死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #181



「そぅですか!? 無事ご帰還ですか!? エッ!? ・・・。 はい。 ・・・。 はい。 ・・・。 はい。 直ちに向かいます!!


上崎が携帯電話の相手に興奮気味にそう言った。

そして亀谷に告げた。


「破瑠魔さん、不良先生御両名とも、ご帰還されたそうです」


「ヤッターーー!!


亀谷が飛び上がって喜んだ。


「しかし、お二人とも意識がないそうです」


「エッ!?


「行きますょ、亀谷君」


「ど、何処(どこ)にっスか?」


「二人を迎えにです」


「アッ!? そ、そ、そぅっスネ。 そぅっス。 アッ!? で、でも、雪さんは? 雪さんはどしたら・・・?」


「我々がいても今の所、何の役にも立ちません。 取り敢えずは不良先生、破瑠魔さんです」


「そ、そぅっスネ。 ハィ!! じゃ、行(い)きますか」


「はい。 行(ゆ)きましょう」


二人は急ぎヘリに向かった。

その病院の大型駐車場に待機させてあった、上崎が必ずそれが必要になると判断して事前に手配してあった、燃料満タンの最新鋭大型ヘリに。



(ダァーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!



って。。。











ダッシュで・・・







つづく





死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #182



「そ、そ、そ、そぅっスかぁ!? 終に・・・。 はい。 ・・・。 はい。 ・・・。 はい。 い、今、左京さ 否 上崎は電話に出らんない状態っスから、自分がそぅ伝えときまっス。 ・・・。 はい。 ・・・。 はい。 ・・・。 はい。 じゃ、長官。 後は宜しく。 ・・・。 はい。 ・・・。 はい。 ・・・。 はい。 失礼致しまっス」



(カチャ!!



亀谷が携帯電話を切った。

相手は佐長官だった。

ここは上崎操縦する所のヘリの中。

勿論、向かう先は重磐外裏。

破瑠魔外道、不良孔雀、救助のためである。


亀谷が興奮して上崎に言った。


「さ、左京さん!! つ、終にやりましたっスょ」


「死神ですか?」


「は、はい。 消えたそぅっス。 死人帖も・・・たった今」


「そぅですか」


「いゃー!! やってくれましたっスネ、不良先生、破瑠魔さん!!


「そぅですネェ。 やってくれましたネェ」


「いゃー、しっかし、スーパーマンっスネ、あの二人。 死神殺しちゃうんっスからネ。 ホ〜ント」


「・・・」


ここで上崎は黙った。


「どぅしたんっスかぁ? 左京さん? 嬉しくないんっスかぁ?」


「えぇ。 素直に喜べませんネェ」


「何ででっスかぁ?」


「雪さんです」


「アッ!?


「それに大河内さんからの連絡によれば、不良先生も破瑠魔さんも意識が全くないそぅです。 浮かれていられませんネェ」


「そ、そ、そぅっスネ。 浮かれていらんなぃっスネ。 そぅっスそぅっス・・・」


そして二人は黙った。


そのまま、



(バババババ・・・)



ヘリは向かった。

重磐外裏へと。











破瑠魔外道、不良孔雀、救助のために。







つづく





死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #183



「破瑠魔様。 不良様。 お、お気を確かに・・・。 破瑠魔様。 不良様。 ・・・。 遅い!! しっかし遅い!! な〜にをしておられるんじゃ、上崎様は・・・」


大河内が未だ意識の戻らぬ外道と不良に盛んに声を掛けていた。

心配そうだ。


『どぅして良いやら?』


といった表情をしている。

出来る事なら自分の手で二人を担いで麓の駐車場に止めてある車まで運び、そのまま病院へと向かいたかった。

しかし、残念ながら大河内は既に年。

しかも、まだ腰が抜けたまま。

気は焦れど体がそれに全く付いて行かない。

せめてもと二人に毛布を掛けるのがやっと。

それは自分と上崎達の分だった。


そこへ、



(ババババババババババ・・・)



ヘリの音が聞こえて来た。


「来たーーー!! 来た来た来た来た来たーーー!!


