死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #151



「ゥオォオォオォオォオォオォオーーー!!


身の丈2メートル50は有ろうかという大男が胸を刺し貫かれて吠えた。

その大男は昆虫を思わせる顔、河童に似た体をしていた。

その大男の胸を刺し貫いた物は、尻尾だった。

その尻尾の本体はまるでトカゲのようだった。

しかもその大きさが半端じゃない。

恐らく30メートル位の立端(たっぱ)が有る。

その大トカゲが尻尾を巻いて、今し方それで胸を刺し貫いた昆虫を思わせる顔をした河童に似た体の大男を自らの顔の側に近付けた。

大トカゲは大男を食うつもりなのだろうか?


「ゥオォオォオォオォオォオォオーーー!!


再び大男が吠えた。

断末魔の叫びのようだった。


それを見て、


『な、何だ、これは?』


たった今、重磐外裏の空間の亀裂を通り抜けてやって来た外道が思った。

外道の周りには氷河が見られた。

南極に似ている。

とすればここは地球なのだろうか?

しかし、大トカゲの方は古代に生息していたとされる恐竜に似てなくもなかったが、大男の方は地球には存在しない生命体だった。

もっとも、河童のようでは有ったが二足歩行で手足の指の数も夫々(それぞれ)5本、頭も一つ。

その中に、二つの目、一つの鼻らしきもの、奇妙な口が一つ。

耳は有ったとしても髪の毛らしいものに覆われていて見えない。

よって人間に似てなくもなかったのだが、やはり顔は昆虫を思わせた。

これでは、やはり人間というには少しばかり無理がある。


今、そこでこの二匹の怪物が戦っているのだ。

外道との距離大凡(おおよそ)100メートルで。


そして外道がそこに入って来た時、勝負が付いた。

大トカゲの勝ちだ。

まだ死んではいないが、その隆々たる筋肉の分厚い胸板を先が槍のように鋭い尻尾で突き破られた大男が、大トカゲの顔の真ん前に引き上げられた。

大トカゲが、ダラダラ涎(よだれ)を垂らしながらヒクヒク動いている口を大きく開いた。


突然、


その口の中からもう一つ、一回り小さい口が飛び出して来た。

そしてその飛び出して来た小さい口が、



(バシュ!!



大男の顔面を打ち抜いた。

その瞬間、

大男の顔面が砕け散った、明るい草色の血液と共に。

その大男の血液は赤ではなく明るい草色をしていたのだ。

やはり人間とは大違いだった。



(シュッ!!



大トカゲが尻尾を振った。

その尻尾に刺さっていた大男を振り落とすためにだ。



(ドカッ!!



頭部が砕け散って、首から下だけの大男の遺体が地面に転がった。


すると、


「ゥオォオォオォオォオォオーーー!!


今度は大トカゲが天を仰いで吠えた。

勝利の雄叫びを上げている風だった。

その大トカゲの姿は、まるで20世紀フォックス配給のアメリカ映画 『エイリアン』 に出て来るマザーエイリアンだ。


一方、敗れた大男はプレディターにそっくりだった。

プレディターのような大男の遺体は外道の直ぐ側に落ちていた。

外道がそれに近付こうと一歩足を踏み出そうとした。

その瞬間、


「クッ!?


外道はその場に釘付けとなり、身動きが取れなかった。

背後から誰かに体を羽交い絞めにされ、口を塞がれたのだ。

反射的に外道は体を振って逃れようとした。











だが、・・・







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #152



「シッ!!


背後から声がした。

外道は動くの止め、顔だけ動かして振り返った。


『ハッ!?


外道は驚いた。

そこに外道が見た物・・・それは・・・


不良孔雀だった。


『ぶ、不良!?


外道が声を上げようとした。

その時、


「シッ!!


