深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #51


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 警視庁捜査一課の刑事 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 幽鬼 英作(ゆうき・えいさく) : 外科医 メガネを掛けた阿藤 快(あとう・かい)

 幽鬼 鼻胃子(ゆうき・びいこ) : 幽鬼 英作の妻 松坂 慶子(まつざか・けいこ)風





「じゃ、じゃぁ、あたしが見たファントムは・・・? 窓の外からあたしの部屋ん中、覗き込んでたファントムは?」

美雪がイチに聞いた。
そしてこれを切っ掛けに、イチによる美雪に関する事の謎解きが始まった。

「もち、有森だ」

「でも、でも何で? 何でわざわざファントムになんか・・・」

「『オペラ座の怪人』を暗示するため」

「え!? 『オペラ座の怪人』を暗示するため?」

「そ。 『オペラ座の怪人』を暗示するため。 そのために有森はわざわざそんな手の込んだ真似をしたのさ」

「けど、そんな真似したら、足が付いちゃうでしょ? それこそ足跡が、窓の外に?」

「お!? オマー。 今、洒落たんか?」

「うん。 チョッとね。 でもさ、靴後付いちゃうじゃん」

「いんや付かん」

「どして? どしてそう言い切れる?」

「うむ。 その答は、簡単過ぎる位、簡単じゃ」

「簡単過ぎる位、簡単?」

「あぁ、とってもな。 お前の部屋の窓の直ぐ下の地面、ぬかるみだろ、グチャグチャの。 だから靴跡付いても直ぐ雨で分かんなくなっちゃうだろ。 それに有森の事だから靴後分かんなくするため、同じトコ何回も踏んだだろうし」

「ぁ、そっかぁ。 ・・・。 じゃ、つまりは、こういう事? 『オペラ座の怪人』を暗示するために、盗んだ衣装着てファントムに変装して、あたしの部屋覗いた」

「その通りー」

ここでイチは有森を見た。
今度は、イチと有森のやり取りになる。

「そうやってお前は、実に巧妙に異常な殺人鬼・死喪田 歌月という架空の人物を見事に作り上げたんだ。 な。 そうだろ?」

「ば、ばかばかしい。 ヤツは・・死喪田 歌月は・・海に落ちて死んだんだろ? みんなそう言ってたじゃないか。 な、なのになんで俺がヤツなんだ? しかも既にヤツは死んでいる」

「それもトリックだ!! お前はヤツを殺す事によって、自分のアリバイを完成したんだ!! だが、皮肉な事に・・・。 そのトリックこそが、逆に、お前が真犯人だと言う事を証明してしまったんだ」

「ど、どういう事だ、金田一!? チャンと分かるように説明してみろ」

「あぁ、言われなくてもしてやる。 あのな〜有森。 良っく聞けょ。 あの時・・あの死喪田 歌月を追い掛けた時・・俺達はヤツを中庭で挟み撃ちにした。 覚えてるょな」

「ぁ、あぁ。 なんかそんな展開ぽかったな」

「そうだ。 だが、俺はヤツを追って中庭の角を曲がった瞬間、思いっきり誰かとぶつかったんだ。 思いっきり誰かとな。 そしてその誰か・・・それはお前だった。 だったょな」

「ぁ、あぁ」

「なら、犯人は一体どこに? 結果的に挟み撃ちにしたはずなのに犯人は消えた。 なら、一体どこに?」

「・・・」

有森は黙っていた。

「その答はな・・・床にあった。 あの窓の下まで続く床にな。 否、その上に敷かれていた絨毯の上にだ。 お前も見たょな、あの絨毯。 あの上には微(かす)かにではあったが、靴跡が付着していたょな。 ファントムの物と思われる靴跡が」

「うん」

有森が黙って頷いた。

「そしてあの絨毯に付着していた靴跡は窓に向かっていた。 崖に面したな。 あの断崖絶壁に面した窓に向かっていたんだったょな、あの靴跡は・・・シッカリと。 そして遥か下の海の上にはファントムの仮面とマントが浮いていた。 だから、みんなてっきり、犯人は海に飛び込んだ物だとばっかり思い込んでしまった。 見事なまでのトリックだ。 だが、それが返って裏目に出てしまったのさ。 あそこでお前は重大なミスを犯したんだ」

