死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #36



『霊寺が死んだ・・・。 いいぇ・・・。 ラーに殺された・・・』


美空スズメは考えていた。


時は岩清水霊寺がラーに殺された日から数えて三日後。

その日の午後。

場所は JR 山手線高田馬場駅早稲田口改札前。

岩清水の遺体は既に荼毘(だび)に付されていた。

遺骨は岩清水の実家の墓に埋葬されている。

当然葬儀も既に済んで。

(あの〜。日本人の岩清水霊寺が何で FBI なんだー!! つー、突っ込みはなしでオネゲー致しやす。 実写版もヌホンズンだったし・・・。 仮面ライダーやった事のあるオッサンがやってましたンじゃーーー!! 細川茂樹とか言ふ・・・)


そして山手線のホームに入った。

エスカレーター脇に立った。

西武新宿線側にある看板を見た。

そこへ山手線内回り新宿・渋谷方面行き電車が入って来た。

無言のままスズメはそれに乗り込んだ。

向かう先は東京駅。


そぅ。


スズメはあの日の岩清水の行動をそっくりそのまま再現しようとしていたのだ。

事件の真相のヒントを得るために。

ラーの正体を突き止めるためのヒントを得るために。


そして、


「東京ー!! 東京ー!!


特にこれはという事もないまま電車は東京駅に着いた。


そこでスズメは電車を降りた。

ジッと岩清水霊寺の倒れた場所を見つめた。

何の収穫もなかった、山手線の中では。


しかし外では・・・。


『やはり霊寺に封筒を手渡したあのフードを被ったサングラスにマスクの男。 あの男がキーマンだ』


これがスズメが下した結論だった。


即座にスズメは気持ちを切り替え、そこからある場所を目指した。


目指した先は東西南北バス株式会社。

あのおざ・・・汚邪悪一郎(おじゃわ・いちろう)事件の起こった 『芽芽有(がめあり)公園駅』 行きバスの運行会社だ。



そして・・・



「そうそう、この人だこの人だ」


と、運転手が言った。

ここは東西南北バス株式会社バスターミナル。

そこを美空スズメが尋ねると運良く当日運転していた運ちゃんに会えた。


そしてその運ちゃんに自分と岩清水霊寺が一緒に、



(二カッ!!



笑って写っている写真を見せたところだった。


「『みんな伏せろー!! ヤツは麻薬中毒患者だー!! 幻覚を見ているゾー!!』 ってネ。 大声でみんなに教えてくれたから覚えているょ。 でも、他のお客さんまではチョッとなぁ・・・。 お役に立てなくて申し訳ありません」


「いえいえ。 あり難うございました」


スズメが立ち去ろうとした。


その時、


「アッ!? そうだそうだ!! 思い出した思い出した!! あの後、・・・あの事件の後なんだけどネ。 みんな警察の事情聴取を受けたんだけどネ。 その人とあともう3人。 若いカップルと顔の輪郭が将棋の駒みたいなキモイじいさんだけはすぐにどこかに消えちゃったんだょ。 きっと、事件に巻き込まれるのが嫌だったんだろうネ。 気持ちは分かるょ。 自分がその立場だったらおんなじ事しただろうからネ」


「若いカップルと顔の輪郭が将棋の駒みたいなキモイじいさん?」


「そうそう。 でネ。 このカップルの男の人の方なんだけどネ、勇気があるって言うのか、度胸が据わってるって言ったらいいのか。 犯人に銃を向けられてもピクリともしないんだょネ。 もうこっちは怖くて怖くてどうしようもないっていうのにさぁ。 全く大したもんだったょ、彼は。 ウン」


「そのカップルの顔を覚えていますか?」


「ウ〜ン。 ハッキリとはネェ・・・」


「ならもし、そのカップルの写真を見たら思い出せますか?」


「ウ〜ン。 何とも言えないなぁ・・・。 見てみない事にはネェ。 なにせ運転しながらバックミラーで見ただけだから」


「そうですか。 どうもありがとうございました」


そう言ってスズメはその場を後にした。


こう考えながら、


『わたしの考えが正しければ、その乗客の中にラーがいたかもしれない。 と、すればこのバスの路線にラーの活動拠点が・・・。 そして若いカップル・・・。 若い男・・・。 霊寺が追っていた中の、アノ写真の・・・。 霊寺が残した写真の中にあったアノ・・・』


と・・・











繰り返し何度も。







つづく







死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #37



R は考えていた。


『囚人の動向に気を取られ過ぎていた。 まさか FBI の存在が知られるなんて・・・。 これは日本の警察には一切知られていない機密事項だったはずだ。 ならラーはどうやって FBI の存在に気付いたのか? ・・・。 ン!? 接触・・・? そうか。 接触したんだ12人の内の誰かと。 間違いない!! ラーは12人の内の誰かと接触している』


