死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #21



「ごちそうさま」


テーブルに戻り、先程、父総一老が帰ってくる前の食べ掛けだった食べ物を食べ終わってレイが言った。

立ち上がり2階の自分の部屋に行き掛けた。

だが、階段の手前で立ち止まった。

そして振り返って総一老に話し掛けた。


「父さん」


「ン!? 何だ? レイ」


「さっきの話なんだけど」


「さっきの話?」


「父さんがラー事件を担当してるっていう」


「・・・」


「立場上、言えないのは良く分かってるさ。 だから黙って聞いてて欲しいんだ。 あのネ、父さん。 父さんにもしもの事があったら、その時は必ず僕がラーを捕まえて正義の裁きを受けさせてやるからネ」


「否、レイ。 お前は余計な事は考えなくていい。 確かにこれまで何度となくお前の的確な助言で難事件を解決して来た。 だが、今回は相手が相手だ。 お前は余計な事は考えず、今は確(しっか)り勉強して希望通り上級警察官僚を目指すんだ。 それからでも遅くはない。 今回ばかりは決して余計な事に首を突っ込むんじゃないゾ。 分かったな、レイ?」


「あぁ、分かったょ、父さん。 でも、僕は僕なりに今度の事件を追うつもりさ。 ラーの正体を暴くためにネ」


「レイ!! お前・・・」


「心配しなくても大丈夫だょ。 変に首を突っ込んだりなんかしないから」


「決して危ない真似だけはするんじゃないゾ」


「あぁ。 分かってるょ、父さん。 言われなくっても。 チャーンとネ」


「なら、いい」


「でも、これだけは退(ひ)かないょ」


「何だ?」


「父さんにもしのも事があった時にはさ」


「なら心配ない。 父さんは大丈夫だ」


「あぁ、そうだネ。 父さん」


そう言って、



(タタタタタ・・・)



レイは階段を駆け上がった。


だが、


そのレイの耳元には声が聞こえていた。

こんな声が。


「ラーはお前だろ・・・」


という声が。


「ククククク・・・」


という不気味にせせら笑う・・・











笑い声と共に。







つづく







死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #22



R は考えていた。


『ナゼだ? ナゼ、ラーはわたしを殺さない? それは殺せないからだ、きっと。 ・・・。 ならその訳は? わたしの実体像がつかめないからだ、恐らく。 ・・・。 ウ〜ム。 なら、ヤツが実体像をつかむために必要なものは何か? ・・・。 過去にヤツが手を下したと思われる殺人事件に共通している事、それが最低限の必要条件だ。 考えろ、良〜く考えるんだ R 。 そこに必ず答えが見つかるはずだ』


と。


そして代理人ワタセに命じて世界中の警察関係機関(当然この中には日本の警察庁も含まれている)から必要な情報全てを集めさせた。


R は短時間で一気にそれら全てに目を通し分析してのけた。(あの〜世界中の言語をどうやって分析したんだ? R は世界中の言葉が分かるのか!? って、思わないでチョ。 とりあえず全て英語に翻訳されていた物とご理解下チャイ、ませませ。 原作も映画も全部日本語でやってたのザンスから。。。 しか〜〜〜し、『 L change the world 』では、 L は色んな言語をペラペラと操っていたのでオジャった : 作者)


そして以下の結論を導き出した。


 @ ラーは日本人、もしくは日本に居住している者と思われる。 これはロンド・ R ・テイラーの件で明らかだ


 A 従ってラーの活動拠点は日本である可能性が極めて高い


 B ラーの犯行によると思われる被害者の公開情報の最大公約数は “顔写真” と “被害者の本名”。 この二つのみである


これだけの項目をホンの短時間で導き出していた。


だが、


R が導き出した結論はコレだけではなかった。

更にもう一つ重要な事実にも気付いていた。


それは次の第4の項目、即ち、


 C R が初めてその存在をラーに知られたあの日以来、日本における被害者の割合が圧倒的に多くなった。 しかもこの中には単に日本にいて日本の報道に触れる機会が多い、という理由からだけでは割り切れない物が相当数あった。 というのもこのラーの犯行による物と思われる被害者の中には、不起訴処分となり、その名前、顔写真といった資料は警察庁のホストコンピューター及び一部幹部職員のパソコン内にのみあるだけで、全く公表されていない者達も存在していたからだった。 とすれば即ち、ラーは日本の警察関係者でしかも内部事情にかなり通じている者、もしくはその関係者の使用するパソコンあるいは本部のコンピューターに容易に侵入できる何者かである可能性が非常に高い