再び不良が制止した。

そして小声で言った。


「何も言うな。 静かにしてあの怪物をやり過ごす。 話はそれからだ」


だが、


「ゥッ、ゥ〜ン」


二人の近くから呻き声が上がった。

女の声だった。

外道と不良の前方10メートル程の所に女が倒れていた。

全身傷だらけだ。

出血が酷い。

チョッと見ただけでそうと分かる程だ。

その女はどうやら人間のようだった。

黒人の女だ。

真っ黒ではないが白くもない。

現・アメリカ合衆国大統領バラク・フセイン・オバマ・ジュニアみたいな感じの肌の色だ。

ならばやはりここは地球。

恐らく、南極であろう。


その女が意識を取り戻したのだ。

そして、



(ガサッ!!



動いた。


『ハッ!? マ、マズイ!?


外道、不良、二人同時に感覚的にそう思った。


そしてその通り、女の動きに大トカゲが反応してしまった。



(スゥ〜)



振り返ったのだ大トカゲが。

女の方に。


当然、大トカゲはそこに外道と不良の姿を見る事になる。


「ゥオォオォオォオォオォオーーー!!


大トカゲが吠えた。

外道と不良を見た瞬間、戦闘モードに入った。

同時に外道達に向かって既に走り始めていた。

なんという反応の速さであろうか。

しかもその図体の大きさを考えると走る速さも半端ではなかった。


外道が言った。


「走れ!! 不良!!


外道が走り掛けた。

だが、

背後に不良の気配がない。

外道は立ち止まり、



(クルッ!!



振り向いた。

不良が地面に片膝付いている。


『ヌッ!? や、やはり!?


外道は思った。


そぅ。


やはり不良は傷付いていたのだ。


外道の放った百歩雀拳を・・・











モロに喰らって。。。







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #153



「走れないのか?」


外道が不良に駆け寄って聞いた。


「あぁ、ダメだ」


そうしている間も大トカゲが近付いて来る。



(クルッ!!



外道が辺りを見回した。

すると、それまで全く気付かなかったが大男の死体が他に二体、合計三体転がっていた。

皆、同じ死に方をいている。

頭部が砕け散っていたのだ。

恐らく大トカゲに殺されたに違いない。

どうやらそれは3対1の戦いだったようだ。

だが、

人間の黒人女は一体ナゼここに・・・?


しかし、今の外道にそんな事を考えている暇はなかった。


『クッ!? 何とかせねば!!


考えたのではなく、感覚でそう思いながら外道は辺りを見回していた。

すると、遥か彼方に小さくではあったが何か建物が有るのが目に入った。

瞬間的に外道は不良を抱え上げ、その建物を目指した。

手負いの不良を抱き抱え、必死に逃げる外道。

その外道に支えられ、力の限り走る不良。

背後に大トカゲが迫る。

それを背中に感じながら一目散に走る破瑠魔外道に不良孔雀。

振り返る暇と余裕は全くない。


しかし、



(ガクッ!!



不良がバランスを崩した。

そのままつんのめるようにして、



(バタッ!!



地面に倒れ込んだ。

外道もそれに引っ張られバランスを崩し、地面に右膝を突いた。


その時、



(ブゥーン!!



激しい唸り音を上げ、凄まじい風圧と共に何かかが二人の背後に迫った。

二人が振り返った。

その顔が引き攣った。


そぅ。


目前に大トカゲの尻尾が迫っていたからである。

大トカゲが二人目掛けて尻尾の強打を加えようとしていたのだ。

それが外道達の目前まで迫っていた。


『クッ!? 最早これまで』


不良は観念した。


だが、


次の瞬間・・・


不良は驚いた。

突然、目前の景色が変わったからだ。


それは・・・外道だった。


外道が飛んだのだ。

不良を抱えたまま外道が。

一気に距離を縮めて建物まで。

その建物は貯水タンクだった。

貯水タンクはその直径が10メートル位で、鉄骨で組まれた矢倉(やぐら)の上に乗っていた。

その矢倉の中に、外道は不良を強引に押し込んだ。

そして言った。


「ここにいろ!!


「な、何をする気だ?」


「アレを倒す!!


だが、


その時、


「ゥオォオォオォオォオォオォオーーー!!


