死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #26



「レーーーイ!!


一人の見目(みめ)麗しき女性が手を大きく振って自分に向かって来る男に声を掛けた。


ここはレイの自宅からそれ程遠くないバス停。

その日は、レイが死人帖を使って6人の囚人と一人の強盗(菅直人)の死に方を試した二日後だった。


「やぁ、死火璃(しほり)!! 待った?」


「うぅん。 ちょっと前に来たトコ。 久しぶりだネ、レイとデートなんて」


その女性の名は 『悪野死火璃(あくの・しほり)』。

レイの恋人。

同(おな)い年で同じ京東大学に通う女子大生だ。

つまり眉目秀麗な才女ちゅうこっちゃ。(←ホントは頭は良いんだが、ブス!! つー設定にしたいトコなんだヶど、それだとツマンナクなっちゃうので・・・ : 作者)


「そういえばそうだ。 いつも大学で一緒だから・・・。 ウン。 久しぶりだ」


そこに実にタイミング良く、



(ププー!!



バスが来た。

ホントにタイミング良くだ。

書いててやんなるぐらいだ。


そのバスは 『芽芽有(がめあり)公園駅』 行きだった。


そしてそのバスの車体には新進気鋭のアイドル 『余海砂(あまり・ミーシャ)』 の横たわっている全身写真と余海砂のニックネーム “ミーシャミーシャ” のロゴが、新曲 『こぶたのミーシャ(ノルマリーナ・ミーシャ)』 の宣伝のため全面ペインティングされていた。


その停留所で待っていたのはレイと死火璃だけだった。

二人はバスに乗ると右側後ろから三列目の二人掛けの座席に着いた。


運転手がドアを閉め発車しようとした。


そこへ、



(タタタタタ・・・)



年の頃なら35ぐれぇのオッサンがダッシュして来た。

運転手がそれに気付いた。

閉め掛けたドアを開けた。

そのバスの乗降口は前輪側、運転手の脇にあった。


『ヨッ!? スマソ!!


とでも言わんばかりのエッラそうな手刀(てがたな)をバスの運ちゃんに切り、オッサンが乗り込んで来た。

オッサンは迷う事なく一番奥の1列シートに座った。

レイと死火璃の真後ろ最後尾である。

そして着ているコートのポケットから小さく折った新聞を取り出し読み始めた。


バスが発車した。


しばらくして、それまで死火璃と楽しそうに話をしていたレイが突然話題を変えた。

それはバス停を二つ三つ通過した後の事だった。


「この3日前から僕を付けてる怪しいオッサンがいるんだ」


死火璃にそう言ってレイが振り返った。

そしてオッサンに話し掛けた。


「ナゼ僕を付ける? アナタは興信所の人ですか?」


と。



(チラッ!!



オッサンはレイに一瞥(いちべつ)をくれると再び新聞に目を移し、


「さぁ、何の事かネ」


と、お惚(とぼ)けこいた。


そんなオッサンをレイは不満たらたら物言いたげに、死火璃は突然の事に状況が理解できず当惑した表情で見つめていた。


その時・・・


そのバスの運転手のいる所から大声が聞こえた。


「う、動くんじゃネェー!!


怒鳴り声だ。

10人前後いたバスの乗客全員が一斉にその怒鳴り声のする方を見た。


そこに見た光景は・・・


いかにも凶暴そうな悪人面(あくにんづら)こいた年の頃なら70前後のジッちゃんが、運転手の頭にピストルを突き付けている、という物だった。


するとジッちゃんが、


「そのまま運転してろー!! このバスは俺様が乗っ取ったー!! 命が惜しけりゃ、バス会社に電話しろー!!


と、再び喚(わめ)き散らした。


その70前後のジッちゃんの顔を繁々と見ていた35ぐれぇのオッサンが一瞬、



(ハッ!?



とした。

そして急いで手にしている新聞の一面下段を見た。

するとそこには、昨日銀行を襲撃したが金は奪えず、だがその場に居合わせた一般人を3人殺(あや)めて逃走した麻薬常習者の顔写真とその詳しい経緯(いきさつ)が書かれた記事が載っていた。

その70前後のジッちゃんはその犯人にソックリだった。

恐らく同一人物であろうと35ぐれぇのオッサンは思った。

顔写真の下には当然名前が載っている。


そ、れ、は、・・・


こうだ!!




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『おざ・・・汚邪悪一郎(おじゃわ・いちろう)』




と印刷されていた。


相変わらず大声で汚邪悪(おじゃわ)が吠えまくっている。


「騒ぐんじゃネェー!! 少しでも騒いだり動いたりしたヤツはぶっ殺す!!