興奮して大声を上げ、音のする上空を見上げた。

微(かす)かにヘリらしき物が見えた。

大河内が再び外道達の方を向き、大声で呼び掛けた。


「は、は、は、破瑠魔様、不良様!! き、き、き、来ましたゾ来ましたゾ!! へ、ヘ、ヘ、ヘリが来ましたゾ来ましたゾ!!



(ババババババババババ・・・)



流石、最新鋭のヘリ。

その姿が確認出来るようになるや、その直後には既に着いていた。



(タタタタタタタタタタ・・・)



上崎と亀谷が大河内達に駆け寄って来た。


「オーィ!! コッチじゃコッチじゃ!! 早く早く!!


大河内がそんな事をしなくてもハッキリ分かるのに、地面に両膝突いたまま上体を起し、盛んに両手を上崎達に振りながら叫んだ。

外道と不良が心配の余り、思わず取った行動だった。

その大河内に駆け寄った上崎が聞いた。


「大河内さん。 お二人は?」


毛布に包(くる)まったまま地面に横たわっている外道達を指差して大河内が答えた。


「ご、ご、ご、ご覧の通りです!!


大河内は興奮しっぱなしだ。



(バッ!!



上崎が毛布を捲(めく)って外道と不良の様子を見た。

二人ともチャンと呼吸はしている。

キチンと脈も打っている。

だが、

どちらも弱々しい。

加えて、顔面蒼白、生気なし。


上崎が言った。


「亀谷君。 手を貸して下さい。 お二人をヘリに」


「はい」


上崎と亀谷が用意した担架を使い、外道と不良を順にヘリまで運び、手際良く二人をそれに乗せた。

最後に亀谷が今時のアイドルっぽく慣用表現全然無視して、(ワチキもチョビっと無視しちゃった。 エヘヘ)


「これっ!? 全然軽いっスネェ。 何で出来てるんっスかネェ?」


ナンゾとほざきながら、不良の手にしていたあの槍も一緒にヘリに積み込んだ。


その間、大河内はズッと地面に両膝突いたまま、その様子を黙ってジッと見つめているだけだった。

その大河内に近寄って亀谷が聞いた。


「大河内さん。 立てないんっスか?」


「いゃー、面目(めんぼく)ない。 破瑠魔様達のご帰還され方の余りの凄まじさに、思わず腰が、はい。 腰が抜けましてな」


「そ、そんなに凄まじかったんっスかぁ?」


「そりゃ、もぅ、凄まじいのなんのってアナタ・・・。 筆舌に尽くし難い位で・・・。 身の毛がよだつとは正にあぁいうのを・・・。 生きた心地が・・・。 はい」


「そぅっスかぁ。 そんなに?」


「はい」


「じゃぁ、車の運転無理っスネ。 なら、俺っちが運転してお連れしましょう」


「そ、そぅして頂けると有り難い」


亀谷がヘリの近くで自分を待っている上崎に呼び掛けた。


「左京さん!! 左京さんはヘリで病院戻って下さい。 俺っちは大河内さんの車で戻りますから」 


それを聞き、


「ウム」


頷いて、上崎はヘリに乗り込んだ。



(ババババババババババ・・・)



ヘリが飛んだ。

それを見送るように暫(しば)し見つめてから亀谷が大河内に言った。


「さ、じゃぁ。 俺等(おれら)も病院行きまっスか」


そして、道すがら何が起こったのか大河内から聞きながら、麓の駐車場を目指した。











腰が抜けて立てない大河内を負ぶって・・・







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #184



「ゥ、ゥ〜ン」


一声唸って男は静かに目を明けた。


部屋の照明は暗かった。

意識がボンヤリしている。

再び目を閉じた。

別に眠るためではなかった。

目を開けているのが辛かっただけだ。

そのまま何も考えずにボーっとしていた。

暫(しばら)くそのままでいると音がしている事に気が付いた。

その音に注意を払った。



(チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、・・・)



置時計が秒を刻む音のようだった。


『時計か』


男は思った。


そして、



(チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、・・・)



何も考えずにその音を聞いていた。

頭の中がボーっとして何も考えられなかった。

全身の感覚が麻痺している。

まるで雲の上にでも寝ているような、そしてそのまま虚空を漂(ただよ)ってでもいるかのような、全くの無感覚。

ただ、

時計の秒を刻む音だけが耳の奥で反響している。


男は暫(しばら)くジッとその音に耳を傾けていた。


突然、



(ポッ!!