そして素早くパソコンに向かった。

チャットでワタセと連絡を取るためだ。


「ワタセ。 日神局長達はどうなっている?」


「はい。 二人一組合計三組。 順次30分間隔でそちらに行くよう手はずを整えました。 直(じき)、第一陣が到着する物と思われます」


「そうか。 ならばもう一つ頼みたい事がある」


「はい。 どうぞ」


「至急 FBI 長官に確認してもらいたい」


「何を?」


「死んだ12人の FBI 捜査官の直属の上司が誰で、どのような方法で連絡を取り合っていたかを。 又12人相互の連絡方法は何だったのかをだ」


「承知しました」


ここで、スピーカーがザーザーいう雑音を拾うの止めた。

ワタセが行動を開始したのであろう。

スイッチを切って。


ワタセに指令を与えてから部屋の窓まで R はユックリと移動した。

ここは都心のとあるセキュリティーの厳しい資産投資型高級高層賃貸マンション最上階の一室である。

夕暮れ時の大都会。

夜景が奇麗だ。

それを見下ろしながら R は考え込んだ。


『ラー。 今回お前は大きく動いた。 動いた以上必ず手掛かりを残している・・・はず。 いかにお前とはいえ。 ・・・』


しばらくしてワタセから連絡が入った。


R 。 調べがつきました」


パソコンからワタセの声が聞こえて来た。

再び、パソコンの傍に寄って R が聞いた。


「ン!? 早いな。 結果は?」


「はい。 直属の上司の名は 『ナーナ・シー』 と言い、連絡方法は全てメール。 又、12人はそれぞれその存在を全く知らされておらず、当然相互間のやり取りはありませんでした」


「なら、12人が日本に入ってからナーナ・シーとやり取りした全てのメールの内容を調べてくれ」


「・・・」


「ン!? どうしたワタセ。 ナゼ黙る?」


「大変申し上げ難いのですが。 ・・・。 ナーナ・シーは既に死亡。 しかも突然死。 その死因は心臓麻痺。 使用していたパソコンは完全に破壊され HDD は復元不可能だそうです。 恐らく死ぬ前にナーナ・シー自らの手で破壊したのであろうと考えられています。 又、日本警察の調べによると死亡した捜査官12人全員のパソコンは1台も発見されておりません。 恐らく12台とも持ち主が死亡する以前にどこかで処分したか、された模様です」


「・・・。 このナーナ・シーの名前と顔は公になっていたのか?」


「いいぇ。 全く。 ナーナ・シーと死亡した12人は完全な覆面捜査官だったそうです」


「突然死。 しかも死因は心臓麻痺。 恐らくはラーの仕業。 とすれば、ラーは覆面捜査官全員の正体を暴き、そして殺した。 そういう事か?」


「はい」


「しかも、やり取りの内容は全く分からない」


「はい」


「ウ〜ム。 ・・・。 他に何か分かった事は?」


「これで全てです」


「そうか。 ご苦労」


「・・・」


再び、パソコンのスピーカーからマイクの拾う雑音が消えた。


「ウ〜ム」


一声唸って、又 R は考え込んだ。


『ラー。 見事だ。 わたしは少しお前をナメテいたようだ。 今回初めてわたしは人前に姿を現さねばならない。 それも R として。 ここまでわたしを追い込んだ相手は、ラー。 かつてお前だけだ。 だが、ラーょ。 これは賭けでもある。 お前は必ずこの事を知るだろう。 そして何らかの方法を用いてこのわたしに接近して来るはずだ・・・わたしを殺すために。 そしてわたし達は必ず顔を会わせる事になる。 その時お前はわたしの、この R の顔を見る。 しかしわたしを殺せない。 名前が分からないからだ。 それでもお前はわたしを殺そうとするはずだ、間違いなく。 そこだ!! そこに必ず勝機はある・・・はず』


その時、



(ピンポーン)



ドアフォンの音がした。


「どうぞ。 鍵は掛かっていません」


R が言った。



(ガチャ!!



ドアが開いた。

二人の男が入って来た。

一人は日神、もう一人はデブリン宇田生(うたき)だった。

部屋の中には誰もいなかった。

二人は顔を見合わせた。


日神が大声で部屋を見回しながら言った。


R 。 何処にいますか? 二人一組全部で三組。 30分間隔でここに来る。 というワタセを介してのアナタの指示通り先ず我々二人が入室しました」


その時、テーブルの上に置かれたスピーカーから声がした。


「わたしは今別室にいます。 残りの4人とワタセがその部屋に入室した時点でわたしもそこに入ります」


日神と宇田生がやれやれといった表情を浮かべ顔を見合わせた。


「あと1時間あります。 どうぞ適当にお掛けになってお待ち下さい。 テーブルの上に甘い物も用意してあります。 良かったらどうぞ」


二人はそのテーブル付属の椅子に腰掛けた。


すると、


そのキッカリ30分後。

今度は小刑事・相河(あいかわ)とムッツリ模木(ぼき)が入って来た。


更に、


やはりそのキッカリ30分後。

アンチャン松山と紅一点の佐波(すけ・なみ)が。


そしてこの二人が入室するのをあたかも見計らってでもいたかのようにワタセが入って来た。

そしてその時初めて、ワタセが足の脛まで届きそうな程長いロングコートを脱ぎ、それまで被っていた帽子を取り、サングラスとマスクを外した。

つまり素顔を晒したのだ、日神達6人に。

その姿は、まるで年齢を感じさせない程矍鑠(かくしゃく)としてはいるが白髪で初老だった。

顎鬚はないが鼻髭はあった。

当然それも真っ白だった。

その意外さに日神達は驚いた。


その時、



(ガチャ!!



