深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #31


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 警視庁捜査一課の刑事 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 幽鬼 英作(ゆうき・えいさく) : 外科医 メガネを掛けた阿藤 快(あとう・かい)

 幽鬼 鼻胃子(ゆうき・びいこ) : 幽鬼 英作の妻 松坂 慶子(まつざか・けいこ)風





「た、た、た、大変だ大変だ大変だーーー!!」

そう叫びながら霊園(よしぞの)が大雨の中、


(ダァーーーーー!!!!!)


傘も差さずにダッシュでやって来た。

「な、な、何だ何だ? どうしたどうした?」

まだ興奮状態が続いていた公園が、霊園に自分の傘を差し掛けながら聞いた。

「ホ、ホ、ホ、ホールにホールにホールに、ら、ら、ら、落書きが落書きが落書きが!? はぁ、はぁ、はぁ、・・・」

余程慌てて来たのだろう、霊園の息が荒い。

「え!? ホ、ホールに落書き?」

公園が聞いた。
呼吸を整えて、霊園が答えた。

「あぁ、そうだ、父さん。 ミニ・シアターのホールの壁に落書きだ」

「ど、どんな?」

「『呪われろ 呪われろ 呪われろ』って」

『ファントムだ!?』

『ファントムだ!?』

『ファントムだ!?』

 ・・・

その場の全員がそう思った。

公園が半ば自棄(やけ)っぱち気味に口走った。

「け、警察は・・・。 警察は一体何をやっているんだ!?」

するとそれまでこのやり取りを横目でジッと見ていただけだった尻餅が、ここぞとばかりにしゃしゃり出て来た。
そして、


(んパッ!!)


スッゲェ大袈裟な決めポーズを取った。
それも目は八方睨(はっぽう・にら)み、首をユックリ回し、足を大きく開き、グッと腰を入れ、両手を左右に広げた大歌舞伎の見得(みえ)っぽいヤツを。
そしてその状態で大声で吼(ほ)えた。

「ぉ、ぉ、俺を、俺様を、この俺様を一体、誰だと思ってやがるー!! この俺様も警察だー!!」

って。
そんでもって、直ぐに

“スッ”

ってして、

「さっき県警に連絡取った所、この暴風雨で海が荒れ、船はまだ出せんそうだ」

って、軽〜くほざいた。

それを聞き、イチもほざいた。

「兎に角、ホールに行ってみんべぇ」










って。











つづく







深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #32


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 警視庁捜査一課の刑事 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 幽鬼 英作(ゆうき・えいさく) : 外科医 メガネを掛けた阿藤 快(あとう・かい)

 幽鬼 鼻胃子(ゆうき・びいこ) : 幽鬼 英作の妻 松坂 慶子(まつざか・けいこ)風




「ない!? ないないないないない!?」

御布施が大声を上げた。
ここは、ミニシアター兼ダンスホール。
例の落書きのある場所。
みんなが『呪われろ 呪われろ 呪われろ』と書かれた、あの壁の落書きを見つめていた時の事だ。