「ミ、ミスだって?」

「あぁ、そうさ、重大なミスだ」

「?」

「分からんようだな。 だったら教えてやる。 枠だょ、窓の。 窓の枠だょ」

「?」

「ま〜だ、分かんねぇのか? いいか、有森。 確かに、微(かす)かにではあったが窓の直ぐ下の絨毯の上には、チャ〜ンと犯人の物と思われる靴底の泥が付いていた。 でもな、あの窓の枠は奇麗なもんだったんだ。 犯人がそこから海へ飛び込んだはずのあの窓の枠はな。 あの窓枠には、まぁ〜ったく泥なんて付いてやしなかったんだょ。 まぁ〜ったくな。 なかったんだょ、靴で踏んだ形跡が、あの窓枠には。 そしてあの窓の高さを考えれば、窓枠に足を掛けずに外に出るのは難しい。 ましてやビッコの犯人には・・・。 オットー!? ヤツのビッコは演技だったょな、お前の。 これは取り消す。 いいか、つまりはこういう事だ。 犯人は窓から海になんか飛び込んでやしなっかったんだ。 飛び込んだと見せ掛けて、実はそのまま廊下にいたんだ。 そう。 あの時ヤツは、窓に近付き素早く着ていた仮面にマント、それに帽子を脱ぎ・・この中には当然履いていた靴もあったはずだ・・それらを海に投げ捨てる事によって、海に飛び込んだかのように見せ掛けた後、用意してあった靴に履き替えた。 そして中庭の角の所で俺達が来るのを待ち受け、あたかも逆方向から来た振りをして俺にぶつかったんだ。 ヤツが窓から外に出ていないんなら、姿を晦ますトリックはこれ以外にはない。 と、すれば・・・。 犯人は、俺が中庭の角を曲がった時、その最初に出会った人物・・・という事になる。 つまり、あの時、あの場所で、俺が最初に出会った人物・・・それこそが正に真犯人、死喪田 歌月なんだ。 そしてその最初に出会った人物・・それが有森・・お前だった・・って訳だ。 ・・・。 結局。お前は作り過ぎた自分のトリックに自分自身が引っ掛かってしまったのさ」

これを聞き、即座に有森が反論した。

「だ、だけど、あの時、窓が開いてて、雨が振り込んでたじゃないか、窓枠の上にも。 そ、それで消えちゃったんじゃないのか、靴跡が・・・」

「うんにゃ、あん位で靴跡は消えん。 あの窓枠は木製だからな。 しかも白。 壁と同じ白。 床や手すりは黒なのにな。 だから人が飛び乗ってこすり付けた靴跡は、それが、例えいくら強くったって雨に当たった位じゃ消えん。 意図的に拭き取らない限りはな。 つまりはそういう事。 もういい加減、とぼけるのは止めて、素直になれょ。 素直になって認めちゃえょ、自分が死喪田 歌月ですって・・・。 な!? 有森」

と、イチが言った。










すると・・・











つづく




 


深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #52


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 警視庁捜査一課の刑事 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 幽鬼 英作(ゆうき・えいさく) : 外科医 メガネを掛けた阿藤 快(あとう・かい)

 幽鬼 鼻胃子(ゆうき・びいこ) : 幽鬼 英作の妻 松坂 慶子(まつざか・けいこ)風






再び、

「フフフフフ・・・。 ハハハハハ・・・。 アッ、ハハハハハ・・・」

有森が笑い始めた。
まるで『宇宙戦艦ヤマト』の主要キャラのデスラー総統みたく。

『その通りだ! ヤマトの諸君!!』

とでも、言わんばかりに。

「ハハハハハ・・・。 フゥ〜」

一わたり笑い終え、息を整え、有森が頭を掻(か)き掻き立ち上がりながら言った。
照れ笑いっぽいお顔を作って。

こぅ・・・

「ナイス・ジョーク」

って。

「へ!?」

イチは意表を突かれたようだった、予想外の有森の反応に。
ポケーってした、お顔こいている。
そんなイチに全く構わず、有森が強い口調で厳しく言い放った。
普段はおとなしい有森が、珍しく恐ろしいまでの鬼の形相をして。

「あぁ。 殺したかったさ、俺だって。 俺だって殺したかったさ、あの二人・・・五里絵に冬美を。 そしてもう一人・・・」

有森が早乙女を指差した。

「コイツだ!! この早乙女 京子。 コイツも殺したいさ、俺だってな。 だがな、金田一。 俺じゃない、俺じゃないんだ、本当に。 確かにお前の推理を聞いていると、恐ろしいまでに頷ける。 ちゃ〜んと筋が通っている。 お前はみんなが言うようなアホじゃない。 今の謎解きを聞いていて良〜くそれが分かったょ。 でもな、金田一。 俺じゃないんだ、本当に俺じゃないんだ、ファントムは 否 死喪田 歌月は。 信じてくれ、金田一。 俺を信じてくれ、頼む。 俺の信じるお前が俺を信じろ」

