深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #0 プロローグ


この物語は・・・

偶然、ある事件に遭遇した・・・

ごく普通の家庭に生まれ・・・

ごく普通に育ち・・・

ごく普通の教育を受けた・・・

ごく普通の少女の・・・

ごく普通ではない・・・

お話である。。。



で!?

これを読むに当っては、

『金田一少年の事件簿』

の!?

『オペラ座館殺人事件』

を!?

読んどって臭い。。。



あれのパクリじゃヶぇ。。。



つーこって・・・

コレ↓




深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #1


「公園(まさぞの)おじちゃん、こんにちは。 お世話になります」

身長150cmと小柄ではあるが、抜けるような色白長髪のローゼンメイデンの真紅のように可憐で、優雅で、美しい、まるでフランス人形を想(おも)わせる美少女、深大寺 少年(じんだいじ・すくね)が出迎えに来ていた叔父の深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの)に言った。

ここは平成22年8月ある日の早朝、深大寺 公園の住む太平洋上の離島。

そこで公園は源泉懸け流しの湯のある民宿を営んでいた。
元々は旧財閥の別荘を公園が10年程前に漁業権付きで島ごと買い取り、民宿として使えるようにリフォームした物だ。
もっとも民宿とは言っても建物は少々古いが中々の物で、二階建てではあるが建坪はかなりあり、離れには周りの海が一望できる源泉懸け流しの男女混浴大露天風呂の他に、一席一席ユッタリとスペースを取ってある総客席数400のチョッとした、高校の体育館サイズのミニシアター兼ダンスホールもある。
それはこの建物の建て主が風流人で、社交ダンスからクラシック・バレー、それに歌舞伎、能、浄瑠璃、といった演劇に深い造詣があり、その中でも特に歌劇を強く愛していて、こんな交通の便など全く期待出来ない離島であるにもかかわらず、年に数回、知人を招いてはここで避暑、あるいはバカンスを兼ねたダンスパーティやらコンサート、それに観劇、時には超豪華な結婚披露宴、そう言った物を開くためにわざわざミニシアターを造成していたのだった。
そしてそのミニシアター兼ダンスホールはローマのコロセウムのような円形劇場の超小型版に壁と天井を付け、その観客席だけを五等分し、何も手を加えていない舞台にその観客席を据え付けたような広げた扇に似た形をしていた。

こんな設備を供えている以上、この建物は、単に民宿と言うより超高級リゾートホテルと言った方が近い・・・か?

当然、料金もそれなりに設定してある事だし・・・

又、

離島と言っても本土と然(さ)して離れてはおらず、晴れていれば肉眼で見える距離にあり、チョッと泳げる人間なら余程天候が悪くない限りその気になれば泳いで渡れる。
島の大きさは大凡(おおよそ)東京ドーム5個分。
全体的に潅木(かんぼく)と喬木(きょうぼく)の入り雑(ま)じった原生林に覆われたこんもりと盛り上がった台地で、少々の高波位では何ら影響を受ける事はない。
その島の北面は断崖絶壁であり、その際(きわ)に民宿は建っている。
島の住民は公園と妻の卒婆(そば)、それに長男・霊園(よしぞの)、その妻・深沙(みさ)の総勢4人。
長男夫婦に子はまだない。
民宿を公園夫婦が切り盛りし、長男夫婦は漁船で漁に出る。
島と本土との行き来には大抵、漁の合間にこの漁船を使っているが、客の送り迎えはプレジャーボートを使う。
最大15人乗りの真っ白な “アズール415 コンバーチブル” だ。
この日は漁船に乗って少年はやって来ていた。
夏休みを利用した、叔父の民宿の手伝いを兼ねたバカンスのために。

最後に、

深大寺 公園は、現在50才。
細身で身長170cmと左程(さほど)背は高くはないが、キリッと引き締まった端正な顔立ちで、色は浅黒く口髭を蓄えている。
若くして自力で不動産会社を立ち上げ、経営していた。
バブル期に株と不動産で大儲けし、周りから将来を嘱望されていたが、大儲け出来たのは単に運が良かったからに過ぎず、雇われ社員なら問題ないのだが、会社経営者としてはいささか気弱過ぎる事を自分自身よく承知していた。
そのため、又、生来、海と自然が大好きだった事もあり、バブル崩壊と共に大きくなった会社を整理し、自らはその時儲けた金を元手に現在の民宿経営を始めたのだった。
始めた当初は、先が全く見えない程の赤字の連続だったが、諦めずに辛抱して続けて来た結果、ここ数年はご贔屓筋の口コミで常連客も増え、昨年からようやくとんとんまでこぎ着け、先が見え始めていた。

二人は今、その離島の埠頭(ふとう)にいる。

公園が少年の挨拶に答えた。

「やぁ。 少年ちゃん、久しぶり・・・って。 ふ〜ん。 暫らく会わないうちに随分オトナっぽくなったねぇ。 すっかり奇麗になっちゃって。 おじちゃん見違えちゃったょ」

「だって、おじちゃん。 アタシもう16だょ」

「え!? もうそんなに」

「うん」

少年が頷いた。
そして持って来ていた大き目のボストンバックを一旦、地面の上に置き、自分の成長した姿を見せびらかすようにその場でクルッと一回ターンした。
その時の少年のその姿はバレリーナ、あるいはプロのダンサーがステージで見せるような優雅さだった。
しかし流石は女子高生。
スカートが短い。
それがフヮッと舞い上がり、一瞬、チラッと来た。

白!?

