死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #141



「エッ!?


「エッ!?


「エッ!?


「エッ!?


上崎、亀谷、秀吉、大河内のそこにいた4人全員が飛び上がって驚いた。


上崎が血相変えて不良に迫った。


「そ、そんな事をしたら不良先生、アナタが・・・」


亀谷も。


「そそっ、 そぅっスょ。 そそっ、 そんな事・・・」


秀吉も。


「そ、そんな事は、・・・。 い、今先生にもしもの事があったら・・・」


大河内は色をなくし、ひたすら絶句しているのみであった。


「・・・」


平然として上崎を見つめたまま不良が言った。


「心配するな。 お前達がしくじらない限りこの作戦は必ず上手く行く。 上崎、亀谷、お前達次第だ」


上崎は何にも言えず顔面を紅潮させ、自分達を信じて会った事もない R のためにそこまでしようと言ってくれた不良に対する感謝の念で、目に涙を浮かべている。

亀谷は顔面蒼白となりプルプルと微(かす)かに震えていた。

勿論、何も言葉を口にする事が出来ずに。

秀吉と大河内は絶句したまま固まっている。


それを無視して不良が続けた。


「総括する。 こぅいう事だ。 この作戦は R 死亡予定当日に決行する。 そして作戦開始当日、 R とやらに俺の名前を死人帖に書かせる。 間違えるな、当日にだ。 R に書かせる訳は、かつてヤツだけがこの死人帖とやらを使っているからだ。 もし他に使ったヤツがいればそいつでも構わん。 しかしいない。 そぅだったな、上崎」


上崎が小刻みに体を震わせながら声を絞り出した。


「は、はい。 ア、 R だけです」


「ウム。 書かせる俺の死亡時間は R 死亡予定時間の1分前。 死因は、ある恐るべき念力使いによる念力波の直撃を受けてだ。 そしてこの事は、日神だったな確かさっきお前が言ったのは」


「は、はい。 ひ、日神尊一郎局長です」


「その日神にだけはこの作戦の概要を伝えておけ。 ただし!! 詳しい説明はするな!! そいつが知っているのは、必要最小限でいい。 これはもし、作戦遂行中にそいつが死人帖に書かれた俺の名前を見た時に厄介だからだ。 だから、なんだかんだ聞かれた時には、こぅ答えておけ。 全ては終わった後に話すとな。 それと他言は無用だと釘を刺すのも忘れるな。 いいな、上崎。 あぁ、そぅだ。 それから R とやらにもな、必要最小限だ」


「は、はい」


ここで亀谷が上崎同様、やはり体を震わせながら声を絞り出して吃(ども)り吃り聞いた。


「ででっ、 でも・・・ナナっ、 ナゼ R 死亡予定当日・・・けけっ、 決行なんスか・・・むむっ、 娘を拉致すんの? じじっ、 事前に拉致しておいた方が・・・かかっ、 確実なんじゃないんスか?」


不良が笑った。


「フッ」


って。


そして亀谷に聞いた。


「お前は野球が好きか?」


「はっ、 はい。 だっ、 大好きっス」


不良の見せたその余裕と大好きな野球の話に変わって少し落ち着いたのだろう。

亀谷はもう吃る事はなかった。


「どこのファンだ?」


「巨人っスヶど」


「去年の巨人の野球はどぅだった?」


「いゃー。 凄かったっスょ、去年の巨人はぁ。 勢いが有ったっスょ。 勢いが。 勢いが違いましたっスネェ。 残念ながら日本シリーズは逃しちゃったっスヶど」


「フッ」


再び不良が笑った。

そして言った。


「オィ、亀谷」


「ハィ?」


「それだょ」


「ヘッ!?


