深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #16


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 桐生 冬美(きりゅう・ふゆみ) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 日高 五里絵(ひだか・ごりえ) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 他





「ぅわー!? このお魚美味しそう!?」

少年(すくね)が短小 否 嘆賞した。

ここは、民宿『オペラ座館』の調理場。
時は、同じ日の午後6時。

獲り立ての新鮮な魚を公園と卒婆が調理している所だ。
獲って来たのは勿論、霊園と深沙。

この『オペラ座館』では、料理は公園と卒婆が調理場で造り、霊園、深沙が給仕を担当している。
という事は、公園と卒婆は奥に引っ込んでいて食堂内には出て来ず、出来上がった料理をテーブルに運んだり、食堂内での雑用は霊園、深沙の二人で賄っている事になる。
今はそこに少年が加わり、給仕の手伝いをしていて、出来た料理を食堂に運ぶためここに入って来た所だった。
そして調理された魚のあまりの鮮度の良さに思わず一言、『美味しそう』と口走ってしまったのだ。

一瞬、調理の手を止め、公園が少年を見た。

「だろ〜、少年ちゃん。 何せ、取立てのホヤホヤ。 たった今、絞めたばっかりだからね。 新鮮その物さ」

「このお魚、霊園兄(よしぞの・にい)ちゃんと深沙姉(みさ・ねえ)ちゃんが獲って来たの?」

「勿論そうさ」

そこへ横から卒婆が嘴を入れて来た。

「少年ちゃんの分もチャ〜ンと用意してあるゎょ。 後で一緒に食べましょうね」

「ぅわぁ〜、楽しみ〜」

「少年ちゃん、良〜く手伝ってくれてるから、おじちゃん、腕に縒(よ)りを掛けて作ってあげるからね」

「うん。 ありがと、おじちゃん。 卒婆おばちゃんもね、ありがと」

「こっちこそ、手伝ってくれてありがとう。 さ、この料理運んでちょうだい」

「は〜い」

少年が卒婆に手渡された、盆に盛られた料理を食堂に運んで来た。

そこへ・・・

「さぁ、メシだメシだ、メシ食うぞー!!」

イチと美雪が一緒に食堂に入って来た。

「ウッ、ヒョウー!? ス、スゲェーじゃん、このメニュー!? フルコースじゃん、お魚の。 タイかヒラメか? ん!? どっちだ?」

テーブルに並べられている超豪華な魚料理を目にしてイチが感激して言った。
その声で、テーブルを整えていた少年が振り返った。

その瞬間、イチと目が合った。

「お!?」

イチが驚いた。
そして思った。

『きゃ、きゃわゆい』

って。

そぅ・・・

これが初めて、イチと少年がお互いを認識し合った瞬間だった。
IQ180 の大天才と、見た目はフランス人形のようにカワユイがそれでも平凡で普通の女子高生が、互いに認識しあったのだ、その瞬間。
イチは一目で少年を気に入っていた。

でも〜、

少年はイチを見てこう思っていた。

『マヌケそう』

って。

それでも、

“ニカッ!!”

ってした。
あいそ笑いである。

釣られてイチも、

“ニカッ!!”

ってした。
モテタと錯覚したからである。

その時、

イチが少年とそんなやり取りをしている事等、露知らず、美雪が周りを見回して言った。

「あら、やだ、あたし達だけ? みんなはまだ? で、あたし達の席はっと」

「ん!?」

その声でイチも少年から目を切り、辺りを見回した。
そして言った。

「いいんじゃねぇか、適当で。 俺、ここに決ぃーめたっと」

イチが一番気に入った席に着こうと椅子を引いた。

その瞬間、怒鳴り声がした。
それもバカでかい大声で。
ビックラこいちゃう位の。

こぅ・・・

「おい、こら! そこのガキンチョ!! そこをどけ!! そこは俺様の席だ!! オメェらの席はそこじゃねぇ!! 客はオメェらだけじゃねぇんだぞ!!」

イチが、ムッっとして振り返った。
するとイチの目の前に、まるで身長を180cmに、体重を0.1トンにした西田 敏行っぽい、でかくて、ごつくて、不細工なオッサンが立っていた。
仁王立ちだ。
そのオッサンとイチの目が合った。
反射的にイチが言った。