・・・だった。

その仕種を繁々と見つめながら、公園は少年が近親であるにも拘(かかわ)らず、

『お!? 白!? し、しかもマンスジクッキリ・・・。 ウ〜ム。 それに、乳(ちち)の張れ具合も中々・・・』

ナンゾと思わず思っちゃった。

一瞬、

『やべっ!?』

って、思った。


(ゾクッ)


悪寒が走った。
慌(あわ)ててそれを悟られないように惚(とぼ)けて言った。

「そうかぁ。 もう16かぁ。 じゃぁ、乳が張れんのも・・・。 あ!? いやいや、その〜、なんだー。 オトナびるのも無理ないねぇ。 ァハ、ァハ、ァハハハハハハ・・・」

が!?

つい本音が出ちまっていた。
チョコっと笑って誤魔化した後、素に返って、

『妙な事を言うヤツだ』

つー、顔付きして自分を見ている少年に聞いた。

「元気だった?」

何事もなかったかのように少年が答えた。

「うん。 公園おじちゃんは?」

「ご覧の通りさ」

胸を張り両手を広げて、公園が大袈裟に自らの健康さをアピールした。

その時、

少年がたった今降りたばかりの漁船から、声が掛かった。

「じゃ、少年ちゃん。 また後で」

少年が振り返って言った。

「うん。 霊園兄(よしぞの・にい)ちゃん、どうもありがと」

「じゃぁね、少年ちゃん。 また後でね」

「深沙姉(みさ・ねえ)ちゃんもね。 どうもありがと」

声を掛けたのは霊園と深沙だった。

深大寺 霊園は現在25才。
身長190cmの大柄な体躯をしたスポーツマン。
父親譲りでハンサムだが、色は正反対の白・・・アルビノと言ってもいい位の白だ。
もっとも今は日焼けして真っ黒ではあるが。
大学卒業後3年間、民間会社で働いていたが、去年、深沙と結婚。
それを機(き)に会社を止め、今は公園の民宿を手伝っている。
それは、父親同様、海と自然が大好きだったからに他ならないが、中学・高校は寮生活、大学時代は下宿暮らし、就職後は会社の寮というように長い事親元を離れていたため、一緒に住みたいという強い思いと、行く行くはこの民宿を継がなければならないという事もあり、それなら早い内から手伝っていた方が良いという判断からだった。

又、

その妻、深沙は現在24才。
霊園の大学時代の後輩で、元ミスキャンパス。
誰もが憧れる超美人だ。
菅野美穂のような顔立ちをしていて、身長164cm。
結婚前、2年程、某貿易会社の秘書課に勤務していたが、知っての通り、今は会社を止め霊園を手伝っている。

この二人の頑張りで、去年から民宿経営が好転したのだ。
その霊園、深沙の乗る漁船が再び海に出た。


(ポンポンポンポンポン・・・)


漁に出たのだ。
民宿で出す料理のメインディッシュ用と漁港に卸す漁猟のために。

それを見送り、少年と公園は目的の場所へと向かった。

そぅ・・・

目的の場所・・・公園の営む民宿へと。

そしてその民宿・・・それはその名を、

『オペラ座館』

といった。

この『オペラ座館』のベースとなった建物の建て主が、離れのミニシアターに付けていた・・・










その名を取って。











つづく

【注】 あの〜・・・。 分かってくれてると思ふヶど、この物語はふぃくしよん death DA







深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #2


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻





「さぁ、着いたょ、少年(すくね)ちゃん。 ここだょ」

「わぁー、素敵!?」

埠頭(ふとう)から公園(まさぞの)の案内で島を一通り徒歩でユックリ観光した後、目的の民宿に到着した少年はその思いのほか立派な建物を見上げて溜め息を吐いた。
それは明治時代に建てられた物ではあったが、流石は元財閥の別荘。
それも初めから来客をもてなす事を主目的として建てられた物、惜しげもなくふんだんにレンガを使った白黒基調の、シンプルではあるが重厚な造りのゴシック様式の建物だった。
当然、宿泊客用の部屋は全て洋間で一部屋一部屋全ての間取りが広い。
つまり、全ての部屋が寝室、バス、トイレ、ドレッサーを兼ねた洗面台以外にも居間あるは応接間のあるスィート・ルーム( suite room )になっているという事だ。
又、全ての部屋の床、絨毯、壁、天井等の色は淡いクリームが主流で、それらが上品なルイ・フィリップ様式で統一された家具類を見事に引き立てていた。

