った。


「宇崎。 二人の監視は終わったはずだ」


渋々宇崎が同意した。


「はい。 そぅでした」



そんな事が起こっているなど露知らず、監視カメラに映し出されないように、そしてワタセに聞こえないようにレイがミーシャの耳元で囁いていた。


「ミーシャ。 頼みがある」


「エッ!? 頼み?」


「あぁ。 大事な頼みだ」


「ウン。 いいょ。 な〜に?」


「これから言う場所にある物を埋めてある。 それを誰にも見られないよう充分注意して一人で掘り出して欲しいんだ。 いいネ、ミーシャ。 絶対に誰にも見られないようにだ、絶対に。 いいネ、分かったネ」


「ウン。 分かった」


「いいかい。 その場所は、・・・ (ボソボソボソ) ・・・」


 ・・・



その日深夜。


日神家近くの公園の中にある森の中を、懐中電灯で足元を照らしながら一人静かに歩く一人の女性の姿があった。

その女性は時折後ろを、振り返り振り返りしながら歩き続けていた。

その行動は、まるで誰か自分の後を付けている人間がいないかどうか確認しているように見えた。

その女性は森の奥深くまで入って行った。

怖くはないのだろうか?

こんな場所に深夜、一人で・・・


しかしそんな様子は全く見られない。


女性は何か口走っていた。


「えぇっと。 確か、ここから見て一番手前の木ネ。 アッ!? アレっ!! アレょ、アレ。 ・・・」


そう言ってその女性は足早にそのアレと言った木に近寄った。

そして地面にしゃがみ込み、懐中電灯を置き、持って来ていた手提げ袋の中からシャベルを取り出し、



(ガシッ!! ガシッ!! ガシッ!! ・・・)



その付近を掘り返し始めた。

どの位経ってからだろうか?

女性は何かを掘り出した。

それは幾重にもビニールで包装された包みだった。

女性は思わず呟(つぶや)いていた。


「これネ。 この中に・・・」


そしてその厳重にビニールで梱包されている包みを開いた。

透明なビニール袋が出て来た。

中に何か入っている。 

ノートのようだった。

女性は素早くそのビニール袋の封を切り、中のノートを取り出そうと掴(つか)んだ。

その瞬間、


「アッ、ァアァアァアァアァアァアァアァアァ・・・」


宙の一点を見つめたまま悲鳴を上げた。


顔を歪め、



(クヮッ!!



と、大きく目を見開いている。

苦しそうだ。


1秒、2秒、3秒、・・・


その状態が数秒間続いた。


だが、


何かに気付いたのだろうか?

突然、声を上げた。


「アハッ!?


と、一言。


その時、その女性はこう思っていたのだ。


『思い出したょ、レイ。 このノートを使っていた時の事。 ・・・。 コッチを埋めておいてくれたのはミーシャが全てを思い出せるためにだネ』


と。


そぅ。


その女性は・・・余海砂だった。











開放されたばかりの。。。







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #124



(スゥ〜。 パサッ!!



ミーシャが手にしているノートから一通の封筒が抜け落ちた。

挟んであった物だろう。

ミーシャがそれを拾い上げた。


『ン!? 何これ? 手紙?』


その封筒にはこう書かれてあった。


to M.A. from R.H. ”


と。


その封筒の文字を繁々と見つめながらミーシャは思った。


M.A.・・・余海砂? R.H.・・・日神太陽? レイからの手紙だゎ、きっと』


素早く封を切った。

中から1枚の便箋が出て来た。

直ぐさまミーシャはそれを広げて読んだ。

こう書かれてあった。


 君がこの手紙を読んでいるという事は、既に全てを思い出しているはずだ。

 宇崎を覚えているかい。 大学のキャンパスで僕と一緒にいた男だ。

 ヤツこそが R だ。

 君はヤツの本当の名前を見たはずだ。

 そこで頼みだ。

 R を葬って欲しい。

 しかし、今直ぐはダメだ。

 君が開放されて直ぐの今では。

 だからその時が来たら指示を出す。


 又、


 この手紙を誰かに読まれてはマズイ。

 読み終わったら直ぐに燃すように。

 それから今度あった時、誰にも悟られないようにこのノートの切れ端に触らせて欲しい。


 最後に、


 これが上手くいったら、二人で力を合わせて新たな世界を作ろう。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ R.H.


この手紙を読み終えた瞬間、ミーシャの顔がパッっと明るくなった。

同時に言葉がついて出た。


「『二人で力を合わせて新たな世界を作ろう。』 やったーーー!!