隣の部屋のドアが開いた。


入り口ドア付近で立っているワタセと今しがた入室したばかりの二人を除いて、それまで座っていた4人全員が立ち上がった。

そして音のした方を見た。

ヨレヨレの服装をした若い男が入って来た。

年齢245才位か?

姿勢は若干前屈みで、背中を猫の背中のように丸めている。

上目使いだ。


スラッと細身で中背、170cm位か?

色白の整った顔立ちに長い髪。

しかしその顔は無表情で能面を思わせる。

着ている物は、

上は白っぽい長袖のティーシャツ。

下はブルーの擦り切れたジーンズ。

靴下は履いてはいない。

素足だ。


その素足の右側足裏で左足の脹脛(ふくらはぎ)を



(ゴシゴシゴシ・・・)



掻き揚げて猫背のその若い男が上目使いで言った。


「はじめまして。 R です」


それを見て6人は驚いた。

あまりにも印象が違い過ぎたからだ。

全員が自分達が入室して来たドアの傍に立っているワタセの顔を見た。


『ホントにこれが R か?』


という表情で。

それにワタセが、


『そうです。 この人が R です』


といった風を見せて、



(コクリ)



頷いた。

6人はそれでもまだ信じられないという顔のままだったが、それを信じて、

先ず日神が斜(はす)に構え、



(ギン!!



一発、眼(がん)を飛ばしてから、


「日神総一老です」


と会釈をした。

それが合図ででもあったかのように次々に、



(ギン!! ギン!! ギン!! ギン!! ギン!!



それぞれ一発ずつ眼を飛ばしてから、


「宇田生数広(うたき・かずひろ)です」 (デブリン)


「模木完造(ぼき・かんづくり)です」 (ムッツリ)


「相河周知(あいかわ・しゅうち)です」 (小刑事)


「松山桃太(まつやま・ももた)です」 (アンチャン)


「佐波(すけ・なみ)です」 (紅一点)


と会釈をした。


すると、


いきなり R が右手でピストルの形を作ったかと思うと、、



(スゥー)



それを順次、日神達に向け、あたかもそれで日神達を撃ち殺すぞという表情をして、


「バーン!! バーン!! バーン!! バーン!! バーン!! バーン!!


ピストルの発射音を真似た。


突然の事に6人は呆気(あっけ)に取られていた。

ポッカリと口を開けている者もいる。

デブリン宇田生とアンチャン松山だ。

そんな6人の顔を見回して R が言った。


「日神総一老さん、他皆さん。 もしわたしがラーなら、アナタ達はもう死んでますょ」


「ど、どういう意味だ?」


そう言いながら、気を取り直したアンチャン松山が一歩身を乗り出して R に詰め寄ろうとした。

それに対し静かに R が答えた。


「顔と名前を知られたらアウトです。 ラーはそれだけで人を殺せます」


他の5人の顔を見回して松山が聞いた。


「エッ!? ホ、ホントですか?」


「い、否。 初耳だ」


日神が答えた。

他5人も頷いた。

皆、日神に同意したのだ。


「まぁ、立ち話もなんですからこちらへ。 あぁ、その前にこの部屋へ入った時は必ず携帯や通信機器の類(たぐい)は電源を切ってそのテーブルの上に置いておいて下さい」


R が部屋の隅のテーブルを指差してそう言った。


皆顔を見合わせ、しぶしぶポケットなどから携帯電話を取り出してそのテーブルの上に置いた。

ワタセを一人残し、他全員が R が先程入って来た部屋へ移動した。


「どうぞ、適当にお掛け下さい」


それぞれがそこにある3人掛け、2人掛け、1人掛けソファに適当に座った。


残りもう一つの1人掛けソファに座って R が言った。

もっとも座ったといっても R の座り方はシートの上に両足を乗せての “ウ・ン・コ・座・り” だった。

ミニスカートを穿(は)いた可愛い女の子がこういう座り方をしているのを、こっち側から見ると嬉しいかなっていう座り方だ。 (そン時はピンクやベージュよっかやっぱ白かなぁ、イチゴのポイント入りの・・・ : 作者)

そしてコーヒーカップに角砂糖を7、8個摘んで入れ、棒付きキャンディーでかき回して混ぜ、美味いんだか不味いんだかよう分からん顔して一気に飲み干した。

最後の一滴まで。



(ピトッ!!



って。



(以後、 R が椅子に腰掛けている時はいつもウンコ座り。 立っている時は猫背。 そして必ず飴、キャンディ、ケーキ、・・・、といったそれはそれは甘〜い甘〜い砂糖菓子を食っている。 と!? 思ってチョ。 メンドっちぃので一々書きまへ〜ん)



「皆さん。 ここでの会話は一切メモなど取らずに頭の中に入れて下さい。 それとこれからわたしを呼ぶ時は用心のため、 R ではなく 『宇崎(うざき)』 と呼んで下さい。 うー、ざー、きー」


「あぁ、分かった。 R 否、宇崎」


日神が言った。


「では、ラーに関するわたしの考えをお話しましょう」


「ゴクッ!!