その時運転手がバス会社との連絡用の電話に呼び掛けた。


「こちら666号車の死屍鬼(ししき)です。 本部応答願います」 (注 : 最近の研究によれば、俗に言ふ悪魔の数字は “666” ではなく “616” だ!! そふです。 ヶど、今まで通り “666” を使っちゃいますょン : 作者)


666号車ァー。 (ガァーガァーガァー) こちら本部ゥー (ガァーガァーガァー)」


応答があった。


すぐに汚邪悪が、


「貸せ!!


受話器を分捕(ぶんど)ると声を張り上げた。


「このバスは俺様が乗っ取った!! 人質を殺されたくなかったら1億円用意しろ!! いいなぁ!! 分かったなぁ!!


一方・・・


レイは胸ポケットからソッと紙切れを取り出しそれに万年筆で素早く、


 すきを見て

 僕が犯人を

 取り押さえる


と三行。

走り書きして、その紙切れを掌で隠し、死火璃に示した。

だが、

その走り書きを読んだのは死火璃だけではなかった。

後ろに座っている35ぐれぇのオッサンも又覗き込んでそれを読んでいた。

レイが後ろに座っているヤツにもチャ〜ンと見えるように、ワザと腕を高〜く上げていたからだった。

オッサンは、汚邪悪に気付かれないようタイミングを見計らってレイのすぐ後ろの座席に移り、小声で言った。


「それは危険だ。 わたしがやる」


レイがやはり小声で言い返した。


「人の後を付け回すような人間の言う事なんか信用出来ない。 それにアナタはあの犯人の共犯かも知れない。 そうではないという証拠はありますか?」


「エッ!?


オッサンは驚いてチョッと退いた。

死火璃も共犯という言葉に驚いてレイに聞いた。


「きょ、共犯!?


「あぁ。 いざという時のため後ろに共犯者を置いておく。 この手の犯罪には良くある事さ」


一瞬、オッサンは躊躇(ちゅうちょ)した。

予想外の事態に判断力が鈍ったのだ。


そうしている間も汚邪悪がワーワー訳の分からない事を吠えまくっていた。

運転手と乗客を威嚇しているのだ。

銃も振り回している。


オッサンは考えた。


『マ、マズイ。 こ、このままでは・・・。 汚邪悪をこのままにしておくのは。 ヤツは売国人(ばいこくいんど) 否 酷賊(こくぞく) 否 麻薬常習者だ。 何をしでかすか分からん。 ・・・。 し、仕方がない』


オッサンは胸ポケットに手を入れ、何かを取り出すとそれをレイに指し示した。

こう言って。


「これが証拠だ」


それはそのオッサンの身分証明書だった。

こう書かれてあった。


『 “FBI” Reiji = Iwashimizu (岩清水霊寺)』


と。


レイは素早く名前を読み取った。


FBI 岩清水霊寺(いわしみず・れいじ)・・・か!?


このやり取りに気付かぬ程汚邪悪はおバカではなかった。

お顔はおバカっぽいが。

ジッツに腹黒そうな悪人面だったのだが、ナゼかおバカっぽかった。(←コレのモデルは勿論 “アレ” ですょ〜ン。 アレ!! : 作者)


「オィ!! そこ!! 何にやってる?」


銃を構えて近付いた。


だが、


レイの座席の2、3歩手前まで来て立ち止まった。

足元に転がっている “ある物” に気付いたのだ。

腰を屈めてその “ある物” を拾い上げた。

先程レイが書いて死火璃に見せた紙切れだった。

それを見て汚邪悪が言った。


「フン!! 小僧!! これはお前が書いたのか? アァン? いい度胸じゃネェか」


手にしているピストルの銃口をレイの眉間に向けた。

その距離わずか数センチ。


だが、


レイは全く臆する事がなかった。

否、それどころか



(ニヤッ!!



含み笑いさえ浮かべている。

それを見て汚邪悪が、


「こ、小僧!!


と言おうとした正にその瞬間。


『ハッ!?


汚邪悪の顔が引き攣った。

そして銃を持つ手を両手に代え、バス最後部のガラスに向かって大声を出した。


「ヒ、ヒェ〜〜〜!? ななな、なんだテメーは!? いいい、いつからそこにいるー!!


運転手を始め居合わせた者達全員が恐怖と不可解の入り交ざった表情で汚邪悪の一挙手一投足を固唾(かたず)を飲んで見守っている。


「ううう、動くんじゃネェー!! ううう、動くと撃つぞ化け物ー!! ・・・」


汚邪悪は相変わらず恐怖に引き攣った顔で喚(わめ)いている。

それを見た岩清水が全員に命じた。


「みんな伏せろー!! ヤツは売国人(ばいこくいんど) 否 酷賊(こくぞく) 否 麻薬中毒者だー!! 幻覚を見ているゾー!!