・・・だった。


R はこの第4の項目。

ここに注目した。

そしてワタセに命じある組織に密かにある手配させた。

そのある組織とは・・・アメリカの FBI

そしてある手配とは・・・日本の警察庁の幹部職員及びその家族並びに関係者の動向を探る。

という物だった。


そぅ。


R はワタセに手配させて FBI に警察庁の幹部職員及びその家族並びに関係者の動向を密かに探らせていたのである。

その中には、当然の事ながら日神総一老並びにその家族の名前も含まれていた。


と、すれば・・・











その中には当然レイの名も・・・







つづく







死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #23



「レイ」


不意に苦竜が話し掛けた。


ここは人気(ひとけ)の少ない道路の歩道。

車の往来もそれ程多くはない。

近くにある小学校の指定通学路になっている。

道幅は8メートルと結構あるが昼間は殆(ほと)んど人が通らない。

安心して苦竜と話が出来るため、少々遠回りにはなるが外出する時レイが好んで使う道だ。


苦竜はレイを見ずに正面を向いたままだった。


『オャ!?


レイは不審に思った。

いつもと違う苦竜の様子を。

話し掛ける時は決まってレイの方を向くはずなのに。

それどころか折角、投げ与えた苦竜の大好物の人間界のリンゴ。

いつもなら素早く掴みとって即座に頬張(ほおば)り、芯まで食べ尽してしまう大好物の人間界のリンゴに全く見向きもしない。

無視したのだ。

当然、そのリンゴは道端に転がった。

落ちた時の衝撃で真っ二つに割れている。

レイは立ち止まった。

しばし道端に転がっているリンゴを見つめた。


『何かある!?


レイは直感した。

再び歩き始めた。


そして、


「ン!? 何だい? 苦竜」


レイも又、苦竜を見ず正面を向いたまま聞き返した。


「一つ言っておく」


相変わらず苦竜は正面を向いたままレイを見ない。


「何をだい?」


再び、レイは苦竜を見ずに聞き返した。


その状態でやり取りは続いた。


「俺はお前が嫌いじゃない。 それどころか死人帖を拾ってくれたのがお前で良かったとさえ思っている。 だがそうだからといって、別にお前の肩を持つつもりはない。 勿論(もちろん) R のもだ。 だからこれから言う事は単に俺自身のために言うんだ」


「どうしたんだい、苦竜? もったいぶって。 らしくもない」


「あぁ、そうだな。 らしくないな。 だがなレイ。 気持ちが悪いんだょ、俺は」


「何が?」


「見られているのが」


「ン!?


「お前つけられてるゾ」


「エッ!?