「ゴクッ!!


「ゴクッ!!


「ゴクッ!!


「ゴクッ!!


「ゴクッ!!


全員が生唾を飲み込んみ、真剣な表情に変わった。

ジッと宇崎の顔を見つめている。


「ラーは名前と顔が分かれば人を殺せる。 これは先程お話しましたネ」


全員が無言で首を縦に振った。


「それから、どの位のスパンかは分かりませんが、ラーは死の時間及び死の前の行動を思い通りに操る事が出来る。 そしてどのようにそうしているのか分かりませんが、皆さんの捜査本部の情報を簡単に手に入れています。 しかもそれが可能な事を大胆にもわたしに教えて来ている。 最後に、ラーは幼稚で負けず嫌いの単独犯。 かなりのプライドの持ち主です。 そしてそれ以上に幼稚です。 わたしも幼稚で負けず嫌いだからラーの気持ちは良く分かります」


「ナゼ幼稚で負けず嫌いだと?」


日神が聞いた。


「言ったように、捜査本部の情報を簡単に手にする事が出来る事をわたしに教えて来てるのが何よりの証拠です。 それはわたしを挑発し、わたしに挑戦している証です。 これは負けず嫌いな人間の典型的パターンです」


「捜査本部の情報を簡単に手にする事が出来る? どういう意味だ?」


アンチャン松山が横から嘴(くちばし)を入れた。

それを無視して逆に宇崎が日神に聞いた。

以下、日神とのやり取りになる。


「一番初めにラーは大学生であると結論付けた日の事を覚えていますか?」


「あぁ。 ハッキリと」


「あの次の日からイキナリ殺人時間帯が変わった。 違いますか?」


「あぁ。 その通りだ」


「それが何を意味するかお分かりですか?」


「捜査本部の情報を入手出来る、という事か?」


「そうです。 しかしそれならすぐに殺人時間帯を変えるのは却ってマズイ。 普通はしません。 情報を手に入れているのがばれるからです。 だが、ラーはあえてそれをした。 それも大学生と結論付けた直後から。 ナゼだと思います」


「大学生である可能性を否定するためだろ。 捜査を混乱させるために」


「いいぇ、そうではありません」


「じゃ、何だ?」


「あれはラーがワザワザ我々に教えて来たのです。 自分は捜査本部の情報を簡単に入手出来るんだゾ・・・と」


「ワザワザ?」


「そうです。 しかもそれだけだけはありません」


「他にも何か?」


「はい。 ラーは先程言った、死の時間を操れるという事も同時に教えて来ています」


「死の時間を操れるという事も?」


「はい。 ラーは死の時間を操る事が出来ます。 1時間に一人ずつ殺し始めたのがその証拠です。 あれは死の時間を操れなければ出来ません。 そしてそれを我々にワザワザ教えて来た・・・余裕なのか馬鹿なのか。 これも又、ラーが負けず嫌いの根拠です。 この挑戦的な行動も」


全員半信半疑の表情で聞いている。

それに構わず宇崎が続けた。


「しかもそれだけじゃない。 ロンド・ R ・ テイラーを覚えていますか?」


「あぁ、あれネ。 あれなら」


と、今度は相変わらずデブリンの宇田生が横からチャチャを。


「ロンド・ R ・ テイラーがテレビの前でラーを挑発した途端、それまでは犯罪者のみしか殺してなかったはずのラーが即座に反応してロンド・ R ・ テイラーを殺しました。 あれはラーの幼稚さゆえの殺人です。 公然と人前で自分を侮辱した人間を脊髄反射して殺す。 かなり幼稚です。 それにこの画像を覚えていますネ」


そう言って宇崎はワタセに送らせた3枚の画像をテーブルの上に置いた。


その3枚の画像とは・・・


 Rolling Stones のアズ・ティアーズ・ゴー・バイは

 しっとりと

 つつましやかで

 てがるにうたえて

 いいが

 るびがふってないと

 からっきしうたえない


 死は

 神の意志によって

 はじまった


 リクエストは

 ントー

 ゴルゴサーティーン

 のなかで

 うらみをはらすところがいい

 んだんだ

 ちはみたくないが

 をっとーとおどろくような

 すごいばめんまたはそれに

 るいするものがみたい


だった。


「あぁ。 覚えている」


「では、この意味がお分かりですか?」


「意味? 意味なんてないだろ、こんなもん・・・」


「いいぇ」


「あるのか?」


「はい」


「どこに?」


「分かりませんか?」


「・・・」


「この3枚。 一文字目を縦読みしてみて下さい」


「ン!? 一文字目を縦読み?」


全員がテーブルの上の3枚の画像に見入った。

突然アンチャンが大声をあげた。


R しっているか 死神は リンゴのうんちをする!!


日神達も又、同時にそれに気付いた。


「これでお分かりになりましたか? こんな人を食ったような、オチョクった真似は幼稚な人間しかしません。 もっともこの2枚目にある死神。 それと3枚目のリンゴ。 これはふざけて書かせたのか、あるいは何かを告げているのかはまだ分かりませんが」


「ウ〜ム。 分かったような分からんような。 しかし、アナタの言う事だ間違いないだろう」


「そうです。 間違いありません。 では、それを前提の上で本題に入りましょう。 これからお話する事を良〜く聞いて下さい」











宇崎が本音を語り始めた。







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #38



「ここまではわたしの完敗です」



(ポリッ!!