とはいう物の、それはそれ。
流石に明治時代の建物、しかも間近の海に囲まれた吹きさらし。
パッと見では気付かないが、良〜く注意してみると外装は所々ガタが来ている。
もっとも旅行客が気に留める程ではない。
しいて言えばという程度だ。

「気に入ってくれた?」

「うん。 最高ー!!」

「じゃ、中はどうかな。 気に入ってくれるかな?」

公園が観音開きのドアの右側の方を手前に引っ張って開けた。


(カランカランカラン)


ドアに取り付けてあるカウベルの音がした。

「ジャン!! これが中。 さ、どうぞ」

公園がドアが閉じないようにドアをオープンロックしながら言った。

「うん。 お邪魔しま〜す」

少年が先に玄関に入った。
一歩中に入って、再び溜め息を吐いた。

「ぅわー。 ・・・」

一般的な日本の建物と比べて天井が高い。
倍近くある。
特に玄関は吹き抜けになっているので尚更だ。
加えて外観同様中も又、落ち着いた感じの白黒基調のゴシック様式。
しかし、玄関を入って直ぐのロビーに置かれてある家具などの調度品は、ルイ・フィリップ様式で統一された室内と違い、白地に所々淡いピンクの入った精緻なロココ調で、それらが真っ白な壁とワックスでピッカピカに磨き上げられた漆黒の床と手摺(てすり)に実に良くマッチしている。
床のセンターに敷かれている厚手の少し年季が入っていそうではあるが見事な仕立ての、恐らくペルシャ製と思われる絨毯にもそのセンスの良さが遺憾なく発揮されていた。
照明も玄関吹き抜け部分に設置されてある豪華なシャンデリアを中心に、所々にアンティークな器具がセットされてある。
しかもそれらが直接照らすのではなく、壁や天井に反射するように工夫されていた。
電球ランプは全て淡いオレンジっぽい自然光だ。
だからピカッっと明るくではなく、ほんのりと建物内部を照らしている。
それがその建物に豪華な異国情緒を醸(かも)し出し、より一層の重厚感を演出していた。
例え審美眼という物に全く無縁の人間でも、一目見ただけでオーナーのセンスの良さを理解出来るだろう・・・程に。

又、

玄関を入った左手奥の壁の中央には、大きくて立派な恐らくキューピッドと思われる十数体の背中に羽を持つ子供の上半身が彫刻されている天然大理石で造られた暖炉があり、直ぐ右手には扉のないオープンな大食堂があるのだが、そこはロビーと打って変わって、チョッとくすんだ感じのクリーム系のやはり天然大理石の床に、所々、フェルメール・ブルーのパネルが張り込まれた全体的に淡いクリームの壁で、それが天井に取り付けられた大型のシャンデリアと天井に埋め込まれたスポットライト、加えて、各テーブルのセンターに置かれているステンドグラス風の笠を持ったアンティークな陶器製と思われるテーブルライトによって、なんとも言えない風合いを演出している。
テーブルと椅子は、ロビーと同じ白地に所々淡いピンクのロココ調で統一されていた。
窓には大型の透明ガラスが連続して数枚はめ込まれていて、外の景色が大パノラマとなって見える仕組みになっている。
その一角のロビー部分に造り込まれている元々はバーだった所を公園はカウンターとして利用していた。
カウンターの上には、固定電話、レジ、宿泊者名簿といった普通ホテルにあるような物の他に、これもやはり超高価に違いないアンティークな置時計が置かれてあった。

少年が内部を見回しながら玄関でこの民宿の従業員専用の上履きに履き替え、ロビーに入って来た。
そして絨毯を見つめて言った。

「ぅわー、この絨毯、超豪華!? たっ、かそう・・・。 これって、ペルシャ織?」

「お!? 少年ちゃん。 まだ若いのに目が利くね。 そうなんだょ、これは前のオーナーの特注品らしくってね。 普通じゃ、絶対手に入らないんじゃないかって、ここリフォームする時、業者に言われた位の品なんだょ」

「ふ〜ん。 凄いね」

「だろ。 チョッと自慢なんだ」

ここで少年は民宿内部をグルっと見回した。

「でもこの内装、全部、公園おじちゃんのお見立て?」

「う〜ん。 半分位はそうかな・・・。 うん、半分位は」

不意に背後から声がした。

「違うわょ。 わ、た、し・・・。 わたしの見立てょ」

少年が振り返った。
玄関に、公園の妻で少年の義理の叔母の卒婆(そば)が立っていた。
少年達の後から入って来ていたのだ。
手には籠を持っている。
中には採り立ての山菜がタップリと入っていた。

深大寺 卒婆は現在48才。
身長160cm。
所々白い物が混ざっている髪はあまり長くはないが、如何(いか)にも和服の似合いそうな典型的な大和撫子だ。
一目見れば、誰しもが『世話女房』と思うに違いないような容貌をしている。
どことなく、先頃他界した女優の池内淳子に似てなくもない。

