死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #161



それは白かった。(と、言ってもパンツの色ではありませヌ : 作者)



(チラチラチラチラチラ・・・)



空から何か降って来た。

白くて冷たい何かが。

無数に。

そしてユックリと。


『ン!? 雪か?』


外道は思った。

更に、


『おかしい。 如何(いか)に南極とはいえ今は夏。 しかもこの暖かさ。 降るのか、雪が?』


チラチラ雪が降り始めたのだ。

確かにそこは南極だった。


だが、


時は2月。

それは南極の夏。

そして外道の体感温度ではその日の気温は零度を遥かに超えていた。

確かに南極は一年中雪が降る・・・らしい。

だが、この気温で雪はない。

しかも、



(ピュー、ピュー、ピュー、ピュー、ピュー、・・・)



いきなり吹雪に変わった。

しかも次の瞬間、



(ビヒューーー、ビヒューーー、ビヒューーー、ビヒューーー、ビヒューーー、・・・)



一気に猛吹雪となった。


その凄まじい猛吹雪を物ともせず、終に先頭のトカゲが貯水タンクを上り詰めた。

そして、



(ドカッ!!



タンクに飛び乗った。

こっちを見た。


「クッ!? 来たか」


そう言って外道が立ち上がり、不良を抱え起こした。

そのまま後退(あとずさ)りした。


トカゲが若干身を屈めた。

ジャンプの体勢に入った。


「シャー!!


一声吠えた。

そして外道達に向かって跳びかかろうとした。











その時・・・







つづく





死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #162



(ドス、ドス、ドス、ドス、ドス)



突然、トカゲの頭を真上から何かが襲った・・・何かが?


「キィィィィィィーーー!!


凄まじい悲鳴を上げ、トカゲが後ろに吹っ飛んだ。

タンクから転げ落ちた。

下から続いて上って来ていた仲間を何匹か巻き込んで、そのトカゲが地上に落下した。

仰向けになったまま動かない。

既に死んでいる。

そのトカゲの頭は5本の氷柱(つらら)に打ち抜かれていた。


!? 5本の氷柱?


この状況で?


も、もしや・・・そ、それは・・・五指樹氷!?


あの外道に倒された雪女が使った。


バ、バカな!? 雪女は死んだはずじゃ・・・


だが、それは間違いなく五指樹氷だった。

かつて雪女が使った物と全く同じ五指樹氷だったのだ。

外道の父・破瑠魔内道、母・死頭火と戦い、その命を奪った妖の女・雪の使った。


そぅ。


あの雪女の使った五指樹氷と全く同じだったのだ。


だが、


ナゼ今、雪女の五指樹氷が・・・?


すると、


「アハハハハハ、アハハハハハ、アハハハハハ、・・・」


何処(どこ)からともなく笑い声が聞こえて来た・・・微(かす)かに。

それも女の・・・甲高い。


「アハハハハハ、アハハハハハ、アハハハハハ、・・・」


笑い声が近付いて来る。

外道達に向かって。



(ビヒューーー、ビヒューーー、ビヒューーー、ビヒューーー、ビヒューーー、・・・)



猛吹雪の中、その笑い声は間違いなく近付いて来る。

外道達、目掛けて。


「アハハハハハ、アハハハハハ、アハハハハハ、・・・」


終にその声はハッキリ聞き取れるほどになった。

それは頭上遥か高くから聞こえて来ていた。

外道と不良が宙を見上げた。


すると、そこに微かだが姿が見えた。

女のようだった。

全身純白の着物姿だ。

艶々として艶(あで)やか、且、黒々とした長髪以外は真っ白だ。

その女が更に近付いて来る。

終にその顔が分かるまでになった。

黒々とした艶やかな長髪。

抜けるような真っ白い肌。

男なら誰しもが 否 女でさえも、


『ハッ!?


っと息を飲む程、美しい顔。

その中に黒曜石を思わせる、だが、底知れぬ深さと恐ろしさを秘めた大きく丸い瞳。

肉厚、それでいて輪郭の奇麗な真っ赤な唇。

見事に揃った真っ白な歯並び。

長身で八頭身。

豊かなハミチチ。

純白の着物に映(は)えるクッキリ乳首。


女の動きが止まった。

宙に浮いている。

そのまま女が外道を見下ろした。

外道と目が合った。


その瞬間、この言葉が外道の口を突いて出た。


「ゆ、雪!?


