『神撃のタイタン』 #6
確かにホンの一瞬の出来事だったのだが、その娘の瞳・・その瞳の中で・・何かが光った。
確かに何かが!?
それは目のような何かだった。
しかもそれは妖しく輝き、
(ギン!!)
まるで、その娘の瞳の奥から不良の目を睨み付けてでもいるかのように見えた。
瞬間、
(ガーン!!)
不良は何か硬い鈍器のような物で、後頭部を強(したた)か打ち据えられたような衝撃を覚えた。
そしてそれに眩惑(げんわく)され、
(スゥー)
一瞬、意識が遠のいた。
「クッ!?」
一言唸って、不良は素早く顔を上げ、目を閉じた。
そのまま一呼吸置き、意識が元に戻るのを待った。
それから再び、
(クヮッ!!)
両眼(りょう・まなこ)を見開き、娘の目を 否 目の奥を覗き込んだ。
だが、その時にはそこにはもう何もなかった。
娘の目はただの女の目だった。
普通の人間の目という意味だ。
『今のは、一体・・・?』
不良はそう思うと、再び目を閉じて考えた。
沈思黙考した。
暫しその状態が続いた。
そして、
「ウム」
何か腹を決めたかのように頷くと、
(クルッ!!)
振り向いて秀吉を見た。
「外に出ていてくれ」
「へ!?」
秀吉には言われた言葉の意味が分らなかった。
そんな秀吉にもう一度、不良が言った。
「やってみたい事がある。 傍に人がいると気が散る。 だから、暫らくこの娘と二人きりにしてくれ」
「は、はぁ。 そういう事なら・・・。 はぁ。 外でお待ち致しており申す」
秀吉がそそくさと診察室を出て行った。
その後ろ姿を見送り、
(カタン!!)
座る場所を娘の頭の位置に椅子ごと移動し、不良は繁々と娘の顔を見つめた。
それから一旦、顔を上げ、
「スゥーーー。 ハァーーー」
気分を落ち着けるため、大きく一回、息を吸って吐いた。
そしてもう一度、娘の顔を見つめ、
(スゥー)
両手を伸ばし、その両手指先を窄(つぼ)め、それを娘の両コメカミに軽〜く当てた。
右手指先を右コメカミに、左手指先を左コメカミにだ。
そして両目を閉じ、
「ウ〜ム」
念を込めた。
すると・・・
・
・
・
・
・
つづく
『神撃のタイタン』 #7
瞬間、
(パッ!!)
不良の指先が光る。
それは一瞬にして、
(ビリビリビリビリビリ・・・)
輝きに変わる。
不良の全身を包む輝きに。
瞬時にその輝きは、
(ピカッ!!)
頂点に達する。
更に、
「ウ〜ム」
不良が念を込める。
即座に、
(ピキピキピキピキピキ・・・)
不良の指先から何かが延びる。
娘の脳内に。
何かが。
細く輝く繊維状の何かが。
ん!?
細く輝く繊維状の何か?
ひょっとしてそれは触手・・・触手か?
そうだ! 触手だ!!
不良の念が生み出した触手だ。
(ピシピシピシピシピシ・・・)
その触手が脳内を巡る。
娘の脳内を。
隈(くま)なく。
それに反応し、
(ピクピクピクピクピク・・・)
娘の体が痙攣する。
小刻みに。
果たして大丈夫なのか?
そんな事をして?
命に別状はないのか?