「ヤツに俺の姿は見えない。 だがズーっと見られてる気分だ。 それが我慢ならん」


「いつからだ?」


「一昨日(おととい)の昼からだ。 俺が気付いたのはな」


「そうかいそうかい、アリガトょ、苦竜」


丁度その時、レイは交差点に差し掛かった。

信号は赤だった。

レイは立ち止まった。

当然、レイに憑いている苦竜もだ。

もっとも苦竜は空中浮遊した状態でだったが。


その交差点は歩道のある8メートル道路、歩道なしの4メートル道路の交差点だった。

普通なら信号をつける必要のない交差点だ。

だが、偶々(たまたま)通学路だった。

それで信号が設置されていたのだ。

レイは8メートル道路の左側を歩いて来ていた。

そしてその交差点に出くわした。

さり気なくレイは4メートル道路を挟んだ反対側正面に都合良くあったショー・ウィンドウを見た。

勿論、その中に飾ってある商品を見た訳ではない。

そこに映っている自分の姿と自分の背後の状況を見たのである。

光の屈折の関係だったのだろう、バックの景色がハッキリと見える。

その中にいかにもそれっぽい35ぐれぇのオッサンの姿があった。

ガッチリとした体格で背が高い。

口の周りに無精髭をはやしてはいるが顔立ちは整っている。

全体的に見ると、一昔前のヒーロー物に出てきそうな雰囲気だ。

仮面ライダーみたいな。


そのオッサンはさり気なくあさっての方角を向いて立ち止まっていた。


だが、


本人はさり気なさを装ったつもりだったのだろうが、わざとらしさ丸出しだった。

それはまるでテレビでしょっちゅう見せられる刑事ドラマのアノわざとらしい尾行シーンのようだった。

大根役者が演技をすると全く見ちゃいらんないような “アノ” わざとらしさ丸出しの・・・。


『アイツか!?


レイは思った。

それを感じ取ったのだろう、苦竜が顎をしゃくってショー・ウィンドウに映ったオッサンを指し示して言った。


「そうだ!! アイツだ!!


と。

これを聞き、


「・・・」

レイはチョッと考えた。

ここで信号が青に変わった。

再び、レイ達は歩き始めた。

当然、少し遅れてオッサンも。


そして交差点を渡りきった時、


「苦竜」


レイが相変わらず正面を向いたまま、苦竜に話し掛けた。


「何だ?」


「又一つ面白い物を見せて上げられそうだょ」


「ホゥ〜。 そいつぁ楽しみだ」


「あぁ、期待は外れないょ」


「いつだ?」


「なるべく早くさ」


「ククククク。 なら、すぐにでも頼むゼ、レイ。 ククククク・・・」


「あぁ」


 ・・・


そんなやり取りがある事など露(つゆ)知らず、レイをつけている怪しいオッサンは思った。


『これまでのところ不信な様子は全く見られない。 だが、日神局長の息子太陽(レイ)・・・。 どこか気になる。 それに不自然に放り投げたさっきのあのリンゴ・・・。 ウム。 もう少し見ておく必要がありそうだ』


と。


果たしてこのオッサンは・・・











一体・・・?







つづく







死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #24



レイは考えていた。


『ヤツは一体何者だ? 何のために僕を・・・。 R か? R の指示で動いているのか? それしか考えられない。 ・・・。 どうすればヤツの名前を・・・』


と。


ここはレイの部屋。

怪しいオッサンの尾行に気付いたその日、家に帰り着いた直後の事である。


そして、


『ン!?


気配を感じた。

横を見た。

苦竜がいた。

それはいつもの事だった。

だが、

いつもと少し違っていた。

苦竜がレイの顔をジッと見つめていたのだ。

物言いた気(げ)に。


レイが聞いた。


「なんだい? 苦竜。 何か言いたそうだネ」


「あぁ。 言いたい」


「何をだい?」


「あぁ。 ・・・。 レイ。 ナゼ、俺達死神が死人帖に人間の名前を書くか分かるか?」


「そんな事。 分かるわけないだろ。 ナゼなんだい?」


「知りたいか?」


「そうだネェ、教えてくれるんなら」


「なら、教えてやろう。 それは、俺達死神が人間の寿命をもらって生きているからだ」


「寿命をもらって?」


「そうだ。 寿命をもらってだ。 つまりこういう事だ。 残り20年寿命を持つヤツがいる。 そいつの名前を俺が死人帖に書く。 当然そいつは死ぬ。 するとそいつの持っていた残り20年の寿命、それが俺の物となる。 そうやって俺達死神は生き延びてるって訳だ。 なにせ人間の寿命は殆(ほと)んど無尽蔵にあるんだからな」


「エッ!? じゃ、じゃぁ、僕は!? やはり死人帖を使ってる僕の寿命は死神同様延びるのかい?」


「いいゃ、そいつぁムリだ


つー、まー、りー、・・・


『無理ーーー!! 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


だ」


「どうして?」


「お前が死神じゃないからだ。 人間は死神とは違う。 いくら死人帖を使ったからと言っても人間の寿命は延びない。 それがルールだ。 もっともお前に関して言うならやってる事は死神以上だけどな。 ククククク・・・」


「フ〜ン」


「ついでだ。 もう一つ教えて置いてやる」


「今度は?」


「死神にナゼ人間の名前がわかると思う?」


「ン!? ナゼ?」


「あぁ、そうだ。 ナゼだ」


「・・・。 ン!? もしかして・・・」


「・・・」


「“見える” ・・・のか?」


これを聞き、


「ククククク・・・」


思わせ振りに苦竜が笑った。

苦竜のその反応でレイは確信した。


「“見える” んだ!?


