#81#85




『神撃のタイタン』 #81




「人間。 何ゆえポセイドンの邪魔をした?」


大神ゼウスが不良に聞いた。

ゼウスはポセイドン同様、3メートル超級の隆々(りゅうりゅう)たる体躯をしている。

ハデスも同様だ。

ゼウス、ポセイドン、ハデスのビッグ・スリーは他の神々より一回り大きかった。

だからビッグ・スリーという訳ではない。

天、海、冥府を司る最高権力神(さいこう・けんりょく・しん)という意味だ・・・ビッグ・スリーという呼び名は。


ここはオリンポス山にあるオリンポス十二神が集う神殿。

そこに不良とオリンポス十二神。

加えて、ポセイドンの息子であり風の神であるアイオロスとヘラの侍女で虹の女神のイリスがいる。

更に、それまでいなかったアルテミスも今はセレーネではなく、その本体のアルテミスとして存在していた。

そこで今、不良の審問(しんもん)が行なわれている。

不良は既に審問を受けるだけの体力は回復していた。

もっとも、まだ左腕の痛みは相当な物があったが、新たな腕の自由は利くようになっていた・・・まるでもとからそういう腕ででもあったかのように、重さも全く一緒で。

つまりヘパイストスの力作の新たな左腕が、不良の体にほぼ馴染んだという事だ。

しかし、それには八日(ようか)という日数を要した。

医療の神アスクレピウスの力を以ってしても、不良のこの治療には八日という日数が必要だったのだ。


これは不良がこの地にやって来た日から数えて、八日目の出来事である。


「俺は邪魔などしてはいない」


ゼウスの問い掛けを不良がキッパリと否定した。

全く臆する事なく。

最早、不良孔雀、怖い物なし。

例え、それがオリンポスの神々相手でも。


「ポセイドンはそうは思ってはおらぬぞ」


ゼウスがここまで不良に言ってからポセイドンを見た。


「じゃな、ポセイドン」


「あぁ、そうじゃ」


ポセイドンが答えた。


「誰がどう思おぅと、俺は邪魔などしてはいない」


不良が言い張った。


「なら、何をした?」


ゼウスが聞いた。

ここからは暫し、不良とゼウスの会話となる。


「ティアマトの石化」


「ティアマトの石化?」


「あぁ、ティアマトの石化を完了した」


「何のために?」


「俺の世界でヤツが悪さをしたからだ」


「ホゥ〜。 悪さな。 何の悪さじゃ?」


「娘に憑依した」


「娘に憑依?」


「そうだ。 アンドロメダの生まれ変わりと思われる娘にだ。 その娘に憑依した」


「それで?」


「俺はその娘の命が危険にさらされていると思い、ここまでやって来た。 メドゥーサ・ルックを完了させるためにだ」


「それでアイオロスの行く手を阻(はば)んだのか?」


「その通り」


「ナゼ、アイオロスが風を送るのを知った」


「見た者がいたからだ」


「ん!? 見た者?」


「あぁ」


「それは誰じゃ?」


「アンドロメダだ」


「アンドロメダ? アンドロメダが見ておったのか?」


「あぁ、そうだ。 正確に言うなら、その生まれ変わりと思われる娘、即ち、暗燈篭 芽枝(あんどうろう・めえだ)だ。 暗燈篭 芽枝が、アンドロメダが見ていたに違いないペルセウスとティアマトの戦いの場面の記憶を持っていたんだ」


