死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #176



不良はワープした。


不良孔雀、第二の能力である。

不良は時空を渡る事が出来る。

そして外道の念力波が自らの体に触れた瞬間、そのエネルギーの中心核にワープしたのだ。

そうする事によりその直撃から来る衝撃をかわしたのだった。

本来ならこれで死人帖を破る事が出来たはずだ。

死人帖にはこう書くように命じていたのだから。


「・・・。 書かせる俺の死亡時間は R 死亡予定時間の1分前。 死因は、ある恐るべき念力使いによる念力波の直撃を受けてだ。 そして


・・・」


そぅ。


『・・・念力波の直撃を受けて・・・』


と。


しかし死人帖がキャンセル回避のため、その瞬間、不良を心臓麻痺で殺すという手を打って来ないとも限らない。

そこで不良は自らの身の安全並びに R の命を担保するため、自らのジャスト死亡予定時刻に異次元空間に退避する、即ち亀裂の中に飛び込む


という手立てを講じたのだった。


案の定、外道の念力波の中心核に身を置いただけでは死人帖のキャンセルはならなかった。

それは死人帖並びに死神・苦竜が消滅せず、活動を停止した事で分かる。

不良の計算は正しかったのだ。


そして不良は、そのまま外道の念力波と共に亀裂に飛び込んだ。


その時、不良はこうやっていた。


先ず、念力波が自らの体に触れた瞬間、その中心核に身を置く事により念力波の直撃による衝撃を回避。

次に、そのエネルギー波と同スピードで同方向にジャンプ。

そして念力波の先端の一部によって押し広げられた亀裂の中にその念力波と共に飛び込む。

仕上げは、念力波と同じスピードで上下左右の内、状況に応じてベストと思われる方向に放物線を描いて飛び、自らと共に亀裂に入って来て


いた部分の念力波をやり過ごす。


である。


如何(いか)に強大なエネルギー波と言えども、同時に同方向に移動すれば殆(ほと)んどその影響を受ける事はない。

しかもその中心は、丁度台風の目と同様、安全地帯でもある。

そして計算通り外道の念力波は亀裂を、自らが飛び込むのに充分な大きさにまで押し広げた。

後はその亀裂に飛び込むだけで良かったし、それに成功した。

ここまでは全て不良の思惑通りに進行した。


だが、


一つ、


そぅ、


一つ。


一つだけ計算違いがあった。

そしてそれは決定的な一つだった。











それは・・・







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #177



雪だった。


不良の計算違い・・・それは雪だったのだ。


最後の最後で不良はしくじった。

この計画の大詰めに来て噛まれたのだ不良は雪に。

雪、必死の抵抗だった。

その潜在能力は外道をも遥かに凌ぐ雪に本気で噛まれたのだ。

何の影響も受けない訳がない。


一瞬、不良は全身が麻痺した。

ホンの一瞬に過ぎなかったのだが。

それでもその一瞬が、それまでの不良の目論見(もくろみ)全てをダメにしてしまった。

遅れたのだ。

中心核へテレポートするタイミングが。

この一瞬の遅れが不良に外道の念力波の直撃を許してしまった。

幸い外道の念力波に飲み込まれるまでには至らなかった。

そのため不良の受けたダメージは致命傷ではなかったし、目立った外傷もなかった。


だが、


エネルギー体を・・・


そぅ。


エネルギー体を・・・


不良は生きて行くための基本である、否、生命体の基本であるエネルギー体を傷つけられてしまったのだ、その時、百歩雀拳によって・・・外道の・・・放った。


思えばこれは、死人帖最後の抵抗だったのかも知れない。

キャンセル回避のための。


しかし、例えそれがそのホンの一部分だったとはいえ間違いなく外道渾身の念力波を不良は喰らってしまったのだ。

ダメージを受けない訳がない。

如何(いか)に心霊ドクター不良孔雀とはいえ。

そしてその時受けたダメージは自力では元の世界に戻れない程、手酷かった。

同時に、受けたエネルギー波と共に空間奥深くまで飛び込んで来ていため方向を見失い、自分が入り込んで来た空間は何処(どこ)か、即ち、元いた空間が何処にあるのか、それすらも分からなくなってしまっていた。

つまり亀裂の場所を見失い、時空の迷い人になっていたのだった。


そして、気が付くと目前でマザーエイリアン対3匹のプレデターが戦っていた。

その戦いは、プレデターが仕組んだ物だった。

宇宙人プレデターは、宇宙で最も凶暴、且、強力なエイリアンを捕獲し、地球に送り込み、そこで選ばれたプレデターの戦士と戦わせていたのだ。

しかしそのプレデターの仕組んだ戦いは、遊び、あるいはゲームといった物とは異なっていた。

儀式だったのだ、それは。

つまりその3匹は、プレデターの成人式とでも言うべき一種の儀式のためにマザーエイリアンと戦っていたのである。


“首尾良く、且、素早くマザーエイリアンを倒し、それが産み落としていた無数の卵を破壊する”