体の中で何かが弾けた。


すると、


それまで思考が停止していたのが嘘のように一気に記憶が甦(よみがえ)って来た。

まるで真夏の夕立。

いきなり降り出す雷雨のように。


『ハッ!?


男は素早く目を開けた。

起き上がろうとした。


だが、



(ズキッ!!



「ウッ」


全身に激痛が走った。

あまりの痛さに起き上がるどころか動く事さえ出来なかった。


『クッ!? 何がどうなっているんだ? ここは? ここは一体?』


男は部屋の中を見回すため頭を動かそうとした。


だが、


又しても、



(ズキッ!!



「ウッ」


痛みが走ってそれすら出来ない。

仕方がないので目だけで見える範囲をチェックした。


如何(どう)やら自分は今、ベッドの上で寝ているようだ。

右手側に点滴器具が見える。

ならば自分は今、点滴を受けているのだろうか?

それに酸素吸入器も付けられているようだ。


!?


感覚がない。

麻痺している。

点滴、酸素吸入器からすると、ここは病院か?


目線を動かしてみた。


天井は白かった。

壁は淡いクリーム色をしている。

この状態では床の色までは分からない。

他に見えた物と言えば、あまり大きくない窓が1つ。

それは出窓のようだ。

清楚な感じの淡い空色の薄いレースのカーテンが掛かっている。

その窓から見えるはずの外の日差しはもうなかった。

既に夕方、あるいは夜なのであろう。

部屋の広さは5〜6坪か?

この状態からの目視(もくし)だけではハッキリした広さまでは分からなかった。


『ここは一体・・・?』


男は再びそう思った。


その時、



(カチャ!! スゥー)



音がした。

ドアの開く音だ。



(ガチャン!!



ドアを閉め、誰かが入って来た。

誰だか見たかったが、頭を動かせない。

まだ視界に入ってこないのだ。

男か女か?

それすらも。

ただ、自分の足元に近付いて来る気配だけは分かった。











すると、・・・







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #185



「ぶ、不良先生!? 気が付いたんっスか!?


亀谷だった。

絶対安静、面会謝絶の不良の様子を丁度今、見に来た所だったのだ。

勿論、主治医の許可を得て。


亀谷が枕下に駆け寄った。

顔が不良の視界に入った。


「亀谷か」


「ハィ!! そうっス!!


亀谷が元気良く返事をした。


「死神は? 死神はどぅなった?」


「ィヤー!! そのー!! なんつったらいいっスか!! 全くー!! ハィ!! お陰さまで死神は消滅しましたっス!! 死人帖もっス!! ハィ!! どうも有難うございましたぁっス!! ホントにホントにホントにどうも有難うございましたぁっス!!


嬉しさの余り、亀谷の日本語はチョッと可笑しかった。

もっとも、言わんとするところはチャンと伝わってはいたが。


「そぅか。 で、うえ・・・否、 R は?」


「勿論、無事っス!! 先生達のお陰っス!! 有難うございましたぁっス!!


「ウム。 計画通り・・・か?」


「ハィ!! その通りっス!! 計画道理っス!! 先生の立てた計画道理っス!!


「ところで破瑠魔は何処(どこ)だ? どぅしている?」


ここで、それまで元気一杯だった亀谷の表情が一気に曇った。


「そ、それが・・・」


「ン!? 何だ?」


「・・・」


「どぅした?」


「・・・」


「まさか・・・死んだのか!?


「い、いぇ。 け、決して死んだ等とは・・・」


「なら、どぅしている? ハッキリ言え!!