再びイチは意表を突かれた。

「へ!? 『俺の信じるお前が俺を信じろ』。 なんじゃ、それ」

これを聞き、興奮して有森が叫んだ。

こぅ・・・

「ぉ、ぉ、ぉ、お前まさか、お前まさか、『グレンラガン』を知ってねぇのかぁーーー!?」

って。

「グレンラガン? なんじゃ、それ? 知ってね」

「な、な、な、な〜にー!? グレンラガンをー!! グレンラガンを知ってねぇのかーーー!!」

「ぁ、あぁ。 知ってね」

不意に、

有森が素に返った・・・スッって。。。
そしてイチに説明した。

「チッ。 知ってねぇとは、しょーのねぇヤッチャなぁ、オメェっつーヤツぁ。 なら、俺が教えちゃる。 いいかぁ、耳の穴かっぽじって良っく聞けぇ、金田一。 あのなぁ、世に『グレンラガン』つー、超ーーーおもろいアニメがあってだなぁ。 その主役・シモンに、超ーーー主役のカミナ様がほざく名セリフ・・・

『オレを信じろ!お前を信じるオレを信じろ!

 お前を信じろ!オレが信じるお前を信じろ!

 お前を信じろ
 オレが信じるお前でもない
 お前が信じるオレでもない
 お前が信じるお前を信じろ』


つーのがあんだ。

今のは・・・

そ、れ、の、・・・

パロじゃー!! こんバカタレがーーー!!」










って。











つづく







深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #53


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 警視庁捜査一課の刑事 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 幽鬼 英作(ゆうき・えいさく) : 外科医 メガネを掛けた阿藤 快(あとう・かい)

 幽鬼 鼻胃子(ゆうき・びいこ) : 幽鬼 英作の妻 松坂 慶子(まつざか・けいこ)風





「も、もしかしてお前、冬島 月子の事・・・」

イチが有森に問い質(ただ)した。

「あぁ、そうだょ、その通りだ。 俺達は・・・俺と月子は愛し合っていたんだ。 ヒッソリとな。 誰にも言わず。 俺達演劇部員は立場上そういう事はご法度(はっと)だからな。 将来、芸能界で生きて行く可能性のある俺達演劇部員はな。 スキャンダルを避けるために・・・」

「!?」

「!?」

「!?」

 ・・・

イチ及び演劇部員全員が、有森のこの言葉を聞いて驚いた。
まさか、有森と月子が付き合っていようなどとは、誰も、何も知らなかったからだ。
静かに、有森が続けた。

「月子が理科準備室で顔に酷い大怪我を負ってしまったあの日、俺は・・・」

ここで有森が早乙女 京子を指差した。

「俺は、月子がソイツらに呼び出されたのを知っていた。 そしてあの大怪我の原因がソイツら3人だって事もな。 ソイツらの嫌がらせから身を守ろうとして、誤って戸棚のガラスを割り、顔に二目と見られない程の大怪我を負ってしまった事もな。 でもなぁ、金田一。 月子はなぁ、月子はなぁ、冬島 月子はなぁ、全てを許そうとしていたんだょ。 何もかも全てをな。 ソイツらにされた何もかも全てをな。 なのになぁ、金田一。 なのになぁ・・・。 なのに、ソイツらはソイツらは・・・」

ここで一旦、有森が言葉を切った。
悔しさのあまり二の句が継げないのだ。
暫(しば)し絶句した後、僅(わず)かに冷静さを取り戻し、再び語り始めた。
月子の入院していた病院の廊下での回想シーンを交えて。

「ソイツらときたら・・・。 俺が月子を見舞いに行ったあの日・・・


 (有森 裕二郎) 「今日はいい天気だ。 少し、外の風に当たりに行こうか? 気分転換になるょ」

 (冬島 月子) 「うん」


・・・そして、俺達が病院の庭に出ようとしていた、その時。 声が聞こえて来たんだょ、声が。 ソイツらの声が。 病院の片隅から・・・」

ここで有森が、


(クィッ)