「あぁ、そうだ。 その通りだ。 見える。 俺達死神は “目” を持っている。 その目で人間の顔を見ると、そいつの名前と寿命が頭の上に見えるんだ。 それが死神の目だ」


「じゃぁ。 苦竜には僕の寿命が見えてるんだネ?」


「ククククク。 勿論だ。 ククククク・・・」


レイは苦竜の目を見据えた。

暫く見据えてから聞いた。


「・・・。 どうせ聞いても教えてくれないな?」


「あぁ。 教えない」


「だろうな」


「どうだ、レイ? その目が欲しくないか?」


「エッ!? 欲しくないか?」


「そうだ。 欲しくないか?」


「も、持てるのか、死神の目を!?


「あぁ。 俺はお前の目を死神の目に変えてやる事が出来る。 取引さえすればな」


「取引?」


「そうだ。 取引だ」


「どんな?」


「死神の目とお前のある物とだ」


「僕のある物と?」


「そうだ。 お前のある物とだ」


「・・・」


「どうだ? 取引するか?」


「僕のある物って?」


「ククククク。 それはな」


「・・・」


「それは、お前の寿命の残り半分だ」


「エッ!? ぼ、僕の寿命の残り半分?」


「そうだ。 残り半分だ」



(ゴクッ!?



ここでレイは生唾を飲み込んだ。

そしてチョッと考えてから聞いた。


「なら、もし僕が後100年生きるとすると50年。 生きるのが50年なら25年って事?」


「あぁ、そうだ。 分かりが早いな。 さぁ、どうする? ン!? 取引するか? そうすれば顔を見ただけで殺せるゾ。 どんなヤツでもなぁ。 ククククク・・・」


「・・・。 死神の目か〜。 いいネ〜、苦竜。 いい目だ」


「なら、取引か?」


「・・・」


「・・・」


「苦竜。 その目の取引」


「・・・」


「論外だ!!


「ン!?


「僕の寿命が延びる取引なら兎も角、短くなるんじゃネ」


「欲しくないのか? 目が?」


「あぁ、欲しいさ。 とってもネ。 でも僕はラーだ。 この新世界の神となる人間だ。 そう簡単に寿命を縮める訳にはいかないのさ。 そうさ、僕は来(きた)るべき新世界の神となる人間なんだ。 この死人帖を使ってネ」


そこまで言ってレイの表情が一変した。


『ハッ!?


としている。

そして机の上に置かれてあった死人帖を両手で掴み上げた。

何か閃(ひらめ)いたようだった。

素早く死人帖の使用方法が書かれている英文のページを開いた。

その英文は苦竜が書いた物だった。

苦竜はその死人帖をワザト人間界に持ち込むためその使用法を人間界で一番ポピュラーな言語である英文で記しておいたのだ。

死人帖を人間界に持ち込むという退屈凌(たいくつしの)ぎのホンの悪戯(いたずら)のために。


レイがブツブツ何か独り言を言っている。


「ウ〜ム。 死人帖を使って・・・!?


と。


「どうした、レイ? 急に考え込んで」


「ビンゴ!! 死人帖の使い方で閃(ひらめ)いた」


「何をだ?」


「さっき僕を尾行してたオッサンの名前を知る方法だょ」


そう言ってレイはパソコンに向かった。

死人帖で裁きを下すためストックしてある犯罪者リストを開いた。

その内何人かをリストアップした。

そして満足そうにこう言った。










「良し!! この6人だ」







つづく







死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #25



『ヤッパリ!?