「はい。 い、今、面会謝絶んなってまして・・・。 ハッキリした事は何とも・・・」


「面会謝絶?」


「はい。 不良先生も衰弱酷かったっスヶど、破瑠魔さんはそれ以上で・・・。 脈も殆(ほと)んど・・・」


「そぅか。 ・・・」


「はい。 ・・・」


「ところで今何時だ? 俺はどの位眠っていた?」


「今、11時チョイ前っス」


「夜のか?」


「はい。 で、先生は3、4時間位っスか? お休みんなってたのは・・・」


「・・・」


ここで不良は、


『ハッ!?


とした。

突然、何かを思い出した。


「あの娘(むすめ)!? あの娘は・・・?」


「雪さんの事っスか?」


「そぅだ」


「それがそのぅ・・・」


「何か有ったのか?」


「はい。 不良先生を追って破瑠魔さんが、あの亀裂つぅんっスか? 自分達には全く見えない。 その亀裂ん中入って暫(しば)らくしてからっス。 急に 『先生が危ない!!』 つって叫んだかと思うと雪さん、破瑠魔さんが消えた空間向かって走り出したんっス。 それを自分等(じぶんら)3人掛りで押さえたんっスヶどネ。 それが何ともとても女の子とは思えない凄まじい力で、3人でやっとこさ押さえたんっスヶどネ、はい。 そしたらこんだその状態で固まっちまったんっス、雪さん。 全く意識がなくなったままなんっスヶどネ。 それが又、凄い重さで。 およそ人間の、しかも女の子の体重とは思えないぐらいの重さで、はい。 で、自分達も雪さんを放すに放せないまんま暫(しば)らくその状態でいたんっスヶども。 いやもぅヘトヘトで。 しまいに雪さん急に体の力が抜けたかと思うとその場に倒れ込んだんっス。 ただ倒れ込んだだけなら良かったんっスヶどネ、はい。 こんだ下血しちゃたんっス。 それがもぅ大出血で。 だから今、集中治療室で輸血用の血液到着を待ってるトコなんっス、はい」


「輸血?」


「はい」


「今頃何を言っている? 輸血位なら疾(と)っくに終わっているはずだ」


「そ、それが。 そのぅ〜。 血液型が・・・」


「血液型がどぅした? ハッキリ言え!!


「はい。 雪さん何やら2000人に1人しかいない。 AB 型の R ナントかつぅ型で」


Rh− か?」


「そぅそぅ、それっス、それ!!


「で、血液の手配は?」


「はい。 それがそのぅ〜」


「一々口ごもるな!! ハッキリしないヤツだ!!


「ハ、ハィ!! 予備の血液が本土にはなく九州から取り寄せる手配にしてたんっスヶど、それも台風の関係で特急列車なんっスヶどネ。 途中列車が止まっちゃったんっス、台風に捕まっちゃって」


「台風!? そぅか、そぅいえば季節外れの台風が接近していたな。 こっちには関係ないと思っていたが・・・。 まさかそんな事になるとは・・・」


「はい、そぅなんっス。 台風1号のヤツっス・・・。 台風1号のヤツに捕まっちゃったっス・・・」


「で?」


「はい。 今、左京さ・・・アッ!?・・・いゃ、上崎がヘリで向かってるトコなんっス、連絡受けて直ぐ。 ただこの気象状況で・・・」


「それは何時(いつ)だ?」


「かれこれ1時間位前っス」


「連絡は?」


「はい。 まだ、何も」


「娘が下血してどれ位時間が経つ?」


「はい。 5〜6時間位っス」


「そぅか」


そう言って、目を閉じ、不良が考え込んだ。


「・・・」


微動だにせず、息も出来ず亀谷が不良を見守っている。

瞬き一つ出来ない。

恐ろしいまでの緊張感だ。

亀谷は手がジットリと汗ばんだ。

冷や汗だ。

今はまだ春先。

ジットリ汗ばむような気温ではない。

もっとも、室温はそれなりの温度設定では有ったが。

それでもやはり、汗ばむような事はないはずだ。

考え込んだというただそれだけで、自分の周りにいる者達にそれ程の緊張感を与えてしまう。

これが不良孔雀の持つ迫力である。


そのまま時間が経過した。

ホンの10数秒。

しかし亀谷にはそれが何時間にも感じられた。


突然、



(クヮッ!!



不良が目を見開いた。











そして、・・・







つづく