恐怖に引き攣った顔で乗客全員が身を屈めた。

勿論レイもだ。

死火璃をかばうようにして。


しかし、


その前にレイは汚邪悪が両手で銃を持つために投げ捨てた紙切れを素早く拾い上げ、ポケットに仕舞い込んでいた。


その時、


「くくく、来るなー!! 来るな化け物ー!! ゥワァアァアァアァアァアァアァアァア・・・!!



(バン、バン、バン、バン、バン、バン)



汚邪悪がピストルを乱射した。



(ガシャン、ガシャン、ガシャン、・・・)



それと共に最後尾の窓ガラスが割れ、破片が弾き飛んだ。


銃弾の発射される音がする度に全員がより一層身を屈めた。

表情は既に恐怖のどん底だ。



(カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、・・・)



既に弾の尽きた銃の引き金を汚邪悪が引き続けている。


「ヒィイィイィイィイィイィーーー!?


突然、汚邪悪が踵(きびす)を返して乗車口目掛けて走り出した。


「ととと、止めろーーー!! バババ、バスを止めろーーー!! ドドド、ドアを開けろーーー!!


運転手のすぐ横まで来て運転手を怒鳴りつけた。



(キキキキ、キーーー!!



バスが急停車した。



(ガチャ!!



ドアが開いた。



(バッ!!



前輪側乗車口から汚邪悪が飛び降りた。


その時、



(キキキキ、キーーー!!



後続車の激しいブレーキ音がした。


その直後、



(ドカ!!



鈍く大きな衝突音が聞こえた。

汚邪悪が後続車に撥(は)ねられたのだ。

辺り一面血の海だった。

その真っ只中で横たわっている汚邪悪に動く様子は全く見て取れない。

状況から見て即死だろう。


岩清水、死火璃、バスの運転手そしてバスの乗客全員のみならず、その現場に居合わせた者達全員が息を飲んで、全身血塗(ちまみ)れで地面に横たわったまま全く動く様子を全く見せない汚邪悪の遺体を見つめている。

ただ一人を除いて。


だが、


ただ一人は。

ただ一人だけは違っていた。

そのただ一人は徐(おもむろ)に左腕を上げ、シャツの袖を少し引き上げ、その腕に嵌められたいる腕時計を見やすい位置に直し、ジッと時を読んでいた。


こう思いながら、


『良し!! ジャスト1145分。 死人帖に狂いなし』


と。


そぅ。


そのただ一人とは、勿論レイ。

即ち、日神太陽だ。


レイは家を出る前に死人帖にこう書き込んでいたのだった。


 汚邪悪一郎


 事故死

 200?年■月■日

 ○○バス停より午前1131分発芽芽有(がめあり)公園駅行き東西南北バスに弾丸6発が入ったピストルを持って乗車。

 人質を取り東西南北バス株式会社から1億円強請(ゆす)り取ろうと試みるが、午前1144分バス内に於いて身の丈4メートルもあろうかという化け物の姿を見る。

 それに向け全弾を発砲。

 発砲後、恐怖に耐え切れずバスを急停車させる。

 午前1145分、バスから飛び出したところを後続の車に撥(は)ねられ死亡。


と。


加えて、そのページの一部を切り取ってもいた、死人帖所有者の特権として。

それはメモ用紙サイズだった。


!? メモ用紙サイズ?


そぅ。


あの死火璃に見せた紙切れ・・・それは死人帖の切れ端だったのだ。

レイはこれをわざと捨てていた。

敢えて汚邪悪に気付かせるためにだ。

そうとも知らず汚邪悪はその紙切れを拾い上げてしまった。

つまり触れたのである死人帖の一部に。

切れ端とはいえ死人帖に触れた以上、汚邪悪には触れた死人帖に憑く死神の姿が見えてしまう。


一方、


死神は常に死人帖の所有者の傍にいる。

それも片時も離れずに。(ウンチをしている時もだ)

レイは死人帖の所有者である。

そしてレイの所有する死人帖に憑く死神は苦竜である。

つまり苦竜はレイのすぐ傍にいるという事になる。


とすれば、


否が応でも汚邪悪は見なければならない物がある。

レイのいる方を向いてしまった以上。


死神・苦竜・・・


そ、れ、が、・・・











汚邪悪が見た身の丈4メートルの化け物だったのである。


(あの〜。 汚邪悪が発砲してっ時に、バスの運ちゃんが平気で運転してられっかぁ? バスの窓ガラスが吹き飛んだすぐ後に後続車が続くかぁ? 普通止まるょなぁ。 つー、突っ込みはなしでオネゲエ致しやす。 原作も実写もその辺はムシしておったでオジャルので


つー、まー、りー、・・・


『無視ーーー!! 無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視無視ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


しておったでオジャルので : 作者)







つづく



附録 : let's お・い・の・り


 さぁ、読者の皆様もご一緒に・ど・ん・ぞ・!!