レイは思った。


それは怪しいオッサンに付け回されたその日の深夜、苦竜に目の取引を誘われたその日の夜中、自分の部屋のネットでニュースサイトを見ながらの事だった。


そして思わずこの言葉が口を突いて出た。


「フゥ〜。 これが死人帖の力か・・・!? ここまで、まさかここまで忠実に現実化されるなんて・・・」


苦竜がそれに気付いた。


「ン!? どうしたレイ? 何があった?」


レイが死人帖のあるページを開き、


「これを読んでご覧ょ、苦竜」


そう言いながら死人帖を苦竜の目の前に差し出した。


「ン!? ナニナニ・・・」


苦竜が読み始めた。

そこにはこう書き込まれてあった。


 菅直人(かん・ちょくと)

 出血多量で死亡。

 ■月■日午前1時、東京都○○市にあるコンビニエンス・ストア 『オーゾン○○店』 に売上金強奪目的でナイフを持って侵入。 店員と口論の末もみ合いとなり、持っていたナイフを振り回し誤って自分の心臓に突き刺す。 その直後死亡


「読んだかい? 苦竜」


「あぁ」


「なら今度はコッチだ」


そう言ってレイはパソコンの画面を指さした。


苦竜が L 字型にした右手親指と人差し指を顎に当て、今レイが指差したパソコンの画面に見入った。

画面の文字を読み終えて苦竜が言った。


「ヘェ〜。 そのまんまじゃネェか」


そぅ。


そのネットのニュースサイトの記事は菅直人の起こした事件に関する物だった。

そしてその内容はレイが死人帖に書き込んだ物と全く同じだった。

敢えて違う点を上げるとすれば文字数の多さだけだった。

事件の内容を詳しく報じた分の。


「あぁ。 そのまんまさ、苦竜」


「長年死人帖を使って来たが、こんな使い方があったたぁ、驚きだぁ。 大したヤツだゼ、レイ。 お前ってヤツはよう。 どうすりゃこんな使い方、思いつくんだ?」


「簡単さ。 これをやる前にさっき僕は6人の死刑囚で試したんだ」


「ホゥ〜。 何を?」


「これからそれを見せて上げるょ」


そう言ってレイはパソコンに向かった。



(カチャカチャカチャカチャカチャ・・・)



キーボードを打ち始めた。

すぐに新たな画面が出て来た。

それを指さして苦竜に言った。


「苦竜。 今度はこれだ」


「何だ? これは」


「父のパソコンさ」


「オヤジさんの?」


「あぁ。 そうだょ、苦竜。 僕は得意なんだハッキング。 簡単なもんさ、この位。 しかし警察庁のコンピューターは流石にセキュリティが厳しくてネ。 そう安々とは入れない。 又下手に入ると却(かえ)ってマズイ。 足がつく可能性があるからネ。 でも、父のパソコンなら簡単だし足もつかない」


「ヘェ〜。 そんなもンかネェ。 で!? これは・・・?」


「ここを見てご覧。 ほら、ここだ。 このページのここの部分」


そう言ってレイは侵入した父総一老のパソコンを操作した。

そしてレイが指し示した所には死んだ6人の死刑囚の死亡日時、死因、その他が写真入りで詳しく書き込まれてあった。


先ず、その6人の死亡時刻は殆(ほと)んど同日同時刻だった。

つまりその日の午後だ。

死因は全て心臓麻痺。

6人中3人はいつものラーの手口と変わらぬ “単なる” 心臓麻痺だった。


だが、


残り3人はいつもとは違っていた。

死因は前3人と同様 “単なる” 心臓麻痺。

ここまでは一緒だ。

しかし、そこから先が違っていた。

この3人はこれまでには全く見る事のなかった奇妙な死に方をしていたのだ。

死の直前、それぞれが奇行を演じていたという。



それらは以下の通りである。



 田中貴 金属(たなかたか・かねます)【あの〜。 田中貴金属(たなか・ききんぞく)さん許してちょんまげ。 これ、洒落ネ、洒落。 ホンのお茶目な洒落ザンス。 そう思って許してやってチョ。 原作の中に 『矢田中(やだなか)』 つーのがあったので思いついちゃったのでアリンス : 作者】