今度は、顎をしゃくって早乙女を指し示した。

「ソイツらはなぁ、ソイツらはなぁ、金田一。 こんな事を言っていたんだょ、病院の片隅で、こんな事を・・・


 (日高 五里絵) 「良かったぁ、月島さん。 あの事、誰にも喋(しゃべ)ってないらしいゎ」

 (桐生 冬美) 「そうみたいね。 良かったじゃん。 これでばれずに済んじゃいそう」

 (早乙女 京子) 「ね。 あたしの言ったとおりでしょ。 あの子ったら、いい子ぶっちゃってさ。 黙ってるだなんて・・・。 ま、お陰であたし達は助かっちゃったんだけどね」

 (日高、桐生共に) 「うんうん。 そうそう」


・・・って、なぁ。 それを聞いて、俺は腸(はらわた)が煮えくり返ったょ、怒りでな・・・ソイツらに対する激しい怒りでな。 そして俺はソイツらをぶん殴るつもりでソイツらの前に出て行こうとしたんだ。 でもな・・・。 でもな、金田一。 止めたんだょ・・・止めたんだょ、月子が。 月子が俺を止めたんだょ・・・


 (有森) 「くっ!? ァ、アイツらぁ・・・」

 (冬島) 「ま、待って!? 待って、裕ちゃん。 止めて、止めて、そんな事・・・」

 (有森) 「つ、月子。 だって・・・。 だって、悔しいじゃんかょう。 お前を、お前をそんな目に合わせたんだぞ、アイツら・・・。 く、くそっ!?」

 (冬島) 「ぃ、いいのょ。 いいのょ、裕ちゃん。 あたしは・・・。 あたしは、もう・・・」

 (有森) 「で、でも、月子!!」

 (冬島) 「もういいの、もういいのょ、裕ちゃん!! あたしは、もう・・・。 いいの・・・」

 (有森) 「つ、月子!!」

 (冬島) 「ゅ、裕ちゃん!! ェッ、ェッ、ェッ、・・・」


・・・月子は声を上げずに泣いたょ、俺の腕の中で。 微(かす)かに震えながら泣いたんだょ、俺の腕の中で、月子は声を上げずに・・・。 でも、俺はなんにも・・・。 そんな月子に俺はなんにもしてやれなかったんだ。 ただ、ジッと黙って月子を・・・月子の体を抱きしめてやる以外、俺はなんにも。 そんな月子に俺はなんにもしてやれなかったんだ!! 分かるか、金田一? その時の俺と月子の無念さが。 ぇー、分かるか、金田一、お前に・・・。 分かるのか、お前に? あの時の俺と月子の気持ちが・・・。 ぇー、・・・」

ここで有森は何も言えなくなった。
その目に大粒の涙を湛(たた)える以外・・・何も。

「有森・・・」

イチもそれだけしか言葉を掛ける事が出来なかった。


(シーン)


誰も口を開く者はいなかった。
否、
開けなかったのだ、皆、夫々(それぞれ)に心が痛んで。
暫(しばら)くして、有森の気持ちの高ぶりが少し収まった。

気を取り直して、再び有森が話し始めた。

「そして・・・その翌日の夜。 月子は自殺した。 その翌日の夜、自殺したんだょ、月子は・・・。 その翌日の夜、月子は自殺したんだょ!! 巻かれていた顔の包帯を取り、頬に深々と刻まれた醜い傷跡をさらけ出し、ファントムのあのセリフを言いながら・・・。 ファントムのあのセリフを言いながら、月子は自殺したんだょ!!


 呪われろ!
 詮索好きのパンドラ!
 この悪魔
 お前が見たかったのはこの顔か・・・

 呪われろ!
 裏切り者のデリラ!
 恩を仇で返す奴め!
 二度と自由になどさせるものか!
 何て奴だ――呪われろ――

 想像を遙かに超える醜さだろう
 その目で見ることはおろか
 思い浮かべることすら堪え難い顔だろう
 地獄の火に焼かれた
 この忌まわしい怪物は
 それでも密かに、天に焦がれるのだ
 人知れず――人知れず――

 だが、クリスティーヌ――
 恐怖は、愛にも変わりうる
 お前にもやがて、見える時が来る

 怪物の外見の内に隠された
 一人の男の姿が
 目を背けたくなる 骸の如きこの姿
 獣のような男は
 それでも密かに、美を夢見るのだ
 人知れず――人知れず――
 ああ、クリスティーヌ――


