#66#70




『神撃のタイタン』 #66




(ポーーーン!!



何かが宙に舞い上がった。

それとほぼ同時に、



(プッ、シューーー!!



血だ!?


血が噴出(ふきだ)した。

凄まじい勢いで。

不良の体から。


終に、トライデントがとらえたのだ不良の体を。

という事は・・・貫いたのか不良の背中を?


しかし、



(ブォーーーン!! ザッ、パーーーン!!



轟音を上げながらトライデントが海の中に突っ込んだ。

ポセイドンのトライデントだけが。

ポセイドンのトライデントだけが海の中に突っ込んだ。


!? 


ポセイドンのトライデントだけが海の中に突っ込んだ?

ならば・・・貫通したのか、不良の体を?

でなければ・・・不良も一緒のはず。


だが、


不良は宙に止まっている。

そして右手で左腕の肩の下辺りを抑えている。


「ハァハァハァハァハァ・・・」


酷く荒いが、確かに呼吸もしている。


不良は死んでない!?


なら、外れた・・・外れたのか?

一発必中の。

一度狙えば確実に的をとらえる、あのオリンポス最強の武器の一つポセイドンのトライデントが・・・外れたのか?

否、

それはない。

それはないはずだ。

そんな事は何があろうと起こり得えないはずだ。

もしそれが本当に起こったのなら、不良は運命の予言をも同時に覆(くつがえ)した事になる。

決して覆す事の出来ないあの運命の予言を。

それをも不良は覆した事になる。


しかし、現実に不良は生きている。

チャ〜ンと呼吸もしている。

つまりポセイドンのトライデントは外れたのだ。

間違いなく外れたのだ。

不良の体に当ってはいないのだ。


だが、変だ。

様子がおかしい。

不良の、今のその姿には何かが足りない。

しかも全身血塗れだ。


「ハァハァハァハァハァ・・・」


呼吸が荒いのも気になる。


今、不良は宙に止まったまま両足を大きく広げ、やや前傾姿勢を取り、右手で左腕の肩の下辺りを抑えている。

そしてそこから、



(ボタボタボタボタボタ・・・)



出血もしている。

それも激しく。


激しく出血しているぞー!?


不良の左腕から。


アッ!?


ぶ、不良の腕が!?

良〜く見ると不良の腕がない!?


腕がないぞー!?


不良の左腕が、肩のすぐ下から。

あの何かが足りない・・・それは腕だ、不良の左腕だ!?


そぅ。


ポセイドンのトライデントは、不良の背中は確かに外した。

しかし、代わりに左腕をもぎ取っていたのだ。


先程、



(ポーーーン!!



何かが宙に舞い上がっていた。

その宙に舞い上がっていた何かとは・・・不良の左腕!?

あれは不良のもぎ取られた左腕だったのだ。


でも、ナゼ?

ナゼ、絶対に狙いを外さないはずのポセイドンのトライデントの狙いが外れたのか?


それに、決して覆すことの出来ないはずのあの運命の予言が、一体・・・











ナゼ?







つづく







『神撃のタイタン』 #67




「クッ!?


ポセイドンが一声唸り、呟(つぶや)いた。


「バ、バカな・・・。 こ、こんな事が・・・。 こんな事がこんな事が・・・。 あ、あ、あり得ん!? あり得んあり得んあり得ん!? 絶対にあり得ん!? こ、こんな事が!? こんな事があろう訳がない!?


と、酷く取り乱して。


ポセイドンの額(ひたい)からは、



(タラ〜)



大粒の汗が滴(したた)り落ちている。

それが豊かな紺黒(こんこく)の髭の中に吸い込まれて行く。


顔色が真っ青だ。

ポセイドンの顔色が真っ青だ。

しかも、ジッと不良を見つめながらまだ何にやらブツブツ呟いている。


「絶対に外れぬ我がトライデントが・・・。 決して覆(くつがえ)す事の出来ぬ魔女の予言が・・・。 外れたというのか? それともコヤツが外したのか? ウ〜ム」


一方、


不良はと言えば、


「ハァハァハァハァハァ・・・」


呼吸が荒い。

だが、間違いなく生きている。

その不良が、



(クルッ!!