右手に持った板チョコをかじりながら、宇崎がそう切り出した。


「エッ!?


全員が意外だという顔をした。

余りに宇崎が素直に敗北を認めたからだ。

それに構わず宇崎が続けた。


「実は、ラーが捜査本部の情報漏洩を教えて来た意図は他にもあるのです。 そしてコッチがヤツのホントの狙いだったのです」


「どういう事だ?」


日神が聞いた。


「わたしに日本の警察に不信感を抱かせる。 これがラーの真の狙いだったのです」


!?


「お気付きでしたか? 皆さんのご協力を得て始めてテレビでロンド・ R ・ テイラーとわたしがラーを挑発した後、ラーの殺人対象者が変わった事に」


「殺人対象者が変わった? どういう意味だ?」


と、日神。


「はい。 それまでラーによるであろうと思われていた被害者は皆、新聞、テレビ、雑誌などで名前と顔写真が公表された者達ばかりでした。 しかしあの後から突然、限りなく黒に近いが証拠不十分のため不起訴処分となり、その名前、顔写真などといった身元の分かる物が全く公表されていない者達の中からも被害者が出始めました。 それも相当数。 そしてその資料は警察庁のホストコンピューター及び一部幹部職員のパソコン内にあるのみで他には一切知らされていなかったのです。 実は、これらはラーがわたしの目が日本の警察上層部に向くよう誘導するために行なった殺人だったのです。 そしてわたしはマンマとそれに乗り、FBI に皆さんを・・といっても極秘情報を入手出来る警察上層部及びその関係者に絞ってですが・・調べさせました。 ここまではわたしに対してのラーの仕掛けです。 しかしその FBI 捜査官が殺された。 すると今度は皆さんがわたしを信用出来なくなった。 コソコソと自分達の身内が嗅(か)ぎ回られた訳ですから。 違いますか?」


「ウム。 確かに」


日神が頷いた。


「これは全てラーの計算の内だったのです」


「ラーの計算の内? な、何のための?」


今度はアンチャン松山が。


「自分を追う者は容赦なく殺すぞとみなさんに脅しを掛けると同時に、わたし達を分断するためのです」


「我々のやる気を挫き、互いに不信感を抱かせたという訳か?」


と、日神が。


「はい。 その通りです」


以下は主に、宇崎と日神のやり取りになる。

宇崎が続けた。


「しかし、それだけならわたしが皆さんの前に姿を現さずに済みました。 だが、ラーはそんな単純な相手ではなかった」


「・・・」


「このラーの計算は、実は、更にその上を行っていたのです」


「更にその上を?」


「はい。 ラー事件対策特別捜査本部を切り崩し、わたしを皆さんの前に否が応でも引きずり出す。 これが最初からラーの狙いだったのです」


「ラーの狙い?」


「はい。 ラーは捜査本部の人員を減らし、そこに残った人達、つまり皆さんにわたしに対する不信感を持たせる事によって、わたしを探し出させたのです。 即ち、否が応でもわたしが皆さんの前に姿を現さなければならない状況を作ったのです。 そしてそれに成功しました。 今、ここに皆さんがいるのがその証です」


「ラ、ラーってそんなに凄いヤツだったのか?」


横から又々アンチャンが。


「何だ、お前今頃気付いたのか?」


今度はデブリン宇田生が。


「い、否。 チョ、チョッと突っ込んでみたまでです」


と、アンチャン。


「だが、現実問題として我々はそんな凄いヤツを相手にしなければならない」


と、日神。


「その通りです。 先程わたしはラーは幼稚で負けず嫌いと言いました。 それもあります、確かに。 しかし、ラーは単なる幼稚で負けず嫌いなだけではなかったのです。 ヤツは・・ラーは・・大天才なのです。 しかも狂気の。 そう。 ラーは狂気の大天才なのです」


「ゴクッ!!


「ゴクッ!!


「ゴクッ!!


「ゴクッ!!


「ゴクッ!!


「ゴクッ!!


全員が生唾を飲み込んだ。


『世界一の名探偵 R にここまで言わせるとは・・・』


皆、一様にそう思っていたのだ。


宇崎が続けた。


「言ったように、ここまではわたしの完敗です」


「つまりいかにアナタとはいえ、ラーには敵(かな)わないという事か?」


と、日神が。


「いいぇ。 そんな事はありません。 今負けたからといって敵わないとか歯が立たない等という事は決してありません。 戦いという物は最後に勝った者の勝ちだからです。 だから我々は最後に勝てばいいのです。 例えそれまで全敗だったとしても最後に勝てばいい。 そして勝ちます。 必ず」