それを聞き不良が溜め息をついた。


「ヌッ!? 雪? そうかぁ・・・これがあの娘(むすめ)・・・。 あの娘の正体かぁ!?


外道が言った。


「雪。 お前、その姿・・・。 終に来てしまったか・・・この時が・・・」


そぅ。


終に、雪・・・覚醒・・・











か?








つづく





死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #163



「もしやと思ぅて来て見たが・・・やはり。 何をしておるのじゃ、外道」


「ぃ、いゃ、雪。 こ、これには・・・」


その時、



(ガタン!!



トカゲが1匹タンクに飛び乗った。

外道達の背後だ。


「ヌッ!?


気配に気付き外道が振り返ってそれを見た。

そして不良を突き放し、槍を構えた。

トカゲがそのまま一気に外道に飛び掛って来た。



(グィッ!?



外道が槍を持つ手に力を込めた。



(ズブッ!!



トカゲを下から槍で突き刺した。



(ドサッ!!



トカゲがタンクから下に倒れ落ちた。

だが、槍が刺さったままだった。

それを握っていた外道も引っ張られるように転げ落ち掛けた。

外道は槍を離した。

だが、ついた弾みでタンクから体が飛び出した。

両手でタンクの縁を掴み何とか落下せずに堪えた。


だが、



(ズルッ!!



手が滑った。


「クッ!?


外道が指先に力を込めた。

しかし右手が縁から離れた。

左手一本で落下を支えた。

だがそれもガッチリ掴んでいる訳ではなかった。

指先がチョッと引っ掛かっているだけだった。

しかも振り子のように勢いが付いている。


そのまま落下か?


落ちればそこには・・・


外道危うし!!


その時、



(ニュー!!



手が伸びて来た。

その手が外道の上着の背中を掴んだ。


不良だった。

不良が外道を掴んだのだ。

だが、今の不良にはそれがやっとだった。

何とか外道を地上に落とさないというのが。

もし落ちればトカゲの餌食になってしまうのは火を見るよりも明らか。


しかし、



(ガタン!!



今度は反対側からもう1匹トカゲがタンクに飛び乗った。

そのまま一気に不良の背後から跳びかかろうとした。


外道、不良、最早これまでか?


その瞬間、



(ドス、ドス、ドス、ドス、ドス)



そのトカゲの頭に氷柱(つらら)が5本、先程同様突き刺さった。

五指樹氷だ。

雪の投げた五指樹氷だ。


「キィィィィィーーー!!


断末魔の悲鳴を上げ、雪の五指樹氷を頭に受けたトカゲがタンクから転げ落ちた。

そのまま数匹の仲間と共に地上に落下した。

それを横目で見ながら、不良の力を借り外道が何とかタンクに這い上がった。


だがそれもつかの間、



(ガタン!! ガタン!! ガタン!! ・・・)



トカゲ達が1匹2匹3匹と順次タンクに飛び乗って来始めた。

そして一気に飛び掛ろうとした。

最早、外道達に逃げ道なし。



(スゥ〜)



トカゲがジャンプの体勢に入った。

後ろ足を踏ん張った。


『来る!?


外道は思った。


だが、


次の瞬間、信じられない事が起こった。



(ピキピキピキピキピキ・・・)



今にも跳びかかろうとしていたトカゲ達がその場で一瞬にして凍り付いたのだ。

外道と不良は驚いた。

一瞬にしてトカゲ達が氷に変わったからだ。


『ハッ!?


っとして外道が上空を見上げた。


雪だ!!


そぅ。


雪がトカゲ達を氷に変えたのだ。

破瑠魔大道のあの大炎城結界の中で逆結界を張った時のように、自らの肉体を氷と化したあの力を使って。


その雪が外道に発破(はっぱ)を掛けた。


「何じゃそれは? 何の真似じゃ、見苦しい。 シッカリせぬか、外道。 情けない」


「す、済まん、雪。 だが、この数ではどぅにもならん」


「技を使わぬか」


「ぃ、いゃ、そ、それが・・・。 残念ながらこれを切り抜けるような技はない」


「有るではないか」


「?」


「大炎城結界が有るではないか」


「大炎城結界!?