 「全能者にして主なる神よ。 あなたのみわざは、大いなる、また驚くべきものであります。 万民の王よ、あなたの道は正しく、かつ真実であります。 主よ、あなたをおそれず、御名(みな)をほめたたえない者がありましょうか。 あなただけが聖なるかたであり、あらゆる国民はきて、あなたを伏し拝むでしょう。 あなたの正しいさばきが、あらわれるに至ったからであります」


 と大声で繰り返し何度も喚(わめ)き散らしながらながら自らの指を切り、その血で独房の壁に丸の中に六亡星を描き死亡。




 白境 正章(しらさかい・まさあき)


 遺書らしき物を書いた直後に死亡。


 その内容は、


 「

  Rolling Stones のアズ・ティアーズ・ゴー・バイは

  しっとりと

  つつましやかで

  てがるにうたえて

  いいが

  るびがふってないと

  からっきしうたえない

 」



(『アズ・ティアーズ・ゴー・バイ = As Tears Go By 』 The Rolling Stones のヒット曲の一つ。メロディアスで美しい名曲である : 作者)




 世田谷 用賀(よたがや・ようが)


 突然大声で歌い出したため、制止しようと独房内に入った係官を暴行し独房脱走。

 その直後、そこから30メートル先の職員用トイレに駆け込みそこにて死亡。




 以上



「フ〜ン。 これがどうした? これがさっきの事件とナンか関係アンのか?」


「あぁ、大ありさ」


「・・・」


「フッ。 分かんないようだネ、苦竜」


「あぁ。 全く」


「いいかい、苦竜。 こういう事さ。 僕はこの6人を使って試したんだ。 先ず始めの3人。 これにはわざと無理な状況を書いたんだ。 一人は、1時間後ドイツのブランデンブルグ門の前にて死す。 もう一人は、紙に鉛筆で R ソックリの似顔絵を描いた後死す。 残りの一人は、これはもしかしたらいけるかなって思ってたんだが、『ラーの正体は R だ』 と自らの指を切り、その血で独房の壁に書く。 ってネ。 だが、これらは全部ダメだった。 日本の刑務所にいる人間が1時間後にドイツにいられる訳はないし、自分が知らない物や思ってもみない事は描けないし書けない。 長い独房暮らしできっと知らなかったんだろうネ、ラーや R の事を。 否、ラーは知ってたかな? 立場が立場だから噂位は。 でも R の事は知らなかった。 だから R の意味の分からないあの囚人にはこんな単純な文も書けなかったのさ。 当然似顔絵も。 もっとも紙と鉛筆は手に入れたかも知れないけどネ。 残念ながらその事はここには入力されていないので、どうだったかまでは分からないんだが・・・。 しかし残りの3人。 これは書き込んだ通りに現実化した。 まさか脱走まで上手くいくとは。 これは予想外の成果だった。 実を言えばこれも無理な条件かなって思ってたからネ。 だが、現実化した。 又、敬虔なクリスチャンだったクセに凶悪殺人を犯した田中貴。 彼には聖書の一節、ヨハネの黙示録第十五章の一節を唱えさせてみたんだが、流石(さすが)元敬虔なクリスチャンだっただけの事はある。 諳(そら)んじていたんだろうネ、チャーンと間違えずに唱えている。 それに元ミュージシャンの白境が Rolling Stones のアズ・ティアーズ・ゴー・バイを知っててくれて助かったょ。 そしてこれらを見て僕は確信したのさ」


「何をだ?」


「死人帖の使い方をさ。 使える範囲をネ。 つまり流石の死人帖も無理な事は現実化しない。 でもネ、苦竜。 名前を書き込まれた人間が取ってもおかしくない行動、出来る範囲の事なら死ぬ前にいくらでも自由に操れるのさ、この死人帖でネ。 僕はそれをこの6人で確信したのさ。 そしてその総仕上げはこれだ!!


再び、先程のネットニュースに画面を切り替えてレイが言った。


「これで試したのさ。 さっきのこれでネ。 死人帖がどこまで使えるかを」


と、苦竜に画面を指し示した。


それは先程の・・・











菅直人(かん・ちょくと)事件の画面だった。







つづく