深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #71


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 警視庁捜査一課の刑事 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 幽鬼 英作(ゆうき・えいさく) : 外科医 メガネを掛けた阿藤 快(あとう・かい)

 幽鬼 鼻胃子(ゆうき・びいこ) : 幽鬼 英作の妻 松坂 慶子(まつざか・けいこ)風





「でも、ナゼ、靴、片っぽだけしか履かせなかったのかしら?」

美雪が疑問を呈した。

少年がそれに答えた。
今度は美雪との会話になる。

「それは多分、靴にみんなの注意を惹(ひ)き付けるため」

「どういう事?」

「はい。 靴跡に目が行き易いようにするためにです。 靴、見ちゃえば、きっと誰かが靴跡の存在に気付くでしょ。 そうすればみんな、桐生さんは窓からここまで一人で来たって思っちゃうでしょ。 だから・・・」

「ぁ、そっか」

「服装あんなで他殺に見せ掛け、靴跡一つで今度は自殺を演出。 そうやって事態を混乱させて、キラは歌月という人物からわたし達の注意を遠ざけようとしたんだと思います」

「でも、なんのために?」

「歌月はあくまでもキラが自らの存在をカモフラージュするためにでっち上げた架空の存在。 だから、そこにみんなの目が行くの嫌ったんだと思います。 歌月が架空の存在だってばれるのやだから」

「そのために注意を逸らした・・・」

「うん」

「そ、そんなトコまで考えて・・・」

「はい。 キラは事(こと)殺人に関しては天才です。 こんな人間にもしストーカーになられたら、あたし、逃げ切れる自信ありません」

「あたしも」

美雪が同意した。

ここで、


(キリッ!!)


少年の表情が引き締まった。
そして一言一言ユックリと、噛み締めるようにジックリと、話し始めた。

「そして・・・。 いよいよ本殺人事件のクライマックス。 『キラがあえて死喪田 歌月として人前に姿を現し、その死喪田 歌月をこの世界から消し去る』 という、キラ、一世一代の大芝居の始まり始まり〜〜〜・・・です」

「ゴクッ」

「ゴクッ」

「ゴクッ」

 ・・・

全員が生唾を飲み込んだ。
これに対し、平然と少年が続けた。

「ここまでのお話で、もう大体の見当、皆さん付いちゃってますょね、これからあたしが言う事」

一旦、念を押した。
皆、体を乗り出して少年の言う、一言一言を聞き逃すまいと聞き耳を立てている。
それを、


(グル〜)


一渡り見回して、少年が断言した。
キッパリと。

「そうです。 キラは死喪田 歌月を海の中に消し去る事により、この殺人劇を終了させたんです。 つまり・・・。 完全犯罪を成立させちゃったんです 否 成立させたはずだったんです」

と!?