「そぅじゃ。 あれを今使わずして、何時(いつ)使うのじゃ」


「駄目だ。 あれは、あの技は、我が先祖破瑠魔善道が封印してしまった。 俺はやり方を知らない。 だから使えんのだ」


「ならば使える者を使役(しえき)すれば良いではないか」


「た、大道か?」


「そぅじゃ。 大道様じゃ」


「ム、ムリだ。 大道はあの時、お前と戦ったあの時、成仏してしまった。 既に霊魂はない」


「善道とやらはどぅじゃ? 使えぬのか?」


「そぅか、善道なら。 善道なら使えるはずだ。 だが、・・・」


「『だが、・・・』 なんじゃ?」


「善道を呼び出す事は出来ない」


「ナゼじゃ?」


「それをするには人柱(ひとばしら)が必要だ。 だが、ここには人柱になる人間がいない」


「何を申すか? ワラワと戦(たたこ)ぅた時にはそのような者はおらなんだではないか」


「あ、あれは、あの時は、神剣・軍駆馬(しんけん・いくさかりば)の力が可能にしたのだ。 しかしここに軍駆馬はない。 軍駆馬なしでアレをやるには人柱が必要なんだ。 それも半端なヤツでは勤まらん。 善道を降ろすにはそれ相応のパワーのある者でなければならん。 だが、ここにそれに耐えられるヤツはいない」


「おるではないか」


「ン!?


「ソチの直ぐ横じゃ」


「不良か?」


「そぅじゃ」


「ムリだ。 健康体の時なら兎も角、今のコイツに善道のパワーを受け切れる力はない。 殺す事になりかねん。 ムリだ」


「ムリでもせぬか!! それ以外にないならせぬか!! 愚か者め!!


「・・・」


「何を躊躇(ためろ)ぅておるのじゃ、外道!! もぅ、持たぬ!! もぅ、これ以上ワラハは持たぬ!! せぬか、外道!! 早くせぬか!!


『クッ!?


外道は迷った。

“あの技” を使うべきか否(いな)かを。

健康体の不良になら恐らく問題なく使えるであろう。

だが、今の不良は傷付いている。

その不良に・・・もし、受け切れなかったら死を意味する事になるあの大技を・・・


『クッ!? どぅすれば・・・』


外道は迷った。


今の不良に “あの大技” を使うべきか否(いな)か・・・











を。







つづく





死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #164



「オィ、不良!!


「何だ?」


「お前は根性無しか?」


「あぁ、根性無しだ。 だが、それ以外に方法がないのに、命懸けで自分を守ろうとしている女にそれをしろと言われても、臆病風に吹かれて後込(しりご)みしているヤツよりはマシだがな」


「フン。 利いた風な口を・・・」


不良にここまで言って、一旦外道は言葉を切った。

一呼吸、吐(つ)いた。


その時・・・


雪の姿が消え始めた。


「外道ー!! 外道ー!! 外道ー!! 外道ー!! 外道ー!! ・・・」


雪が叫んでいる。


「外道ー!! 外道ー!! 外道ー!! 外道ー!! 外道ー!! ・・・」


外道の名を叫び続けながら、終に雪の姿が消えた。

最後の最後まで外道の身を案じての事だった。

しかし、そこに現れたのは雪の本体ではなくエネルギー体だったのだ。

本体を止められた雪は、無意識にエネルギー体を飛ばしていたのだった。

こんな真似は生半可な事では出来ない。

雪の持つ恐るべきパワーと潜在能力と外道への一途な想い。

それらが可能にしたのだ。

だが、さしものあの無尽蔵のエネルギーを有する雪とはいえ、外道同様、自らの所属しない空間におけるエネルギーの消耗は如何(どう)する事も出来なかった。


加えて、


雪はそれまで全くそういった事の訓練を受けてはいない。

生まれて初めての経験だったのだ、今回が。

そしてエネルギーを使い果たしてしまった。

如何(いか)に雪の天稟(てんぴん)の才(ざえ)が郡を抜いて優れているとはいえ、雪はまだ女子高生。

完全に精神と肉体が出来上がっているとはとても言い難い。

まだまだ不完全だった。


その精神と肉体のバランスの不完全な人間がいきなりこういった事を経験したらどうなるか?