珍しく小刑事・相河が宇崎に聞いた。


「見込みは?」


「ありません。 今の所は」


次に日神が。

以下、専(もっぱ)ら日神とのやり取りとなる。


「なら R 否、宇崎。 打つ手はないと言うのか?」


「いいぇ。 あります」


「ある?」


「はい。 FBI 捜査官達の死。 あれはハッキリ言ってわたしの失敗です。 有能な人間を12人、否、上司も入れて13人も殺されてしまったのですから。 でも、彼らは決して犬死した訳ではありません」


「ン!? それは」


「彼らは私達に大きなヒントを残してくれました」


「大きなヒント?」


「はい。 大きなヒントです。 ラーが大きなミスを犯したという」


ここまで言って宇崎は全員の顔を見回した。

そして意味あり気に一言付け加えた。


「ラーは動いてしまった」


「『ラーは動いてしまった』 って、文法変じゃありませんか?」


アンチャンが小声でこっそりデブリンに話し掛けた。


「ウンウンウンウン・・・」


デブリンが同意した。


「どういう事だ?」


日神が聞いた。


「この12人の捜査官の内の最低1人はラーと接触した可能性がある。 という事です」


「じゃ、じゃぁ。 こ、この12人が調べていた人間が誰か分かればその中にラーが・・・?」


アンチャンが興奮して言った。


「否。 そうとは言い切れません。 しかし、この12人が調べていた人物の中に。 あるいは調べている内に浮上して来た第3者の中に。 90%以上の確立でラーはいます」


「なら、12人が誰を調べていたかが分かれば相当数絞られる事になるな」


と、小刑事・相河。


「はい。 しかし残念ながら12人は死に際して全ての情報を消し去っています。 恐らくラーに操られて」


「クッ!? 何てヤツだ、ラーってヤツは・・・」


と、デブリン。


「ですから皆さんに頼みたい事があります」


「頼みたい事?」


と、日神。


「はい。 この12人が死亡した時の状況や足取りなどを今一度詳しく調べ直して欲しいのです。 そして彼らが写っている写真や映像。 偶然でもなんでもいい、そういった物がないかどうか。 もしあればベストです」


「良し!! 分かった、宇崎。 それは我々に任せてもらおう」


と、日神。


「それと情報漏洩防止のため今日からここを捜査本部にしたいと思います」


6人全員が顔を見合わせた。

それから5人が日神の顔を見た。

全員の顔から判断を日神に一任したいと言う表情が読み取れる。


それを受け、

またまた斜に構え、



(ギン!!



ってして、日神が言った。


「いいだろう。 ここなら漏れる心配はなさそうだ。 上とはわたしが話を付けよう」


「よろしくお願いします」


「ウム」


思わせ振りに頷いてから日神が5人に命令した。


「良ーしミンナ!! これから捜査本部 否 前捜査本部に戻って資料の再チェックだ」


「オォー!!


「オォー!!


「オォー!!


「オォー!!


「オォー!!


宇崎を残して全員が一斉にソファーから立ち上がった。

そしてドアに向かい掛けた。


その時、


宇崎が日神達6人を呼び止めた。


「待って下さい、皆さん!! 最後にもう一つだけ言って置きたい事があります」


「何だ? まだ何かあるのか?」


日神が聞いた。


「はい。 この戦いはラーと我々の命を懸けた戦いです。 そしてここまでは我々の完敗です。 こんな事はわたしも初めてです。 でも、先程も言ったように戦いは例えそれまで全敗だったとしても最後に勝てばいいのです。 勝ちましょう、皆さん!! 勝ってラーに教えてやりましょう!! 正義は必ず勝つと。 そして正義は我々だという事を」


この言葉を聞き、日神初め全員の表情が一気に明るくなった。

そして口を揃えてこう言った。











「そうだ!! 正義は我々だ!!







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #39



「宇崎。 FBI 捜査官12人の姿を運良く捉えていた監視カメラの映像はこれで全部です」


と、普段無口な模木完造(ぼき・かんづくり)が言った。

手には大きなダンボールの箱を持っている。

その中には HDD がぎっしりと詰まっていた。

かなりの重量だ。

それを模木は軽々と持って来たのだ。

元柔道家、ガタイのデカイ体育会系の模木の本領発揮だった。


ここは宇崎の滞在先のマンション。

宇崎が始めて日神達の前に姿を現した次の日夕方の事だ。

そこには宇崎の他、日神達6人、そしてワタセがいる。


「け、結構、あったっすネェ」


と、アンチャン松山がお茶目こいた。


それを無視して宇崎が模木に HDD の内訳を聞いた。

模木が答えた。


「この3本だけです、心臓麻痺の瞬間を捉えていたのは。 残りの HDD は殆(ほと)んどが滞在先のホテルを出る所です。 それ以外では恐らく尾行中に偶然写った物だろうと思われます」


「では、その3本を」


宇崎が手を伸ばして模木から HDD を受け取った。


「誰が写っていますか?」


「はい。 1本目は銀座のデパートで死んだ 『タック・スニーク』。 2本目は池袋の繁華街で死んだ 『オイコラ・キュリバーグ』。 3本目は東京駅で死んだ 『レイジ・イワシミズ(石清水霊寺)』 です」