って、な!! そう言いながら俺の目の前で・・・。 俺の目の前で月子は病院の屋上から飛び降りたんだ。 分かるか、金田一? ぇー、お前に。 お前に分かるのか、愛する者が目の前で、自分の目の前で死んで行くのをなんにもしないで、なんにもしないでただ見ている事だけしか出来ない人間の気持ちが。 ぇー、金田一。 お前に分かるのか? あの時の俺の気持ちが・・・。 あの時の俺の無念さが、お前に分かるのか? く、くそっ。 ・・・。 でもなぁ、金田一。 月子はなぁ、月子はなぁ・・・」

ここで再び、有森が早乙女を指差した。

「そんなソイツらを許そうとしたんだ!! 懸命にソイツらを許そうとしたんだ!! そんな屑共を許そうとしたんだ!! 懸命にそんな屑共を許そうとしたんだ!! その月子の気持ちを考えたら、どうして俺がソイツらを殺せるんだ!? 愛する者が懸命に許そうとしたソイツらを・・・どうすれば俺が殺せるんだ!? ぇー、どうすれば・・・。 俺だってなぁ、俺だってなぁ、俺だってなぁ、金田一。 俺だって、死ぬほどその屑共を殺してやりたかったんだ!! この手で、俺のこの手で・・・」

そう言いながら、


(パッ!!)


有森が自分の両手を開いた。
その開いた両手の平をジッと見つめながら続けた。


(プルプルプルプルプル・・・)


体を小刻みに震わせながら。

「俺のこの手で月子の無念を晴らしてやりたかったんだ!!」

ここで有森は顔を上げ、視線をイチに向けた。
そして両手でイチの両肩をつかんだ。
そのイチの両肩を激しく揺すりながらイチの両目を覗き込み、懇願するように言った。

「でもなぁ、金田一。 俺じゃないんだ。 犯人は俺じゃないんだ。 本当に俺じゃないんだ。 頼む、金田一。 信じてくれ、本当に俺じゃないんだ。 俺じゃないんだ、金田一。 頼む、信じてくれ・・・」

この有森の心から溢れ出て来る言葉を聞き、イチは何も言えなかった。
出来る事と言えば、自分の両目をすがるように覗き込んでいる有森の両目を瞬(まばた)き一つせず、静かに見つめ返し、ただ黙っている事だけしか・・・ただそれだけしか出来なかった。
そして、それはイチだけではなかった。
その場にいた者達全員が、イチ同様、全く何も出来なかった。
夫々(それぞれ)の心が静まるのを、ただジッと待つ事位しか・・・。

他には・・・

何も・・・

出来なかった。










その時・・・











つづく






あけおめ

ことよろ


で!?


コレ・↓


深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #54


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 警視庁捜査一課の刑事 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 幽鬼 英作(ゆうき・えいさく) : 外科医 メガネを掛けた阿藤 快(あとう・かい)

 幽鬼 鼻胃子(ゆうき・びいこ) : 幽鬼 英作の妻 松坂 慶子(まつざか・けいこ)風





声がした。

「そうです! その人の言う通りです!!」

と、言う声が。

『ハッ!?』

『ハッ!?』

『ハッ!?』

 ・・・

一斉に、みんなが声のする方を向いた。
そこへ、一人の少女が進み出た。
少年だった。

そぅ・・・

声の主は、何を隠そう深大寺 少年だったのだ。

少年が続けた。

「真犯人は他にいます」

「ほ、他にいるだって? だ、誰だ!? ソイツは? ぇー??? あ!? ぃ、否、その前に・・・。 あー、あー、あー、うん。 ヨッシャー!! 声の調子、バッチリ! 絶好調ーーー!!

んパッ!!

ん、じゃま、言ってみべーーー!!

 警視庁に 悪名とどろく 殺人課
 男の魂 背中に背負い
 不撓不屈の 鬼リーダー

尻餅 胃寒様たぁ、ぁ、俺のこってぇーーー!!