「な、何だ!? このオッサンは? な、何者なんだ、一体?」

イチをなだめるかのように美雪が言った。

「チョ、チョッと待って、イッチャン。 見て、これ。 ほら!? 席には全部名札がついてる」 

「ん!? なになに・・・お!? ホントだホントだ!? 全部に名札がついてる」

イチが周りのテーブルを見回して言った。
そして今座ろうとした席の名札を改めて見た。

「で、この席は・・・っと。 フムフム、えぇっと、なになに・・・尻餅 胃寒(しりもち・いさむ)。 俺じゃねぇゃ」

「フン!? そうゆうこった。 分かったら、さっさとそこを退(ど)きやがれ!!」

「チッ、キショー!? やっなヤロー!! 物には言い方ってもんがあんだぞ。 『まあるい卵も 切りよじゃ四角 物も言いよで 角(かど)が立つ』ってなぁ、ったく」

イチがぶつぶつ言いながらその席から離れた。

「まぁまぁまぁ、イッチャンイッチャン。 押さえて押さえて」

美雪がイチをなだめた。

そこへ・・・

「お!? フルコース!?」

「いー、匂いだ〜」

「あー。 腹減った、腹減った!!」

 ・・・

等と口々に、色々ほざきながら他の部員達が食堂に集まって来た。
最後に、少し遅れて拳代入って来た。
拳代が言った。

「席には全部名札がついてるから、自分の名前の席に着くのょ」

って。

「ぃ、いまさら言ってもおせーょ」

憮然とした表情でイチがほざいた。

「ん!? 何、金田一君!? 今、何か言った?」

拳代が聞き返した。

「先生。 そういう事はチャンと言ってくんなきゃ」

「今、言ったゎ」

「クッ!?」

拳代に軽〜くあしらわれて、ぐうの音も出ないイチであった。










ここは民宿『オペラ座間』の大食堂である。











つづく




 


深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #17


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 桐生 冬美(きりゅう・ふゆみ) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 日高 五里絵(ひだか・ごりえ) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 他





この民宿にはイチ、花組演劇部員トータル8名、緒方 拳代、尻餅 胃寒(しりもち・いさむ)の他にもう二人宿泊していた。
幽鬼 英作(ゆうき・えいさく)とその妻・鼻胃子(びいこ)の二人だ。

と、いう事は・・・

これに死喪田 歌月を加えた14人がこの民宿の客の総数だ。

更に言うなら・・・

この14人に、公園、卒婆、霊園、深沙、そして少年の5人を加えた総勢19名が、今この島にいる事になる。
これは逆に、今この島には総勢19名しかいないとも言える。

因(ちな)みに、幽鬼 英作の年恰好は、メガネを掛けた阿藤 怪 否 快、つー感じであり、鼻胃子の方は松坂 慶子っぽい。


「あぁ、うめぇうめぇ」

尻餅が美味そうに食事を始めた。
幽鬼夫妻も食べ始めている。
その3人を余所目(よそめ)に、

「みんな揃ったかしら?」

拳代が部員全員を見回して聞いた。
釣られて美雪も見回した。
一つだけ空いている席があった。
美雪は思った。

『あら!? あの席空いてる。 誰かしら・・・』

そして、

『ハッ!?』

気付いた。
日高 五里絵がいなかった。
美雪が拳代に言った。

「先生。 五里絵がまだです」

その言葉は当然、美雪の隣りで、もう我慢出来ずに目の前の料理にがっつこうとしていたイチの耳にも入った。


(ピタッ!!)


イチの動きが止まった。

『ん!? 五里絵』

同時に思い出していた。
先程の五里絵の怯え切った様子とその時に口にした、

『イッチャン、美雪!? あ、あたし、あたし・・・』

という言葉を。
そのイチに美雪が言った。

「イッチャン、あたしチョッと見て来るね。 五里絵のさっきの様子、少し気になるし」

「ぁ、あぁ。 そうだな!? なら、俺も一緒に行くょ」

一瞬、


(チラッ!!)