「あ!? 卒婆おばちゃん」

「いらっしゃい、少年ちゃん。 待ってたゎょ。 それにしてもまぁ、なんと奇麗になった事。 まるでお人形さんみたい。 お義兄さんにそっくりね」

そう言って、


(カランカランカラン)


オープンロックされているドアを卒婆が閉めた。
公園は先程ドアを開けた時、内部に人の気配を感じなかったので、まだ卒婆が山菜取りから帰って来ていない事を察知してオープンロックしたのだった。

「ェヘ!? そんなに似てます?」

チョッピリ照れくさそうに少年が聞き返した。

「そっくりょ。 目元なんか瓜二つ」

「良く言われます」

「でしょうね、これだけ似てれば」

「まぁ、立ち話もなんだ。 部屋に案内するょ。 少年ちゃんの部屋は203号室。 こっちだょ」

2人の話を遮って、公園が203号室のある2階を指差した。

その時、


(ボーン、ボーン、ボーン)


午後3時を告げる柱時計の音がした。

ホテルのロビーに据付られている、これまたアンティークで超高価そうな柱時計の・・・










音が。











つづく







深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #3


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 他





少年が公園の民宿に来た同じ日の夕方。


(カランカランカラン)


玄関のドアを開け、一人の男が入って来た。
否、一人の男装の人間といった方がいいかも知れない。
というのも、男にしては少し華奢(きゃしゃ)。
なら、女か?
と言えば、少々男っぽい。
髪型を見ればある程度判断出来るのだが、その男はアストラカン・ファー【毛皮の一種 : 作者註】を使ったシルクハット風と言うか寅さんの帽子風と言うべきか?
否、そうじゃない!?
笑うセールスマンの被っている帽子風と言うのが一番近い・・・か?
それっぽい帽子を被っていたため髪型は全く分からない。
まぁ、どちらかと言えば男に近い。
そんな感じだった。

その華奢な男はビッコをひいていた、それもかなり酷く。
右足が悪いようだ。
中肉中背で身長175cm前後。
この季節【この物語の設定は平成22年8月になっとりまふ : 作者註】には場違いな少し大きめのロングコートに帽子、濃いサングラスにマスク姿、両手に薄い手袋、それに杖を突いている。
この外観故、男女の区別がつけ難かったのだ。
しかも、次のやり取りがなかったらチョッと怪しい。

否、

かなり怪しい・・・雰囲気だ。

「お帰りなさいませ、死喪田(しもだ)様」

ロビーのカウンター越しに公園が男に声を掛けた。
男がカウンターに歩み寄った。
そして男にしてはやや甲高い声で言った。
宝塚の男役のような感じで。

「マスター。 どうしても明日の昼までに仕上げなければならない原稿があってね、これから缶詰だ。 済まないが、余程緊急の用がない限り、わたしが出て来るまで誰も部屋には近付けないでくれ。 気が散っていかん。 夕食はいつものように部屋で取るから宜しく。 それと明日の朝食は要らない。 昼食も必要があればわたしの方から出向く」

「左様(さよう)でございますか、承知致しました。 しかし食べ終わられました食器などの後片付けはいかが致したら?」

「あぁ。 食器は一段落したらわたしが持って来るから取りに来ないで欲しい。 部屋の掃除も必要ない」

「畏(かしこ)まりました」

「では宜しく」

死喪田と呼ばれた男がカチッという杖を突く音と共に、


(コツコツ、カチッ。 コツコツ、カチッ。 コツコツ、カチッ。 ・・・)


コツコツ足音を立てて、ビッコをひきながら階段を上って2階の自分の部屋に戻って行った。
その男は1階に空き室があるにも拘(かかわ)らず、その方が眺望がいいという理由で足が悪いのにあえて2階に宿泊していた。
世の中には、ある種の事に普通の人間からしてみると信じられない程、強いこだわりを持つ者がいる。
この男の場合、それがロケーションだったようだ。

そして、

その男の歩く後ろ姿を公園は見守った、民宿のマスターとして。
少年も見守っていた、不思議そうな表情をして。
丁度その時、少年は手伝いで玄関の窓ガラスを拭いていてその場に居合わせたていた。
少年の今の服装は流石にパンツの見えそうなミニスカートという訳にはゆかず、黒のパンツルックに白い立ち襟のワイシャツ、そして黒い蝶ネクタイにやはり黒いエプロン。
それが白黒基調のゴシック様式の内装に合わせた、この民宿のユニホームだ。(パンチラスカートの方が絶対客来んのに・・オスが・・オッスって・・ぇへぇへ、え、へ、へ、へ、へ : 作者)

