#61#65




『神撃のタイタン』 #61




(ピタッ!!



突然、不良が止まった。



(クルッ!!



振り返った。

不良のその思わぬ行動に、


「ヌッ!?


一瞬、ポセイドンが意表をつかれ、驚いた。

そして、


「人間!? やっと観念したか?」


反射的に聞いていた。


「あぁ。 観念した。 だが、最後に一つ聞く」


「何だ? 言ってみろ、聞いてやる」


「アンタの次の一投か? アンタの次の一投で俺の命運が尽きるのか?」


「その通り」


「間違いなく、次の一投だな?」


「あぁ、そうだ。 間違いなく、次の一投だ。 神に二言はない」


「良し」


そう言って不良がベルトに装着していた小袋に手を突っ込んだ。

素早く、ある物を取り出した。


!? ある物を?


そぅ、ある物を。


そのある物・・・それはあの金属の棒だった。

それを持つ者の念に反応して形を変える例のあの金属の棒だった、不良が取り出したある物とは。

今は小袋に入る程コンパクトにしてあったのだが。


「ホゥ〜。 それはアナウロス川で見せたアレか?」


「そうだ」


「それでどうするつもりだ」


「勿論、戦う」


「フフフフフ。 ハハハハハ。 アッ、ハハハハハハ・・・」


ポセイドンが笑った。


「何がおかしい?」


「これが笑わずにおれるか。 そのようなオモチャで、本気で余と戦うつもりか」


「あぁ、俺は本気だ」


「笑止!? だが、気に入った。 人間。 そのつもりでおったが、気が変わった。 すぐには殺さぬ。 面白(おもしろ)ぅないからのぅ。 少し遊んでやる」


「そうか。 少し遊んでくれるのか。 なら、リクエストしよう」


「ん? リクエストだ?」


「あぁ、俺の最後の頼みだ。 聞いてくれるか?」


「内容次第だ。 言ってみろ」


「風が見たい。 アンタのそのトライデントでどれ程までの風が起せるものかを」


「ん!? 風が見たい? 風が見たいだと〜?」


「あぁ、見たい」


「そんな物が見たいのか?」


「あぁ。 そんな物が見たいのだ」


「いいだろう。 見せてやろう。 だが、先程のように逃げてもムダだぞ。 我が海馬の速さからは逃れられぬ、絶対にな」


「勿論、逃げる気なんか更々ないさ。 俺はただ、風が見たいだけだ。 そのトライデントが起す最大の風がな」


「良し。 ならば篤(とく)と見よ。 我がトライデントの威力を」


そう言って、



(ブン!! ブン!! ブン!! ブン!! ブン!!  ・・・)



ポセイドンが頭上でトライデントを振り回し始めた。


すると、



(グォーーー!!!



颶風(ぐふう)だ。

凄まじい威力の颶風だ。

凄まじい威力の颶風が起こった。

瞬時にして風速がトップスピードになった。


瞬間、


「フン!!


不良がその風に乗った。

物凄いスピードで飛んだ。


「ヌッ!? 愚か者め! 逃げてもムダだと言ったであろうが!!


そう大声を上げ、ポセイドンが海馬に鞭を入れた。











その時・・・







つづく







『神撃のタイタン』 #62




「危ない!?


雪が声を上げた。


「え!?


突然の事に外道が驚いた。

ここは旅館 『秀吉のゆかた』 内、不良の診察室。


「おじちゃんが危ない!?


「不良が!? 不良がどうかしたのか?」


「殺される」


「え!? 殺される?」


「うん」


「『殺される』 って、誰にだ?」


「分んない。 でも、スッゴク強い人」


「不良よりもか?」


「うん、全然!? 全然、勝負ンなんない」


「『全然、勝負ンなんない』 って・・・。 ナゼ分る?」


「分ったんじゃない。 感じた」


「ウ〜ム」


外道が考え込んだ。

すると、


「アタシ行かなきゃ」


雪がボソッと呟いた。


「え!?


外道がその言葉に反応した。

再び雪が、


「アタシ行かなきゃ」


今度はキッパリとそう言い切った。


「『アタシ行かなきゃ』 って、お前・・・」


「だって、雪しかいないもん、おじちゃん助けられる人」


「『雪しかいないもん』 って、お前なぁ・・・」


外道の言葉を遮るように、



(キッ!!