「な〜にが、ぁ、ねぇ〜んだー?」

尻餅がエッラそうに聞いた。
いつもの歌舞伎張(かぶき・ば)りで。
もち、大見得切って。

御布施が、再び大声を上げた。

「い、衣装! 俺の衣装!! ファントムの仮面と衣装が・・・。 どこにもない!?」

それを聞き美雪が、

『ハッ!?』

となった。

「そ、そう言えば・・・。 そう言えば・・・」

「ん!? どうした美雪?」

イチが聞いた。

「あ、あたしね。 昨夜、ファントム見たの。 否、見たような気がしたの」

「な〜にー? ファントムを、ぁ、見ただと〜?」

尻餅が、毎度御馴染みのオーバーアクションで横から嘴を突っ込んで来た。

「えぇ、なんか見たような気が・・・」

「どこで?」

イチが聞いた。

「あたしの部屋。 窓の外からあたしの様子を伺ってたような気がしたの」

「な、なんでそれを、早く言わねぇんだ!?」

尻餅が怒鳴った。

「だ、だってだって、そんな気がしただけだったから・・・」

「ファントムか? そういゃ、美雪の部屋って、桐生の部屋の隣りだったょな、確か」

イチが聞いた。

「うん」

「な、な〜にー? 桐生の部屋の、ぁ、隣りだとー!?」

またまた、尻餅のオーバーアクションだ。
それが何を意味しているのかも分らずに。

その時、

「ない!? ないないないないない!?」

って、大声を上げたヤツがいた。
今度は有森だった。

「な〜〜〜にーーー? な〜〜〜にが、ぁ、ねぇ〜んだー?」

またまたまた、尻餅のオーバーアクションだ。

「ボ、ボーガンが・・・。 お、俺のボーガンがなくなってる!?」

「ボーガンが?」

即座にイチが反応した。

すると、

「ま、まさか・・・。 死喪田 歌月の野郎が・・・」

今度は割りと普通っぽく、尻餅が言った。

「でも、ボーガンなんか一体何のために?」

有森が呟(つぶや)いた。

瞬間、イチが、

『ハッ!?』

っとして言った。

「今度はそれで殺人を!?」

透かさず尻餅が大声でほざいた。

「でも、オメェさっき確か『次は水死だ』みてぇな事言ってたじゃねぇか。 え!? それがな〜んでボーガンなんだ?」

イチが言い返した。

「し、知らねぇょ、俺にそんな事聞いても。 そんな事ぁ、死喪田 歌月に聞いてくれ」

今度は尻餅が癇癪を起した。

「死喪田 歌月に聞けったってょ、そこのそのアマっ娘(こ)が、みすみす、仮面被った死喪田 歌月の野郎を見過ごしやがったんだからな」

困惑する美雪。

「み、見過ごしやがった、って。 そんなぁ・・・」

それから、

「グシュン!!」

って、した。

そんでもって、チョビっとバッカ不貞腐(ふてくさ)っちゃった・・・










美雪なのであった。











つづく




 


深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #33


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 警視庁捜査一課の刑事 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 幽鬼 英作(ゆうき・えいさく) : 外科医 メガネを掛けた阿藤 快(あとう・かい)

 幽鬼 鼻胃子(ゆうき・びいこ) : 幽鬼 英作の妻 松坂 慶子(まつざか・けいこ)風





「これがこの民宿の見取り図だ」

イチが言った。

時は、その日の夜。
場所は、109号室。
美雪の部屋。
そこに今、イチと美雪がいる。
そしてその部屋据付のセンターテーブルの上に、イチが1枚のA4サイズの紙を広げ、その上を指差している。
その紙にはその民宿の大雑把な間取りとその配置図が描(か)き込まれていた。
イチが描いた見取り図だ。
その見取り図には各部屋の宿泊客名が書き込まれている。
だから同時に、空き部屋も分かる。

それによると・・・

この民宿は、テレビの温泉番組なんかで良く見る普通の旅館サイズの玄関を入ると、直ぐ右手に大食堂があり、左手には101号室、それから順に102、103、104号室があり、吹き抜けの中庭を挟んで104号室の反対側に105号室、そして順に106〜110号室がある。
110号室の反対側は先程の大食堂だ。
そして、104号室と105号室の間は大きな引き戸式のガラス窓になっている。
又、この建物の中庭は、110号室の端から105号室の真ん中辺りまでとかなりの距離があり、その幅も各部屋、一部屋分とやはり相当な幅がある。
これを見ても明らかなようにこの建物は、空間を我々庶民には想像出来ないほどユッタリ、広々、取ってあるのが分かる。
当然、廊下の幅も優に2m以上ある。
この建物の建築方法は尺貫法ではなく、メートル法、あるいはインチで測って建てられた物と想像出来る。
ひょっとすると、どこか他所の国で建てられていた物をここに移したのかも知れない。