簡単である。


雪は3人がかりで動きを止められていた。

しかし、外道を思う一心で少しでも前に進もうと、上体と両腕を外道の消えた亀裂に向け身を乗り出すように目一杯伸ばしていた。

そしてその状態でエネルギー体を飛ばしたのだ。

だから、本体はそのままの状態で意識を失いその場で固まっていた。



(クヮッ!!



と両目を大きく見開き、外道の消えた空間を見つめ、瞬き一つせず、そこを睨み付けたまま意識がなくなっていたのだ。



(スッ!!



不意に雪の体から力が抜け落ちた。

更に、



(ガクッ!!



上崎達3人にに支えられたまま地面に崩れ落ちた。


「雪さん!!


「雪さん!!


「雪様!!


3人が呼び掛けた。

しかし雪の意識は戻らない。

だが、それだけではなかった。

雪の太ももが真っ赤だ。

雪の太ももが真っ赤に血に染まっている。

それも半端な量ではない。

普通の生理どころではなかった。

血が流れ落ちている。

下血したのだ、雪は。


亀谷が叫んだ。


「た、大変だぁ!!


その亀谷に上崎が命じた。


「取り合えず雪さんを毛布の上に寝かせましょう」


大河内が体が冷えないようにと、用意してあった毛布を地面に広げた。

先程亀谷が大河内の車から持って来ていた物だ。

その上に3人がかりで雪を寝かせ、上崎が脈を見た。

脈は打っていた。

だが、弱々しかった。

上崎が意識のない雪に断わりを入れた。


「失礼!!


そして雪のスカートをめくった。



(パッ!!



と、眩(まぶ)しい純白のパンツが目に飛び込んで・・・来なかった。

真っ赤だ。

雪の純白のパンツが真っ赤に血に染まっている。

そしてその血は、



(ドクドクドクドクドク・・・)