厳しく、雪が外道を睨み付けた。


「こないだ。 雪、不良のおじちゃんに助けられた。 血、一杯もらって・・・。 今度は雪が助ける番」


「そんな事言って、お前・・・」


「雪はダイジョブだょ。 だって、センセ、ここいるから帰って来れるし」


「『センセ、ここいるから帰って来れるし』 って・・・」


「ダイジョブだょ、心配いらないょ」


「ま、待て! !! は、早まるな!!


「ダイジョブだってば・・・。 雪、チョッと行って来るね」


「チョ、チョッと待て! !!


「センセ。 お留守番頼むね」


「ま、待て!! ゆ・・・」


外道の制止を振り切り、



(スゥー)



雪の姿が消えた。

外道が最後まで言い終わらぬ内に。

雪は直観したのだ。

不良の窮地を。

そして追ったのだ。

不良の後を。

不良を助けるために。


一人その場にポツンと取り残された外道が、不満気(ふまん・げ)に呟(つぶや)いた。


「な〜にが 『雪、チョッと行って来るね』 だ。 ったく、軽〜く言いやがって。 俺にも出来ない事を・・・。 いとも簡単に・・・。 しっかし、いよいよ覚醒かぁ・・・」


と。


更に、


「益々、妖怪じみて来やがって・・・。 この先一体、どうなるんだ、アイツは・・・。 ったく」


とも。


今日、雪の空恐ろしいまでの潜在能力を改めて感じ、



(ブルッ!!



背中に寒い物を感じた・・・











外道であった。







つづく







『神撃のタイタン』 #63




「お嬢!? ここから先へは行(ゆ)かせませぬ」


突然、雪の前に姿を現した老婆が言った。

ここは古代ギリシャ。

いち早く不良が降り立った地。

そこにたった今、雪がジャンプして来た所だ。

それも肉体ごと不良を追って・・・正確に。


「ん!? なにヤツ?」


雪が聞いた。

この物言いから分かるようにその魔力を発揮する時、雪は人格が変わる。

当然、その風貌も・・・雪女に。

まだ思うように自我をコントロール出来ないのだ。

その雪に老婆が丁重に挨拶した。

まるで旧知の間柄でもあるかのように。

それも上下関係をハッキリとさせて。

勿論、雪が上位なのは言うまでもない。


「お久しゅうございます。 お嬢。 ワシをお忘れでございますか?」


「ソチなど知らぬ」


「知らぬとはつれない。 ヘカテでございます」


「ヘカテ? ヘカテじゃと?」


「左様(さよう)でございます」


「知らぬ。 それよりこれ以上ワラワの邪魔は許さぬ。 そこを退(ど)け」


「いいゃ、退きませぬ」


「邪魔じゃ、退け」


「退きませぬ」


「つべこべ申さず、そこを退け」


雪がそう言って、



(サッ!!



素早く剣印を結んだ右腕を挙げ、



(ピュー!!



突風を起し、ヘカテと名乗った老婆を吹き飛ばそうとした。


だが、


『ヌッ!?


雪は驚いた。

全く動じないのだ、その老婆が。

微動だにしない。


もう一度、やってみた。

しかし・・・同じだった。


「ムダでございます


つー、まー、りー、・・・


『無駄ーーー!! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


でございます」


ヘカテが言った。


「・・・」


雪は黙ったまま、信じられないという表情をしている。


「いかにお嬢とはいえ、まだ覚醒しきってはおらぬご様子。 その程度ではこのヘカテには通じませぬ」


「・・・」


「お嬢! 御免(ごめん)!! 許されょ!!


そう叫んでヘカテが両手を胸の前に上げ、掌(てのひら)を立てる天破の構えに入った。

そのまま一気に、


「ウ〜ム」


念を込めた。


瞬間、



(ピカッ!!



ヘカテの手が光った。

その垂直に立てた両手掌(りょうて・たなごころ)が。

そしてその状態から、



(スゥー)



両腕を引きながらユックリと右足を前に出した。

それから弾みをつけ、両手と上体を一気に突き出した。


「哈(は)ー!!


鋭い気合と共に。

すると、



(ビキビキビキビキビキ・・・)



エネルギー波だ。

凄まじいエネルギー波が飛んだ。

ヘカテの手から雪目指して。


「クッ!?