 明日 アレ に天罰下っちゃいますように・・・


 一緒に アレ に神罰下っちゃいますように・・・


 おまけで アレ に仏罰下っちゃいますように・・・




死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #27



「どんな理由があるかは知りませんが、コソコソ付け回さず話があるなら直接会いに来て下さい。 僕は逃げも隠れもしませんから」


レイが、思いっきり素(す)っ惚(とぼ)けて岩清水に厳しくそう言った。

それからあまりのショックのため一時的に自力歩行出来なくなっている死火璃を抱き抱え、その場を急ぎ離れた。

向かった先は病院だった。

だが、本音は一刻も早くその場を立ち去りたかったのだ。

それも警察が来る前に。

事件に巻き込まれるのは得策ではなかったからだ。

警察に事情を聞かれるような事にでもなったら、それこそ最悪だからである。


だが、


それは岩清水にとっても同様だった。

FBI 捜査官であり、日本の警察庁幹部職員及びその家族並びにその関係者をマークしている以上、尚更だった。


3人は静かにその場を立ち去った。


警察が来る前に、素早く。

汚邪悪一郎(おじゃわ・いちろう)が事故死した現場から・・・











逃げるように。







つづく







死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #28



「ゥ、ゥ〜ン、・・・」


女は静かに目を開けた。

眼の焦点が合わなかったのだろう、目の前がボンヤリしている。

意識もまだハッキリしてはいなかった。


そのまま目の焦点を合わせようとした。

少しずつだが見えている物がハッキリし始めた。

何かが自分の顔の近くに覆い被さっているのが分かった。

徐々にそれが何であるか分かって来た。

それは男の顔だった。

しかし、誰の顔かまでは分からなかった。

だが、男の顔である事は明らかだった。

その時声がした。

女の良く知っている声だった。

その声はこう言った。


「気が付いたかい? 死火璃」


声の主はレイだった。


「レイ!?


死火璃が驚いた様子で声を上げ、起き上がろうとした。

上からレイがソッとそれを制止した。


死火璃は訳が分からず興奮していた。


「ア、ア、アタシアタシアタシ!? こ、こ、ここはここはここは!?


レイが優しく言った。


「病院さ。 良く眠ってたネ、死火璃。 2時間近くグッスリだ」


と。


そぅ。


そこは先程のバスジャックが起こった所から少し離れた所にある病院だった。

死火璃をタクシーに乗せ、レイが連れて来ていたのだ。

休ませるために。


点滴と2時間の睡眠と若さのお陰だろう。

死火璃はもう元気を取り戻していた。

後は落ち着きを取り戻すだけで良かった。


そしてその10分後、二人は病院を後にした。



一方・・・



こちらは岩清水霊寺。

宿泊先のホテルに帰って来た。



(ガチャ。 ギー。 バタン)



「ただいま」


誰かに挨拶した。

挨拶した以上そこに一人で泊まっていた訳ではない事は明白だ。


「お帰り。 霊寺」


奥から声がした。

女の声だった。

そこは都心のマァマァ名の売れているホテルの二人部屋。


岩清水が、脱いだコートをハンガーに掛けていると女が姿を現した。

日本人のようだった。

長身長髪、スリムで色白。

一瞬、ハッっと息を飲んでもおかしくない程の美形だった。(つー事でオネゲェ致しやす。 実写版では瀬戸ナントカつー、ブスイおばんがやっててキモかったもんで・・・ : 作者)


「フゥ〜」


溜め息をついて岩清水がソファーにドカッっと腰掛けた。

その姿を見て女が聞いた。


「まぁ!? 大きな溜め息。 何かあったの?」


岩清水が答えた。


「あぁ。 捜査中に、偶然バスジャックに巻き込まれたんだ」


「バスジャックに!?


「そぅ。 君も知ってるだろ。 ホラッ、二日前銀行を襲って人を3人殺した。 アレ」


「あぁ、アレ? 確か犯人の名前が汚邪悪一郎(おじゃわ・いちろう)とか言う?」


「そうそう。 あの汚邪悪が今度はバスジャックさ。 それもわたしの乗ったバスを」


「エッ!? 霊寺の乗ったバスを・・・。 で!? で、どうなったの?」


岩清水は女に状況を詳しく説明した。


「・・・。 結局、汚邪悪は麻薬の所為(せい)だったんだろうなぁ。 化け物がどうとか何か訳の分からない言葉を連発してバスを飛び降りて後続車に撥ねられたんだ。 恐らく幻覚でも見たんだろう、あの姿から判断すると」


「・・・!? で!? 汚邪悪は? 汚邪悪は死んだの?」


「あぁ。 たぶん。 巻き込まれるとマズイんで、すぐその場を離れたから見届けてはいないけどネ。 恐らく即死だ。 あの状況なら」


「フ〜ン。 そう? ・・・」


ここで女はチョッと考えた。


「ネェ、霊寺」


「ン!?