最後に、各部屋の宿泊者名はこうなっていた(名前のない部屋は全て空き部屋)。

 101号室 緒方 拳代
 102号室 銭湯 浴衣
 103号室 亀谷 修一郎
 104号室 有森 裕二郎
 105号室 金田一 一
 106号室 早乙女 京子
 107号室 日高 五里絵
 108号室 桐生 冬美
 109号室 名無 美雪
 110号室

 201号室 深大寺 公園・卒婆
 202号室 深大寺 霊園・深沙
 203号室 深大寺 少年
 204号室
 205号室 死喪田 歌月
 206号室
 207号室 尻餅 胃寒
 208号室
 209号室
 210号室 幽鬼 栄作・鼻胃子

この他に、110号室横から長〜く続く通路を通ると、そこには日高 五里絵の殺されたミニシアター兼ダンスホールが離れとしてある。
離れと言うよりも別館と言った方が良さそうな位だ。

更にその先に、源泉懸け流しの男女混浴大浴場がある。

これがこの民宿の大雑把な部屋割りだ。










以上。











つづく




 


深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #34


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 警視庁捜査一課の刑事 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 幽鬼 英作(ゆうき・えいさく) : 外科医 メガネを掛けた阿藤 快(あとう・かい)

 幽鬼 鼻胃子(ゆうき・びいこ) : 幽鬼 英作の妻 松坂 慶子(まつざか・けいこ)風





(ドンドンドンドンドン・・・)


美雪の泊まる109号室のドアを誰かが激しくノックした。

『ビクッ!?』

『ビクッ!?』

イチ、美雪共に驚いた。
二人はその時、イチの描(か)いた見取り図を見ながら日高 五里絵と桐生 冬美の死について色々話し合っていた所だった。
そこに誰かが来たのだ。


(サッ!!)


素早く美雪が立ち上がった。


(スタスタスタ・・・)


ドアに近付いた。
そして聞いた。

「誰?」

即座に返事が返って来た。

「あたしょ、あたし。 早乙女ょ、早乙女」

早乙女 京子だった。

「早乙女先輩!?」

そう言いながら美雪が、


(カチャ!!)


カギを外し、


(ガチャ!!)


ドアを開けた。

「先輩。 一体どうしたんですか?」

「乱暴にドアを叩いたりしてごめんなさい。 焦ってたものだから・・・」

早乙女が謝った。
そして誰かを探してでもいるかのように、部屋の中を見回した。
するとソファーに座ったまま、自分を上目(うわめ)使いで見上げているイチと目が合った。
そのイチに早乙女が声を掛けた。

「有森君に聞いたら、金田一君、ここだって言うので、来たのょ」

「え!? 俺? 俺になんか、用っスか?」

「えぇ」

そう言って、早乙女が手に持っていた一枚の便箋をイチに手渡した。
こう言いながら。

「さっき、部屋に戻ったらこんな物が・・・」

イチがその便箋を見た。

「こ、これは・・・!?」

イチが驚いた。

「なになに・・・?」

横から美雪がその紙を覗き込んだ。

「え!?」

美雪も驚いた。

そぅ・・・

その紙には、真っ赤なインクを使ったへんてこな金釘流(かなくぎりゅう)の、字を習い始めたばかりの子供が書いたようなたどたどしい書体で、こう書かれてあったのだ。

 貴女が大衆歌劇場の花形である時代は
 もはや終りを告げた
 今夜からは、“冬島 月子”が
 貴女の代わりに歌う
 もしこれを邪魔しようものなら、
 恐ろしい災難が起こるものと心得られたし

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死喪田 歌月



【上記原文(但し、日本語訳一部修正):

(Your days at the Opera Populaire
 are numbered.
 Christine Daae will be singing
 on your behalf tonight.
 Be prepared for a great misfortune,
 should you attempt to take her place.)