「そうか。 暗燈篭 芽枝とやらがか?」


「そうだ」


「じゃが、どのようにしてそれを知った? その娘から聞いたのか?」


「いいゃ、違う」


「なら、どうやって?」


「その娘の記憶の中に入った」


「ん!? 娘の記憶の中に?」


「そう、娘の記憶の中にだ。 そしてその記憶を共有する事により、アイオロスの存在を知った」


「それで、アイオロスの邪魔をしに来たのか」


「否、邪魔ではない。 足止めだ。 足止めをしに来たんだ、俺は、ここまで、アイオロスの」


「同じ事であろう」


「まぁ、そうと言えなくもないが・・・」


ここでポセイドンが痺れを切らせて割って入って来た。


「いつまでそのような詰まらぬ話をしておるつもりじゃ。 早(はよ)ぅ、その人間の処遇を決めぬか」


「まぁ、待て、ポセイドン」


ゼウスが逸(はや)るポセイドンを制した。


「余(よ)はコヤツに興味を覚えた」


ゼウスのその言葉を聞き、


「ワラワもじゃ」


透かさずヘラが合いの手を入れた。


「何じゃ、ヘラ、ソチもか」


「あぁ、ワラワもその人間には興味がある」


「珍しく意見が合(お)ぅたな、ヘラ」


「フン」


ヘラがゼウスを小バカにするように鼻先三寸でせせら笑った。

ここがゼウスとヘラの面白い関係である。

姉弟であり、夫婦であるんだが、ナゼか余り関係が宜しくないのだ、この二神は。

恐らく、ゼウスの浮気性がその原因と思われる。

何せゼウスの浮気性は酷い物で、もしゼウスが人間なら殆んど病気。

それも超重症の病気。

即ち 『超・淫乱病』、あるいは 『超・性依存症』 としか言いようがない程の。

だから小バカにされ、チョッと気まずいゼウスであった。

そしてその気まずさを隠すために、


「で!? ポセイドン。 ソチはどうしたいというのじゃ?」


ゼウスがポセイドンに話を振った。


「決まっておる。 なぶり殺しじゃ」


「ナゼ?」


「ソヤツは無礼にも我らの世界に土足で足を踏み入れた。 だからじゃ」


「ウム。 それは言える」


「なら、決まったな。 なぶり殺しじゃ」


ここまでゼウスに言ってから、ポセイドンがアイオロスを見た。


「ソヤツをタルタロスにぶち込んで置け!! そこで地獄の亡者どもに八つ裂きにさせよ!!


【タルタロス・・・古代ギリシャ人の考えていた地獄の事。 因みにタルタロスとは “限りない闇の深遠” を表し、大地の外れにあるどこまでも深くて暗い地の底の地獄を意味している。 その深さは相当な物で、天から投げた岩が九日九晩(ここのか・きゅうばん)落ち続け、十日目にして地上に届き、更に九日九晩地中を落ち続け、十日目にして漸(ようや)くこのタルタロスに着くと言われている : 作者】


「まぁ、待て、ポセイドン。 そう早まるな。 まだ決まった訳ではない」


「いいゃ、決まった。 我ら神を冒涜(ぼうとく)した罪じゃ。 コヤツを生かしておくという事になれば、他の罪人どもに示しがつかぬ」


それを聞き、


「その通りじゃ」


「ポセイドンの言う通りじゃ」


「なぶり殺しにせよ」


 ・・・


オリンポスの神々が皆、口々にポセイドンを支持した。

だが、

ここで一神(いっしん)だけ・・・

そぅ、一神だけ・・・

不良を擁護する神がいた。

ヘラだった。


「それはならぬ」


「ナゼじゃ?」


ゼウスが聞いた。


「この者は、自らの運命を変えた者じゃ。 グライアイ達の予言を覆した者じゃ。 我らですら出来ぬ事を為(な)した者じゃ。 然(さ)すれば、褒められこそすれ、殺すなどもっての外じゃ。 まして、タルタロスに放り込むなど論外じゃ」


「ウム。 確かに。 ヘラの言う事も一理ある」


ゼウスがヘラの言い分を認めた。

すると、それまでただ黙って見ているだけだったアルテミス(セレーネ)が、ここで初めて口を開いた。


「ワラワもヘラと同感じゃ。 その人間は、確かに力は我らはに遠く及ばぬ。 じゃが、我らに出来ぬ事を為遂(しと)げた者。 これは曲げようもない事実。 つまり、この点に於(お)いて我らを凌いだのじゃ。 ならば、その者は英雄じゃ。 決して罪人などではない。 人間でありながら我ら神を凌いだのじゃからな。 その英雄をどうしてタルタロスなどに送って良いものか。 そのような事をすれば示しどころか、我らの正義が疑われる。 違うか? ポセイドン」