娘の命に。
だが、
そんな事にはお構いなし。
平然として不良は続けている。
その行為を。
今。
不良は、先程自分に向けられたあの妖しい輝きを追っているのだ。
目のように見えたあの妖しい輝きを。
触手を使って。
そぅ。
不良は今、念法を使っているのだ。
人の思考に入り込むという、不良お得意のあの念法を。
そして触手は追う、
(ピキピキピキピキピキ・・・)
妖しいナゾのあの輝きを。
その正体を見極めるために。
だが、見つからない。
どこにも見当たらないのだ、あの輝きは今はもう。
娘の脳のどこにも。
触手が娘の脳内の殆んど全てを巡り終えた。
残るは大脳辺縁系・・・その一部である海馬のみ。
人間の脳の記憶形成に重大に関わる分野と言われている海馬のみ。
触手は・・・不良の触手は向かう、
(ピキピキピキピキピキ・・・)
その娘の大脳内海馬へと。
そして・・・
・
・
・
・
・
つづく
『神撃のタイタン』 #8
触手は、
(ピキピキピキピキピキ・・・)
海馬を目指す。
その娘の大脳辺縁系内海馬を。
不良の触手は今、娘の脳内全てを巡り終え、その娘の過去の記憶に重大にかかわっている海馬を目指している。
「ウ〜ム」
再び不良が唸った。
更に念を強めた。
触手の威力を増すために。
(ピキピキピキピキピキ・・・)
触手は追う、脳を通して娘の過去の記憶を。
その娘の持つ遠い古(いにしえ)の記憶を。
娘本人もそんな物が存在する事など全く自覚していない 否 自覚する事の出来ない潜在意識の奥深くに封じ込められている、その娘の遥かなる過去の記憶を。
(ピキピキピキピキピキ・・・)
触手は巡る、潜在意識の奥深くまで。
その娘の潜在意識の奥深くまで。
(ピクピクピクピクピク・・・)
痙攣は続く、娘の痙攣は。
不良の触手の刺激によるその娘の痙攣は。
まるで超・高速回転の走馬灯のように娘の記憶が不良の目の前を通り過ぎて行く。
そしてその記憶の中を、不良が猛然と突き進んでいる。
だが、
『ヌッ!?』
突然、
(ピタッ!!)
不良が触手の探索を止めた。
「ウ〜ム」
両目を閉じたまま、一声唸った。
(タラ〜)
その額から汗が溢れ出した。
大粒の汗だ。
そして不良の体が小刻みに、
(ピクピクピクピクピク・・・)
娘と全く同じリズムで震え始めた。
まるで娘と波長合わせでもしているかのように。
どうした、不良?
何が起こった?
(タラタラタラタラタラ・・・)
滴る汗の量が半端じゃない。
しかも、体の震えは止まらない。
止まる様子も微塵も見せない。
娘と全く同じリズムのまま・・・
・
・
・
・
・
つづく
『神撃のタイタン』 #9
突然、
(ピキピキピキピキピキ・・・)
猛然と不良が触手を引き戻し始めた。
凄まじい速さで娘の記憶が不良の目の前を通り過ぎて行く。
先程見た記憶だ。
だが、先程とは真逆に。
まるでビデオを逆回転させているかのように。
そのまま一気に、
(ピキピキピキピキピキ・・・。 ピタッ!!)
完全に触手が不良の体内に戻った。
あの念法の触手が。
瞬間、
(クヮッ!!)
不良が両目を見開いた。
何かを瞠目(どうもく)するかのごとく、両目を。
同時に、
(スッ!!)
素早く両手を引いた。
娘のコメカミに当てていた両手を。
そして面(おもて)を上げ、
「フゥー」
大きく一息吐いた。
それから再び、ユックリと視線を娘の顔に移した。
そのまま暫しジッと見つめてから呟いた。
「そうか、そんな事が・・・」
と、一言。
それからその状態のまま、
「・・・」
黙って娘の顔を見つめていた。
こう思いながら・・・
『マズイ! 実にマズイ!! 早く手を打たねば・・・』
・
・
・
・
・
つづく
『神撃のタイタン』 #10
(バタン!!)
診察室のドアが開いた。
中から不良が顔を出した。
ドアのすぐ傍にセッティングされている、豪華な三人掛け用の長椅子に腰掛けて待っていた秀吉と目が合った。
その秀吉に不良が声を掛けた。
「済まんが、破瑠魔を呼んでくれ。 あの娘も一緒に」
「破瑠魔殿を?」
「そうだ。 ヤツの 否 ヤツよりもむしろ・・・。 あの娘の力を借りたい」
「あの娘? あの娘と申されますと、確か雪殿?」
「そうだ。 妖乃 雪(あやしの・ゆき)とかいうあの恐ろしい娘だ」
「お急ぎで?」
「ウム。 一刻の猶予もない。 だが、2〜3日付き合ってもらう事に成るかも知れん。 だから出来るだけ早く都合を付けて来るよう伝えてくれ」
「分り申した。 直(ただ)ちに」
そう言って、
(クルッ!!)
秀吉が不良に背を向けた。
旅館の事務室に向かって早足に歩き出した。
大河内を探し、使いに出さなければならないからだ。
破瑠魔外道(はるま・げどう)とそのフィアンセ・妖乃 雪を呼ぶための使いに。
これが外道と雪がそこに来る三日前の出来事の・・・
全貌である。
・
・
・
・
・
つづく