外道の直ぐ後ろから恐ろしい唸り声が上がった。

大トカゲが既に外道の背後まで迫って来ていたのだ。

恐るべきスピードだ。



(クルッ!!



外道が反射的に振り返った。


だが、


既に遅かった。



(グヮッ!!



大トカゲが大口を開け、先程のあの大男の頭を吹き飛ばしたように外道の顔目掛けて、もう一つの口を打ち出していたのだ。


あの気持ち悪い涎(よだれ)と共に・・・











外道の頭を吹き飛ばすために。







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #154



(ガチン!!



大トカゲが口から打ち出した小口を噛んだ。

ダラダラと気持ちの悪い涎(よだれ)と共に。

見ているだけで反吐(へど)が出そうに成る程、気持ちの悪い涎と共に。


先程、こうやって大男の頭は粉々に砕かれたのだ。

今また、外道が同じ目に有っている・・・はずだった。


しかし、


それは空振りに終わっていた。

その打ち出した小口の先に外道の顔がなかったのだ。

確かに有ったはずなのに。

知能があるのだろうか?

大トカゲがキョロキョロ辺りを見回している。

大トカゲに表情はない。

しかし、その動きで大トカゲが混乱しているのが良く分かった。

突然、外道の姿が見えなくなったからだ。

確かに目前に有ったはずの外道の姿が。


そぅ。


外道は消えた。


!?


外道は消えた???


も、もしや・・・ 祝痴呆 縮地法?


そぅだ、縮地法だ!!


先程の不良を抱えての大ジャンプ。

それと今。

外道は縮地法を使ったのだ。

しかも、それだけではなかった。


次の瞬間、


大トカゲは信じられない経験をする事になる。


突然、



(バス!!



真上から大トカゲの口に槍のようなものが突き刺さった。

その槍は丁度、スリムな薙刀(なぎなた)のような形だった。

そしてそれは大トカゲの上顎のみならず、下顎をも貫通して真下に突き出していた。


だが、一体如何(どう)してそんな物が?


外道だ!!

外道が刺し貫いたのだ!!


しかし、外道は何処からそんな武器を?


それは、大トカゲに頭を打ちぬかれた三体の大男の使っていた武器だった。

先程、外道はそれらの死体を見た時、目敏(めざと)くその槍の存在を把握していた。

そして縮地法で飛び、その槍のような物を掴み、再び縮地法で飛び上がって真上から大トカゲを攻撃したのだった。


口を封じられ、大トカゲが声を上げずに苦しみもがいている。

やはり知能があるのだろう。

槍を引き抜こうとしている。

苦しみもがきながらも、不気味な形のしかしチャンと指が5本ある両手でそれを引き抜こうとしていたのだ。

そして抜いた。

それを投げ捨てた。

怒りに燃えているのが無表情の表情からもハッキリ見て取れた。

大トカゲが怒り狂っている。

そして、



(クルッ!!



外道のいる方に振り向いた。











だが、・・・







つづく





死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #155



「ひゃっぽ!! じゃん!! けん!! 哈(ハ)ーーー!!



(ピカッ!!



瞬間、

外道の指先が光る。



(バチバチバチバチバチーーー!!



それは・・・エネルギーの波へと変わり、外道の指先から放たれる。

まるで稲妻の様に。



(ビキビキビキビキビキーーー!!



それは・・・強大なうねりとなり、行く手を遮る物を飲み込みながら進む。

まるで脈打つ高波の様に。



(バリバリバリバリバリーーー!!



それは・・・凄まじい速さで、そのまま一気に大トカゲを襲う。

まるで獲物に飛び掛るライオンの様に。



(ドッカ〜〜〜ン!!



命中か!?


外道の百歩雀拳が大トカゲに命中か!?