「勢いだ。 この作戦に絶対に必要なのはその勢いだ。 フィアンセを拉致された破瑠魔は全力でお前達を追う。 追って追って追いまくった挙句、娘の身の危険を察知する。 その時、それまでの勢いで間違いなくヤツは、全力でこの俺に向け念力波を放つ。 そのヤツの全力の念力波のみがこの作戦を成功に導く。 そぅいう事だ」


「ハァ〜? アッ!? で、でも、その念力波は? その直撃を受けたら如何(いか)に先生といえどもタダでは・・・。 どぅすんっスかぁ?」


「タダで済むように受ければいい」


「・・・?」


「一瞬、この世界からオサラバする。 そして再び戻ってくれば、それで終わりだ」


「ハ、ハァ〜?」


「まぁ、いい。 お前達にはいくら説明しても分からん。 お前達は言われた事をキチンと実行すればそれでいい。 最後に一つ念を押して置く。 娘を俺の手元に連れて来るのは俺の死亡予定時刻5分前だ。 ヤツから逃げながらこの時間調整はシッカリやるように。 いいな。 その後直ぐにお前達はヘリで逃げろ。 そして頃合を見計らって戻って来い。 その時全ては終了している。 以上だ」


ここで再び、亀谷が突込みを入れた。


「アッ!? ひ、一ついいっスかぁ?」


「何だ?」


「その破瑠魔さんはどぅやって、自分等(じぶんら)を追って来るんスか? 空でも飛んで来るんスかぁ?」


「あぁ、その通りだ」


「ヘッ!?


「ヤツならその位の事はやりかねん、五体満足ならな。 だが、ヤツは痺れ薬を効かされている」


ここで不良は大河内を指差した。


「だからヤツはその執事の車で追う事になる。 他に手段がないからだ。 しかしそれは途中までだ。 さっきも言ったな薬は2時間しか持たないと。 薬が切れ次第ヤツは空間を切り裂いて飛んで来る。 場合によってはヘリを・・・お前達の乗っているヘリを打ち落としに掛かるかも知れん。 だから車には盗聴器を仕掛けておけ。 そしてヤツが車から飛び出したら、狙いを定めさせないためヘリを蛇行させて飛べ。 後はもぅ、余計な事は一切考えずヘリを蛇行させながら全速力で約束の時間までヤツから逃げ回れ。 そして5分前に俺の所に来い」


「ヘッ!? で、でも。 全速力で飛んだらその破瑠魔さんっていう化け物 じゃなくって 人、自分等の事見失っちゃうんじゃ?」


これを聞き不良は笑った。


「フッ」


って。

それから亀谷の目を徐(おもむろ)にジッと見つめた。

そして言った。


「見失わないから化け物なんだ」


「アッ!? な、な〜る(成る程)」


訳も分からず、だが、何となくそれこそ勢いで亀谷は納得した。


「くどいようだが薬は長くは持たん。 時間の配分だけは間違えるな。 だから、当日の事はその執事と良〜く打ち合わせておけ。 ヘリの手配もチャ〜ンとな。 間違えるなょ、5分前だ。 いいな、5分前だ」