テーブルの上には1台のウィンドウズ・デスクトップ・パソコンと大型モニターが用意されていた。

32インチ液晶だ。

そのパソコンに先程の3本の HDD が1本目から外付けハードディスクケースに順次セットされた。

先ず1本目。

それは宇崎が良しと思うまで繰り返された。

次に2本目が。

やはり1本目と同様宇崎が良しと思うまで繰り返された。

そして3本目が、1本目2本目と同様に。


ワタセを除いた全員がそれに見入った。

その状態のまま数時間経過した。

それらを繰り返し何度も見たためである。


「ファ〜」


松山がもうウンザリだっちゅー顔して大欠伸(おお・あくび)こいた。

流石に全員がウンザリしている。

ただ一人、宇崎だけが変わらずジッと3本目に見入っていた。

そして、他の者達がもう限界だと思われたその瞬間、宇崎が言った。


「模木さん、お手柄です」


全員が宇崎を見た。


「お手柄とは?」


模木を差し置いてデブリンが聞いた。


宇崎がモニターの映像を指差した。

そこには心臓を押さえて断末魔の様相を呈している岩清水霊寺の姿が映っていた。

それだけではなく岩清水に駆け寄る美空スズメの姿も。


「ここに映っている女性は美空スズメという人です。 有能な元 FBI 捜査官です。 一度わたしの下で働いてもらった事があるので良く知っています」


そう言って宇崎がパソコンを操作し画像を拡大して、スクリーンの “ある部分” を右手人差し指で指し示した。


「皆さん。 ここに注目して下さい。 これっ、このシーンです。 岩清水霊寺。 やはり有能な捜査官だったようです。 彼は息を引き取る直前、必死で電車の中を右手で指差そうとしています。 あたかもその死に際し、ダィイングメッセージを残そうとしているかのようです。 分かりますか? 映像が荒いので少し見辛いですが」


「そういえば確かに」


と、日神。


「ウン。 なる程、そう見えなくもない」


と、小刑事。


「ウンウン」


と、デブリン。


「とすると車内にラーが・・・」


と、再び日神。


「その可能性は大です。 恐らくラーを指差そうとしている物と思われます」


宇崎が答えた。


「じゃ、じゃぁ。 この捜査官が調べていた人物が分かればその中、もしくはその周辺にラーが」


アンチャンがまたまた興奮してほざいた。


「でも、誰を調べていたか? 資料が全て処分されているんじゃなぁ、調べる術が」


と、デブリン。


「いいぇ。 術はあります」


宇崎がキッパリと言った。


「エッ!? どこに?」


と、デブリン。


「これです。 ここに映っているこの女性、美空スズメです」


そう言って宇崎は向きを変え、ワタセに命じた。


「ワタセ。 美空スズメとレイジ・イワシミズの関係を調べてくれ。 分かればイワシミズから何か聞いているかどうかも」


「承知しました」


そう答えてワタセが部屋を出た。


その部屋を出て行くワタセの後ろ姿を全員が見つめていた。











目に期待の光を輝かせて・・・







つづく






死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #40



「アナタが日神太陽(ひがみ・レイ)ネ?」


「アナタは?」


「わたしは間木照子(かんぼく・てるこ)。 雑誌記者ょ。 アナタの事は調べさせてもらったゎ、日神太陽」


ここはレイの通う大学。

その名も京東(きょうとう)大学法学部キャンパス。

日本一のエリート校だ。

しかもその法学部。

理系の医学部、文系の法学部。

日本のもっとも優秀な頭脳が目指す学部である。

そしてレイはそこにトップ入学し、以来トップの座を守り続けている。

大して勉強している訳でもなかったのに。

一流大学と言われる所には少なからず数人は必ずこういう学生がいるものだ。

レイはその代表格だったのである。


そこに突然、スッゲー美人なんだヶど超高ビーな女性が現れ、いかにも嘘っぽい作り合わせの名刺を差し出してレイに詰問(きつもん)し始めた。

レイの隣には恋人の悪野死火璃(あくの・しほり)も都合良く居合わせていた。

死火璃も又、京東大学の学生だったのだ。

才女である。


「・・・。 いきなり人を呼び捨てとは、随分と失礼な人だ」


ムッとした表情でその女性の顔を見つめてからレイが言った。

しかしレイは思っていた。


『この女の顔には見覚えがある』


と。


「いいぇ。 失礼なんて言葉、アナタには必要ないゎ」


「どういう事ですか?」


「自分の胸に聞いたらどう?」


「レイ!? 何? この人」


「さぁネ。 居るんだょ。 世の中にはこういう変な人。 さっ、死火璃行こう」


レイが死火璃を促(うなが)してその場を立ち去ろうとした。

死火璃を伴い、後ろを向き掛けたレイを間木照子と名乗った女が制止した。


「待ちなさい!! 日神太陽!! 否、ラー!!


「ン!?


半身に成り掛けていたレイ達の動きが止まった。


「日神太陽。 アナタがラーょ!!


「僕がラーだって? ふざけた事を」


再び間木と正対し、レイが吐き捨てるように言った。


「アナタネェ。 レイがラーな訳ないでしょ。 頭どうかしてるんじゃないの? ウジでも湧いてるんじゃない?」


死火璃が間木に詰め寄った。


「いいぇ。 アタシは至って真面目ょ。 日神太陽。 ラーはアナタょ!!