少年がここまで言った時、大声でほざいたヤツがいた。

「チョッと待ったれゃー!! 小娘!!」

って。

そ、れ、は・・・

尻餅だった。
尻餅が横から嘴を入れて来たのだ。
ここからは尻餅との会話になる。

「ま〜だ、一人残ってるじゃねぇかー!! キラが殺さなきゃなんねぇヤツが・・・」

「誰がですか?」

「『誰がですか?』って・・・。 そ、それは・・・」

尻餅が口ごもった。
流石にその名前は口にしたくはなかったのだ、本人を目の前にしては。

「もう、誰も残ってませんょ。 殺人劇は日高さんと桐生さんを殺して終わっちゃってますょ」

「んなこたぁない。 いるだろ、もう一人」

「いませんょ、もう誰も」

「ぬぁ〜にぃ〜。 い、い、いるじゃねぇか、もう一人」

「いません」

少年がキッパリと否定した。
“キリ!!”ってして。
その予想外の少年の迫力に、

『ウッ!?』

尻餅がチョッとたじろいだ。

そこへ、

「早乙女 京子」

御布施が出しゃばった。

「おぅ、そうだそうだ!! 言い難(にく)い事を良ー言ぅた。 褒めて使わす」

尻餅だ。

「いいぇ、殺人劇はもう終わってますょ。 だから必要なくなった歌月をキラは消し去ったんです」

「こ、こ、このアマー!! し、し、しつけーぜ。 なら、その理由をほざきやがれー!!」

って、尻餅。

「そんな、カッカしなくってもいいですょ、刑事さん」

尻餅にそう言ってから、少年がみんなに聞いた。

「皆さんに聞いちゃいますね。 もし、皆さんが最愛の人を自殺に追いやられたとしたら、その自殺に追いやった人を一番どうしたいと思いますか?」

「そりゃ、勿論、殺したいと思うに決まってんだろ」

尻餅がムキになってほざいた。
再び、尻餅との会話になる。

「違います」

「へ!?」

「わたしは “一番” どうしたいかと聞いているんです」

「だ〜からー、殺したい・・・」

「いいぇ。 一番したい事は他にありますょ」

「ねぇょ!」

「あります!」

「ねぇょ!!」

「あります!!」

「ねぇったら、ねぇょ!!」

「あります、ったら、あります!!」

「しっつヶーなぁ、このアマー!! ねぇったらねぇのー!!!」

「あるったら、あるのー!!!」

「じゃぁ、言ってみろ!!」

「苦しめる」

「え!?」

「“苦しめる” 事です」

「ん!? 苦しめる?」

「はい。 もし、わたしの最愛の人が自殺に追いやられたとしたら、わたしはその人、絶〜〜〜対、同じ目に合わせたいと思うはずです、きっと。 殺しちゃえばそれまでです。 なんの苦しみもありません、死んじゃうんだから。 でも、生きてれば、その間中ズッとです。 ズッと苦しみます。 ズッとズッと、ズ〜〜〜ッと。 つまり生かして苦しめる。 そして自殺に追い込む。 月子さんとおんなじ自殺にです。 これです。 これが一番です。 一番の復讐です。 一番したい事です。 違いますか?」

「ぉ、おぅ。 うん。 確かに・・・」

「だから理科準備室事件の主犯、早乙女さんだけは殺さなかった。 あえて生かして置いたんです。 先ず、日高さんを殺して、次に桐生さん。 そうすれば当然、『次は自分だ!?』。 早乙女さんはそう思っちゃいます。 だからそう思わせて、早乙女さんを恐怖のどん底に突き落としちゃいました。 そして脅迫文書いて、歌月に変装。 その上からファントムの衣装着て、あえて皆さんの前にお姿現しました。 早乙女さんを襲って殺すフリするためにです。 早乙女さん襲って殺すの失敗しちゃったフリするためにです。 そしてその失敗は、わざとです。 わざと失敗したフリしたんです。 でも、なんのために? なんのためにわざと失敗したフリなんかしたんでしょうか?」

少年が尻餅に振った。

「なんのために、わざと失敗したフリ? ・・・。 う〜む。 分らん」

ここで少年は少し間を取った。
尻餅の表情を伺った。
その少年の視線を受け止めたまま尻餅は考え込んでいる。
自分の言っている意味を尻餅がまだ理解していないのを知った少年が、キッパリと言い切った。

「死喪田 歌月を殺すために」

「ぬゎに〜? 『死喪田 歌月を殺すために』 だ、とぅ〜?」

「そうです。 死喪田 歌月を殺すためにです。 そこであえて真犯人だと思わせておいた架空の人間、死喪田 歌月を殺して事件を一見、一件落着させちゃうためにです。 そして今回の殺人劇が下火になって、捜査の手が自分に及ばないと判断出来るまで時を待つ。 それからいよいよこの計画の最終ステージ開始です。 キラの復讐劇の総仕上げはユックリとジックリと、早乙女さんを “死の恐怖” に陥れる。 そのための何らかの手を打っちゃいます。 ジワジワと苦しめる何らかの手を。 例えば上から物が落ちて来るとか、危うく事故に遭いそうになるとか、あるいは駅で突き飛ばされちゃって、危うく線路に落ちそうになるとか、早乙女さんが身の危険を感じるような事ならなんでも執拗にし続けちゃいます。 それを早乙女さんがノイローゼに、引きこもりに、鬱(うつ)に、あるいは自閉症になるまでし続けちゃって。 そうして苦しめるだけ苦しめて自殺に追い込む。 これがキラの仕組んだ復讐劇の総仕上げ、最終章です」

「うむ。 言われてみればその通りだ。 うん。 確かに、その状況なら俺もそうするかも・・・」

「うむうむうむ」

「うむうむうむ」

「うむうむうむ」

 ・・・

みんながそれを認めた。

ここで少年が拳代を見た。
念を押した。

「違いますか? 緒方センセ?」

「な、なんで・・・。 なんで、そこで私に話を振るのょ」

「だって、センセが復讐してるから」

「だから! 違うってさっきから言ってるでしょ!! しつっこい娘ね、ったく」

「惚(とぼ)けても無駄なんだヶどなぁ」

「クッ!?」

苦虫を噛み締める・・・










拳代であった。











つづく




 


深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #72


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 警視庁捜査一課の刑事 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 幽鬼 英作(ゆうき・えいさく) : 外科医 メガネを掛けた阿藤 快(あとう・かい)

 幽鬼 鼻胃子(ゆうき・びいこ) : 幽鬼 英作の妻 松坂 慶子(まつざか・けいこ)風





「じゃ。 さっき、聞き掛けて止めちゃったヤツ、行っちゃいますね」

少年がみんなに言った。
そして拳代に聞いた。
ここからは暫(しば)し、拳代との会話になる。

「センセの旧姓です。 センセ、チャンとみんなの前で言って下さい、センセの旧姓」 (←これ、覚えてる? #67参照)