そう言って不良は立ち上がると振り向きもせずその部屋を出て行った。


如何(どう)リアクションしていいか分からないという表情をして戸惑っている4人を・・・











後に残して。







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #142



「以上です。 以上が不良さんのお立てになった作戦です」


と、上崎が言った。


上崎が不良を 「不良先生」 とではなく、 「不良さん」 と、 「さん」 付けで呼んだのは、外道を呼ぶのに 「破瑠魔さん」 と言


っているからだった。

あえて二人の敬称を揃えたのである。

そのため上崎は不良をさん付けで呼んだのだった。


「以上です。 以上が不良さんのお立てになった作戦です」


と。


空かさず外道が聞いた。


「そして、先程それが実行されたという訳か?」


「その通りです」


それを聞き、


「ウ〜ム」


外道が考え込んだ。

外道は思い出していたのだ、ほんの数分前の出来事を。



それはこうだった。


 ・・・


外道が雪の手を強引に引っ張りながら逃げて行く長身長髪の男に迫っていた。

外道にはその男が誰だか分からなかった。

否、それどころかそれが人間なのか妖怪なのかそれすらハッキリしてはいなかった。

だが、その男は誰あろう、あの千年蝦蟇法師との戦いで傷付いた自分の命を救ってくれた不良孔雀、その人だったのだ。

それが分からぬまま、外道は雪を引きずるようにして逃げる不良孔雀を追った。

しかし不良に近付きすぎるのは危険だった。

不良が右手にピストルを持っていたからだ。

迂闊(うかつ)に近付くと雪の命が危ない。

外道は適当な距離を保って二人の後を追った。

もう彼此(かれこれ)5分近く二人の後を追っていた。

不良は右手にピストルを持ち、左手で雪の右手を掴み、その体を引きずるようにして逃げていた。


『追い詰めたのはいいが雪が邪魔で手が出せん。 しかし何だアレは? 人間なのか妖怪なのか? ヤツの発するこの凄まじい気は一体? 


クッ!? どぅする?』


成す術なく外道は焦っていた。


その時、



(ピタッ!!



不意に不良が立ち止まった。

そして、



(クルッ!!



振り返った。

その動きは、外道と自分の位置関係を見定めているかのように見えた。

反射的に外道も立ち止まった。

そして思った。


『クッ!? このままでは拉致が 否 埒が明かん。 良し!! こぅなったら一か八か・・・』


終に外道が覚悟を決めた。


「スゥ〜〜〜 フゥーーー」


百歩雀拳の呼吸法に入った。

外道は不良を百歩雀拳で仕留める気だ。

しかし不良の直ぐ横には雪がいる。

それでも外道は百歩雀拳で勝負に出る腹だった。

外道は信じていた、雪の底知れぬ潜在能力を。

百歩雀拳の呼吸法に感応し、雪は必ず何かをする。

そしてその長身の男、即ち不良孔雀から間違いなく離れる。

外道が安心して百歩雀拳を放てる距離まで。


そぅだ!!


外道は間違いなく雪が何かをするのを確信していたのだ。


だから、


「スゥ〜〜〜 フゥーーー」


「スゥ〜〜〜 フゥーーー」


「スゥ〜〜〜 フゥーーー」


 ・・・


百歩雀拳の呼吸法に入る事が出来たのだ。



(ビリビリビリビリビリ・・・)



見る見る外道の全身に気が充満し始めた。



(ゾヮゾヮゾヮゾヮゾヮ・・・)



やがて体の隅々、髪の毛の1本1本にまでそれは行き渡った。



(メラメラメラメラメラ・・・)



外道の体が燃えている。

全身に気が満ち溢れて燃えている。

否、

外道のエネルギーのバリヤーがそう見せているのだ。

体勢は整った。

百歩雀拳発射準備完了!!

後は雪が不良から離れるのを待つのみ。


その時、


不良が何かを感じたか?


突然、雪を突き飛ばした。

否、

突き飛ばしたように見えた。

そして雪が地面に転がった。


『良し!! 離れた!! だが、まだ近すぎる。 これでは雪を巻き込んでしまう』


そぅ。


まだ、雪と不良の距離は近過ぎた。

雪を巻き込まず安全に百歩雀拳を放つために必要な距離ではなかったのだ。

一瞬、外道は躊躇(ためら)った。


だが、


次の瞬間、反射的に外道が百歩雀拳発射体勢に入ってしまった。

不良が雪に銃口を向けたからだ。



(ブォオォオォオォオォオォオォオォオォ・・・!!



流石は心霊ドクター不良孔雀。

発する殺気は半端じゃない。

凄まじい殺気だ。

それは、ひとり雪のみならず外道にまで襲い掛かった。


『ゆ、雪を殺す気だ!?


外道は直感した。


思わず、


「伏せろー!! 雪ー!! 伏せるんだー!!


叫んでいた。


瞬間、雪の体が勝手に動いた。

地面に這(は)い蹲(つくば)った。


だが、


それより一瞬早く、



(ピクッ!!



引き金に掛かっていた不良の右手人差し指が動いた。

終に不良が引き金を引こうとしたのだ。











こう叫んで・・・







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #143



「こ、このアマー!!