「それってホントに偶然だったのかしら?」


「・・・」


「アナタはラー捜査のためにバスに乗った。 そのバスがジャックされた。 そして犯人は即死。 しかも凶悪犯。 つまりラーの標的。 それって出来過ぎて・・・」


不快そうな表情をして岩清水が声を荒げ、女がそれ以上喋(しゃべ)るのを遮った。


「なぁ!!


「エッ!?


「確かに君は、元 FBI 捜査官だ。 それも優秀な」


「・・・」


「でも、今の君は僕のフィアンセなんだ。 もう捜査官じゃないんだ」


「・・・」


「ここ(日本)へは式(結婚式)のために来たはずだ。 約束したろう。 ラー事件には一切口を出さないって。 余計な事はしないって」


「・・・」


「・・・」


「分かったゎ、霊寺。 ごめんなさい。 まだ捜査官のクセが抜け切れてなかったみたい」


「アッ!? いや、コッチこそ声を荒げてゴメン。 チョッと疲れてるんだ。 色々あったからネ、今日は」


女は一応退いた。

だが、それはフィアンセである岩清水を気遣っての事だった。

不審が解けた訳ではなかったのだ。

というのもこの女は元優秀な FBI 捜査官だったからだ。

しかも、かつて一度だけだったが R の指揮下に入った事もあった。

だから今回のラー事件を黙って見ている事は出来なかったのだ。

まして自分のフィアンセがそれを担当しているとなればなおさらの事。

いかに式のためだけに日本に帰って来ているとはいえ。 (あの〜。 例え相手が婚約者で、しかも元優秀な FBI 捜査官だったからと言って石清水が捜査内容を軽々に教えるわきゃネェだろー!! つー、突っ込みは無しでおねげぇ致しやす。 原作もそうなっとったし・・・ : by コマル)


!? 日本に “帰って” 来ている?


という事は・・この女は・・日本人?


そぅ。


この岩清水霊寺のフィアンセは岩清水同様日本人だった。


その名を・・・










『美空(みそら)スズメ』 という。







つづく








死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #29



「死神のこの俺様でも・・・」


不意に苦竜が言った。


「流石に汚邪悪のあの死に方にはゾッとしたゾ、レイ」


ここはレイの部屋。

レイが汚邪悪一郎(おじゃわ・いちろう)を使って、岩清水霊寺の名前を知った日の晩の事である。


「僕もさ。 フフフフフ・・・」


「オッ!? その笑い。 そうは見えネェな。 まぁ、いい。 それより、レイ」


「ン!? なんだい?」


「タイミング良く後続車が来たけど、もし来なかったらどうするつもりだったんだ? 来なきゃ汚邪悪、心臓麻痺で逝っちまったんゼ。 いつものラーの手口だ。 それってチョッとやばかったんじゃネェのか? FBI 捜査官の目の前で、それもすぐ傍にお前がいて、いつものラーの手口で凶悪犯が死んじまったら・・・。 お前がラーだと真っ先に疑われる事になっちまったんじゃネェのか?」


「あぁ、そうだろうネ。 そうなったら」


「オッ!? 今度は何だ? その余裕」


「コレを見てご覧ょ、苦竜」


そう言ってレイは机の上に置いてあった死人帖を広げ、苦竜に見せた。


「ン!? なになに・・・」


苦竜がそのページを読んだ。

こう書かれてあった。


 姫野仏手(ひめの・ぶって)

 ■年■月■日■時、○○バスターミナル●時●分発車の 『芽芽有(がめあり)公園駅』 行き東西南北バスの後を、間に別の車が割り込まないよう注意しながら充分と思われる車間距離を保ち、自分で運転する車で追う。

 途中、急停車したそのバスを避けるため、ハンドルを “左” に切る。

 前方にそのバスからジッちゃんが飛び出した瞬間、一旦 “アクセル・ペダル” を目一杯踏み込み、その後ブレーキング。

 その直後発狂。

 一週間後、首を吊って自殺。


と。


「ホゥ〜。 なる程なぁ、こんな手を打ってたのか? 失敗を避けるための保険って訳か?」


「フフフフフ・・・」


何も言わずレイは笑った。

余裕のヨッチャン笑いだ。


「でもょ。 この姫野仏手って一体どんなヤツだ? 何したヤツなんだ? お前が死人帖に名前書く程のヤツなのか?」


「いいゃ、女色事師さ、単なる変態の。 つまんないヤツだ」


「じゃ、ナゼ書いた?」


「僕がラーだと疑われないためにさ」


「エッ!?