「だから! そんな物ないって言ってるでしょ!! さっきから・・・」

「いいぇ、ありますょ」

「ないわょ!!」

「ありますょ」

「ないったら、ないわょ!! ホントにしつっこい娘ねぇ!! ったく」

「冬島 拳代」

「え!?」

「センセのホントの、じゃなかった、前のお名前ですょね。 冬島 拳代」

「・・・」

予想外の少年の問い掛けに意表を突かれ、拳代は何も答られなかった。
そんな拳代に容赦なく少年が畳み掛けた。

「これって、センセの前のお名前ですょね」

「・・・」

「センセにはお兄ちゃんがいますょね、一人。 有名な人」

「・・・」

「冬島 竜兵(ふゆしま・りゅうへい)さんです。 あのお笑いタレントの。 ですょね、センセ」

ここで、

「冬島 竜兵って、あのリアクション芸人の・・・? 『がちょーんクラブ』の冬島 竜兵か?」

横からイチが嘴を突っ込んで来た。

「そ」

「冬島 竜兵・・・あれって、本名だったんだ、芸名じゃなくって」

次は、有森だった。

「そ」

「緒方先生が冬島 竜兵の・・・。 ど、どういう事だ?」

最後は、御布施が興奮気味に。

「こういう事です。 さっき言いましたょね、わたしお友達全部にメールして皆さん達の事、色々お調べしちゃったの」

「うんうん」

「うんうん」

「うんうん」

 ・・・

みんなが頷いた。

「そしたら、お友達の一人が、吃驚(びっくり)するような事に気付いちゃったんです。 そのお友達って、お笑い番組見るの大好きな子で、その子、男の子なんだヶど、特に、屁頭 2:51(へがしら・2時51分)とか屁川 哲郎(へがわ・てつろう)とか、今ここで問題んなってる冬島 竜兵みたいなリアクション芸人大好きで、よくテレビなんか見ちゃう子で、その子が昔見た『いつみても波乱万才(はらん・ばんざい)』っていう、タレントの売れてない時の貧乏時代の苦労話でお涙頂戴の長寿番組、それを20年位前たまたま見てたら、その時のゲストがその頃売れ始めていた冬島 竜兵だったんだそうです。 で!? その子が言うには、冬島は早〜くに両親死んじゃってて、肉親は妹が一人いて、その妹と一緒に施設に入ってて、幼い頃別れ別れになっちゃってて・・・。 って、いうのも、その妹がどっかのお家に引き取られたからで。 で!? 冬島が有名になったのとほぼ同時に、偶然ってあるもんなんですね。 その妹も芸能界入りしたそうなんです。 もっとも、お笑いじゃなくってアイドルとして。 って、いうのもその妹ったら、冬島 竜兵とは似ても似つかぬ凄〜い美人だったからで。 そしてその子が言うには、恐らく、その妹の所属してた事務所の方針で、その番組に冬島 竜兵にも知らせない吃驚ゲストとして出演させて、感動のお涙頂戴を利用して、その妹を売り出そうっていう戦略ぽくって・・・。 で!? ハプニングご対面が仕組まれたみたいなんです」

「ふ〜ん。 で?」

イチが聞いた。

「はい。 でも、その妹の所属してたっぽい芸能事務所は、その時はタレントとしてじゃなくって、単なる一般人として出演させて、お涙頂戴しておいてから、それから売り出すつもりだったらしくって、その番組・・・つまり『いつみても波乱万才(はらん・ばんざい)』の中では本名を名乗らせちゃったらしいんです。 そしてその時、冬島 竜兵の妹の名乗った名前が・・・」

「緒方 拳代だった」

透かさずイチが言った。

「はい。 その通りです。 特徴的な名前だったから覚えてたんだって、言ってました、その子」

ここで少年(すくね)が拳代を見た。


(ヮナヮナヮナヮナヮナ・・・)


拳代は何も言わず、ただ静かに震えていた。
恐怖からとも、怒りからとも、なんとも表現の仕様のない様子で。
その拳代に少年が声を掛けた。

「センセ。 なに震えてるんですか?」

相変わらず、深大寺 少年は容赦ない。
更に、そんな拳代に全く構わず、

「続けていいですか?」

追い討ちを掛ける少年であった。

「・・・」

最早、拳代は何も喋(しゃべ)れない。

「センセ、黙っちゃったんで、勝手にお話、続けちゃいますね」

「ぉ、おぉ。 続けろ続けろ」

ここでお約束の尻餅登場。

「はい。 その半年後、緒方センセは 『秋元 爽邪苛(あきもと・さわやか)』 という芸名で戦列デビュー。 その時、センセ18才。 一気にアイドルへ。 そしてその1年後、同じくアイドルの 『広井 玉子(ひろい・たまご)』 との熱愛発覚。 その直後から半年間、ナゾの入院。 病名は 『 tintinkayuikayuibyou 』。 でも、実は妊娠したんじゃないかっていうお噂。 そして半年後、芸能界復帰。 但し、広井 玉子とは破局。 センセもこれを機会に脱アイドル。 本格的に女優の道を歩き出しちゃいました。 そしてその3年後、舞台事故に遭って、それ原因で芸能界引退。 その後、一念発起(いちねんほっき)して大学入学。 教員試験合格。 私立御不動山学園に教師として採用。 現在に至る。 ですょね、センセ?」