そして思った。


『そっかー!! これがレイの計画だったのネ!? ミーシャにコッチのノートに触れさせ、記憶を戻す。 そして・・・。 そして宇崎を・・・ R を・・・こ、ろ、す!! それがレイの計画だったんだぁ』


と。


次にミーシャは考え込んだ。


『でも・・・。 でも、まさかあの宇崎が R だったなんて・・・』


だが、直ぐにミーシャの表情が暗くなった。

こう思っていたのだ。


『えぇっと、宇崎の名前は確か横文字・・・。 横文字で最初が R ・・・。 ントー、 R ナントか・・・。 ントー、 ントー、 ントー、 ・・・』


更に呟(つぶや)いた。


「ダ、ダメだょ、レイ。 思い出せないょ。 名前なんて覚えてないょ。 だって初めて会った時、まさか宇崎が R だなんて思っても見なかったし、それに1日に何十、何百って人達の名前と寿命が見えてたんだモン・・・。 いくら記憶が戻ったからって、そんなの全部思い出せやしないょ。 無理だょ、出来ないょ」


そして叫んだ。


「アァー!! ダメだー!! ダメダメ、ダメだー!! どーやったって思い出せないょー!! アーン!! もーっ!! ミーシャのバカー!! バカバカバカー!! 何で思い出せないのー!! レイの力になりたいのにぃ!! きっと一生愛し続けてもらえるのにぃ!! アーン!! もーっ!! バカバカバカー!! ミーシャのバカー!!


ミーシャは地面に座ったまま両手を地につき塞ぎこんだ。


その時、



(バサッ!!



ミーシャの背後から大きな音がした。


『ハッ!?


一瞬正気に戻り、反射的にミーシャが振り返った。


!?


暗闇から声がした。


「今晩ょぅ」


苦竜の声だった。


そして、



(ニュ〜)



苦竜が姿を現した。

それを見てミーシャの表情が一気に明るくなった。


「苦竜!?


そう叫んで苦竜に抱きついた。


久しぶりに登場するや、いきなりミーシャに抱きつかれて苦竜が、



(ポッ!?



ってした。

真っ赤なお顔になっちゃった苦竜が言った。


「クッ!? て、照れるゼ」


って。

そして続けた。


「ふぅ〜。 やっとかょ。 ったく、レイのヤツがその死人帖地面なんかに埋めちまいやがるから。 ・・・。 オッス!! 久しぶりだな、ミーシャ」


苦竜から体を離してミーシャが答えた。


「久しぶりだネ、苦竜。 元気だった」


「ま、な。 オメーはどぅだったんだ、ミーシャ? ン!?


「大変だったんだょ。 色々あってさ。 でも、今はこうして自由。 アッ!? そぅだ!!


そう言ってミーシャは持って来た手提げ袋から真っ赤に熟した見るからにジューシーそうな大きいリンゴを1個取り出した。


「はい、コレ!! レイから」


そう言って苦竜に投げ与えた。


「ゥホー!!


興奮し、大声を出して苦竜がそのリンゴを受け取った。

そして、



(ガブリ!!



いきなり皮ごと齧(かぶ)り付いた。


「ゥ、ゥメーーー!! ちっくしょうレイのヤツー!! 味な真似しやがってぇー!!


「そんなに美味しい?」


「あぁ。 うめぇなんてモンじゃネェーぜ。 人間界のリンゴはょう。 チッキショー!!


そして二人は、否、一人と1匹は地面に座り込み話し始めた。

勿論、宇崎の本当の名前の件をだ。


 ・・・


「それは仕方ネェだろ。 俺達だって無理だぜ、見た奴全部の名前覚えてるなんて・・・。 レイだって自分がノートに書き込んだ事の一字一句全部覚えてる訳じゃ・・・。 ン!? い、否、ヤツなら覚えてるかもな。 ヤツなら」


「でしょ、やっぱ。 だょネ、レイなら。 やっぱミーシャがダメなんだょネ。 ミーシャが・・・」


「違うんじゃネェかぁ。 アイツがおかしんだょ、レイのヤツが」


「苦竜!!


突然ミーシャが、



(キッ!!



ってして苦竜を見つめた。


「オッ!? なんだなんだ? 急にマジんなって」


「目の取引して!!


「ヘッ!?


「アタシと目の取引して」


「目の取引って、・・・。 お前分かってんのか?」


「何が?」


「お前、既に一度取引して寿命半分になっちまってんだゾ。 又取引すんと更にその半分になっちまうんだゾ。 いいのか、それで?」


「いいょ、それで。 分かってるょ」


「いんゃ。 分かってネェと思うゾ、俺様は」


「だってこのままじゃ、レイに合わせる顔ないじゃん。 だからお願い取引して」


これを聞き苦竜は思った。


『顔ならあるじゃん』


って。


「ま、俺はいいんだけどな、ドッチでも・・・。 くどいようだが、半分になっちまった寿命を更に半分にしていいんだな?」


「ウン」


「良し、分かった」


苦竜がそういったその直後、



(ギラン!!