体の向きを変え、海馬をトロットさせて近付いて来ていたポセイドンに相対峙した。

その距離おおよそ5メートル。


(キッ!!



ポセイドンを睨み付けた。

そして、


「・・・ハァハァハァハァハァ。 勝った!! ハァハァハァハァハァ。 ざまぁ見ろ!! 神に一泡吹かせてやったぞ!! ハァハァハァハァハァ・・・」


キッパリとそう言い切った。

これを聞き、



(ピキッ!!



ポセイドンが切れた。


「な〜にー? 勝った〜? 勝っただとー?」


「・・・ハァハァハァハァハァ。 あぁ、勝った。 俺の勝ちだ! ポセイドン!! ハァハァハァハァハァ・・・」


「な、な、生意気なー!! 生意気な生意気な生意気なー!! 人間ごときがー!! カスのクセに、クズのクセに、ゴミのクセにー!! この余(よ)に勝っただとー?」


「・・・ハァハァハァハァハァ。 あぁ、そうだ!! アンタはカス、クズ、ゴミのこの俺に・・・。 生意気な人間ごときのこの俺に・・・。 負けたんだ!! ざまぁ見ろ。 ハァハァハァハァハァ・・・」


「ふふふ、ふざけるなー!!


怒り心頭に発するポセイドン。

顔が真っ赤だ。



(プルプルプルプルプル・・・)



怒りで体が震えている。

そんなポセイドンに、


「・・・ハァハァハァハァハァ。 見ろ! ポセイドン!! ハァハァハァハァハァ・・・」


そう言って不良が、



(サッ!!



遥か下の海面を右手人差し指で指差した。


「ん!?


ポセイドンが不良が指差した所を見た。

そして、


『ヌッ!?


驚いた。











そこには・・・







つづく







『神撃のタイタン』 #68




「ティ、ティアマト!? あ、あれは・・・ティアマト!?


ポセイドンが驚きの声を上げた。

ティアマトだった、不良が指差したのは。

しかも、既に全身石と化したティアマトだったのだ、今、不良が指差したのは。

気付かぬ内にポセイドンはペルセウスとティアマトの戦っている場所まで来ていたのだった。

巧みにに誘導されて。


そぅ。


不良に巧みに誘導されて、ポセイドンはそうとは気付かぬ内にペルセウスとティアマトの戦っている場所まで来ていたのだった。

実は、不良はポセイドンから逃げてはいなかったのだ。

否、

逃げてはいた。

それは間違いない。

しかし、ただ逃げていた訳ではなかった。

チャ〜ンと計算した上で不良はポセイドンから逃げていたのだ。

つまりこの場所。

ペルセウスとティアマトの戦っているこの場所。

ここまで。


最初・・・


不良はティアマトに対するペルセウスのメドゥーサ・ルックを完了させるため、風の神アイオロスを足止めするつもりでいた。

そしてアイオロスの前に立ちはだかり、相対峙していた。

だが、そこにポセイドンが現れた。

アイオロスの邪魔をしている不良の邪魔をして、アイオロスを行かせるためにだ。

この想定外のポセイドンの出現に不良は焦った。

ナゼなら、これは全くの計算外だったからだ。

足止めするつもりが逆にされてしまうという事は、全くの計算外だったからだ。

不良には一刻の猶予もない。

すぐにでもアイオロスを追わねばならない。

そのためにはポセイドンを何とかせねばならない。

しかし、戦って勝てるような相手ではない。

そうしている間も、アイオロスとの距離は離れる一方。

しかも時は空しく過ぎ去って行く。


そこでポセイドンと対峙する中、戦いの天才である不良は一計を案じたのだ。


『戦わずして・・・勝つ!!