それまで、時々、居眠りっぽいお船漕いだりなんかしながら、なりゆきをジッと見つめていた尻餅が久しぶりに大声でほざいた。
久しぶりの登場なだけに、待ってましたとばかりにだ。
大見得なんか切っちゃったりして。
そしてもう一言付け加えた。

「で!? オメェは誰だっけ?」

って。

「ぁ、はい。 深大寺 少年です。 おとつい言いましたょね、『この民宿のオーナーの姪です。 今、夏休みでお手伝いに来てます』って」

「おぅ、そうかそうか。 そうだったそうだった。 で、真犯人は他にいるだって?」

「はい。 他にいます」

「す、少年ちゃん」

突然の少年の言動にチョッと驚き、且、心配して公園が少年に声を掛けた。

「心配しなくてもダイジョブだょ、おじちゃん」

少年が振り返って、ジッと公園の眼(め)を見つめ、そう言った。
そしてユックリと顔を金田一、尻餅の順に向けて聞いた。

「あたしの考え、聞いてもらえますか?」

その言葉を受け、

『お!? コ、コイツ、チョ、チョコッとカワユイじゃねぇか』

つー、スケベ心丸出しで、尻餅がほざいた。

「ぉ、おぉ。 聞いちゃる聞いちゃる。 オッチャン、聞いちゃる」

って。

少年がイチにも聞いた。

「金田一様はいいですかぁ?」

「ぁ、あぁ。 聞いちゃる聞いちゃる。 アンチャンも聞いちゃる」

って、イチもほざいた。

最後に、


(グルリ)


一わたり、全員を見回して聞いた。

「皆様も聞いてくれますか?」

全員が一斉にほざいた。

「おー、聞いちゃる聞いちゃる。 俺らも聞いちゃるで〜〜〜」

って。

「ありがとうございます」

一言、礼を言ってから少年が自分の考えを語り始めた。

先ず始めに・・・










死喪田 歌月に関する事から。











つづく




 


深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #55


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 警視庁捜査一課の刑事 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 幽鬼 英作(ゆうき・えいさく) : 外科医 メガネを掛けた阿藤 快(あとう・かい)

 幽鬼 鼻胃子(ゆうき・びいこ) : 幽鬼 英作の妻 松坂 慶子(まつざか・けいこ)風





「金田一様の言った通りだと思います」

少年が静かに語り始めた。

「死喪田 歌月様は架空の人物。 わたしもそう思います。 でも、『この島をゴムボートで抜け出した』というのはチョッと違っちゃいます」

ここで尻餅がしゃしゃり出た。

「どういう事だ?」

「はい。 エンジン付きのゴムボートだと重過ぎちゃいます。 一番軽いヤツだって30キロ位かなぁ? その位はあると思います。 重いのんなると40〜50キロ位あります。 そんなの一人で運ぶの大変です。 仮にあのスーツケースに入ったとしてもです。 それに死喪田様がここ来た時、あのスーツケースそんなに重そうには運んで来なかったって、見た者が言ってます」

ここで少年は公園を見た。

「そうだょね、おじちゃん」

「はい。 確かに、エンジン付きのゴムボートが入ってる程重そうには・・・。 はい」

少年がカワユク小首を傾(かし)げた。

「ね」

って。

「なら、あのばかでかいスーツケースは何のために?」

尻餅が聞いた。

「はい。 あれはね、あれは・・・わたし達に死喪田様が男であるという印象をより一層強くするための物」

「男であるという印象をより一層強くするため? そりゃ、どういう意味だ。 オットー!? その前に言っとかねぇとな。 あのなぁ、オメェなぁ、死喪田 “さー、まー” つって、 “様” 付けんの止めれゃ。 架空の人物だろうがなかろうが、ヤツはなぁ、真犯人なんだぜ。 だから “様” 付けんの止めれゃ。 聞いててイライラすっからょう。 だから、な。 止めれゃ」

尻餅が眉間に皺をよせ、不機嫌そうに言った。

「でも〜、死喪田様はお客様だからぁ・・・。 事件が解決するまでは呼び捨てするのチョッとぉ・・・」

ここでイチが割って入った。

「少年ちゃんだったね。 いいんじゃないかな、呼び捨てしても。 “まっくろくろすけ”なんだしさ、死喪田は。 それに俺に “様” 付けんのもチョッとなぁ。 ま、俺の場合呼び捨てされんのもチョッとなんで、 “さん” 付け位でいいょ」

「あぁ、俺達だって “さん” 付けでいいぜ。 なぁ、みんな」

ここで御布施がリーダーシップを発揮した。
カワユイ少年にいいトコ見せたかったのだ。
これを受け、少年がニッコリ笑って言った。

「ありがとうございます、皆様」

「ほーら、又、言った」

透かさず御布施が。

「ァハッ。 言い直しますね。 ありがとうございます、皆さん」

「そうそう、それで・・・オヶ」

やはり御布施が。

この一連のやり取りで、一時的にではあったがその場がソフトな空気に包まれた。










すると・・・











つづく