「・・・」


渋い顔でポセイドンは黙っていた。


「ならば、ソチはどうしたら良いと思ぅておるのじゃ?」


ゼウスがアルテミスに問い質(ただ)した。

しかしそれに対し、


「・・・」


アルテミスは何も答えなかった。

それは答えられなかったからではなかった。

チョッと間(ま)を取ったのだ。


こう・・・











述べるために。







つづく







『神撃のタイタン』 #82




「その人間をここ(オリンポス)に住まわせる」


アルテミスがキッパリとそう言い切った。

それを聞き、


「ヌッ!? ナ、ナント!?


ゼウスは驚いた。


!?


!?


!?


 ・・・


他の神々も皆同じだった。


「アルテミスよ、どういう意味じゃ?」


再び、ゼウスが問い質(ただ)した。

ここからは暫し、アルテミスとゼウスの会話となる。


「我らがオリンポスに、その者のために一席設けるという事じゃ」


「つまり、我らの仲間にするという事か?」


「その通りじゃ。 その人間にはその値打ちがある」


「それは認められぬ」


「ナゼじゃ?」


「そのような前例がないからじゃ」


「前例?」


「そうじゃ、前例じゃ」


「前例なら、あるではないか。 ヘラクレスという」


「ん!? ヘラクレス? ヘラクレスか・・・。 しかし、ヘラクレスには我らの血が入っておる。 じゃが、ソヤツには・・・」


【ヘラクレスは、ペルセウスの孫娘のアルクメネー(父はエレクトリオン)がゼウスにだまされて身ごもった子・・・即ち、デミゴッドである : 作者】


「否、その人間にも我らと同じ・・・」


ここまでアルテミスが言った時、


「余計な事を申すでない! アルテミス!!


ヘラが割って入った。


「その通りじゃ!!


ポセイドンも我慢し切れず、それに続いた。

そしてポセイドンがそのまま一気に、


「ふざけた事を抜かすな! アルテミス!! そのような雑魚(ざこ)を我らと同席に加えるなど、言語道断!!


アルテミスに向かって激しく捲(ま)くし立てた。


「いいゃ、ポセイドン。 ふざけておるのはソチの方じゃ」


アルテミスが言い返した。

それも同格以上の存在であるポセイドンに対し、目下の者に対する言い方である “ソチ” という言葉を使って。


「な〜にー?」


「ならばソチは運命の予言を覆せると申すのか? ん? ソチ自身の運命の予言を」


「そ、それは・・・」


ポセイドンが言葉に詰まった。

そのポセイドンにアルテミスが追い討ちを掛けた。


「それ見た事か。 この者はソチにも出来ぬ、否、ソチだけではない神々の王であるゼウスにも出来ぬ事を為(な)し遂(と)げた者じゃ。 それをいつまでも女々しく妬(ねた)んでおるでない。 ビッグ・スリーの名が泣くぞ、ポセイドン」


「クッ!?


ポセイドンはぐうの音も出なかった。


「ウム。 アルテミスの言う事ももっともじゃ。 どうする皆の者?」


ゼウスがその場の神々に聞いた。


「ゼウスょ、ヌシがそれで良しとするなら、ワラワもそれに従おう」


真っ先にヘラが答えた。


「ウム」


「ウム」


「ウム」


 ・・・


それに釣られるようにポセイドンを除く全神々が首を縦に振った。

すると、ゼウスが・・・



(クルッ)



振り返って不良を見た。











そして・・・







つづく







『神撃のタイタン』 #83




「どうする人間? 我らの仲間となってここに住するか?」


ゼウスが不良に聞いた。

それに続きヘラが、


「ソナタなら我らが飲み物であるネクタルと食べ物であるアンブロシアをたったの一口ずつ口にするだけで、我らの仲間入りが出来るはずじゃ」


そう言って、



(クィッ!!