そのための一計を。


そしてその一計とは・・・颶風(ぐふう)だった。

颶風を利用する事だった。

即ち、


『ポセイドンのトライデントの引き起こす颶風を利用する』


これが不良の案じた一計だったのだ。


先程、不良はこう考えていた。


『ダ、ダメだ!? 早くアイオロスに追いつかねば!! それにはどうすれば・・・。 あ!? あれだ!? あの颶風だ!? あれに上手く乗れれば・・・』


そう不良は考えていたのだ、先程。

言葉ではなく感覚で。

不良の持つ天性の、且、磨き上げ研ぎ澄まされた感覚で。


そしてこれ以外にあの時の不良に残された手段はなかった。

そこで不良はキチンと方角を見定めた上で、ポセイドンにリクエストしたのだ、颶風を。

そうとは知らず、短慮なポセイドンは良く考えもせず不良の求めに応じて颶風を起してしまった。

不良は知っていたのだ。

直情径行でガサツなポセイドンのこの性格を。(神なのに・・・)


そして颶風が起こると即座に不良は行動を起した。

その颶風に乗ったのだ。

それも狙い通り凄〜く上手(じょうず)に。

しかし、すぐにポセイドンのゴールデン・チャリオットに追い付かれた。

だが、それは承知の上だった。

それでも一か八かの賭けに不良は出るしかなかった。

これ以外に打つ手を持たなかったからだ。

だが、それで正解だった。

事実、不良は計画通りにアイオロスが風を起す前に目的の場所。

つまり、ペルセウスとティアマトが戦っている場所。

しかも、正にメドゥーサ・ルックが起こる直前。

この場所に着く事が出来たのだから。

もっとも、ホンの一瞬の差ではあったのだが。











そして・・・







つづく







『神撃のタイタン』 #69




「・・・ハァハァハァハァハァ。 見ろ! ポセイドン!! ティアマトの右目を!! ハァハァハァハァハァ・・・」


不良が強い口調で言った。


「ん!? な〜にー? 右目? ティアマトの右目だとー?」


そう言ってポセイドンが、



(チラッ)



ティアマトの右目を見た。


『ヌッ!?


ポセイドンが目を見張った。

そして、


「あ、あれは何とした事!?


驚いた。


ナゼなら、ティアマトの右目が開(ひら)いていたからだ。

当然、左目も。

つまりティアマトは、



(クヮッ!!



両目を見開いたまま石化していたのだ。


「アイオロス!? アイオロスはおるか!?


辺りを見回しながらポセイドンが叫んだ。


「ハッ!! ここに」


いつの間にかポセイドンの傍(かたわ)らに控えていたアイオロスが答えた。


「あ、あれは・・・。 あれは一体、何とした事じゃ?」


「ハッ!! わ、わたくしめにも皆目・・・。 間違いなく、わが風はメドゥーサ・ルックの直前にティアマトめの目をとらえたはず・・・。 しかし、ヤツは眼(まなこ)を閉じては・・・。 ウ〜ム。 分りませぬ」


アイオロスのこの返答を聞き、



(ギロッ!!



ポセイドンは改めて不良を直視し、


「人間!! 貴様、一体何をした?」


不良に問い掛けた。


「・・・ハァハァハァハァハァ。 右目だ!! ティアマトの右目を良〜く見てみろ、ポセイドン。 ティアマトの右目をな。 良〜く。 ハァハァハァハァハァ・・・」


出血を押さえるため右手で左上腕、そのちぎれた直ぐ上を強くつかみ、腕の痛みを必死で堪(こら)え、顔を歪めながら不良が言い返した。


「・・・」


黙って、ポセイドンが改めてティアマトの右目を注視した。

そして、


「ん!? 何だあれは?」


呟(つぶや)いた。


「ん!? あれは一体・・・」


アイオロスも呟いていた。


瞬間、


「あ!?


「あ!?