「・・・」

拳代は黙ったままだった。
が、
代わりに尻餅が言った。

「ほぅ。 大したもんだ。 良くそこまで調べ上げたもんだ。 でも、いつ調べたんだ?」

珍しく、あの傲慢な尻餅が感心し切りだ。
ここからは尻餅との会話になる。

「はい。 昨日一日掛かっちゃいました。 だから睡眠不足で、今、少し眠たいです」

「え!? たった、一日? たったの一日で、そこまで・・・」

「そうですょ。 でも、わたし一人の力じゃなくって、お友達みんなで協力し合って・・・なんだヶど。 さっき言ったお笑い大好きっ子の男の子からの情報を元に、みんなで力合わせてお調べしちゃいました。 『20ch』  やら、 『taboo知恵袋』 やら、 『人力検索さてな』 やらにどんどん質問出したりして。 わたしも皆さんの給仕の合間を縫って、お調べしちゃいました」

「ネット刑事(デカ) 否 ネットでか?」

「はい。 ネットでです。 ぜ〜んぶ、ネットでです」

「そうかぁ・・・。 恐ろしいもんだなぁ、ネットの能力(ちから)は・・・」

「潜在能力、凄いですょね、ネットって」

「うむうむ」

ここまでは尻餅に向かって話していた少年が、体の向きを有森の方に変えた。
今度は、有森との会話になる。

「有森さん」

「ん!?」

「さっき、聞いた冬島 月子さんのお父さんのお名前って、知りたくないですか?」

「知りたい知りたい! 勿論、知りたい!! 勿論、知りたいさ。 分かってんのか?」

「はい」

「だ、だ、誰だ、誰なんだ? 月子の親父は?」

「冬島 竜兵」

「え!? 冬島 竜兵?」

「はい。 冬島 竜兵が月子さんのお父さんです」

「じゃ、じゃぁ、母親は? 母親は誰だか知ってるのか?」

「はい」

「だ、誰だ?」

「緒方センセ」

「え!?」

有森は仰天した。


(ピクピクピクピクピク・・・)


お顔が引き攣っている。

「お、お、お、緒方先生!? バ、バ、バ、バカ言え!! そ、そ、そ、それだったら・・・。 それだったらそれだったらそれだったら冬島 竜兵と緒方先生、近親相姦したことになるじゃないか!? そ、そ、そ、そんな事そんな事そんな事・・・」

「いいぇ、近親相姦なんかじゃないですょ」

「だって、そうなるゎ、あなたの言った通りなら」

横から、美雪が言った。

「いいぇ、なりません」

「な〜にを、ぁ、言っていゃがる〜〜〜。 な〜っちまうじゃねぇかぁ、ぁ、近親相姦にぃ。 オメエの言った通りなら・・・」

尻餅だ。

「いいぇ、なりません」

「『いいぇ、なりません』 って・・・。 じゃぁ、その説明してくれょ」

久しぶりにイチ登場。

で!?










少年が続けた。











つづく




 


深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #73


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 警視庁捜査一課の刑事 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 幽鬼 英作(ゆうき・えいさく) : 外科医 メガネを掛けた阿藤 快(あとう・かい)

 幽鬼 鼻胃子(ゆうき・びいこ) : 幽鬼 英作の妻 松坂 慶子(まつざか・けいこ)風





「はい。 これからしようと思ってました。 いいですか、こうです。 冬島 竜兵はある日突然、実は自分には隠し子がいると、マスコミに公表しちゃいました。 月子さん2才の時のお話です。 でも、これには嘘があったんです。 実はこの時、月子さんは3才でした。 でも、誰もその事実に目を向けませんでした。 気付かなかったのか、気付いてもスルーしちゃったのか、どっちか分かんないヶどスルーです。 ・・・。 ま、有名人とはいえ、冬島は所詮はお笑いタレント。 だから、大して大騒ぎされる程の事件じゃなかったのかも知れませんね。 どうでもいい事ですょね。 大したニュースになる訳でもないし。 だからです。 だからスルーです。 でも・・・。 じゃ、なんで冬島は1年鯖(さば)読んで公表したんでしょうか? この年頃の赤ちゃんって成長早いから、3才児を2才って鯖読むの超危険なのに・・・。 それなのになんででしょうか? ここが重要なポイントです。 なんでだか分りますか、有森さん?」