イリスに顎でネクタルとアンブロシアを持って来るように指図(さしず)した。

それを受け、



(コクッ)



イリスが頷いて、ネクタルとアンブロシアを取りに行こうとした。


だが・・・


これに対し不良が予想外の行動に出た。


「フッ」


ほくそ笑んだのだ。

しかも、


「フッ、ハハハハハハ。 ハハハハハハ。 アッ、ハハハハハハ・・・」


笑い出してもいた。

それも腹を抱えての大笑いだ。


大丈夫か不良?

そんな、神々を愚弄(ぐろう)ようなマネをして?

大丈夫なのか?


「ん!? 人間!? ナゼ笑う? 何がそんなにおかしい?」


ゼウスが不可解だという顔をして聞いた。

それはヘラも同じだった。

又、その場の神々も皆、同様だった。

釈然としないという顔をしている。


「これが笑わずにいられるか」


不良が答えた。


「ヌッ!? どういう意味じゃ?」


今度はヘラが聞いた。

そのヘラに向かって不良が言った。


「だってそうだろ。 確かにここは・・この場所は・・アンタら神々にとってはいい場所かも知れん。 だが俺に、否、俺達人間にしてみれば、ここは決して居心地のいい場所ではない。 ここを居心地がいいと思える人間はそれこそ聖人君子のみ。 ヘラクレスがそうなのかどうかは知らんが、俺達凡人にしてみればここは単に窮屈な場所に過ぎん。 面白くもなければ楽しくもない、単なるつまらん場所に過ぎんのだ」


「な〜にー、人間!? 我らがオリンポスを侮辱する気か!?


ポセイドンが怒り心頭だ。


「いいゃ、侮辱なんかしちゃいないさ。 成る程ここはキリスト教徒どものほざく神の国よりかは遥かにましだ。 あのありもしない天国と地獄を対比させ、脅して賺(すか)して布教のため、食い物にする信者獲得のため、言葉巧みにありもしない天国を誇大宣伝するキリスト教徒どものほざく所のあの 『神の国』 という名の地獄よりもな。 だがな、ポセイドン」


「何だ?」


「俺がこのままここに残るという事は、それはイコール、俺が神になるという事だ。 だが俺は人間だ、神にはなれぬ、絶対にな。 だからだ。 だからそう言ったんだ。 アンタだってついこの間、俺に向かって言っただろー。 『・・・。 カスのクセにー、クズのクセにー、ゴミのクセにー。 ・・・』 と。(#67参照) だから仮になれたとしたって、俺に神になろうなんて気持ちは更々ない。 そんな気持ち、俺には更々ないんだ。 第一、そんな柄(がら)でもないしな」


「あぁ、余(よ)もソチのような詰まらんヤツを同席させるのは願い下げだ!?


ポセイドンの怒りは収まらない。


「それは俺のセリフだ」


不良が言い返した。

それを聞き、



(プチッ!!



終に、ポセイドンが切れた。


「ウ〜ム。 人間!? 言わせて置けば、生意気なぁー!! もう、許さん!!


そう言ったその時には、



(ガシッ!!



いつの間にか手にしていたトライデントを握る手にポセイドンは力を込めていた。

このトライデントはポセイドンが念力で、その場に瞬間移動させたのだった。



(グイッ!!



不良に向け、ポセイドンがトライデント振りかざした。











その時・・・







つづく







『神撃のタイタン』 #84




「止(よ)せ! ポセイドン!! 止すのじゃ!!


ゼウスが両手を上げ、ポセイドンを制した。

ポセイドンがトライデントを振りかざした手を止めた。

それを見てゼウスが不良に聞いた。


「人間! もう一度聞く!! 我らの仲間には加わらんと言うのじゃな?」


「あぁ」


その不良の返事に対し、


「ナゼじゃ?」


解せぬという表情でヘラが聞いた。

不良がヘラをジッと見つめた。

そして徐(おもむろ)にこう答えた。

ここからは不良とヘラの会話となる。


「アンタの気持ちは嬉しい。 それに助けてくれた事にも感謝している。 だが、俺は自由が好きなんだ。 こんな堅苦しい場所は俺の性に合わん。 だからだ」


「自由?」


「そうだ、自由だ」


「ソチの言う自由とは一体何じゃ?」


このヘラの問い掛けを聞き、


「・・・」


不良が黙った。

ヘラの眼(め)を覗き込んだまま。

その状態で、


「スゥー。 ハァー」


ユックリと深呼吸という程ではないがやや長めの呼吸をした。

チョッと間(ま)を取ったのだ。

そして、


「未知だ!!