「僕が乗ったバスを降りようとした凶悪犯を凶悪犯が殺し、その凶悪犯が死んだらそれこそこの僕が真っ先に疑われるだろ、同(おんな)じバスに乗った FBI 捜査官に。 それも僕をラー候補として追っている捜査官の目の前でそんな事が起こったら」


「そういや、そうだ」


「だ、か、ら、さ。 だから今回はセコイのを使ったんだ。 それとネ、苦竜。 ついでだから教えておいとくょ」


「何をだ?」


「ナゼ僕があのバス路線を選んだか」


「あぁ、それそれ。 俺もそれ聞こうと思ってたんだ」


「あのバス路線はネ、苦竜。 殆(ほと)んど片側1車線なんだ。 でもネ、その幅は実際2車線分以上あるのさ。 特に汚邪悪が騒ぎ出した辺りからはネ。 だから姫野仏手がハンドルを左に切る事が出来たという訳さ」


「な〜る(成る程)。 流石レイだ。 そこまで考えてたとは」


再び苦竜は死人帖を見た。


「ン!?


チョッと引っ掛かった。

その苦竜を見てレイが不審に思った。


「どうした?」


「えーっと・・・。 これは何だ? この姫野仏手のすぐ下に書いてある・・・コレ。 『しろ・ちん・こ』 って読むのか? コレ?」


「あぁ、それか。 それはネ、 『白陳古(はく・ちんふる)』 って読むんだょ」


「フ〜ン。 はく・ちんふるネェ。 えーっと、なになに・・・」


苦竜が白 陳古に関する記述部分を読み始めた。

その内容はこうだった。


 白陳古。

 ■年■月■日■時、○○バス停○時○分発車の 『芽芽有(がめあり)公園駅』 行き東西南北バスに乗車。

 途中、交通事故に遭遇。

 その現場で 「僕は逃げも隠れもしませんから」 という会話を耳にし、それを言われた相手の後を追う。

 追った者の居所と思われる場所を突き止めた1時間後、その居所の出入り口付近で酩酊(めいてい)するまでウィスキーを飲み、大声で怒鳴り散らしながら予(あらかじ)め所持していた包丁を人を切らないように振り回す。

 その場で取り押さえられるまでそれを続ける。

 その23日後、自殺。


苦竜がレイに聞いた。


「・・・って、これは?」


「実はネ、苦竜。 あのバスの仕掛けは汚邪悪だけじゃなかったんだ。 汚邪悪以外にもう一匹仕込んでおいたんだょ、あのバスには。 それがソイツさ」


「ヘッ!? 何のために?」


「岩清水霊寺の居所を見つけ出すために」


「エッ!? これでそんな事が分かるのか?」


「あぁ。 この白陳古ってヤツは前科者でネ、覚醒剤で何度も挙げられてるヤツなんだ。 何でも北朝鮮との秘密のパイプを持ってるらしくてネ。 だからこんな騒ぎを起こせば必ず警察沙汰になるし、マスコミもそれを報道する。 事実、ホラッ!!


レイは起動中のパソコンを、 uza (ウザ) b 版・ニュースに切り替えた。

それを苦竜に指で指(さ)し示して続けた。


「この通りさ」


苦竜がそれを読んだ。


「ウ〜ム。 確かに。 っていう事は、ヤツは今この○○ホテルにいるって事んなるな」


「そういう事」


「で!? ヤツの居場所を知ってどうするつもりだ、レイ?」


「ン!? フフフフフ・・・」


「殺すのか?」


「そういう事になるかな」


「しかし、ヤツはナ〜ンも悪い事はしちゃいないゼ。 それでもか?」


「あぁ、それでもさ」


「だが、それはお前のポリシーに反するんじゃネェのか?」


これを聞きレイは反射的に、



(キッ!!



苦竜の目を見据えた。

そして徐(おもむろ)に言った。


「いいゃ、苦竜。 反しやしないさ、全くネ。 岩清水霊寺。 彼はいつか僕の邪魔になる。 だから・・・」


「すぐにか?」


「否。 すぐにというのはマズイ。 曲がりなりにも彼は FBI だ。 恐らく R の指示で僕を付けていたんだろう。 しかしそれは僕をラーと特定したからではなく、ラー候補者の一人としてだ。 僕の容疑が晴れれば別の候補者を付回すに違いない。 だから彼を始末するのはもっと多くの人間を調べさせてからの方がいい。 もっと多くのラー候補者をネ。 行動範囲を広げさておけばもしも彼から足が付くような事が起こった時、疑われる人間がそれだけ多くなるんだからネ」