雑巾を手に、少年がカウンターに歩み寄った。

「公園おじちゃん。 今の人」

「あぁ。 死喪田 歌月(しもだ・かげつ)様だょ。 昨日からお泊りなんだ」

「何してる人?」

「作家さんらしいょ。 詳しい事は知らないけど、そう言ってた」

「ふ〜ん。 作家さん? しもだ・かげつ? 聞かないね。 似たようなのはいるヶど」

「そうだね。 きっとペンネームがあるんだょ、他に。 でも何書いてんだろね。 チョッと気になるね」

「うん。 ・・・。 『しもだ・かげつ』ってどんな字書くの?」

「こんな字だょ」

そう言って公園が宿帳を開いて見せた。
そこにはこう書かれてあった。

『205号室 死喪田 歌月様』

と。

つまり、死喪田 歌月は205号室・・・即ち、2階の5番ルームに宿泊していたのである。

それを覗き込んで少年が呟(つぶや)いた。

「へー。 変わった苗字だね。 普通の『下田』じゃないんだ」

「うん、そうだね。 チョッと変わってるね」

「・・・」

少し考えてから少年が聞いた。

「でもあの人、右足がお悪いの?」

「みたいだね。 前もそうだったから」

「初めてじゃないんだ」

「そぅ、今回で3回目だょ、うち来てくれたの」

「常連さん?」

「う〜ん。 最初に来てくれたのが・・・。 ぇえーっと、確かぁ・・・2ヵ月位前で。 次がぁ・・・3週間位前だったかな。 まぁ、常連さんって程でもないけど、これからが楽しみなお客さんではあるね」

「足がお悪いのに2階にお泊りしちゃってるんだね、1階じゃなくって」

「あぁ。 なんでもその方が落ち着くらしいょ、覗(のぞ)かれる心配がないからって。 それに見晴らしもいいからって。 確かにこの建物からの景観は1階より、断然2階だけどね。 だから2階。 それも5番。 始めて来てくれた時、2階の空き部屋全部見て回って、『5番が一番だ!!』って、そう言われてね。 以来、ズッと205号室指定・・・なんだ」

「ふ〜ん。 こだわっちゃう人なんだ」

「うん。 そんな感じだね。 作家さんだから普通の人と感性違うんだょ、きっと」

「そうだね。 ・・・。 あ!? でも、1回、何日位お泊りしてるの?」

「3日だょ、3日。 2泊3日。 初めての時も、2回目も、今回も2泊3日の予約だょ」

「夕食はいつものように部屋でって・・・?」

「あぁ。 あの方、食事はいつも部屋に運ばせるんだ。 朝、昼、晩、全部ね。 誰にも邪魔されずに自分のペースでユックリ食べたいんだって」

「ふ〜ん。 変わってるね」

「少年ちゃんにはね」

「え?」

「長年こういう仕事してると色んなお客さんがいてね。 別に珍しい事じゃないんだょ。 そういうリクエスト」

「ふ〜ん。 そっかぁ。 でも暑くないのかなぁ、あんなカッコで」

「うんうん、それそれ。 それなんだょねぇ。 なんでも鳥インフルエンザ対策らしいょ、あの格好。 でも、暑いょねぇ、あれじゃぁ。 もっとも前来た時も似たような格好だっんだけどね、始めて来てくれた2ヵ月前も、2回目の3週間前も」

「じゃぁ、街ですれ違ってもきっと分かんないね」

「多分ね。 もしかしたら有名人で、お忍びかな?」

「あ!? それってありかも・・・。 だったらおじちゃん、嬉しいね」

「そうだね。 って、ないか〜。 そんな事」

「住所と電話番号分かってる?」

「一応ね。 ネット予約だけど書き込んでもらってはあるょ。 あ!? 電話番号はないかぁ。 携帯の番号教えたくないんだって。 代わりにメルアド。 フリーメイルだけどね」

「『お調べ』しないの?」

動詞『調べる』に助詞の『お』をつけて『お調べ』と体言化する。
これは少年の喋り癖だ。

「そんな事しないょぉ。 別にトラブル起こした訳でもないのに。 それに料金はいつも全額前金だし。 ・・・。 でも〜、何でそんなに気にするのかなぁ〜・・・。 あのお客様の事〜・・・」