これがその3匹に与えられたテーマだった。

即ち、

先ず、マザーエイリアンを倒す。

しかし、仮にこれに成功したとしても、時間を掛け過ぎるとその間に卵が孵化し、無数のエイリアンが相手となってしまう。

だからその3匹にとって、如何(いか)に時間を掛けずにマザーエイリアンを倒すかが問題だったのだ。

そして、首尾良くこれに勝利すれば一人前、敗れた時には死。

その儀式のためにそれを仕組んだプレデター達は舞台を地球と定め、場所を南極としたのだった。


だが、


そこには南極観測所があった。

当然、観測隊員がいた。

もっともこの観測隊は表向きで、実は、マフィアのボス 『ズル・クリキントン』 率いるギャングの集団だった。

彼等はその不正蓄財をそれが余りにも桁外(けたはず)れな額であったため他に隠し場所がなく、滅多に人の訪れる事のない南極に隠すのがその目的だったのだ。

そして当初の計画通り、首尾良く隠し終えた。

だが、

その帰路、プレデターによって地球に運び込まれたマザーエイリアンと遭遇し、全員マザーエイリアンの手に掛かって死んだ。

その最後の一人となったズル・クリキントンの妻で黒人女性 『ヒラメー・クリキントン』 がマザーエイリアンの尻尾の強打を受け、吹っ飛ばされた丁度その時、不良がここに外道のエネルギーと共に吹っ飛んで来たのだった。

本来ならば凄まじいエネルギー波と共に吹っ飛んで来る等というド派手な登場をした以上、不良の存在がマザーエイリアンに知られるのは火を見るよりも明らかだった。

だが、幸運にもその直後、不意に何処からともなく出現した3匹のプレデターがマザーエイリアンに襲い掛かった。

そのため不良の存在は気付かれずに済んだ。

そして怪物同士の3対1の凄絶なバトルが開始された。

しかし、マザーエイリアンのその圧倒的強さの前に3匹の内2匹が殺され、最後の1匹がその胸をマザーエイリアンの尻尾によって刺し貫かれた正にその瞬間、今度は不良を追った外道がその場所に姿を現した。

それにより・・・つまり外道の出現により・・・初めて不良は、自分が飛び込んで来た亀裂の大凡(おおよそ)の位置を知る事が出来た。


それから擦った揉んだした挙句(あげく)、漸(ようや)くマザーエイリアンを外道が倒した。

だが、その前にマザーエイリアンは何百個という卵を既に産み落としていた。

それが全て孵っていた。

その孵った卵から生まれたエイリアン達の攻撃を外道と不良は受けたのだった。

襲い掛かって来るその余りの数の多さに外道達はなす術なく追い詰められ、最早これまでという所まで来てしまっていた。

そこへ、今度は外道の窮地を察した雪がその本来の姿を現した。

そして覚醒した雪の能力(ちから)を借り、金剛秘密主・阿尾捨(あびしゃ)の法を用い、何とか外道と不良はエイリアンを全滅する事に成功した。

だがその騒ぎの中、不良も外道も本来自分達が所属している世界への出入り口たる亀裂を見失ってしまったのだった。

その亀裂を見つけ出すために、今度は手負いの不良がその秘めた能力を使わなければならくなった。

そして何とか亀裂を見つけ出す事に成功した。

だが、

その代償は余りにも大きく、不良の生命エネルギーの枯渇という所まで来てしまっていたのだった。



又、


不良が死神・苦竜にその存在を知られたくなかったのはナゼか?


それはもしこの計画に苦竜が気付いたら、苦竜が不良を殺しに掛かる可能性を否定できない、否、必ず殺しに掛かるのは間違いないからだった。



最後に、


不良がこの作戦を R 死亡予定時間の1分前に設定したのはナゼか?


それは作戦遂行に緊張感を持たせるため。

つまり、この作戦を自らと R との死亡予定時間ギリギリで行なうという背水の陣を敷く事により、上崎、亀谷、大河内に緊張感を与え、3人の持つ能力を最大限引き出すためだったのである。



解説・お・す・ま・ひ







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #178



『ハッ!?


外道は驚いた。

思わずこの言葉が口を突いて出た。


「マ、マズイ、亀裂が閉じかかっている!?