キッパリと一言、そう言い放った。


「ん!? 『未知だ!!』?」


ヘラが復唱した。


「そうだ未知だ」


「未知だの自由だの意味が分らん。 どのような物じゃ、ソチの言うその自由だの未知だのとやらは?」


「未知・・・。 もっと正確に言うなら未知の探求・・・それが俺の自由。 俺の求める、否、俺の目指す自由だ。 何人(なんぴと)にも縛られない未知の探求という自由。 それが俺の求める物だ。 もし、ここにそれがあれば喜んで俺はここに残る。 だが、残念ながらここにそれはない。 だから俺はここを去る。 もっともアンタらがそれを許してくれたらの話だがな」


「妙な事をいうヤツじゃ」


「ならこう言い換えたらどうだ? 俺達人間には分相応という言葉がある。 俺はその分相応の暮らしがしたいだけだ。 それで納得してくれるか」


「なら不良孔雀ょ。 ワラワがここに残ってほしいと頼んだらいかが致す?」


!?


!?


!?


 ・・・


その場の全員に衝撃が走った。

これには流石の不良も驚いた。

ヘラが・・・あの神々の女王ヘラが 『頼んだら』 と聞いたのだ。

一瞬、

その場に異様な緊張感が走った。



(シーン)



静まり返った。

それを破ったのはヘラだった。


「不良孔雀ょ、頼む。 ワラワのためにここに残れ」


「ワラワもじゃ。 ワラワも頼む」


今度はアルテミスだ。

アルテミスがそれに続いた。

あの処女神アルテミスがだ。

これは驚くべき事だった。

純潔の女神が例え人間とはいえ、男を引き止(とど)めようとしたのだから。

これはあのオリオン以来の出来事だった。


【この部分の意味の分からんお方様は 『オリオン、アルテミス、アポロン』 で!? 調べてくんしゃい : コマル】


「いいゃ、それは出来ん」


不良がアルテミスの頼みをキッパリと断わった。


「ナゼじゃ? ワラワがこれ程頼んでもか?」


今度はヘラだった。

ここからは再び、不良とヘラの会話となる。


「あぁ。 俺がここに残るという事は、俺は永遠の生を手に入れるという事になる。 そしてそれは、決して死なんという事を意味する。 だからだ」


「それで良いではないか。 決して死なん。 それで良いではないか」


「いいゃ、良くない」


「ナゼじゃ?」


「それは苦痛以外の何物でもないからだ。 ・・・。 だってそうだろう。 決して死なんという事は、嫌な事も、不愉快な経験も、未来永劫記憶し続けて生きて行かなきゃならんという事だ。 そんな生き様は俺達凡人にとってみれば、これ以上ない苦痛なんだ。 アンタら神とは違う俺達凡人にはな。 それにさっきも言ったろ。 俺は未知の探求がしたいと」


「その未知の探求とやらは何じゃ? 意味が良(よ)ぅ見えん。 更に詳しく申してみょ」


「未知の探求・・・。 それは 『死への挑戦』 を意味する。 つまり俺はネクタルやアンブロシアを飲食する事によって得られる永遠の生ではなく、死に挑戦し、これに打ち勝つ事によって得られる永遠の自由。 それが欲しいんだ。 だからだ」


「永遠の自由? 同じではないか?」


「いいゃ、違う。 全く違う」


「どこがじゃ?」


「ここに残るというのは、単に未来永劫にわたってここで過す事でしかない。 だが、永遠の自由・・・。 それは未知の中を永遠に、心行くまで飛び回る事だ。 否、飛び回れる事だ。 それも何者にも束縛されずに・・・だ。 だから全然違うんだ。 そして俺はその永遠の自由以外、全く興味がない」