一瞬、公園が悪戯っぽい目で少年を見た。
そして続けた。

「あ!? もしかして少年ちゃん、一目惚れ?」

「ち、違うょ、おじちゃん。 そんなんじゃないょ」

「お!? そんなにムキに・・・。 な〜んか怪しいぞ〜」

「な、なってなんかないょー! ムキになんかー!!」

「そっかぁ?」

「そうだょ。 決まってんじゃん。 年が違いすぎるょ」

「ん!? 知らないな、少年ちゃん。 年の差なんてのはねぇ〜。 愛さえあればなんとでも・・・」

「ぅん!? もう、おじちゃんの意地悪ぅ。 知らない!!」

少年がチョッとスネテ見せた。
慌てて公園が謝った。

「あぁ、ゴメンゴメン。 兄貴に叱られちゃうな、あんまり言うと。 でもね、少年ちゃん。 あの人少し変わってるけど悪い人じゃないょ。 それは間違いないと思うょ」

気を取り直して少年が相槌を打った。

「うん。 そうだね。 ここに悪い人なんて来ないょね」

「そうそう、来ない来ない。 いい事言うね〜、少年ちゃん」

「・・・」

少年は黙った。
そして思った。

『ふ〜ん。 でもあの靴・・・。 もしかして・・・シークレットブーツ?』

と。

もう一度、死喪田 歌月の泊まる205号室の方に・・・










視線を向けて。











つづく







深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #4


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 他





― その翌日早朝 ―


「あ〜〜〜!! めんどっちぃーーー!! 止めだ止めだ止めだーーー!! こんな事ーーー!!」

って、身長170cm位で、ジッつにおバカっぽく、そんでもってどこにでもいそうなツマラン顔した、どっかの高校の制服っぽいの着た、ダサ〜〜〜いオスが叫んだ。

ソヤツは、私立御不動山学園高等部進学科(しりつ・おふどうさんがくえん・こうとうぶ・しんがくか)2年、金田一 一 (きんだいち・イチ)だった。

この御不動山学園というのは中高一貫教育で、●●県屈指の名門校であると同時に、芸能部として有名無名を問わず多くの若手芸能人やグラビアアイドル等が通う事でも有名だった。
そのダサ〜〜〜いオスは今、手に A4 サイズのコピー用紙を製本した物を持っている。
それは手作りの芝居の台本で、表紙には大きく 『オペラ座の怪人』 と印刷されていた。
恐らくそれが演目なのだろう。

その下には、

『ガストン・ルルー原作』

『アンドリュー・ロイド・ウェーバー脚本』

の文字もあった。
その翻訳本である。


「ダメょ、イッチャン。 ちゃ〜んと台本読んどいてくれなきゃ」

名無 美雪(ななし・みゆき)が言った。


(あの〜、これからココに出て来る『イッチャン』あるいは『イチ』つーのは、金田一 一の事っス。あの民主党の汚縄 一郎(おなわ・いちろう)の事ではありまっしぇん。今後、単に『イチ』って書いてあったら、それは金田一 一の事と思ってチョ。ヨロピコ : 作者)


この名無 美雪はイチの同級生で幼馴染(おさななじみ)だった。

「イッチャンには音響係やってもらうんだからね。 大筋位はキチンと掴んどいてくれなくっちゃぁ」

「だって、つまんねぇーじゃん。 これ」

「そんな事ない!!」

「ある!!」

「ない!!」

「ある!!」

「ない!!」


(確かにツマラン!! うん。 確かに・・・。 あのさぁ、これ書くに当たってガストン・ルルーの翻訳モン【オペラ座の怪人・角川文庫版】読もうとしたんだヶ怒さぁ。 良くまぁ、あんなツマンナクって分厚いの全部読めるよなぁ、感心しちまうぜ、全く。 最後までお読みになられたお方様方(かたさまがた)、もしいらしたら、粗筋おせーてたも。 ワチキは54ページまでが限界ですたぁ。 ギブしちゃいますたぁ。 ギブギブ!! しかーーーし、初期のユニバーサル・ホラー映画“ふぁん”のワチキはあの名優ロン・チャニー酒宴の 否 主演の無声映画『オペラの怪人』と1943年製作のメリケン映画、アーサー・ルービン監督、クロード・レインズ主演『オペラの怪人』の DVD を参考にして書いちゃふのであった。 あ!? あとねぇ、名前わからんのだヶど『 http://www.geocities.jp/lot_no_666/poto.pdf 』さん を!? 使わせてもらっとるんょね。 『 http://www.geocities.jp/lot_no_666/poto.pdf 』さん ここに厚く御礼申し上げまふ : コマル)


「うっ、るさいわねー!! 静かにしてちょうだい!! 気が散るでしょうー!!」

って、突然、大声でほざいたメスがいた。
ソヤツは、イチ達の隣側で二つほど後ろにあるボックス席に座っている女だった。
そしてその女も又、イチ同様、『オペラ座の怪人』の台本を読んでいる。

その女は・・その名を・・桐生 冬美(きりゅう・ふゆみ)と言った。

やはり、17歳で私立御不動山学園高等部花組(はなぐみ)の2年生。
細身で長身、恐らく168cm位あるだろう。
メガネを掛け、知的ではあるが左程(さほど)美人ではない。
もっとも、ブスでもないが。
勿論、演劇部員であることは言うまでもない。
名無 美雪と同じ『花組演劇部』の。

そしてその演劇部の出し物『オペラ座の怪人』のメグ・ジリー役を、主として演ずる事になっていた。

ここは片側2人掛けの対面式ボックスシートになっている・・・










特急列車の中である。











つづく




 


深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #5


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄の短いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染

 桐生 冬美(きりゅう・ふゆみ) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 美雪と同じ花組演劇部員





イチは今、美雪に口説き落とされ、列車に乗って美雪所属の花組演劇部の合宿に行く途中だった。
一ヵ月半後に迫った学園祭での『オペラ座の怪人』上演のための合宿だ。

イチ達の通うこの私立御不動山学園の芸能部には数多くの若手タレント、芸能人、モデル、グラビアアイドル、・・・達が通っていた。
それ故、この学校の学園祭は常に脚光を浴びていた。
必ずと言っていい程、毎年この学園祭で何人かの有望新人が発掘されていたからだ。
しかもその中からは、過去何人かのスターも生まれている。
だから、それはいつも、まるで有望新人発掘オーディションの様相を呈していた。
上記の理由により、当然この学園祭の出し物は個人、グループを問わず、歌、バンド演奏、ファッション・ショー、そして演劇といった物がその主流を占める事になる。
中でも、演劇は学内に六(むっ)つの演劇部がある程盛(ほど・さか)んで。
一演劇部3時間の持ち時間で、夫々が重ならないように時間配分され、学園祭3日間に渡って実力を競い合っていた。
それはこの学園が演劇に特に力を入れていた所為(せい)もある。