ポセイドンとアイオロスが殆んど同時に驚きの声を上げた。

ポセイドンもアイオロスも気付いたのだ。

ティアマトの右目・・ティアマトの大きな右目・・その瞼(まぶた)に何か棒のような物が支(つか)えているのを。

それは金属の棒のようだった。

そのため、ティアマトは右目を瞑(つぶ)りたくても瞑れなかったのだ。

だから両目を明けたまま、メドゥーサ・ルックをまともに食らっていたのだった。


そしてその意味を理解したポセイドンが、


「あれはウヌの例のあの棒か?」


その金属の棒の正体を確認した。


「・・・ハァハァハァハァハァ。 あぁ、そうだ。 あれは俺の棒だ。 アンタの攻撃を受ける前に、ティアマトの瞼(まぶた)を支えるために投げ付けたんだ。 目を瞑(つぶ)らせないためにな。 そして狙い通り正確にヤツの瞼をとらえ、支えたって訳だ。 ハァハァハァハァハァ・・・」


「・・・」


ポセイドンは黙っていた。


「・・・」


それはアイオロスも同じだった。


「ハァハァハァハァハァ・・・」


暫し、その場には不良の激しい息遣いが聞こえているだけだった。

風も全く吹いてはいなかった。


「ハァハァハァハァハァ・・・」


その不良の激しい息遣いだけが聞こえる中、


「フフフフフフフフフフ・・・。 ワァッ、ハハハハハハハハ・・・」


突然、ポセイドンが笑い出した。


「ハァハァハァハァハァ・・・」


その笑いの意味が分らず不良は黙っていた。

ただ、苦しい息遣いをしているだけだった。


「・・・」


アイオロスも又、意味が分からず黙っていた。


「・・・フフフフフフフフフフ。 気に入った。 気に入ったぞ、人間!?


一渡(わた)り笑い終えてから、ポセイドンが言った。

更に続けた。


「余(よ)の邪魔をしたのみならず、我らオリンポス十二神をもってしても覆せぬ運命の予言を覆すとは・・・。 大したヤツ。 褒めてつかわす」


と。


「・・・ハァハァハァハァハァ。 そいつぁ、光栄だ。 アンタに褒められるとはな。 ハァハァハァハァハァ・・・」


不良が言い返した。


「だから・・・」


ポセイドンが言った。


「・・・ハァハァハァハァハァ。 だから? ハァハァハァハァハァ・・・」


不良が聞き返した。



(ニヤッ)



ポセイドンが含み笑いをした。

一息入れた。

そしてこう言い切った。


「殺す!?


同時に、

いつの間にか手元に戻って来ていたトライデントをポセイドンが担ぎ上げ、投擲(とうてき)の構えに入った。

念で引っ張り戻していたのだ。


ポセイドンが全身に力を込め、胸を張り、トライデントをつかんでいる右腕を大きく後ろに引き、叫んだ。


「死ねーーー!!


と、再び。











だが・・・







つづく







『神撃のタイタン』 #70




「そうはさせないょ!!


声がした。

天上から。

それは・・・女性の声だった。

それも、不良がかつて聞いた事もない程澄んで美しい女性の声が、天上から確かに。


「そうはさせないょ!!


と、一言、確かに・・・。


その声を聞き、


『ん!?


ポセイドンが投擲の手を止めた。


突然、



(スゥー)



一人の女性が不良とポセイドンの間に姿を現した。

当然、空中浮遊だ。

その姿を見て、


『ハッ!?


不良が息を呑んだ。

素晴らしい美人だったからだ。

その突然現れた女性が声同様、かつて見た事もない程見目麗(みめ・うるわ)しく、美しかったからだ。


するとポセイドンが意外だという表情をして、


「ヘラ!?


その女性の名を呼んだ。

同時に、


「ヘラ様!?


アイオロスもその女性の名を呼んでいた。

ポセイドンもアイオロスも突然のヘラの出現が理解出来なかったのだ。


そぅ。


その見目麗しき女性は、大神ゼウスの姉であり妻である神々の女王ヘラだったのだ。

当然、オリンポス十二神の内の一神である。


そのヘラが口を開いた。


「ポセイドン。 この人間を殺す事は、罷(まか)りならぬ。 ワラワがそれを許さぬ」


それを聞き、


「フン。 ソナタごときの出る幕ではないゎ」


ポセイドンが言い返した。


「いいゃ、出る幕じゃ。 もう既に出ておるのじゃからな」


「な〜にー?」


「見ょ! ポセイドン!! ソチの、その自慢のトライデントの切先(きっさき)を」


「・・・」


無言でポセイドンが、言われるまま手にしているトライデントの切先を見た。

その先端部分に何かが刺さっていた。

へラにそう言われるまで気付かなかったが、確かに何かが刺さっていた。


『ハッ!?