そぅ。


不良の指差している方向には例の亀裂があった。

だが、それは閉じかかっていたのだ。


入って来た時には高さが2メートル以上あった亀裂だったが、今は1メートルにも満たない。

外道がそこを通ってまだホンの数時間しか経ってはいない・・・はず。

それでも、いつの間にか亀裂は収縮していた。

だが、それだけではなかった。

幅もかなり狭まっている。

来る時は楽勝で入って来れるだけの幅があった。

しかし今は閉じかけてホンの10数センチしかなかい。

このため・・・外道達がこの世界に来た時のサイズとは余りにも違い過ぎたため・・・外道達は、不良がその秘めた能力を初めて発揮した位置からでは目視で亀裂を見つける事が出来なかったのだ。


そしてそれがその亀裂本来の大きさだった。

先程のは外道の百歩雀拳によって一時的に広がったに過ぎず、それが時間と共に収縮して元のサイズに戻り掛けていたのだ。


否、


事態はもっと深刻だった。


亀裂が閉じ掛けている!!


元々、空間に亀裂が存在する事事態、不自然な事だ。

不自然である以上、自然な形に戻ろうとするのは当然の帰結だ。

つまり何らかの切っ掛けが有りさえすれば、亀裂が消滅する方向に事は動く。

それが百歩雀拳だった。

つまり、

百歩雀拳の与えたショックのため亀裂が完全に塞がろうとしていたのだ。

そしてもし完全に塞がってしまったら、もう如何(どう)する事も出来ない。

如何(いか)に外道、不良と言えども二度と元いた世界に戻る術なし。

脱出するなら今しかない。

だが、既に亀裂を通る事は不可能。

あまりにも狭(せば)まり過ぎている。


『クッ!? ここまで来て!?


外道は焦った。


みるみる亀裂が狭まって行く。

何か方法はないか?

そう思い、不良を見た。

再び不良は気を失っていた。

否、危篤かもしれない。

顔に、姿に、生気が全く見られないのだ。

呼吸をしている事さえ怪しい。


事ここに至ってしまった以上・・・


最早残された手段はただ一つ。


『アレしかない!!


外道は思った。


しかし、今の外道にアレをやるだけのエネルギーは残ってはいなかった。

コレまでの戦いで全て使い果たしていたのだ。

心身共に既にヘトヘト。

フラフラ状態だった。

立っているのさえ辛いという有様だったのだ。

その状態でアレをやるという事は、それこそ命と引き換えに、と言っても過言ではない。

それにアレをやったからと言って、そんな状態で成功するか如何(どう)か?

もう一度亀裂を広げる事が出来るか否か?

それさえ疑問だった。


否、


それどころか更に悪い事に、元いた世界に戻るための道標(みちしるべ)とも言うべき雪の生命反応がない。

それが全く感じられないのだ。

雪の生命反応のリードなくして異次元の空間を超え、果たして正確に元の世界に戻る事が可能か否か?

それも瀕死の不良を伴って。

外道にはその自信も全くなかった。


だが、


最早、そんな事を言っていられる状況ではない。

自信の有無など関係ない。

目に見える速さで亀裂が狭まり始めているのだ。

迷っている時間などない。

亀裂が完全に閉じてからでは遅い。


『良し!!


外道が覚悟を決めた。


不良に一服もられ、その状態で雪を追い、何度か使った縮地法、過度の緊張感の中で一度放った全力の百歩雀拳。

そして時空の超越。

更に異次元での百歩雀拳。

加えて、4回の縮地法と阿尾捨の法。

不良を背負ってヘトヘトになりながらの移動。

外道、使えるエネルギー既になし。

残るは、生命維持のための物のみ。


使うか外道、それを!?


「スゥ〜〜〜、フゥ〜〜〜、・・・」


終に外道が呼吸法を開始した。


そぅだ!!


外道が最後の勝負に出たのだ!!


その全存在を賭けた・・・


命を懸けた・・・


外道、執念の・・・











百歩雀拳である。







つづく





死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #179



(ピカッ!!



突然、目の前の空間が光った。

次の瞬間、



(ビキビキビキビキビキ・・・)



その光が恐ろしいうねりとなって迫って来た。



(ゴーーー!! ゴーーー!! ゴーーー!! ゴーーー!! ゴーーー!! ・・・)



真横を通り過ぎて行った。

直ぐ真横だ。



(ビヒューーー!! ビヒューーー!! ビヒューーー!! ビヒューーー!! ビヒューーー!! ・・・)



続いて凄まじい突風に煽(あお)られた。

まるでジャンボジェット機が殆(ほと)んど体を掠めて飛んでいったような衝撃だった。

体が吹き飛ばされそうだった。

恐ろしいまでの風圧だった。



(ドサッ!!