料理に『早く食いてえのになぁ』っぽい、未練タップリ視線をくれてイチが席を立った。

「じゃ、俺も」

反射的に、イチの隣りに座っていた有森も席を立った。

「じゃ、俺も」

「じゃ、俺も」

「じゃ、あたしも」

「じゃ、あたしも」

 ・・・

釣られて部員達が席を立ち始めた。
五里絵ももう高校生なんだし、放って置けばいいものを・・・
美雪、イチ、有森の席を立つタイミングが他の部員を釣るのに絶妙だったのだろうか?
それとも、これが群集心理、集団ヒステリーというヤツなのか?
気が付いたら一人を残して部員全員が席を立っていた。
その残った一人は早乙女 京子だった。

「あたしは行かないゎ、フン!? あんな子のためになんか行くもんですか」

って、チョビっと鼻息が荒い。
結局、拳代、早乙女、尻餅、幽鬼夫妻、それに給仕をしている霊園、深沙、そして少年が後に残った。
尻餅と幽鬼夫妻は旨(うま)そうに食事を始めていたが、拳代と早乙女は流石にこの状況下では料理に箸は付けられなかった。
二人は暫(しばら)くそのままジッとしていたが、恐らく間(ま)がもたなかったのだろう拳代が、

「わたしも見に行くか」

そう言って立ち上がろうとした瞬間、


(バン!!)


食堂の中に人が飛び込んで来た。
御布施だった。
血相変えている。
何かとんでもないハプニング起こったようだった。

「せ、せ、せ、せ、せ、先生!? た、た、た、た、た・・・」

御布施の呂律(ろれつ)が回らない。

「な、何!? 何事?」

御布施の顔色からただならぬ事が起きたに違いないと推察した表情で、拳代が聞いた。

「た、た、た、た、た、大変だ!? ご、ご、ご、ご、ご・・・」

「落ち着きなさい、御布施君!?」

「ご、ご、ご、五里絵が五里絵が五里絵が!?」

「日高さんがどうかしたの?」

「し、し、し、し、し、死んでる死んでる死んでる!?」

「!?」

「!?」

「!?」

 ・・・

これを聞き、その場にいた者達全員に衝撃が走った。
反射的に、


(ガタッ!!)


拳代が立ち上がった。
これには流石に無視できないと思ったのだろう早乙女も又、


(ガタッ!!)










立ち上がっていた。











つづく




 


深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラの怪人殺人事件』 #18


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 桐生 冬美(きりゅう・ふゆみ) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 日高 五里絵(ひだか・ごりえ) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 警視庁捜査一課の刑事 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 幽鬼 英作(ゆうき・えいさく) : 外科医 メガネを掛けた阿藤 快(あとう・かい)

 幽鬼 鼻胃子(ゆうき・びいこ) : 幽鬼 英作の妻 松坂 慶子(まつざか・けいこ)風





(ゴクッ!!)


イチが生唾を飲み込んだ。
こう呟(つぶや)きながら。

「こ、これは・・・」

と。

ここは、民宿『オペラ座館』の離れにあるミニ・シアター。
その舞台の上。

イチ達の目の前には今、信じられない物があった。

その信じられない物・・それは・・変わり果てた姿だった・・日高 五里絵の。
五里絵は恐らく顔からだろう、血を流しながら仰向けの状態で舞台の上に倒れ込んでいた。
というのも、五里絵の顔がイチ達には見えなかったからだ。

ナゼか?

それは、五里絵の顔の上に、小さめではあったが重そうな豪華なシャンデリアが乗っていたからだった。
まるで醜く血に染まった五里絵の死顔を覆い隠そうとでもしているかのように。

そぅ・・・

小さめではあったが重そうな豪華なシャンデリアが、五里絵の顔の上に・・・

恐らく、そのシャンデリアが何らかの原因で落下し、偶々(たまたま)その下にいた五里絵を頭上から直撃したようだった。
小さめとはいえ、高い天井から落下したそれなりに重さのあるシャンデリアの直撃を食らったら、どんな人間もイチコロだろう。
例へ、あの大巨人“チェ・ホンマン”といえども、先ず助からないに違いない。
ましてや、平凡な女の子の五里絵に至っては。

だが、ナゼここにそんなシャンデリアが?

それは最後にこの舞台が使われたのが、超セレブ達のダンスパーティとしてだったからだった。
そのため、舞台の照明はシャンデリア中心の照明に換えられていたのだった。

そして・・・

その場の五里絵のその体は、まるで完成間近のオブジェのようだった。
まだ未完成ながら一種異様な美しさを湛(たた)えていた。
ホンの少し前まで確かに血の通っていたはずの日高 五里絵の体が、今はまるで蝋人形のように白々として、真っ赤な血を流しながら息絶えていた 否 息絶えているかのようだった・・イチ達の目の前で、完成間近のオブジェのように・・顔を、顔だけを豪華なシャンデリアで覆った美しく、艶(なまめ)かしいオブジェのように。

しかも、
死後硬直なのだろうか?
それともまだ死んではいないのだろうか?