ミーシャの目が妖しく輝いた。

妖しく。


そぅ。


ミーシャは再び死神の目を手に入れたのだ。











既に半分になっている寿命の更にその半分と引き換えに・・・







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #125



「レイさん。 余海砂さんがいらっしゃいました」


玄関口を映しだしているモニターをチェックしてワタセがレイに告げた。

宇田生と松山が覗き込もうとモニターに近付いた。

松山が言った。


「アッ!? ホントだホントだ。 ミーシャミーシャだ」


宇田生も言った。


「レイ君、ズッとここにいっぱなしだから。 余の方から会いに来るしかないんだょなぁ、可愛そうに」


そして日神が。


「レイ。 早く行って上げなさい」


「あぁ」


そう言ってレイが部屋を出た。

その1分後には玄関口のミーシャの前にいた。


「レイ!? 会いたかったぁ!!


ミーシャがレイに抱きついた。


「・・・」


レイは無言でミーシャを軽く抱いた。

直ぐに、


「フッ」


って、レイが笑った。

ミーシャを抱いたままレイが顔を上げた。

そして監視カメラに映らないよう注意して、宙の一点を見つめてこう言った。


「久しぶりだな、苦竜」


と。


そぅ。


ミーシャはレイに抱きついた時、言われていた通り死人帖の切れ端をレイに



(チッ!!



って、しちゃっていたのだった。

右手の甲に。(コレってさぁ。 悪戯好きの H なオネェならきっとこうなんだろうヶどなぁ。 先ず、レイのズボンのチャックを下ろし、レイのモッコリをつまみ出し、エヘッ、エヘッ、エヘッ、ってして先っぽにチッ!! その後ペロ〜ン!! カプッ!! エヘッ、エヘッ、エヘッ : 作者)


その状態からユックリと監視カメラの視界の外にミーシャを誘導して、レイが苦竜に言った。


「そろそろ決着が付きそうだょ、苦竜。 そろそろ」


「ほぅ〜」


と、姿なき声が聞こえた。

勿論苦竜の声だ。


それを聞き、ミーシャが詫(わ)びた。


「ゴ、ゴメンなさい。 レイ」


「ン!?


R のホントの名前、思い出せない。 どぅしても思い出せないの・・・」


「そぅか・・・」


「でも、でもミーシャ。 目の取引、苦竜としたから」


「エッ!?


って、レイは驚いたフリをした。

ホントはそれも計算の内だったくせに・・・

そして白々しくこう言った。


「バカ。 何て事したんだ。 それじゃ、又ミーシャの寿命が・・・」


「ウゥン、いいの。 レイの役に立てればミーシャはそれでいいの」


このやり取りを聞き、苦竜は思った。


『全ては計画通りってか。 ホンに悪いヤッチャなぁ。 レイ、お前ってヤツは・・・』


「ミーシャ。 良〜くお聞き。 僕はネ、ミーシャ。 君の目を利用するより、君と一緒に理想の世界を作りたいんだ」


って、レイが歯の浮くような大ウソこいた。


これを聞き思わず苦竜が不気味な右手を口に当て、


「プププププ・・・」


って、笑っちゃった。

こう思いながら、、、


『嘘吐きー!!


って。。。


「嬉しい!!


ミーシャがレイを抱く手に力を込めた。

更に続けた。


「そのためには R のホントの名前が必要なんだょネ。 でも、ミーシャ忘れちゃった。 ごめんネ、レイ。 ホントにごめんネ」


「あぁ、いいんだょ。 ミーシャ。 気にしなくて」


「でも・・・」


「心配しなくていい。 策はある。 策はあるんだょ、ミーシャ。 完璧なヤツが」


「ホント!?


「あぁ。 だからミーシャは何も心配しなくていい。 それよりこれから二人で力を合わせて理想の世界を作るんだ。 新世界をネ」


「ウン」


 ・・・


レイとミーシャのやり取りは続いていた。



モニターからは既に二人の姿は消えている。

モニターを覗き込んでいた宇田生と松山はガッカリした表情で元の場所に戻っていた。

だが先程、モニターを覗き込んでいたのは宇田生と松山だけではなかった。

もう一人 否 もう一匹いたのだ。


もう一匹といった以上、それは・・・勿論・・・翠旻である。


しかも、ワタセが口にした余海砂の名前に真っ先に反応し、モニターに近付き、覗き込んだのは翠旻だった。

そしてモニター越しに見るミーシャの姿に翠旻は驚いていた。


『ン!? 苦竜!? 苦竜がミーシャに憑いている。 そぅか。 あの時死人帖を交換させられたのはこのためだったのか』


更に翠旻は驚いた。


『ハッ!? ミ、ミーシャ!? ミーシャの寿命が半分に減っている!?


流石の死神・翠旻もその驚きの表情を隠す事は出来なかった。

シッカリと顔に出ていたのだ。

そしてそれを見逃す事なく気付いていた者がいた。

宇崎だった。

宇崎は翠旻の異変に気付いたのだ。

そしてこう思っていた。


『ン!? 死神・翠旻が余海砂を気に掛けている!? ナゼだ?』


と・・・











不審に満ちた表情で。







つづく