帽子を被り、サングラスを掛け、マスクをした不良孔雀がたった今自分の手首を出血するほど力一杯噛んで逃げようとした雪を地面に突き飛ばし、手にしていたピストルの銃口を雪に向け、



(ブォオォオォオォオォオォオォオォオォ・・・!!




凄まじい殺気を放ち、引き金に掛けた指に力を込めた。


その時、


「伏せろー!! 雪ー!! 伏せるんだー!!


二人の後を追いかけて来た外道の叫び声が聞こえた。

その声に反応し、咄嗟(とっさ)に雪は大地に身を伏せた 否 大地にへばり付いた。


しかし、


雪に向けられた銃口は間違いなく雪の頭を捕らえている。



(ピクッ!!



不良の右手人差し指は既に動き始めていた。


だが、


不良が引き金を引き切る正にその瞬間、、



(ビキビキビキビキビキ・・・)



それをまともに見たら恐らく目が潰れるであろうと思われるほどの閃光が、まるで地を這う雷(いかずち)の光が、凄まじい轟音を上げ何処(どこ)からともなく飛んで来て不良を側面から襲った。


「クッ!?


不良が閃光の迫ってくる方向に顔を向けた。


そしてピストルを放り投げ、



(サッ!!



素早くその閃光から顔をガードするように両腕を上げた。


そこへ、



(ゴゴゴゴゴーーー!!



迫り来た閃光がまるで獲物に飛び掛るライオンのように不良に襲いかかった。


「ウッ、ウァアァアァアァアァアァアァアァアーーー!!


一声、叫び声を上げ、不良がその閃光に飲み込まれた。


そして、



(ゴーーー!! ゴーーー!! ゴーーー!! ・・・)



その閃光はその不良を飲み込んだまま耳をつんざくような轟音を上げながら大地の彼方へと消え去って行った。



(シューシューシュー、シューシュー、シュー、シュ、シ・・・)



それが通り過ぎた後には何も残ってはいなかった。

そこに不良の姿はなかった。

最早、不良の姿は影も形も全くなくなっていたのだ。

この世界から完全に消え去ってしまったかのように。

否、

そうとしか思えなかった。

激しい閃光に飲み込まれ、轟音と共に消え去ったのだから。



(タタタタタ・・・)



外道が地面に倒れこんだまま動こうとしない雪に駆け寄り、抱き起こした。

そして声を掛けた。


「雪!? 大丈夫か、雪? シッカリしろ」


雪はしばし呆然としていた。

だが直ぐに気を取り直し、


「せ、先生ー!!


一言叫んで外道にしがみ付いた。


「シッカリしろ雪。 もぅ大丈夫だ!!


