ショート・ショート・ショート「セピア色した白い本」

 

 

 

以下は、 2006/11/22 に有栖川呑屋コマルが今は無き Doblog にうpしちゃったヤツ death ょ〜〜〜ん。

 

 

 

page 1 『チョッと重たいいつものケーキ』

 

 

 

(ピンポーン)

 

 

「ハーィ。 どなたー?」

 

「俺だょ、健一」

 

 

(ガチャ)

 

 

マンションのドアを開けて麻美が顔を出した。

僕は、中世ヨーロッパのジェントルマンがレディにするような大袈裟な身振りで挨拶した。

 

「お誕生日おめでとうございます。 お姫様」

 

意表を突かれた麻美。

ちと、リアクションに困っている。

目が点だ。

可哀想なので “素” に戻る。

 

「はい、プレゼント。 麻美の好きなコージーのショート」

 

「アリガト」

 

にっこり笑って受け取る麻美。

部屋に上がりながら言った。

 

「今年で3回目だょな、コージーコーナーのショートケーキ持って来んの」

 

「そういえばそうね。 あたし達付き合いだして、もう3年も経ったんだね」

 

「あぁ。 でも、今年のケーキはいつもよりチョッと重かった」

 

「え!? そぅ? 同じなのに?」

 

「うん。 同じなのに」

 

麻美が食器棚からティーカップを取り出した。

 

「コーヒーがいい? 紅茶にする?」

 

「カフェ、プリーズ」

 

「フッ。 はいはい、承知いたしました、王子様」

 

今度は、麻美がチョッとおどけた。

 

「おっとー、タバコ切らした。 チョッと買って来る」

 

「早く帰ってね」

 

「あぁ、ダッシュで3分、普通で4分かな。 角のタバコ屋だから」

 

「ダッシュ、プリーズ」

 

「フッ。 OK

 

そう答えて部屋を出た。

でも、僕はユックリ歩いた。

5分かかった。

約束より2分オーバーだ。

麻美のマンションに戻ってドアを開けた。

玄関からすぐダイニングだ。

 

麻美が立っているのが見えた。

エプロンのすそを目に当てて声を出さずに泣いていた。

右手には、プロポーズの言葉をしたためたバースディカード。

左手薬指には、店員さんに頼んでケーキと一緒にラッピングしてもらった指輪をはめて。

 

 

麻美は静かに・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣いていた。

 

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page 1 『チョッと重たいいつものケーキ』 お・す・ま・ひ

 

 

 

 

 

以下は、 2006/12/23 に有栖川呑屋コマルが今は無き Doblog にうpしちゃったヤツ death ょ〜〜〜ん。

 

 

 

page 2 『おもひで ポロポロ』

 

 

私には 『お父さん』 がいません。

 

私の父は、3年前に癌で死にました。

肝臓癌でした。

死の宣告を受けた半年後に息を引き取りました。

癌と診断された時は丸々と太っていたのに、死んだ時はガリガリに痩せていました。

でも、

あまり苦しむ事無く 『最後の時』 を迎えてくれました。

きっと、お薬のお陰だと思います。

 

頑固だったけど、真っ直ぐで、とっても子煩悩な父親でした。

死んで3年も経つと諦め付いちゃって、気が付いたら 『遠い人』 になっていました。

 

あんなに大好きだったのに・・・

お休みの日はよく一緒にショッピングに行ったのに・・・

いつも笑いが絶える事がなかったのに・・・

気が付いたら、遠い人・・・

 

今朝、

 

その父の夢を見ました。

懐かしくて、嬉しくて。

たくさん、たくさんお話しちゃいました。

あれやこれや、とりとめのない事をたくさん。

 

「・・・。 麻美。 パパはいつもお前と一緒だよ。 いつもお前と、・・・」

 

その言葉を聞いた時・・・

 

目が覚めました。

 

でも・・・

 

覚えている言葉はそれだけです。

あとは何を話したか全く覚えていません。

あんなに一杯オシャベリしたはずなのに・・・

 

私は時々寝汗を掻きます。

だから、いつも手の届くところにタオルを置いて寝ます。

ベッドの上で上体を起こして、そのタオルで顔を覆いました。

涙を拭くためにです。

 

ゥ、ゥ、ゥ、・・・

 

「パパー!?

 

ゥ、ゥ、ゥ、・・・

 

拭いても拭いても、涙は止まりません。

暫(しばら)くそのままでいました。

どの位経ってからでしょうか、少し気持ちが落ち着きました。

そしたら体が冷え切っていることに気が付きました。

ガウンを着て、暖房を入れて、洗面所に行きました。

顔を洗うためにです。

お湯の栓を捻ってもすぐには温かくなりません。

水が暖まるまでボンヤリしていたら、又、涙が溢れてきました。

夢の事を思い出しちゃったからです。

泣きながら顔を洗いました。

気持ちが落ち着くまで何回も。

 

顔を拭いてから、時計を見ると午前5時チョッと過ぎでした。

 

『もう眠れないな』

 

そう思いました。

だから気分転換のため、テレビを点けて冷蔵庫からジュースを出して飲みました。

 

わたしのお家には仏壇があります。

小さい仏壇です。

お家が狭いので大きいのは置けません。

だから小さい仏壇を置いています。

でも、その中には大きな 『父の遺影』 が入っています。

おっきなおっきな遺影です。

遺影の父はこっちを向いて、にっこりと微笑んでいます。

 

飲み終わったジュースのグラスをテーブルに置いた時・・・

 

父の遺影と目が合いました。

 

 

 

 

ポロ、

 

ポロポロ、

 

ポロポロポロ・・・

 

 

 

 

 

 

page 2 『おもひで ポロポロ』 お・す・ま・ひ