大河内が腰を抜かしてその場に座り込んだ。


「あゎわゎわゎわゎわゎわゎわゎわ・・・」


恐ろしさのあまり言葉にならない。

大河内には何が何だか訳が分からなかった。

いきなり目の前の空間が光ったかと思ったら、直後に凄まじい破壊力を持つエネルギーが自らの体を殆んど掠(かす)めて飛んで行ったのだから。

失禁しなかったのがせめてもの慰めだ。

その場に座り込んだまま、暫(しばし)し呆然としていた。

ややあって、少し落ち着いたのだろう、うねりの飛んで行った方角を見ながら大河内は思った。


『な、な、な、何じゃ!? い、い、い、今のは一体!?


だが、まだ立つ事は出来なかった。

全身に力が入らない。

完全に腰が抜けていたのだ。

そのままユックリと光の飛んで来た空間に目をやった。



(モァモァモァモァモァ・・・)



エネルギーの炸裂煙が上がっている。


『な、何じゃ!? あの煙のような靄(もや)は?』


大河内は思った。

暫(しば)らくそのままその炸裂煙を見つめていた。

徐々に炸裂煙が薄らいで行く。


すると、


そこに、


執事・大河内順三郎は見た。











ある物を・・・







つづく





死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #180



それは、


人影らしき物だった。


それも、


一人ではなく二人いるように見えた。

大河内は驚いて目を凝らした。


すると、


それは確かに人影だった。


しかも、


二人。


男女の区別は付かない。

しかし、見た感じ二人共男のようだ。

少し身長差が有る。

そして中肉中背に見える方が背の高い方に肩を貸し、ヨロヨロと、時々、地面に手を着き、



(ドサッ!!



っと倒れ込み、再び起き上がり、覚束(おぼつ)ない足取りでこちらに向かって来ていた。

背の高い方は何か長い杖のような物を手にしているようだが、ただ掴んでいるというだけで全くそれを使って体を支えている様子はない。

と言うより、殆んど全身に力が入らず、グッタリしている。

片足ではなく両足を引きずり、中肉中背の男に半ば担(かつ)がれているように見える。


大河内は老眼鏡を外し、燕尾服の胸ポケットからハンカチーフを取り出し、それで一度良〜くレンズを拭き、再び掛けた。

ジッと目を凝らした。


次の瞬間、


大河内は興奮して叫んでいた。


「は、は、は、破瑠魔様!! ぶ、ぶ、ぶ、不良様!!


と。


そぅ。


目の前に、グッタリとして意識なく自力歩行困難の不良を半ば担ぎ上げ、本人も又、意識朦朧(いしき・もうろう)として歩くのがやっと、ヨロヨロ歩きながらバタッと倒れ込み、又、起き上がり、再び不良を担ぎ上げ、ヨロヨロしながらこちらに向かって来る外道の姿があったのだ。


「破瑠魔様!! 不良様!!


もう一度、大河内は叫んだ。

そのまま二人の元に飛んで行こうとした。


!?


出来なかった。

腰が抜けて立つ事すらままならず、気は急(せ)くとも体がそれに付いて行かないのだ。


そして、


終に外道が力尽きた。



(バタッ!!



大河内の目の前10メートル程の所で倒れ込んだ。

そのまま起き上がる様子を見せない。


「クッ!!


大河内が何とか四つん這いになった。

その格好で地べたを這い始めた。

勿論、外道達に向かってだ。

赤ん坊が這い這いするようにして、なんとか外道達の元に辿(たど)り着いた。


「破瑠魔様!!破瑠魔様!! 不良様!!不良様!!


「不良様!!不良様!! 破瑠魔様!!破瑠魔様!!


 ・・・


大河内が交互に二人の体を揺すり、呼び掛けた。

と言うより叫んだと言った方が近いか?

大河内はまだ興奮冷めやらない。

しかし返事がない。


二人とも意識がないのだ。

否、

それどころか、顔に、全身に、生気が全く見られない。

二人ともだ。


大河内は急いで燕尾服の内ポケットから携帯電話を取り出した。



(ピ、ポ、パ、・・・)



過度の興奮と緊張のあまり、



(プルプルプルプルプル・・・)



手を震わせながら、何処(どこ)かに電話を掛けた。

相手が出た。

大河内が息せき切って喋(しゃべ)り捲(まく)った。


「は、は、は、破瑠魔様と、ぶ、ぶ、ぶ、不良様が、も、も、も、戻られましたーーー!! は、は、は、早く、早く!! ヘ、ヘ、ヘ、ヘリで、ヘリで!! む、む、む、迎えに来て下さーーーい!!


と。


相手は・・・











上崎だった。







つづく