「ならばどうあってもここに残るのは嫌だと申すか?」


「あぁ、嫌だ」


「ワラワがこれ程頼んでもか?」


「悪いが、そうだ」


「・・・」


ヘラは黙った。

最早、不良の決心は変わらないと見たからだ。

このやり取りを黙って見ていたゼウスがヘラに言った。


「どうやらソチの頼みもムダじゃったようじゃな。


つー、まー、りー、・・・


『無駄ーーー!! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


じゃったようじゃな」


そして不良を見た。


「ならば、人間。 好きにせよ」


更に、全神々に向かって、


「これまでじゃ。 この人間を下界に帰す。 それで仕舞いじゃ」


最後に、既にトライデントを収めていたポセイドンに向かって、


「ソチもそれで納得せよ」


再び、全員に、


「以上じゃ。 これにて散会する」


と、ゼウスが一方的に不良の審問を・・・











打ち切った。







つづく







『神撃のタイタン』 #85




突然、


『ハッ!?


雪の顔色が変わった。

ここは不良の診察室。

不良がジャンプしてから八日目の出来事だ。


外道が雪の異変に気付いた。


「ん!? 雪どうかしたのか?」


「おじちゃんだ!?


「え!?


「不良のおじちゃん、帰って来る!?


「ほ、本当か?」


「うん」


「なら、無事だったのか?」


「うん。 多分」


その時、



(モァモァモァモァモァ・・・)



不意に空間が歪んだ。

外道と雪の目の前の空間が。


瞬間、



(フヮッ)



その歪んだ空間の中にボンヤリと何らかのシルエットが浮かび上がった。

それは高さが3m近くもある、薄〜い乳白色をした輪郭のハッキリしない立てた卵のようだった。

徐々に、そのボンヤリとした薄〜い乳白色の、曖昧な輪郭の立てた卵が収束し始めた。

人間の、それも男の形に。

しかもかなり長身の。


終に、



(スゥー)



姿を現した。

それはやはり人間の男だった。

その男は古代ギリシャ人の服装をしていた。

勿論、履物も。

それを見て、


「不良!?


外道が叫んだ。


そぅ。


そのシルエットは不良だった。


外道が続けた。


「ぶ、無事だったのか?」


「あぁ、無事だ。 待たせたな、破瑠魔(はるま)、妖乃(あやしの)」


「あぁ、待った。 待ちくたびれたぞ」


外道がホッとした表情で言った。


「うん」


雪も頷いていた。


「で? 首尾は? 首尾はどうだった? 上手くいったのか?」


外道が聞いた。


「あぁ。 少々、梃子摺(てこず)ったが、なんとかな」


「そうかぁ、それは良かった。 心配したぞ」


「フン。 大袈裟な」


不良が鼻で笑った。

いつも通りだ。


「クッ!? ったく・・・」


チョッと外道がムッとして、


「あのなぁ、不良。 お前の気配が消えたってんで、コイツが心配して後を追ったんだぞ」


外道がそう言って、



(クィッ!!



顎で雪を指し示した。


「うん」


雪が頷いた。


「チッ。 余計な事を」


「よ、余計な事とは何だ! 余計な事とは!!


外道が苛立った。


「まぁ、そうムキになるな」


「これがならずにいられるか」


その外道を完璧に無視して、


「妖乃。 それは本当か?」


不良が雪に聞いた。

ここからは雪と不良との会話に成る。


「うん。 ホントだょ」


「しかし、会わなかったじゃないか」


「うぅん、違うょ。 会えなかったんだょ」


「え!?


「会えなかったんだょ、おじちゃんに。 アタシ」


「どういう事だ?」


「ヘカテに邪魔されちゃって」


「ヘカテ? ヘカテってあの魔女ヘカテか? 闇の魔神(ましん)の」


「うん」


「詳しく聞かせろ、妖乃 雪」


「うん」


そう言って雪がヘカテの話をしようとした。











その時・・・







つづく