 THE PHANTOM OF THE OPERA - Andrew Lloyd Weber より】



『冬島 月子の名前が書いてある!? しかも死喪田 歌月のサイン入り!?』

イチは思った。
そして、顔に納得行ったという表情を浮かべて言った。

「死喪田 歌月!? とうとう正体を現したな」

その横で、美雪が困惑して一言呟いた。

「こ、この文面・・・」

更に続けた。

「これはファントムのエリックがプリマドンナ【主役のオペラ歌手の事:作者註】であるカルロッタに出した手紙の文面の一部・・・。 脅迫文ょ!? でも、なんで? なんで死喪田 歌月が月子の名前を・・・? なんでなんでなんで?」

興奮しているのだろうか?
それとも恐怖からか?

美雪の横で、


( gkbr gkbr gkbr ・・・)


早乙女が震えている。
そんな早乙女に、


(チラッ)


イチが一瞥をくれた。
そして探るような目付きで問い詰めた。

「先輩? 何か隠してるんじゃないですか? 冬島の事で・・・?」

みるみる早乙女の顔色が変わり始めた。
血の気が引いて行くのが、傍目(はため)にもはっきりと分かった。
そして真っ青になって叫んだ。

「あ、あたしじゃない!! あたしじゃない あたしじゃない あたしじゃない!! あたしじゃなーーーい!!! ハァハァハァハァハァ・・・」

一気に早乙女の感情が爆発したのだ。
息も荒い。

突然、


(ポロ、 ポロ、 ポロ、 ポロポロポロポロポロ・・・)


大粒の涙が目から溢れ出した。

「わぁーーー!!!」

泣き出した。

「さ、早乙女先輩」

驚きと共に、心配そうに美雪が早乙女に声を掛けた。
だが、早乙女は中々泣き止まない。
イチ達は暫らく黙ってその様子を見ていた。
早乙女の爆発が収まるのを待ったのだ。
少しして、早乙女が冷静さを取り戻し始めた。
それと同時に語り始めていた。
それまで誰にも言わず、心の中に秘めていたある秘密を。

「ぁ、ぁ、ぁ、あの事故のあった日。 ぁ、ぁ、あの日・・・あの日、月子を理科準備室に呼び出したのはあたし達。 あたしと五里絵と冬美の3人だったのょ」

『え!?』

『え!?』

イチは驚いた。
勿論、美雪も。

早乙女が続けた。
と言うよりも、もう止まらなくなっていた。

「今度の学園祭はあたしに取っては最後・・・最後のチャンスなのょ、劇団や芸能プロダクションの目に留まる。 だからどうしてもこのチャンスを物にしたかった。 だからあたし達みんな、月子が主役になって悔しかった。 悔しくて悔しくて仕方なかった。 みんな我慢出来なかった。 だから・・・。 だから、チョッと脅かしてやろうと思って・・・。 硫酸ょ、硫酸をチョッと・・・彼女に、月子に掛けた。 服をチョッとのつもりだったのょ。 ヶ、ヶ、ヶど・・だヶど・・ま、まさかあんな事!? あんな事になるなんて・・・。 ま、まさかあんな事になるなんて、思っても見なかった! 思っても見なかったのょー!! わぁーーー!!!」

再び、早乙女の感情が爆発した。
両手を顔に当てて泣きじゃくっている。
暫らくその姿をジッと見つめていたイチが、不意にドアの方に歩き出した。

「ィ、イッチャン?」

美雪がイチに声を掛けた。

「ど、どこ行くの?」

「尻餅のオッサンのとこ」

「え!?」

「順番から行くと・・・」

そう言ってイチが、


(クィッ!!)