そこへ、二人の男達が駆け寄って来た。

外道と雪から3メートル程の距離まで近付いて立ち止まった。

一人はブランド物と思われる高価そうなスーツを見事に着こなしている上崎左京。

もう一人はジーンズに革ジャンといったラフな格好の亀谷 魔薫だった。


 ・・・


そぅ、


これが、その時外道が思い出していた数分前の出来事である。











そして・・・







つづく





死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #144



「ところで、上崎」


外道が聞いた。


「ハィ?」


「不良は確かにここを重磐外裏(えばんげり)と言ったんだな」


「はい。 確かに」


亀谷が横槍を入れた。


「自分も聞いたっス、確かに」


外道はそのまましばらくジッと押し黙ってその辺りに目をやっていた。

深く感じ入った様子でこう言いながら。


「そぅかぁ。 ・・・。 ここが重磐外裏かぁ・・・。 こんな近くに・・・。 因縁という物は恐ろしい。 そぅかぁ。 ここがあの重盤外裏かぁ・・・」


何か非常に考え深げだ。

一通りその辺りを見回してから外道が上崎に聞いた。


「だがナゼ。 不良はここを知っていたんだ。 その事で何か聞いたか?」


「いいぇ、何も」


「そぅか。 直接本人に聞く以外になさそぅだな」


そう言ってもう一度外道は、その辺りに目をやった。

それから再び上崎を見た。


「で!? その R とかいうヤツはどぅなった?」


その答えを上崎が亀谷に振った。


「亀谷君」


「はい。 一応、無事らしいっス」


「ン!? 一応とは?」


外道が聞き返した。


「はい。 さっきの・・・あの、さっき自分、電話しましたっスょネ」


「あぁ」


「あの電話、あれ。 佐長官にだったんっスヶど。 な〜んかチョッとヘンだったんっスょネ、長官」


「・・・」


外道は黙っていた。

亀谷が外道と上崎に交互に視線を移しながら続けた。


「それがネ。 R がどぅなってっか直ぐには言ってくれず、逆に左京さ・・・じゃなくって、上崎の様子を聞き返されたんっスょ。 『上崎はどぅしてるか?』 って。 たぶん、 R の事は自分にではなく直接上崎に言いたかったからじゃないかとは思うんすヶどネ。 でもまぁ、結局、あの時のこちらの状況をなんとなく感じ取ってくれたんスかネ、渋々つー感じで R は無事だって教えてくれたんスょ」


これを聞き、何かを感じたのだろう。



(チラッ!!



一瞬、外道が上崎を見た。


それから再び外道が亀谷に聞いた。


「で!? 死神・苦竜とか言ったな。 それと例の死人帖とやらはどぅなった?」


「アッ!? いっけネ!? さっき、そっち聞くはずだったんだ!!


亀谷が仕舞ったと言う表情で独り言を言った。

そして改めて外道に言った。


「す、すんません。 そ、それ聞き忘れちゃったっス。 R の事で頭が一杯だったモンっスから。 今、チョ、チョッと聞いて見まっスネ」


そう言って亀谷がズボンの後ろポケットから携帯を取り出そうとした。


その時、



(トゥルルルー、トゥルルルー、トゥルルルー、・・・)



上崎の携帯が鳴った。


「チョッと失礼」


上崎が携帯を取り出し、発信元を確認した。


「佐長官からです」


そう外道に告げた。

その言葉を聞き亀谷が取り出し掛けていた携帯を収めた。

上崎はその場から3歩離れて電話に出た。


以下がそのやり取りである。


「上崎です」


「あぁ、上崎か。 私だ」


「はい」


「無事だったか。 おめでとう。 作戦は成功したようだな。 良かった良かった。 ホントに良かった」


「はい。 有難うございます。 長官にもご協力頂き、感謝致しております。 後は不良先生が戻って来られれば全て完了です」


「所がだな、上崎。 少々妙なんだ」


「と、申されますと?」


「あぁ。 たった今、日神が報告して来たんだがな。 松山から連絡が入ったそうだ。 しかし松山のヤツ相当興奮していて何を言ってるのか良くは分からなかったようなんだが、どうやら死神・苦竜の事らしい」


「苦竜がどぅしたと?」


「それなんだがな。 突然、苦竜が動きを停止して、そのまま全く動かなくなったらしいんだ」


「エッ!? 苦竜が動きを停止?」


「あぁ」


「砂と化して消えるはずじゃ・・・」


「いいゃ、そぅはなってはいないらしい。 松山のヤツが興奮して早口でまくし立てるもんだから、ハッキリと状況が掴めなかったそうだ」


「そぅですかぁ。 それは妙ですネ」


「それともぅ一つある」


「ハィ!?


「死人帖だ」


「死人帖・・・?」


「そぅだ。 R が生きている以上、あの死人帖はキャンセルされたはずだ」


「そのはずですネ」


「とすれば消滅する。 それがルールだったな」


「はい」


「しかし未だに消滅せず、まだ日神の手の中にあるそうだ」


「局長の手の中に・・・? それも又、妙ですネ」


「だろ。 だから君の意見を聞きたい。 そぅ思って電話したんだ」


「ではですネ、長官。 それはわたくしにも分かりかねますので、不良先生が戻られましたら相談してみます。 その上でご報告というのでは如何(いかが)でしょうか?」


「あぁ、そぅしてくれ」


「承知致しました」


「ウム」


「では、これで。 失礼致します」



(カチャ!!