「間木さんとか言いましたネ」


「えぇ。 言ったゎ」


「これは重大な名誉毀損に当たる。 お分かりですか?」


「いいぇ。 名誉毀損には当たらないゎ。 ラーにラーと言っただけなんだから」


「間木さん。 アナタを訴える事になるかもしれませんので、このやり取りメモさせて頂きます」


そう言うとレイは財布の中から一枚のメモ用紙を取り出した。

そして間木にも死火璃にも見えない角度を取ってこう書き込み始めた。


 間木照子

 自殺

 ■年■月■日午後1時25

 他人に迷惑を掛けず、可能な限り遺体の発見され難い自殺の方法だけを考え、すぐに実行し死亡。


と。


そぅ。


そのメモ用紙は死人帖の一部だったのだ。


書き終えるとレイは死火璃を連れてその女を無視しその場を立ち去ろうと2、3歩行き掛けた。


すると、


「わたしを殺そうとしてもムダょ。


つー、まー、りー、・・・


『無駄ーーー!! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


ょ。 その名刺の名前は本名じゃないゎ。 ラー」


レイは立ち止まり振り返った。

無表情だった。

だが、心の中は違っていた。


『ヌッ!? この女は知っているのか。 死人帖で人を殺すためには顔と名前が必要な事を。 一体、どこでそれを知った?』


そして聞いた。


「まーだ言っているのか。 僕がラーだなんて。 一体、どこにそんな証拠が?」


「証拠ならあるゎ」


「ある?」


「えぇ、あるゎ。 先日、東西南北バスがバスジャックされたゎ。 アナタはそのバスに乗り合わせていたはずょ。 その娘(こ)と一緒にネ。 チャーンとアナタ達二人を写した写真をそのバスの運転手に見せて確認してあるゎ」


間木照子が悪野死火璃を指差してそう言った。


「僕達の写真を撮ったのか? 無断で? それは憲法で保障されてはいないが、数々の判例により法的に認められている肖像権の侵害行為に当たる可能性がある。 状況によってはその運転手の証言を取り次第訴訟を起こす。 アナタの本名を教えてくれ」


「嫌ょ。 第一そんな事をしたら困るのはアナタでしょ? 自分がラーだって疑われる事になるんだから」


「僕達が確かにそのバスに乗っていた事は認める。 だが、それのどこが証拠になるって言うんだ?」


「そうょ。 そんなの何の証拠にもならないゎ」


我慢しきれず、死火璃(しほり)が横からそう言った。


「なるゎ!! あのバスには殺された FBI 捜査官岩清水霊寺が乗っていたのょ。 アナタをマークしていた FBI 捜査官がネ。 そして彼はその一週間後に死んだゎ。 いいぇ、殺されたのょ。 ラーに、つまりアナタにネ。 霊寺は言っていたゎ。 アナタに身分証明書を見せたって。 それでアナタは知ったのょ。 霊寺の本名を。 そして殺したのょ。 岩清水霊寺を」


「一体アナタはあの人の何なんだ?」


「フィアンセょ!! 結婚するはずだったゎ!! 式の日取りだって決まってたんだから。 それをラーに、いいぇ、アナタに殺されたのょ。 いいぃ!? わたしは必ずアナタの尻尾を捕まえてみせるゎ。 今度会う時までにネ」


そう言って間木照子と名乗った超高ビー女は、レイ達に背を向けた。


『この女は一体どうやって? ・・・。 ン!? R か? そうか。 コイツは R から聞いたんだな。 という事は既に R は、死人帖で人を殺すには名前と顔が分かっていないとダメだという事に気付いているという事か』


レイは思った。


間木が2、3歩行き掛けて振り返った。


「あぁ。 そうそう。 既に R には必要な物は全て渡してあるゎ。 でも、安心しなさい。 アナタがバスジャックに居合わせた事だけは伏せておいたゎ」


「ン!? どういう事だ?」


「アナタに裁きを受けさせるのは R じゃなく、わたしだからょ。 誰にも邪魔はさせないゎ、例え R と言えどもネ。 アナタの正体を暴くのはこのわたしょ」


「ま〜だそんな事言ってるのか。 僕はラーなんかじゃないんだ」


「そうょ、そうょ。 レイがラーな訳ないじゃない。 バッカみたい」


「まぁ、精々(せいぜい)今の内だけネ、そんな事言っていられるのも。 覚悟してらっしゃい、日神太陽。 わたしは必ずアナタの尻尾を掴んでみせるゎ」


そう言い残して間木照子と名乗った超高ビー女が、



(スタスタスタスタスタ・・・)



足早にその場を立ち去った。

その後ろ姿を見つめながら死火璃が吐き捨てた。


「な〜にょ、あの女。 レイがラーな訳ないじゃン。 失礼しちゃうゎ、全く」


それにレイが同意した。


「あぁ。 全くだ」


こう思いながら、


『バカな女だ。 R にバスジャックの事を話さなかったとは。 否、助かったと言うべきか・・・。 だが、厄介なヤツが現れたもんだ。 早く始末しなければ』


と。


そして、


この間木照子と名乗った超高ビー女は勿論、・・・











美空スズメである。







つづく