(モクモクモクモクモク・・・・・・)



一面、

炸裂煙が舞い上がる。

エネルギー波の引き起こした炸裂煙が。

外道の百歩雀拳の炸裂煙が。



(シューシューシューシューシュー・・・・・・)



外道の手から。

足から。

全身から。

百歩雀拳を放った余韻が立ち上(のぼ)っている。



(ヒューヒューヒューヒューヒュー・・・・・・)



少しずつ炸裂煙が薄らいで行く。

だが、

まだ、その炸裂煙の中に大トカゲがいるかいないかハッキリしない。



(ヒューヒューヒューヒューヒュー・・・・・・)



炸裂煙が更に薄らいで行く。

前方の景色が薄ボンヤリと見えるまでに。


しかし・・・まだだ。


まだ、大トカゲの存在は確認出来ない。



(ヒューヒューヒュー、・・・、ヒュー、ヒュ、ヒ)



終に炸裂煙が消えた。


そして・・・そこに・・・大トカゲの姿はない!!


全くない!!


「良し!!


顔に安堵(あんど)の表情を浮かべ、外道が言った。


静かに、

そして、

満足そうに。


だが、



(ガクッ!!



外道が地面に片膝付いた、右膝だ。

先程の不良と同じように。


そぅ。


外道はエネルギーを使い果たしていたのだ。

短時間の間に使った二度の百歩雀拳で。

しかも、二度目は本来自分がいるはずのない空間で使っていた。

自分の所属する空間でもこのような強力な念力技を使えば、当然その疲労感たるや計り知れない物がある。

それも短時間の内に2回ともなれば。

まして時間の概念が同一ではない異空間で使うとなれば、その受けるダメージたるや想像を絶するのだ。

流石の外道もこのダメージには耐え切れなかった。


そこへ不良が矢倉の下から這い出して来た。

右脇腹を左手で押さえ、ヨロヨロしながら外道に近付いた。

不良の右脇腹は外道の百歩雀拳の直撃を喰らいダメージを受けている。

上から外道を見下ろし、不良が聞いた。


「オィ!! 大丈夫か?」


「あぁ、なんとかな。 だが、なんなんだコイツ等は、一体?」


「さぁな、俺にも良くは分からん。 お前のあの強大なエネルギー波を受けた瞬間、俺はあの不思議な空間の亀裂の中に飛び込んだ。 そしてナゼかは分からんが気が付くとこの世界に来ていた。 数多く存在するで有ろう未知の空間の中で、理由は分からんが俺の潜在意識はここに来る事を選んだようだ。 すると目の前でいきなりあの黒人女が大トカゲの尻尾の直撃を受け、ふっ飛んだ。 そこへあの奇妙な姿の3匹の大男達が不意に現れたかと思うと、さっきお前が使ったあの槍のような武器やブーメランの動きをする手裏剣のような物を使って大トカゲと戦い始め、2匹が倒された。 そしてその最後の1匹が敗れた丁度その時、今度はお前が現れたという訳だ」


「ン!? そぅだ、あの女・・・」


不良の話を聞き、外道は先程呻き声を上げた黒人女を思い出した。

そしてユックリと立ち上がった。

エネルギーを消耗しているとはいえ、歩く位の事は出来た。

不良に肩を貸し、女が倒れている所までやって来た。

不良が地面に片膝付けて、女を抱き起こした。

女にはまだ僅(わず)かに意識があった。

そして不良の耳元で、何かを囁(ささや)いた。

黙って不良はそれを聞いた。

そして全てを語り終えた時、



(ガクッ!!



女の全身から力が抜けた。

呼吸を停止した。

急いで不良は脈を見た。

脈もなかった。

女は死んでいた。

不良が顔を上げ、首を横に振った。

その女の死を外道に告げたのだ。

次に不良はその女の左腕の袖をめくり、はめている腕時計を見た。

今が何時(いつ)なのかをチェックするためだ。

幸運な事に女のはめていた腕時計は、時間、分、秒の他に西暦の年号がデジタル表示される機種だった。


そしてその腕時計は今現在が何時(いつ)かをこう告げていた。


20022220202秒”


と。


そぅ。


その時、外道と不良は時空を越え、過去の地球に来ていたのだった。


そして死ぬ間際、女は不良にこう語っていた。


We were ・・・」


から始めて全てを。 


ただし・・・











全部英語で。。。







つづく