「うんにゃ、分らん?」

「そうですか、分りませんか? でもね、その理由は簡単なんですょ。 それはね・・・皆さん覚えてますか? 冬島 竜兵が覚醒剤所持で刑務所入った事、あるの」

「覚醒剤所持で刑務所・・・? おぅおぅ、そう言ゃ、そんな事、あったっけか・・・」

「うむうむ。 あったあった、確か・・・」

「そう言ゃ、あったな、そげなこつ・・・」

 ・・・

みんなが口々に勝手な事をほざいている。

「はい。 和尚 学(おしょう・まなぶ)、酒井 法秘(さかい・のりぴ)、田代 馬刺(たしろ・ばさし)と合わせて4人が逮捕されたあの有名な六本木屁漏頭(ろっぽんぎ・へるず)事件です。 あれは月子さんを2才とするその2年半前からの1年間でした、冬島、入所してたの。 だからもし、正直に月子さんを3才と発表しちゃうと、あの時期に・・・つまり冬島がまだ刑務所出る前に着床、妊娠した事になっちゃいます。 計算合いませんょね。 刑務所の中で H な事した事になっちゃいますょね。 それって、絶対ムリポ。 だから冬島は月子さんが3才んなるまで公表するのを避けたんだと思います、直ぐするとマズイんで。 でも・・・。 でもですょ。 もし、その赤ちゃん、緒方センセが入院中に生んだんなら・・あのナゾの半年間に緒方センセがその赤ちゃん生んだんなら・・お話し、しっかり合っちゃいますょね」

ここで少年は、


(チラッ!!)


拳代を見た。

「・・・」

相変わらず無言のまま、拳代は床をジッと見詰めている。
しかし、もう震えてはいない。
真剣に何かを考えているようだった。

少年が続けた。

「どうですか、センセ? わたしの推理、合ってませんか?」

「・・・」

拳代は無言だ。
代わりに有森が聞いた。
ここから、暫(しば)し有森との会話になる。

「君の言う通り、月子が緒方先生のお子さんなら、なんで冬島 竜兵が自分の子って、公表したんだ?」

「勿論、緒方センセを守るため」

「ん!?」

「このために、わたしはお友達みんなに頼んで冬島 竜兵の素行、ネットで徹底的に調べ上げてもらっちゃいました。 そしたら色んな事、いっぱい見えて来ました」

「色んな事!? 例えば・・・?」

「はい。 冬島という人はテレビではあんなだけど、実は、と〜〜〜っても誠実な人で、妹思い。 その最愛の妹と生き別れ。 施設にいくら聞いても、妹の引き取り手の情報を開示してもらえず・・今で言う個人情報保護ですね・・成人してから八方手を尽くしては見たものの居所つかめず。 そもそも薬に手を染めたのも妹の居所がつかめない寂しさ、心の痛みもあったみたいです。 もっとも、他にもっと大きな理由(わけ)があったんだヶど・・・」

「大きな訳?」

「はい。 あぁいう、リアクションタレントというのはホ〜ント命懸けの仕事っぽいです。 わたし達は彼等がテレビん中で苛められてるの見て楽しんじゃってるヶど、苛められてる側は、時に命の危険さえあるみたいで、その受けるストレスは想像を絶する位らしいです。 だから家庭の幸せに恵まれなかった冬島には辛い毎日だったと思います。 だからです。 だから麻薬に手を出しちゃったんだと思います。 でも・・・。 でもそんな時、冬島は一人の少女と再会しちゃいました。 そして乾き切っていた冬島の心を潤したんです・・その少女が・・再会したその少女が。 そしてその少女・・それが・・それこそが妹。 実の妹、冬島 拳代・・即ち、緒方 拳代・・つまり緒方センセだったんです。 あのテレビ番組のハプニングご対面コーナーで出会った実の妹の緒方センセだったんです。 そしてその日以来、冬島はそれまでの自堕落な生活を全て洗い直して、懸命に更正して、一所懸命働いて、陰ながら秋元 爽邪苛(あきもと・さわやか)として活動してる緒方センセを見守っていたんです。 そうです、見守っていたんです。 絶対、そうだったに違いありません。 そんなある日、アイドルとして芽が出始めてまだ間もない緒方センセ 否 秋元 爽邪苛が広井 玉子(ひろい・たまご)にダマされて妊娠・・・そして出産。 これはアイドルにとって致命的ですょね。 凄いゴシップだから・・・。 なんて言っても妊娠に出産なんですからね。 だからそれに耐え切れず、そして妹を守るため、冬島はその子を引取って、直ぐ公表すれば怪しまれちゃうから、暫らく時期を待って、そして頃合見計らって自分の娘としてマスコミに紹介。 それが月子さん、冬島 月子さん」

ここで少年は拳代を見た。

「違いますか、センセ?」

「・・・」

拳代は何も語らない。

「センセ。 いつまで黙ってるんですか? お調べしちゃえば分かっちゃう事なんですょ」

少年が厳しく言い放った。
それから尻餅を見た。

「それは刑事さんのお仕事ですょね」

「ぉ、お〜ょ。 ぁ、おいらの、ぁ、お仕事でぇ〜〜〜ぃ!!」

久しぶりに尻餅登場。
もち、歌舞伎調だ。

だが・・・










その時・・・











つづく




 