顎をしゃくって早乙女を指し示した。

「な!? だから・・・」

即座にその意味を理解して、

「あ!? うん」

美雪が頷いた。

「あ!? それから美雪」

「ん!?」

「俺が外に出たら直ぐカギ掛けろょ。 いつ死喪田 歌月が先輩襲って来(く)っか、分かんねぇからな。 分かったな、美雪」

「ぅ、うん」

美雪が頷いた。
それに軽く会釈で答えて、


(バタン!!)


イチがドアを閉めた。

イチは呼びに行ったのだ、尻餅を・・・










対、死喪田 歌月のために。











つづく







深大寺 少年の事件簿 File No.1 『オペラ座の怪人・殺人事件』 #35


 【登場人物】

 深大寺 少年(じんだいじ・すくね) : 16歳 女子高生(1年) チェック柄のスッゲー短〜いスカート パンツは白

 金田一 一(きんだいち・イチ) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 知る人ぞ知るあの大天災・迷探偵・金田一 上野介(きんだいち・こうずけのすけ)の孫 IQ180の大天災 否 大天才

 深大寺 公園(じんだいじ・まさぞの) : 深大寺 少年の叔父 民宿『オペラ座館』のオーナー

 深大寺 卒婆(じんだいじ・そば) : 深大寺 公園の妻

 深大寺 霊園(じんだいじ・よしぞの) : 深大寺 公園の長男

 深大寺 深沙(じんだいじ・みさ) : 深大寺 霊園の妻

 死喪田 歌月(しもだ・かげつ) : オペラ座館の客

 名無 美雪(ななし・みゆき) : 17歳 私立御不動山学園高等部進学科2年生 金田一 一の幼馴染で花組演劇部員

 御布施 光彦(おふせみ・みつひこ) : 18歳 私立御不動山高校花組3年生 花組演劇部部長 怪人・エリック役

 有森 裕二郎(ありもり・ゆうじろう) :  17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 銭湯 浴衣(せんとう・ゆかた) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 緒方 拳代(おがた・けんよ) : 女教師 花組演劇部顧問 牛チチ

 亀谷 修一郎(かめや・しゅういちろう) : 17歳 私立御不動山学園高等部花組2年生 花組演劇部員

 早乙女 京子(さおとめ・きょうこ) : 18歳 私立御不動山学園高等部花組3年生 花組演劇部副部長 ヒロイン(クリスティーヌ・ダーエ)役

 尻餅 胃寒(しりもち・いさむ) : 警視庁捜査一課の刑事 身長180cm、体重0.1トンの西田 敏行(にしだ・としゆき)

 幽鬼 英作(ゆうき・えいさく) : 外科医 メガネを掛けた阿藤 快(あとう・かい)

 幽鬼 鼻胃子(ゆうき・びいこ) : 幽鬼 英作の妻 松坂 慶子(まつざか・けいこ)風





「う〜む」

尻餅が考え込んでいる、廊下をイチと一緒に歩きながら。
当然、向かう先は109号室。
つまり美雪の部屋だ。
尻餅が続けた。
真っ当な言い方で。

「恐らく死喪田 歌月は冬島 月子ってヤツの家族、あるいはかなり近い親族・・・。 否、待てよ。 恋人って可能性もあるか・・・。 う〜む」

更に続けた。

「冬島の自殺の真相を何かで知った死喪田が復讐を思い立った。 そして密かにそのチャンスを狙っていた・・・。 そんでもって終にそのチャンスが訪れた。 ここはそれに絶好の場所だからな。 島全体としてみればここはある種、密室とも言えるんだからな。 そしてお前らの来る前にチェックイン。 そこで計画を練り、それを実行ってか? 大将に聞いた話しじゃ、死喪田は前にも何度かここに来たっていう話しだし。 つまり地の利ってヤツも心得ている」

「ん!? 前にも何度か?」

「あぁ、2度程、来た事があるそうだ」

「なら、今回で3度目?」

「という事になるな」

「う〜む」

今度はイチが考え込んだ。
勿論、歩きながら。

そして、2人の目指す109号室はもう、目と鼻の先・・・










だった。











つづく