「成る程成る程」


「それに彼には一働きしてもらわなくちゃならないし」


「一働き?」


「あぁ。 そうさ。 一働きさ。 恐らく日本に入った FBI は彼一人じゃないはずだ。 10人、20人。 否、もっと多いかも知れない。 その全員の顔と名前の分かる資料を手に入れてからさ、彼を始末するのは」


「フ〜ン。 資料をネェ」


「そう、資料をネ。 だが、その資料を手に入れる前にやって置かなきゃならない事があるんだ」


「何だ?」


「フフフフフ。 R だ」


「ン!? R ?」


「あぁ。 岩清水達を始末するための布石を打つんだょ、 R に。 R の目先を FBI から逸(そ)らすためにネ」


「どうやって」


「フフフフフ。 簡単さ。 チョッと遊んでやるのさ R と。 フフフフフ・・・」


そう言うとレイは机の上に置いてあった死人帖を手に取った。

そして無地のページを開き、パソコン上のファイルを開いた。

死人帖に名前を書き込むためにレイが作った死のファイルを。

そしてその内の何人かを選び出し、入念に書き込み始めた。


・・・必要な情報を。











R と “あ・そ・ぶ” ために。







つづく








死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #30



「『 R しっているか』 か?」


 Rolling Stones のアズ・ティアーズ・ゴー・バイは

 しっとりと

 つつましやかで

 てがるにうたえて

 いいが

 るびがふってないと

 からっきしうたえない


R は先日、白境 正章(しらさかい・まさあき)が死ぬ前に書き残した文章の一文字目(ひともじめ)を縦読みするこの一文の意味を考えていた。


その時、



(ピピピピピ・・・)



愛用のパソコン 『17インチ MacBook Pro 』 から音がした。



(スゥー)



R がマックの置いてある方に振り返った。


R ・・・」


マックのスピーカーから声が流れた。

ワタセの声だった。


これが R とワタセの連絡方法だ。

ネット経由である。


ワタセの声が続いた。


「また、遺書のような物を書き残した犠牲者が出ました」


愛用のマイク付きマックに近付き、 R が言った。


「良し。 画像を送ってくれ」


すぐにネットを通して遺書らしき物の画像が送られて来た。

送られて来た画像に映っていた遺書のような物は、筆跡は当然違うが前回同様血文字だった。

こう書かれてあった。


 死は

 神の意志によって

 はじまった


と。


「今度は 『死神は』 か? ・・・。 ラーお前は一体何が言いたい?」


R が画像を見ながらそう呟(つぶや)いた。

やはり一文字目を縦読みしてだ。


そしてパソコンの向こうにいるワタセに新たな指令を与えた。


「ワタセ。 今後も同じような事が起こるだろう。 警察に囚人の動向を注視するよう伝えてくれ」


「分かりました」


ワタセが答えた。


マックからマイクの拾う雑音が消えた。

ワタセがスイッチを切ったのだ。


「『 R しっているか 死神は』 か?」


R がポツリと独り言を言った。


そして静かに目を瞑(つむ)り考え始めた。


『これはラーの挑戦だ。 間違いない。 ラーはわたしに、このわたしに本気で挑戦して来ている。 ・・・。 そう言えば、・・・』


そして思い出していた。

数日前の出来事を。

R が初めて日本警察とコンタクトを取った時の出来事を。

その翌日の出来事と共に。



   ★   ★   ★



それは、・・・


ここは警察庁内に特別に設けられた 『ラー事件対策特別捜査本部内』 である。

この本部の置かれた部屋は事件が事件なだけにかなり大きかった。

小学校の体育館位のスペースは優にある。

人員は、総勢大凡(そうぜい・おおよそ)200名。

全員が警察官だ。

トップは警察庁刑事局局長・日神総一老(ひがみ・そういちろう)。


R 。 言われた通り日本におけるラーによるものと思われる被害者の推定及び確定死亡時刻の入力が完了しました」


担当官の一人が言った。


「見せて下さい」


と、その場にいるワタセがそこへ持ち込んだやはり R が使っているのと同じタイプの17インチ MacBook Pro を介し、それに接続されている室内スピーカー越しに R がフィルターが掛けられた声で言った。

その17インチ MacBook Pro の画面にはカリグラフィー体で書かれた “ R ” の一文字がデカデカと画面いっぱいに表示してある。

そしてこの文字が時々左右に振れた。

液晶保護のためだ。

これが決して人前に姿を現さない R のやり方だった。

常に代理人ワタセを間に入れるというのが。


そしてそのワタセも又、足の脛にまで届きそうな程長い黒のロングコートに、目深(まぶか)に被ったやはり黒い帽子。

それにサングラスにマスク。

その姿は謎めいている。


その時、


特別室内の巨大スクリーンに入力情報が映し出された。


「ウ〜ム」


「ウ〜ム」


「ウ〜ム」


 ・・・


居合わせた殆(ほと)んどの者が唸った。

その映し出された入力情報の意味が分からなかったからだ。


それを見ながら見るからに頭の悪そうなデブリン刑事が、隣にいる神経質そうな小柄な同僚刑事に小声で聞いた。


「何コレ?」


聞かれた同僚の小刑事がやはり小声で答えた。


「分布図ですょ。 死亡時刻の」


怪訝そうにデブリンが聞き返した。


「これ見てナンカ分かる人いるの?」


「ぜーんぜん。 R だけでしょ。 たぶん」


「フ〜ン!?