五里絵の体が、


(ピクピク、ピクピク、ピクピク、・・・)


痙攣している。 (死後硬直は、ホントは死後2時間位してからおこるっぽいヶど、いいよね・・・どふせ・・・さ・・・ふぃくしょん、だし・・・さ・・・ネ : 作者)

そのあまりの凄惨さにイチ達は五里絵に駆け寄る事さえ 否 身動き一つ出来なかった。
美雪も又その異様な光景を、


(ヮナヮナヮナヮナヮナ・・・)


イチの横で震えながら見ていた。
縋(すが)りつくように両手をイチの体に回して。

だが・・・

突然、

その美雪の体から、


(スゥ〜)


力が抜けた。


(フラッ)


体が揺れた。


(ガクン!!)


体勢が崩れ掛けた。


(ガシッ!!)


イチがその崩れ掛けた美雪の体を支えた。

こう叫んで。

「み、美雪!?」

と。

そぅ・・・

美雪が気絶したのだ。
変わり果てた日高 五里絵の姿を見て・・・










ショックのあまり。











つづく




 


深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #19


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 桐生 冬美(きりゅう・ふゆみ) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 警視庁捜査一課の刑事 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 幽鬼 英作(ゆうき・えいさく) : 外科医 メガネを掛けた阿藤 快(あとう・かい)

 幽鬼 鼻胃子(ゆうき・びいこ) : 幽鬼 英作の妻 松坂 慶子(まつざか・けいこ)風





悩まし気に・・・

「ゥ、ウ〜ン」

一声唸って、女は静かに目を明けた。

だが、

大きく見開く事は出来なかった。
目の前が眩しかったからだ。
それは天井の照明の所為(せい)だった。
天井の照明が直接目に入って来るからだった。

再び、女は目を閉じた。
頭の中がボンヤリしている。
何も考える事が出来なかった。
意識がまだハッキリしないのだ。

すると遠くから声が聞こえて来たような気がした。
聞き覚えのある声だった。
しかし、その声が何を言っているのかまでは分からなかった。
確かに聞き覚えのある声なのだが。

その聞き覚えのある声がもう一度聞こえた。
今度はかすかに聞き取れた。
名前を呼んでいたようだった。
それも自分の知っている名前を。
女はその名前が誰の名前か、考えようとした。
しかし、まだ思考能力が戻ってはいなかった。
ボンヤリしながら考えるとはなしに考えていた、その名前が誰の名前だったかを。

突然、

『ハッ!?』

気が付いた。
それは他ならぬ自分の名前だった。
こう呼ばれていたのだ、その時。

「美雪!? 美雪!? 美雪!? ・・・」

と。

そぅ・・・

その女は美雪・・・名無 美雪だった。

美雪は舞台の袖に、それまでイチが着ていた汗臭〜〜〜い上着を枕に仰向けに寝かされてた。

一瞬、

『ウッ!? くせっ!?』

って、美雪はオモタ。

美雪の名を呼んでいたのは、他ならぬ金田一 一だった。
そのイチの周りには拳代と部員達が美雪を取り囲んでいた。

美雪が薄目を明けてイチを見つめた。

「気が付いたか? 美雪」

イチが心配そうに美雪に語り掛けた。

「イッチャン!? あたし、あたし一体・・・?」

と、ここまで言った時、

『ハッ!?』

再び美雪は気が付いた。

「ご、五里絵!? 五里絵は五里絵は!?」

イチがジッと美由紀の眼(め)を見つめて、否、覗き込んで言った。

「今、診察中さ」

「診察中?」

「そう。 偶々(たまたま)客の一人に医者がいてな。 ソイツが今、診てる所さ。 だから、邪魔だってんで俺たちはここに遠退(とおの)けられたのさ」

「い、医者!? 医者って・・・。 そんな人いた?」

「あぁ、幽鬼ってヤツいたろ。 あの尻餅とか言うヤツの他に」

「幽鬼?」

「そう。 幽鬼。 ほら、いたろ、あの夫婦もん。 アイツ・・あの旦那の方・・あれ、医者だったんだ。 それも外科医」

そう言って、イチが顎で舞台に横たわっている五里絵の横にしゃがみ込んで五里絵を診ているらしい幽鬼を指し示した。

「・・・」

美雪が、イチが指し示した方向に顔を向けた。
幽鬼の姿が目に入った。
その様子を美雪は黙って見ていた。
時々、瞬(まばた)きをしながら。

不意に、


(スッ!!)