流れ続けている。

止まりそうな気配を見せずに。


「ウヮー!! こ、こりゃひでぇ!! ど、ど、ど、どぅしましょう左京さん?」


亀谷が取り乱している。

上崎が命じた。


「兎に角、病院に運びましょう。 亀谷君、手伝って下さい。 下のヘリまで運ばなくては・・・」


大河内は色を無くして両手で雪の左手を握り締めていた。


「ぉおー!! 雪様、雪様、雪様、雪様、雪様、・・・」


と、ブツブツ言いながら。

その大河内に上崎が言った。


「大河内さん。 我々が雪さんを病院に運びます。 大河内さんには申し訳ないのですが、ここで破瑠魔さん達をお待ち頂けないでしょうか」


「は、はい。 そ、それはお任せ下さい。 い、一刻も早く雪様を病院へ。 お、お願い致します」


大河内は血相変えてうろたえている。

亀谷が急かせた。


「左京さん!! は、早く」


「はい。 それじゃ大河内さん、後は宜しく」


「こ、こちらこそ。 ゆ、雪様をお願い致します」


毛布に包まれた雪を亀谷が負(お)ぶった。

雪が落ちないように背後から上崎が手を回して支えた。

そして坂道を下って行った。

その後ろ姿を大河内が心配しながら見送った。


こう思いながら。


『ゆ、雪様にもしもの事が有ったら・・・。 は、破瑠魔様に何と申し開きすれば良いやら・・・』


と、











酷く取り乱して・・・







つづく





死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #165



雪の姿が消えた。

即座に吹雪が止んだ。

同時に凍り付いていたトカゲ達が息を吹き返し始めた。

恐るべき生命力だ。

再びトカゲ達の体が動き始めた。


外道は不良の目を見つめていた。

そして言った。


「死ぬなょ、不良」


「お前こそしくじるなょ、破瑠魔」


外道は笑った。


「フッ。 相変わらず口の減らないヤツだ」


「フッ。 ソッチこそ」


不良も笑った。

だがその直後、


「ゥ、ゥ、ゥ、ゥ、ゥ、・・・」


不良のその笑い顔が苦痛の表情へと変わった。

苦しそうだ。

タンクの上に転がり七転八倒し始めた。

終に外道が始めたのである。


“あの大技” を。


そぅ、


『金剛秘密主・阿尾捨(あびしゃ)の法』


を。


外道、既に目は半眼。

手に秘密守・根本印。

口に秘密守・根本大咒。


そして、


「ウ〜ム」


念を込めた。


すると、


「グハッ!!


それまで七転八倒していた不良が一声唸った。

だが次の瞬間、

信じられない事が起こった。



(スゥ〜)



不良が立ち上がったのだ。

それまで貯水タンクの上で苦悶の表情で七転八倒していた不良がだ。

それも普通に立ったのではなかった。

全身に全く力を入れず、横たわった状態からスックと立ち上がったのだ。

あたかもそれまで横たわっていたマリオネットが紐に引っ張られ、いきなり立ち上がったかのように。


しかも立ち上がった時にはもう、そこにいたのは不良ではなかった。

善道だ。

不良の姿が善道に変わっていたのだ。

外道直径の先祖で、あの破瑠魔大道の弟・破瑠魔善道に。



そして・・・


外道は思った。


『これが善道か?』 (善道のイメージは適当にご想像下さい。 めんどっちいから書かないょ〜〜〜ん : 作者)


善道が外道の目を見据えた。

そして言った。


「外道、記憶せよ。 大炎城結界は我等が長兄・破瑠魔大道の命(めい)を受け、封印せし秘術。 じゃが、どぅやらその封印を解く時が来たようじゃ。 本来、大炎城結界は五大力火輪の術者のみ使(つこ)う事の出来る秘術。 よってそれ以外の術者には使う事、相適(あいかな)わぬ。 そしてソナタは火輪の術者には有らず。 じゃが、ソナタは他の四大を司る五大力の中尊・空輪、その史上ただ一人の術者。 しかも神剣・軍駆馬の唯一の使い手。 よってソナタはこの術、例へ使う事適(かな)わずと言へども見知って置くべきなり。 故に、我、今、その史上ただ一人の空輪の術者に我等が秘術を示さん。 見よ、外道!! これが女切刀呪禁道五大力火輪(めぎと・じゅごんどう・ごだいりき・かりん)が秘術・大炎城結界じゃ」


そう言い終えた正にその瞬間、


既に善道、無念無想。

半眼に開いた目は一点を見つめ。

揃(そろ)えて上げられた両手は胸の前で手首を返す 『天破の構え』。


その体勢での、


「スゥーーー!! ハァーーー!!


「スゥーーー!! ハァーーー!!


「スゥーーー!! ハァーーー!!


 ・・・


呼吸法。


そして善道、


「キェイ!!


気合一閃、右手剣印を真上に向け、天に向け、突き上げた。

左手智印は左腰に当てている。



(ピカッ!!



瞬間、善道の右手指先が光る。



(モァモァモァモァモァ・・・)



空間が歪(ゆが)む。

真夏の蜃気楼のように。



(ボッ!! ボッ!! ボッ!! ボッ!! ボッ!! ・・・)



突然、火の粉が上がる。

歪んだ空間から。



(ボヮッ!! ボヮッ!! ボヮッ!! ボヮッ!! ボヮッ!! ・・・)



上がった火の粉は炎に変わり、



(ブゥォーーー!!



善道、外道の周りを回り出す。



(ボヮーーー!!



それらは繋(つな)がり火の輪となる。



(ゴーーー!!



火の輪は一転劫火(ごうか)と変わる。



(ビキビキビキビキビキーーー!!



一気に劫火は拡大し、



(メラメラメラメラメラ・・・)



有る物全てを焼き尽くす。



(メリメリメリメリメリ・・・)



最後にそれは周囲を覆い、



(ビシビシビシビシビシーーー!!



大火炎城の形を成す。


秘術・大炎城結界完了!!











だが、・・・







つづく