「・・・」


日神が R に問い掛けた。


「こんな物で何が?」


R が答えた。


「皆さんは 『大数の法則』 というのをご存知ですか?」


「大数の法則?」


「そうです」


また先程のデブリン刑事が小刑事に聞いた。


R がしゃべってんの?」


「えぇ。 たぶん」


「フ〜ン!?


「・・・」


R が言った。


「この一見意味をなさないような分布図ですが・・・。 こうすると・・・」


それまで50列近くあった分布図が、

突然、まとまり始めた。


またまた先程のデブリン刑事が小刑事に聞いた。


「これって、 R がやってんの?」


「えぇ。 たぶん」


「フ〜ン!?


「・・・」


分布図の動きが止まった。

50列程あったものが今は7列にまとまっている。


日神が聞いた。


「これは・・・?」


R が答えた。


「ハィ。 この7列は先程の分布図を左からそれぞれ日・月・火・水・木・金・土の一週間にまとめた物です。 即ち、日曜日に起こった殺人の情報は全て一番左側日曜の列に。 月曜日に起こった物は二番目月曜の列に。 以下、水・木・金・土と同じ事を繰り返したものです。 こうする事により先程の何の変哲もなかった分布図がある特徴を示すようになるのです。 これを大数の法則と言います」


そのスクリーンに写っている R によって7列にまとめられた分布図を見ながら日神が言った。


「ウ〜ム。 確かに・・・」


R の声がした。


「これに何か見覚えは・・・?」


「ウ〜ム」


「ウ〜ム」


「ウ〜ム」


 ・・・


全員が考え込んだ。

その状態がしばらく続いた。


そして、


いかにもオッチョコチョイっぽい、やはり刑事らしい若くて背の高いアンチャンがほざいた。


「こ、これって大学の時間割りに似てませんか?」


って。。。 (この辺の設定にはチョッとムリがあるんだヶど、


つー、まー、りー、・・・


『無理ーーー!! 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


があるんだヶど、サラッと素通りして下さい : by コマル)


すると一斉に同意の声が上がった。


「そうだ!! 言われてみれば確かに大学の時間割りだ!!


その R によって纏(まと)め上げられた7日間の分布図は、就寝時間及び通学時間、加えて食事の時間と思われる部分を除くとまるで大学の講義のある時間をマークし、それを反転したような形を描き出していた。


ざわめきの中マイクを通した R の落ち着いた声が響き渡った。


「そうです。 これは日本の一般的な大学にありがちな時間割りです。 これが何を意味するかお分かりですか?」


「これが? これが? これが? ・・・。 アッ!? 犯人は大学生!!


チョッと考えてからさっきのアンチャン刑事が大声で再びほざいた。


「そうです。 犯人は日本の大学生である可能性が高い事をこの分布図は教えているのです。 つまり睡眠時間と授業に出席しているであろうと思われる時間帯に殺人は全く行なわれていないのです」


そう R が静かに言った。


「さすが R だ」


と、デブリン刑事が。


「こんな短時間でそこまで絞り込んだ」


と、小刑事が。


二人とも神妙な顔で


「ウンウン」


頷(うなづ)きながらほざいていた。


だが、


その翌日から事態は急変した。


殺人の時間がキッカリ1時間に一人と変わったのである。

つまり大数の法則により一週間に振り分けても7列全てが同じ分布になるように変わってしまったのだった。


R は考えた。

そして再び、ある結論を導き出した。


それは、


 @ ラーは死の時間を操れる


 A 『ラーは大学生である可能性が高い』 という認識。 これは秘密事項であった。 だが、ラーはそれをいとも簡単に知る事が出来た。 つまり情報漏洩である。 即ち、この 『ラー事件対策特別捜査本部内』 のやり取りはラーに筒抜けになっている


 B ラーは敢えて@、Aを R に教えている。 余裕なのか馬鹿なのか


の三点だった。


そして R はこの内Aに特に注目していた。

#22の第4の項目と共に。



   ★   ★   ★



R は今、 この場面を思い出していたのだ。


R しっているか』 と 『死神は』 という白境ともう一人の犯罪者の遺言(いごん)の意味する所を・・・











考えながら。







つづく