幽鬼が立ち上がった。
イチ達に近付いて来た。
そして拳代に言った。

「ご臨終です」

「・・・」

拳代は黙って幽鬼の目を見つめている。

「・・・」

「・・・」

「・・・」

 ・・・

誰も何も喋(しゃべ)ろうとはしなかった。
予想通りだったからだ、五里絵の死は。

静かに幽鬼が続けた。

「死因は、顔面の強打。 顔がグチャグチャです。 恐らく天井から落ちて来たシャンデリアを見上げ、その直撃を受けたのでしょう。 それに後頭部の打撲も。 こちらは倒れた時に打った物と思われます」










と。











つづく




 


深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #20


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 桐生 冬美(きりゅう・ふゆみ) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 警視庁捜査一課の刑事 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 幽鬼 英作(ゆうき・えいさく) : 外科医 メガネを掛けた阿藤 快(あとう・かい)

 幽鬼 鼻胃子(ゆうき・びいこ) : 幽鬼 英作の妻 松坂 慶子(まつざか・けいこ)風





「ご、五里絵・・・」

一言そう言った次の瞬間、


(ポロポロポロ・・・)


美雪が泣き始めた。

すると・・・

それまで五里絵の遺体の横にしゃがみ込んでいた、凄〜くごつくって、でっかくって、ゴリラみたいなヤツが、


(スック)


立ち上がった。

それは・・・オスだった。
その名を尻餅 胃寒という。

そぅ・・・

その男は尻餅 胃寒だった、あの傲慢な。
そして、ナゼだか分からないが、イチ達を五里絵の遺体から遠退けたのは他ならぬこの尻餅だったのだ。

尻餅は・・・

それが興味からだったのか?
それとも生来の出しゃばりだったのか?
あるいは、とんでもないお節介野郎なのか?
ズーっと五里絵を観察していた。

その尻餅がイチ達に近付いて来た。
そして美雪に向かってこうほざいた。

「チッ。 泣きたいのはこっちだぜ。 ったく。 人の休暇、台無しにしやがって。 ろくすっぽ飯も食えなきゃ、ユックリ温泉にも入れねぇじゃねぇか」

って。
それを聞き、イチがムッとして言い返した。

「さっきから、エッラそうに俺達にあれこれ指図しやがって、オッサン、アンタ一体何もんなんだ?」

「うむ。 いい質問だ」

得意げにそう言ってから、尻餅が徐(おもむろ)にワイシャツのポケットに手を突っ込んだ。
そして何やらつかみ出し、


(バッ!!)


それをイチの目の前に突き出した。
こう言いながら。

「俺はなぁ、この俺はなぁ、この俺様はなぁ、警視庁捜査一課の軽侮 否 警部だ!!」

って、エッラそうに、もったいなんかつけちゃって。
「んパッ!!」って感じで。

そぅ・・・

尻餅がイチに突き出して見せた物は警察手帳だった。

「ウッ!?」

一瞬、イチが怯(ひる)んだ。
そして聞いた。

「オ、オッサン!? 刑事だったんか?」

それを聞き、尻餅が自身たっぷり、然(さ)も自慢気(じまん・げ)、且つ、大仰(おおぎょう)にこうほざいた。

「ぉぅょ。 その通りょ。 いいかぁ、両耳かっぽじって良〜く聞きやがれ」

って。
そんでもっていきなり、


(パッ!!)


大きく両手を広げた。
横綱の土俵入りのように。


(サッ!!)


大袈裟なポーズを取った。
グレンラガンのカミナのように。

そして、大声でほざいた。

こぅ・・・


 真っ赤な太陽 この手で掴みゃ
 凄く熱いが 我慢するっ!!
 意地が支えの 漢道(おとこみち) ・・・。

俺を・・俺様を・・この俺様を・・一体、誰だと思ってやがるーーー!!!


って。

更に大見得を切った。
歌舞伎役者みたく。

「俺はなぁ・・俺様はなぁ・・この俺様はなぁ。 泣く子も黙る、警視庁捜査一課の〜。 又の名を、警視庁殺人課の〜、殺人課の〜。 その名も尻餅警部たぁ、ぁ、俺のこってぇ! んパッ!!」










って。











つづく