一言呻いて、



(サッ!!



両腕を顔の前まで上げ、雪がこれをブロックしようとした。

老婆の発したこの凄まじいエネルギー波を。











だが・・・







つづく







『神撃のタイタン』 #64




「ヌッ!?


外道は驚いた。


突然、



(ピカッ!!



目の前の空間が光ったからだ。

そして次の瞬間、



(ブォーーー!!



凄まじいエネルギー波を感じた。

同時に、



(ヒューーー!!



人が吹っ飛んで来た。

外道に向かって。



(ドコッ!!



強烈にぶつかった。



(ドサッ!! ドサッ!!



二人共、床に打ち据えられるように転んだ。

即座に外道が顔を上げ、吹っ飛んで来た人間を見た。

思わず叫んた。


「雪!?


と。


そぅ。


吹っ飛んできたのは雪だった。

雪は気を失っていた。


「ゆ、雪!? シ、シッカリしろ! !!


外道が雪の体を抱き起こしながら、声を掛けた。

静かに雪が目を明けた。


「ハッ!? セ、センセ!?


正気に返った。


「ヘ、ヘカテ!? ヘカテは? ヘカテはどこ?」


外道の腕の中で雪が取り乱している。

しかし、外道には 『ヘカテ』 の意味がすぐには分からなかった。


「ヘカテ?」


「うん」


「何の事だ?」


「アタシ、アタシ負けちゃったヘカテに」


「ヘカテに負けた?」


「うん」


「ヘカテって・・・。 ま、まさか!? あれか? 呪術の神で冥府魔道界を取り仕切ると言われている闇の魔神(ましん)、あの魔女ヘカテか?」


「うん。 多分、そうだと思う」


「あのヘカテと戦ったのか?」


「うん。 戦った。 でも、全然相手になんなかった。 くっ、やしー!! くっ、やしーょーーー!! ェッ、ェッ、ェッ、ェッ、ェッ、・・・」


雪が泣き始めた。

初めて喫(きっ)した敗北に耐えられなかったのだ。

それも、まるで歯が立たなかったのだから尚更だった。

プライドが許さなかったのだ。

覚醒し始めた最強の魔女としての雪のプライドが。











ここは旅館 『秀吉のゆかた』 内、不良の診察室である。







つづく







『神撃のタイタン』 #65




「死ねーーー!!


ポセイドンが叫んだ。



(グォーーー!!



凄まじい唸り音を上げ、不良の背後目掛けトライデントが飛んで来た。

ポセイドンの投げたトライデントが。

大神ゼウスの 『サンダーボルト=雷霆(らいてい)』、そのゼウスとポセイドンの兄であり冥界の主であるハデスの 『被ると姿の消える兜』 と並び、オリンポス最強の武器の一つ、あのポセイドンのトライデントが。

それは正確に不良の背中をとらえている。


そぅ。


終に、不良は追い付かれたのだ。

言葉巧みにポセイドンを欺き、トライデントによる颶風(ぐふう)を起させ、その颶風に乗ってポセイドンから上手く逃げたはずだったのだが。

流石、ポセイドン自慢の海馬。

神速で一気に不良の背後に迫っていた。

そして、ポセイドンが不良を射程内にとらえた。

勿論、射程内と言ってもそれはポセイドンの射程。

即ち、極大射程だ。


不良を自らの極大射程内に納め、ゴールデン・チャリオットを一旦停止し、ポセイドンが狙いを定めた。

目標は勿論、不良孔雀。


そして、


「死ねーーー!!


この叫び声と共に一気にオリンポス最強の武器、ポセイドンのトライデントが投擲(とうてき)されていたのだ。



(グォーーーン!!



凄まじい唸り音を上げ、トライデントが飛ぶ。

正確に不良の背中目掛けて。

絶対に狙いを外さないポセイドンのトライデントが。


猛然と自らの背後に迫り来るポセイドンのトライデント。

その気配を感じ、


「クッ!?


不良が唸った。

しかしその背中目掛け、



(グォーーー!!



容赦なく迫り来るトライデント。

これを避ける事は絶対に出来ない。


危うし、不良孔雀!?

絶体絶命!?

予言の通りだ!?











だが・・・







つづく