又、

今回、この六つある演劇部の内の一つの 『屁組(へぐみ)』 には、この学園の生徒で超人気アイドルグループ 『スワップ』 のメンバー5人のうちの香取 信号信号(かとり・シンゴーシンゴー)と珍股 臭g(ちんこ・くさなぎ)の二人も所属していた。
そのため、それでなくても学園祭の超目玉の演劇部対決、否が応でも注目が集まる事が予想された。
当然、将来のドル箱スター発掘に躍起(やっき)になっているプロダクションや有名劇団あるいはマスコミ関係者などが、勇んで見に来るのは間違いなかった。
従って、単なる自己満足の部活と違い、殆(ほと)んどプロ意識を持って各演劇部の部員達は臨んでいた。
その意気込みたるや半端ではなく、火花が散る事など日常茶飯事・・・当たり前の事だった。

ところが最近、この内の一つの演劇部で表には出てはいないがある事件が起こっていた。
それも名無 美雪の所属している花組演劇部だったのだ、ある事件が起こっていたのは。
それがどのような事件かというと、今回の出し物、つまり 『オペラ座の怪人』 のヒロイン、クリスティーヌ・ダーエ役に決まっていた冬島 月子(ふゆしま・つきこ)の突然の自殺だった。

それも、


 呪われろ!
 詮索好きのパンドラ!
 この悪魔
 お前が見たかったのはこの顔か・・・

 呪われろ!
 裏切り者のデリラ!
 恩を仇で返す奴め!
 二度と自由になどさせるものか!
 何て奴だ――呪われろ――

 想像を遙かに超える醜さだろう
 その目で見ることはおろか
 思い浮かべることすら堪え難い顔だろう
 地獄の火に焼かれた
 この忌まわしい怪物は
 それでも密かに、天に焦がれるのだ
 人知れず――人知れず――

 だが、クリスティーヌ――
 恐怖は、愛にも変わりうる
 お前にもやがて、見える時が来る

 怪物の外見の内に隠された
 一人の男の姿が
 目を背けたくなる 骸の如きこの姿
 獣のような男は
 それでも密かに、美を夢見るのだ
 人知れず――人知れず――
 ああ、クリスティーヌ――


【上記原文:

(Damn you!
 You little prying Pandora!
 You little demon
 is this what you wanted to see?

 Curse you!
 You little Iying Delilah!
 You little viper!
 now you cannot ever be free!
 Damn you . . .Curse you . . .

 Stranger than you dreamt it
 can you even dare to look
 or bear to think of me:
 this loathsome gargoyle,
 who burns in hell,
 but secretly yearns for heaven,
 secretly . . .secretly . . .

 But, Christine . . .
 Fear can turn to love
 You'll learn to see,

 to find the man
 behind the monster:
 this . . .repulsive carcass,
 who seems a beast,
 but secretly dreams of beauty,
 secretly . . .secretly . . .
 Oh, Christine…)

 THE PHANTOM OF THE OPERA - Andrew Lloyd Weber より】

 出所 : 『 http://www.geocities.jp/lot_no_666/poto.pdf 』さん



という、オペラ座の怪人エリックの台詞を残しての、ある事件が原因で入院していた病院の屋上からの飛び降り自殺。

この不祥事を学校は可能な限りあらゆる手段を講じて封印していた。
だが冬島 月子の自殺は、花組演劇部の部員達に取ってみれば皆この芝居により真剣に取り組んでいたがため、返って受けた精神的ダメージは計り知れない程大きく、その結果、相当数の部員が花組から他の組に転組し、他の五つの演劇部に鞍替えしてしまっていた。
そして残った部員は男4人、女4人の全部で8人だけとなっていたのだ、花組は。

因(ちな)みにこの芝居の主な登場人物は、

 ファントム(オペラ座の怪人)・エリック(基本的に男が演ずる)
 クリスティーヌ・ダーエ(女の役)
 ラウル・ド・シャニー子爵(男の役)
 カルロッタ・ジュディチェルリ(女の役)
 メグ・ジリー(女の役)
 マダム・ジリー(女の役)
 ムッシュー・アンドレ(男の役)
 ムッシュー・フィルマン(男の役)
 ウバルド・ピアンジ(男の役)

の、総勢9人。

この他に声楽指導主任のレイエ、前支配人のルフェーブル、怪人エリックに首を吊って殺されることになる天井舞台装置主任のブヶー、それに消防隊のチーフ、隊員、対ファントム狙撃手、加えて上記ムッシュー・フィルマンの妻、そしてエキストラ・・・適宜。