上崎が携帯を切った。

そして外道に近寄った。


「破瑠魔さん」


「ン?」


「今、連絡が入りました。 それによると、本来 R が無事だった以上、即座に消滅するはずの死人帖が未だに消滅しておりません。 そればかりか、同時に全身砂と化して死ぬはずの死神・苦竜が未だ健在です。 ただし、その場に停止したまま全く動かなくなったそぅです」


「死人帖のルールとやらによれば、結果はどぅなるはずだったんだ?」


「はい。 今、申し上げました通り、死神は死に、その体(からだ)は砂と化す。 又、死人帖はどのようにかは存じませんが消滅しノートの体(てい)を失うはずでした」


外道は雪を抱いたまま、不良が消え去った場所に目をやった。

しばらくジッとそこを見ていた。

そして立ったまま目を瞑った。


たったこれだけの事だったが、



(ピーーーン!!



その場に何とも言えない緊張感が走った。

不思議そうな表情で雪が外道を見ている。

上崎と亀谷も又外道を見てはいたが、こちらは緊張のあまり息を飲んで見守っていると言った方が正しかった。


突然、



(クヮッ!!



外道が目を見開いた。

そしてこう言った。











「詰めが甘かったな、不良孔雀」







つづく





死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #145



「詰めが甘かった? 詰めが甘かったとはどぅいう事でしょう?」


上崎が外道に聞いた。


外道が不良の消えた辺りを指差して答えた。


「不良が消えたあそこの空間は歪んでいる」


「エッ!?


意味が分からず上崎が声を上げた。

亀谷もだった。

そして、


「歪んでる!? 歪んでまっスかね、空間?」


と、亀谷が宇崎に振った。

それを無視して外道が続けた。


「あぁ、歪んでいる。 お前達には見えないだろうがな。 あの辺りの空間は確かに歪んでいる」


突然、外道に肩を抱かれている雪が顔を上げ、外道の目を見つめて言った。


「雪、見えるょ」


外道は驚いた。


「エッ!? ホントか、雪?」


「ウン」


一言頷き、外道の言った辺りの空間を指差して雪が続けた。


「見えるょ。 あの辺、変な形に歪んでるょ。 真ん中に亀裂入ってて。 見てると目回りそうで、雪、吐き気して来る」


「亀裂も見えるのか?」


「ウン」 


亀谷が上崎に小声で囁(ささや)いた。


「そ、そぅなんっスか? 見えます?」


上崎が答えた。


「見えません。 残念ながら、わたしには」


「そ、そぅっスょネ。 俺っちにも・・・」


亀谷は自らを目上の者に対しては 『自分』、それ以外の者には 『俺っち』 と言っている。

外道が言った。


「お前たちには無理だ。 普通の人間には見えん」


そして外道が雪を顎で指し示し、上崎と亀谷に言った。


「それにここは、俺とこいつにとって因縁の場所だからでもある」


それを聞き、雪がチョッと驚いた。


「エッ!? 雪にも?」


「あぁ、そぅだ」


「でも初めてだょ。 雪、ココ来たの」


「俺もだ。 だが、ここは俺達二人にとって、とっても因縁深い場所なのさ。 いずれハッキリする。 雪には何もかも話さなければならない時が来るからな、いつか必ず。 ま、今はその話はよそう。 まだその時じゃない」


「フ〜ン」


ここで上崎が外道に聞いた。


「ところで破瑠魔さん。 先程の件ですが、詰めが甘いと申されますと?」


「あぁ。 説明してやろう。 だが、これはあくまでも俺の推測だと言う事を忘れるな」


「はい」


外道は上崎と亀谷に、今、自分が感じた不良の作戦を説明し始めた。

この言葉から始めて・・・











「思うに・・・」







つづく