深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #74


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 警視庁捜査一課の刑事 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 幽鬼 英作(ゆうき・えいさく) : 外科医 メガネを掛けた阿藤 快(あとう・かい)

 幽鬼 鼻胃子(ゆうき・びいこ) : 幽鬼 英作の妻 松坂 慶子(まつざか・けいこ)風





突然、

「そう。 あの子は、月子は・・・」

拳代が静かに語り始めた。
少年のいる方を向いて。

「貴女の言う通り、月子はわたしの子。 わたしが二十歳(はたち)の時に生んだ子ょ」

「!?」

「!?」

「!?」

 ・・・


(ザヮザヮザヮザヮザヮ・・・)


みんなに動揺が走った。
それに構わず、拳代は続けた。
全員の視線を一身に受け、大食堂の中を天井を見上げ、時に身振り手振りを交え、狭い歩幅でユックリと歩きながらも全く不自然とはならずに。
何となれば、拳代は元女優である。

「わたしが妊娠した事を知った広井 玉子(ひろい・たまご)に、わたしは捨てられた。 遊びだったのょ、広井に取ってわたしは・・・。 そう。 わたしは単なるオ、モ、チャ。 遊び道具。 わたしは真剣だったのに・・・。 そのわたしが妊娠。 だから、広井にわたしは捨てられた。 周りはその子を堕(お)ろせと盛んに言ったゎ。 でも、出来なかった。 わたしに月子を堕ろす事なんて無理だった。 だって・・・。 だって、そうでしょ。 折角・・・。 折角、天から授かった、神からの贈り物である命をそう易々(やすやす)と奪う事なんてわたしにはとても・・・。 だから生んだのょ、あの子を、月子を、冬島 月子を・・・。 兄はそんなわたしの、この世でたった一人の理解者。 陰になり日向になりしてわたしを守ってくれた。 そしてわたしが月子を生むと直ぐ、兄が言ったのょ。 こう・・・ 『この子は俺の子として育てる。 女房も説得して納得させた。 だから安心しろ。 何も心配するな。 全て俺に任せろ。 但し、絶対に親子の名乗りはするな。 それがこの子の幸せのためだ』 って。 それが兄との約束・・・わたしと兄との固〜い約束。 絶対に破る事の出来ないね。 そして懸命にわたしはそれを守った。 いつも遠くから月子を見守っていたの。 でも、運命ってあるのね。 まさか・・・まさか、月子がわたしのいる学校に入学する事になるなんて。 いくら兄が止めても頑として聞かずに 『この学校しかない』 と言い張って、入って来るなんて。 しかも花組。 そう、わたしが顧問の花組演劇部に入って来るなんて。 嬉しかったゎぁ、あの子が、月子が自分の直ぐ側に来るなんて。 でも、それ以上に辛かったゎ、母と名乗れず、子と呼べず、ただ黙って、ジッと見守っているだけだなんて・・・。 もっともっと、ズッとズッと、辛かった。 ・・・。 それが・・・」

ここで拳代は立ち止まり、そして黙った。
目が微(かす)かに潤んでいる。

「・・・」

「・・・」

「・・・」

 ・・・

皆も黙っていた。
イチも美雪も御布施も。
驚いた事にあの尻餅までも。
勿論、少年も。

「・・・」

暫し、沈黙が続いた。
少し気まずいその沈黙の中、少年が何かを言ぉうとした。
しかし、その前に拳代が再び話し始めた。
相変わらず天井を見上げ、立ち止まったまま、時に身振り手振りを交えて。

「月子には才能があったゎ。 素晴らしい才能が・・・。 当然ょね、わたしが生んだ子なんですもの。 それに兄と同じ血が流れてるんですものね、あの天才リアクション芸人・冬島 竜兵と同じ血が。 しかし、それ以上に広井 玉子の血。 広井はあんなヤツ。 でも、その才能は群を抜いている。 天才なのょ、広井は。 わたしが愛したのはその才能。 誰も寄せ付けない素晴らしいその才能。 広井自身はふしだらなだけ。 でも、その才能・・・。 あれは憧れだった、わたしの・・・ね。 ・・・。 分っていたの、いつかわたしは捨てられるって。 月子の妊娠がその時だっただけ。 それでも良かった、月子を生めたんですもの・・・。 そして今回、月子がクリスティーヌ・ダーエ役に決まった。 勿論、それは部員達のみによる自主決定。 学校側は一切関知しない、部員達のみによる自主決定。 認められたのょ、月子はみんなに、花組の演劇部員全員にね、その才能を。 学園祭の演目、キャスティング、衣装、その他諸々(た・もろもろ)、これら全てを生徒達自身で決める。 それが我が校の伝統ですのもね。 教師のわたしは一言も口出し出来なかったし、しなかった。 でも、月子はヒロイン役を勝ち取った。 自分一人だけの力で。 きっと、これも運命ね。 15年前、わたしも演じたのょ 否 演じる事になっていたのょ、クリスティーヌ・ダーエを。 でも、そのリハーサル中に事故にあった。 そしてわたしはビッコ。 引退。 その芝居を今度は自分の娘が演じる事に決まった。 しかし、そのために大怪我。 自殺。 ・・・」

再び、拳代は黙った。
みんなも何も喋ろうとはしない。
その場が重たい空気に包まれた。
誰も物音一つ立てなかった。

不意に、


(クルッ!!)