ポセイドンは驚いた。


「こ、これは・・・」


その何かを繁々と見つめながらそう呟いた。

更に続けた。


「このような物がいつの間に・・・。 ウ〜ム。 これはソナタが?」


「そうじゃ、ワラワじゃ。 それはワラワがやった事」


「そうかぁ、これかぁ・・・。 これが原因でアヤツを仕留めそこのぅたのか」


「その通りじゃ。 驚いたか、ポセイドン?」


「クッ!? ふざけたマネをしくさってー!! 退(ど)け! ヘラ!! そこを退くのじゃ!!


「いいゃ、退かぬ」


「これ以上の邪魔立ては許さぬ。 退け!!


「いいゃ、退かぬ」


「ならばソチごとー!!


ポセイドンが再度、投擲の構えに入った。

そのトライデントを受け流すため、ヘラも身構えた。

一触即発だ。


そこへ、


「ポ、ポセイドン様!! お、お止め下さい!!


アイオロスが割って入った。


「ヘ、ヘラ様も!! どうかヘラ様もお退(ひ)き下さい!!


ヘラに対しても仲裁に。

再び、ポセイドンに。


「ポセイドン様。 残念ながら我々は負けたのです」


「な〜にー、負けた〜? 負けたじゃと〜?」


「あ!? あぁ、いえ!? こ、言葉が過ぎました。 我らの思い通りには事が運ばなかったのです。 そうですポセイドン様、我らの思い通りには事が運ばなかったのです。 宜しいでしょうかポセイドン様。 いかにヘラ様が手を貸したとはいえ、あの人間が我らはおろかオリンポス十二神を、否、大神ゼウスをもってしても覆せぬ運命の予言を覆したのは曲げようもない事実。 これは尋常(じんじょう)ならぬ出来事。 いかにビッグ・スリーの内の一神、ポセイドン様といえどもそれはお認めにならねばなりません。 この上は、ヘラ様の申される通りこの場をお納めになるのが賢明かと・・・」


「・・・」


ポセイドンは黙った。

そのポセイドンに、


「いかが致すのじゃ、ポセイドン? まだワラワと戦(たたこ)ぅつもりか?」


ヘラが高飛車に聞いた。

それに対し、


「ヘ、ヘラ様もそのように挑発なさりますな」


アイオロスが今度はヘラを諌めた。


「それはポセイドン次第じゃ」


ヘラが言い返した。

これを聞き、


「ヘラよ、ナゼその人間にそれ程執着致すのじゃ?」


ポセイドンが気持ちを切り替えて問い質(ただ)した。


「それはこの者が・・・」


こう言い掛けて、



(チラッ)



ヘラが不良を見た。

それからこう言い直した。


「この人間に興味があるからじゃ」


「興味!? 興味じゃと〜!?


「あぁ、そうじゃ。 興味じゃ」


「興味か・・・。 興味な・・・。 フン。 勝手にするが良い」


ここまでヘラに言ってから、



(ギロッ!!



ポセイドンが不良に鋭い一瞥をくれた。

そして、


「人間!! 命拾いしたな」


この言葉を吐き捨てた。

それからアイオロスに、


「帰るぞ、アイオロス」


そう言って、



(ガチャン!!



ゴールデン・チャリオットの向きを変えた。

海馬に入れようとムチを持つ右腕を振り上げた。


その時、


「待て! ポセイドン!!


ヘラが呼び止めた。


「ん!? 何だ? まだ何か用があるのか?」


手を止め、ポセイドンが振り返って聞いた。


「そのままではそれは使い辛いであろう」


そう言ってヘラが右手人差し指で一旦、ポセイドンが左手でつかんでいるトライデントの切先を指差し、それからその人差し指をカギ状に曲げ、



(クィッ!!



何かを引っ張るような仕種をした。


そぅ。


何かを引っ張るような・・・











仕種を。







つづく