となる。

という事は、この芝居には最低でも男5人、女4人の計9人必要なのだ。
しかし、現在の部員総数は男4人に女4人の合計8人。
つまりこの花組演劇部は一時的に人員不足に陥ってしまっていたのだった。
そのため、怪人エリック役演技者がエリック役の他にもう一つ、劇中劇の中で、このエリックに本当に殺され、しかも殺したエリックが代わりにその役を演ずる事になるというウバルド・ピアンジの役をも演じなければならなくなっていたり、指揮者レイエや消防隊員やらを女優による一人二役が必要となっていたり、場面場面で適当数必要なエキストラやら舞台装置やら照明やら音響等は出演者が出番の合間に交代で行なわなければならなくなっていた。
現状は、斯(か)くも大変な状況だったのだ。

だが、

その大変さが返って残った部員達のハートに火を点けていたのも事実だった。
この芝居を立派にこなせばそれこそ自分達の演技力、企画・運営能力、そういった物を見に来た関係者らにより強くアピール出来るからだ。
従って演目の変更も一応、検討される事はされたが、結局の所この難局を全部員一丸となって乗り切ろうという最終確認がなされただけ、という結果に終わっていた。

そして、

パリの“オペラ座”内での事件を扱い、オペラ仕立てであるという今回の演目が演目なだけに音響は特に重要で、これだけは部員の掛け持ちでという訳には行かなかった。
そこで美雪の幼馴染で同級生、そして半ば公然の仲である金田一 一(きんだいち・イチ)にお鉢(はち)が回って来たという訳だ。
というのも学内随一の才媛・名無 美雪とは正反対の劣等生ではあったが、このイチというヤツは兎に角、手先が並外れて器用な上に凝り性で、例えどのような事でも一度イチが本気で取り組めば忽ち上達し、その結果、その道のプロ顔負けの力量を発揮するのだ。
だから劣等生というのは単に勉強嫌いなためそれをしないだけで、本気で取り組めば学内随一どころか国内随一、否、国際級のポテンシャルを発揮するに違いなかった。
それもそのはず、このイチと言うヤツの IQ は、平均的日本人なら110、世界平均なら100の所、驚くべき事に・・・な、なんと180!? もあり、加えて、知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫なのであったのであったのであった。


(この大天災・迷探偵・金田一 上野介のお話はそのうち書いちゃいます : 作者)


美雪は誰よりも良くその事を承知していた。
そこで舞台装置等・・特に音響・・の係りの急遽(きゅうきょ)の間に合わせには、この大天災・迷探偵・金田一 上野介の孫であるイチが格好の人材であると考え、他の部員達を説得し、口説き落としていたのだった。

一方、

美雪は美雪で学内随一の才媛であると同時に、やはり学内一と言われる程の美貌も兼ね備えていた。
色白で身長165cm。
少し広めのオデコにパッチリおめめ。
鼻筋の奇麗に通った高い鼻。
その描くラインが上品なチョッと厚めの唇。
それらが、気持〜ち下膨れの顔の中に奇麗に収まっている。
だから美形であると同時にとてもチャーミングだった。

俗に言う・・・かどうかは知らないが、

『奇麗カワユイ』

というヤツだ。


しか〜〜〜し!!!


この名無 美雪と言ふヤツは、チチとオケツの形が最高だった。
電車の中なんかでピッチリタイトなスカート姿の美雪が、ガクンと揺れた拍子にチョビっとオマタを開いて、グッっと踏ん張った時なんかアンタ・・そりゃ・・もう・・

ぱんていらいんなんかがクッキリした時なんかにゃ、アンタ・・そりゃ・・もう・・

「ェヘ、ェヘ、ェヘ。 ェヘェヘェヘェヘェヘ・・・」

だから進学コースであるにも拘(かかわ)らず、芸能コース以外ではただ一人、演劇部から誘われその部に所属していたのだ。
その部とは、勿論、花組演劇部だ。
この美雪の所属している花組演劇部とは、御不動山高校花組に進学した生徒のみ所属出来る演劇部であり、それ以外の組から入るというのは例外中の例外だったのだが、学校側もまたこの例外を特別許可していた。
それ程だったのだ、美雪の持つ可能性、あるいは将来性は。
もっとも美雪自身も、芝居は観るのも演技するのも大好きだったのは言うまでもなかったのだが。
そして今回、この芝居の中でヒロインではないがプリマドンナのカルロッタ役を演ずる事になっていた。

因(ちな)みに、

演目は学校が決めるのではなく各演劇部の部員のみによる話し合いによって決まるのが慣例だった。
それは花組演劇部も又、同様。
つまり部員のみの話し合いで演目を決めていたのだ。

そして花組演劇部が選んだ作品は・・・

これだ!?

ガストン・ルルーの原作をアンドリュー・ロイド・ウェーバーが舞台化した作品。

その名も・・・










『オペラ座の怪人』である。











つづく