拳代が身を翻して少年のいる方を向いた。
ジッと少年の眼(め)を覗き込んだ。

そして・・・

意を決して言った。

「そう。 ・・・。 あなたの言う通り、わたしが死喪田 歌月ょ」

瞬間、

「!?」

「!?」

「!?」

 ・・・

その場に異様な緊張感が走った。

そんな中・・・

拳代が少年に聞いた。

「でも、なんで分ったの? 貴方にそれが?」

瞬(まばた)き一つせず、ジッと拳代の目を見つめ返していた少年が答えた、キッパリと。

「センセがビッコひいてたから・・・。 それ見て」

「ん!? どういう事?」

「わたしが始めて死喪田 歌月見た時、歌月はシークレットブーツ履いてました。 足、お悪いのになんでシークレットブーツって思っちゃいました・・・これって、さっき言いましたょね。 ・・・。 その印象ってとっても強かったです。 そして今回の事件。 で、センセもチョッとだヶど、ビッコ。 そして皆さんの事、色々お調べしてる内にセンセの事もたっくさん分っちゃいました。 それで思ったんです。 もし、死喪田 歌月がセンセなら。 センセがシークレットブーツ履いたなら、どうなるかを。 多分、歩き難いですょね。 普通の靴履いてる時よっか、ズッと。 足お悪いの、強調されちゃいますょね、きっと。 だから歩き方から足付いちゃって、センセが死喪田 歌月だって、ばれちゃうかも知れませんょね。 その可能性大ですょね。 歩き方似てれば・・・。 ヶど、もしそれを逆手にとって、ワザと大袈裟にビッコひけば、返ってセンセに見えないかもって・・・。 だからセンセの歩き癖隠すためにわざと大袈裟にビッコひいたんじゃないかなって・・・。 そう思っちゃいました」

「そう〜。 ビッコ位でそこまで・・・」

少年の推理を、拳代は感心して聞いていた。
そして、まじまじと少年の顔を見つめながら続けた。

「その通りょ、貴女の言う通り・・・。 フ〜ン。 大したものね、貴女・・・」

「いいぇ、お友達です」

「ん!? お友達?」

「はい。 わたしのお友達みんなが色々アドバイスくれたからです。 わたし一人の力じゃありません」 

「いいのょ、謙遜しなくても。 貴女の力ょ。 でも、・・・。 友達思いなのね、貴女って。 ・・・。 もし今、月子が生きていて、ここにいたら、そして貴方に出会っていたら、いいお友達になってくれていたかも知れないゎね」

「わたしもそう思います、会ったことないヶど、きっといいお友達に・・・。 センセのお嬢様だから」

「フッ」

拳代が微笑んだ。
そして続けた。

「ありがと」

拳代が尻餅の方を向いた。
それから右手掌(みぎて・てのひら)を上に向けて広げ、それで少年を指し示して言った。

「この娘の言った通り、日高 五里絵を殺したのも、桐生 冬美を殺したのも、私(わたくし)です。 その殺し方も、今、この娘の言った通り・・・」

「ったく、な〜んで又、復讐なんて事を?」

全く、やり切れないという表情で尻餅が聞いた。
その言葉を聴いた瞬間、みるみる拳代の表情が険しくなった。
そして声を荒げた。

「あの子は! 月子は! 自殺に追い込まれたのょ! あの3人に!! いいぇ、違うゎ!! 月子は! あの3人に殺されたのょ!!」

そう言い切った瞬間、拳代は反射的に早乙女を指差した。
同時に、厳しい口調で続けていた。

「月子はたった一つのわたしの宝、わたしの夢だったのょ!! それを無惨にも、もぎ取られたのょ! あの3人に!! あの3人に殺されたのょ! 月子は!! でも、自殺。 所詮は自殺。 あの3人にはなんのお咎(とが)めもなし。 そんな事が許されていいの!? 許されるはずないじゃない!! 当たり前でしょ!! でも、法では裁けない。 あの3人を法律では裁けない。 法律では裁けないのょ、ここじゃ。 この日本じゃ、この日本の法律じゃ・・・。 だからょ、だからやったのょ、わたしが・・・。 わたしが裁くつもりだったのょ。 法で裁けないんなら、わたしが裁く。 わたしのこの手であの3人を裁く。 そう決心したのょ、あの日、あの時、あの場所で。 そして二人を殺した。 残りは、残る一人、早乙女 京子は・・・殺さない。 そう。 さっきあの娘(少年)が言ったように、生かさず、殺さず、ジワジワと。 ユックリジックリ、苦しめて。 苦しめて苦しめて苦しめて、そして死に追い込む。 自殺にょ。 必ずね。 必ず、自殺に追い込む。 そう誓ったのょ、あの日、あの時、あの病院で、あの3人のヒソヒソ話を立ち聞きした時に・・・」

ここで拳代は有森を見た。
この時点で、若干ではあったが興奮も収まり掛けていた。

「有森君。 あの日、病院で、あの3人のヒソヒソ話を立ち聞きしていたのは貴方達二人だけじゃなかったの。 わたしもいたのょ、あの場に。 貴方達の反対側にね。 月子と貴方の反対側にね。 あの時わたしもいたのょ、あそこに、あの場所に。 遠目から月子を見守っていたのょ、あの場所で。 その時ょ、あの3人が月子を侮辱するような事を言ったのは。 月子が何も言わない事をいい事に、あの3人が月子を侮辱するような事を言ったのは、その時ょ」

今度は少年を見た。

「そう。 あの3人の話を聞いたあの時だった、復讐を誓ったのは。 後はさっき貴女が言ったゎね、あの通りょ」

「でも、なんでここ選んだんですか、センセ? ・・・」

少年が聞いた。

興味津々といった・・・










表情で。











つづく




 


深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #75


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : 緒方 拳代(おがた・けんよ)の作り出した架空の人物

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 警視庁捜査一課の刑事 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 幽鬼 英作(ゆうき・えいさく) : 外科医 メガネを掛けた阿藤 快(あとう・かい)

 幽鬼 鼻胃子(ゆうき・びいこ) : 幽鬼 英作の妻 松坂 慶子(まつざか・けいこ)風





再度、

「でも、なんで復讐にここ選んだんですか、センセ? ウチ(オペラ座館)スッゴイ迷惑なんだヶど」

少年が拳代に聞いた。
そして公園に言葉を掛けた。

「ね!? おじちゃん」

「あ、ぁあ。 うん」

公園が頷いた。
そのやり取りを見てから拳代が静かに語り出した。
遠い眼差(まなざ)しをして。

「前に一度・・・。 むか〜し一度・・・。 来た事があるから、ここに」

「え!? いつ?」

反射的に、公園の口から疑問の言葉が突いて出ていた。

「ここがまだこの民宿になる前。 ・・・。 そして、ここょ、ここだったのょ、わたしが事故にあったのは・・・」

「!?」

「!?」

「!?」

 ・・・

拳代の言った 『事故』 と言う言葉に皆、衝撃を受けた。
それまでは単なる噂話に過ぎなかった拳代の事故。
それが少年の謎解きで、一転、明確な事実となっていたからだった。

「ここで演ずるはずだったの、クリスティーヌ・ダーエをね。 だからここは良く知っているし、絶好の場所だったのょ、復讐に。 ファントムに変身してする復讐に、ここは・・・」

「センセ、確か15年前でしたょね、事故にあったの」

今度は少年が聞いた。
その少年の眼(め)をジッと見つめて、拳代が答えた。

「えぇ。 わたしが22の時ょ。 稽古中に、突然、照明が落下して来てね、それがわたしの右足に直撃。 以来ビッコ、わたしはビッコ。 ・・・。 あれから15年。 ここも変わったゎ、随分・・・」

ここで拳代は目を閉じ、少し間(ま)を取った。
何かを思い出しているようだった。
暫し、沈黙してから目を明けた。
その目は、再び、遠い眼差しに変わっていた。
その拳代が続けた。

「15年前、ここで大きなパーティがあったの、内輪のパーティだったんだけど、各界のセレブ達を招いての大掛かりなパーティが。 そして、その余興として 『オペラ座の怪人』 を上演するはずだったのょ、ここで。 当時は 『オペラ “座” の怪人』 とは言わず、 『オペラの怪人』 と言っていたゎ。 でも、中味は同じ。 全く同じ。 もっとも台本は、今流行(いま・はやり)の 『アンドリューロイドウェバー脚本版』 ではなく、 『ジョセフ・ロビネット脚本版』 だったんだけどね、上演することになっていたのは・・・。 そしてわたしの負傷でそれは中止。 ダンスパーティに変わったゎ、急遽」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

 ・・・

皆、何も言わず黙っていた。
何も話す気にならなかったのだ。
そのままチョッとだけ、ぎこちない沈黙が続いた。

そして・・・

そのぎこちない沈黙を破ったのは公園だった。

「フゥ〜。 ここでそんな事が・・・」

公園が溜め息混じりにポツリとそう言っていた。
感慨深げにだった。










その時・・・











つづく