#21#25




『神撃のタイタン』 #21




ホンの一瞬だった。

ホンの一瞬だったはずだった。

それは、ホンの一瞬だったはずだった。


『ヌッ!?


ペルセウスは驚いた。

ホンの一瞬、ペルセウスがティアマトの斬った岩に注意を向けている間に、ティアマトの姿が消えていたのだ。

全く音を立てず・・完璧に・・その場から。


『クッ!? ヤ、ヤツはどこだ?』


ペルセウスが辺りを見回した。

だが、どこにもティアマトの姿は見えない。

焦るペルセウス。


その時、



(ズシャー!!



激しい水飛沫(みずしぶき)を上げ、ペルセウスの背後の海面からティアマトが飛び出て来た。

大ジャンプだ。

クジラの海面ジャンプのような。


その水音を聞き、



(クルッ)



ペルセウスが振り返った。


だが、


『ハッ!?


再び、ペルセウスは驚いた。

ホンの目前、目の前に見失っていたティアマトの巨体があったからだ。


反射的に、



(ヒュン!!



ペルセウスが宙高く舞った。


そこへ



(ビヒューン、ビヒューン)



エアーカッターだ。

ティアマトの。

それも二連発。


「クッ!?


ペルセウスが体を左右に捩(よじ)って、これらをかわした。

しかし、紙一重。

紙一重でかわすのが精一杯だった。


瞬間、



(グラッ!!



ペルセウスが体勢を崩した。


そこへ、



(ブヮーーーン!!



もう一発。

前2発など問題にしない超巨大なエアーカッターが凄まじい音を立てて飛んで来ていた。

ティアマトは若干、時間をずらして3発目を放っていたのだ。

それも前とは比較にならない程強力なヤツを。

つまり時間差攻撃・・・ティアマトはこれを狙っていたのだ。

前2発はフェイク、3発目で仕留める・・・と。

そしてそれはティアマトの思惑通りになった。

凄まじい轟音を上げ、エアーカッターがペルセウスの体目掛けて飛んで来る。

最早ペルセウス、これを避ける時間なし。

これを食らえば胴体が上下に真っ二つ。


どうするペルセウス?

まともにこれを食らってしまうのか?


『クッ!?


焦るペルセウス。

しかし、かわせない!?


それまで岩に縛り付けられたまま固唾(かたず)を呑んでジッと戦況を見つめていたアンドロメダが、



(サッ!!



顔を背けた。

ペルセウスの敗北を確信したからだ。











だが・・・







つづく







『神撃のタイタン』 #22




それは聞こえていた。

それは確かに聞こえていた。

それは確かに聞こえていた、アンドロメダの耳に。


この・・・



(ブーーーン!!



激しく空気を切り裂く音が。


『ハッ!?


驚いて、アンドロメダが顔を上げた。


そして、


『え!?


再び、アンドロメダは驚いた。

ペルセウスが無事だったからだ。

最早、胴体真っ二つかと思われたあのペルセウスがだ。

アンドロメダがペルセウスを見つめた。

ペルセウスはハルペーを振り下ろしていた。


そぅ。


ペルセウスは曲刀・ハルペーを振るっていたのだ。

ティアマトのエアーカッターを斬るために。

今のこの 『ブーーーン』 という激しく空気を切り裂いた音は、ハルペーを振るった音だったのだ。

これでエアーカッターを真っ二つ。

斬られたエアーカッターは



(シュッ!! シュッ!!



ペルセウスの体の左右を掠(かす)めて背後へと飛んで行った。

だがらペルセウスは無事だったのだ。

しかし、まだ安心は出来ない。


「ハァハァハァハァハァ・・・」


ペルセウスの呼吸が酷く荒い。

激しく肩で息をしている。


その時、


「あ!?


思わずアンドロメダが声を上げた。



(ザッ、パーーーン!!



ペルセウスに向け、巨大な大波が上がっていたからだ。

ティアマトのこの凄まじい叫び声と共に。











「食らえ!! デネブ・カイトス(くじらの尾)!!







つづく







『神撃のタイタン』 #23




天才・・・だった。

やはり天才だった。


そぅ。


ティアマトはやはり天才闘士だった。



(ザッ、パーーーン!!



ペルセウスの見せた一瞬の隙を突き、ティアマトがその巨大な尾で海水をしこたま跳ね上げたのだ。

これがデネブ・カイトス(くじらの尾)。

勿論、狙いはペルセウス。

否、

ペルセウスのサンダル。

ティアマトの見事なまでの連続攻撃。

それも三段攻撃・・・エアー・カッター前2発、それに続く3発目、そしてこのデネブ・カイトス。

合わせて三段。

これにはさしものペルセウスも打つ手なし。

かわせない。



(ザッ、パーーーン!!



全身海水塗(まみ)れになってしまった。

当然、サンダルも。


と、いう事は・・・


そぅ、サンダルの翼もずぶ濡れになってしまったという事だ。

これは、 “ヘルメスの空飛ぶサンダル・タラリアの翼も海水に濡れ、タップリとそれを含み、充分機能しない” という事を意味する。


と、すれば・・・


最早、ペルセウス。

飛ぶ事あたわず。


なら、どうなる?


その答えは唯一つ。

落下あるのみ。


だが、


流石は、ヘルメスのサンダル。

一気の落下はない。

徐々にだ。


「クッ!?


一言呻いて、大波の直撃を食らい、バランスを崩しているペルセウスが必死で体勢を立て直そうとしている。

しかしそれはそれ、急降下を防ぐのが精一杯。



(フラフラフラフラフラ・・・)



バランスを崩しながらも何とか踏ん張るペルセウス。

しかし、これは危険だ!?


今、もし、再びティアマトがエアーカッターを放ったら一溜(ひとたま)りもない。


!?


当のティアマトはと見れば、既に勝利を確信したのだろう。

余裕のヨッチャンこいている。

ニッタニタしながら、ペルセウスのこの無防備の情けない様子を見ていた。

この状況を楽しんじゃっているのだ。

大海獣のそんな顔、不気味なんだヶどなぁ・・・


いいのかティアマト、一気に勝負に出なくても?

しかしティアマト勝負に出る様子なし・・・全くなし。


そうこうしている内にペルセウスが先程、体を休めたあの岩礁(がんしょう)の上にやっとの思いで着地した。

あのアテナの盾・アイギスを置き去ったあの岩礁の上に。

もっとも、着地点はそのアイギスからは若干距離があったのだが。



(チラッ!!



ペルセウスがアイギスに一瞥をくれた。











その時・・・







つづく







『神撃のタイタン』 #24




声がした。


「どうだ、ペルセウス? 参ったか?」


と言う。

それはティアマトの声だった。

それを聞きペルセウスが、



(クルッ!!



振り返った。

ティアマトと目が合った。

ティアマトは海面に姿を現していた。

と言うよりも、海面に乗っていたと言った方が正しかった。

その巨大な体がだ。

ティアマトが続けた。


「わが波状攻撃の味は、どうだ? ん? ペルセウス? 堪能しておるか? ん? 充分に堪能しておるか? ん? 充分にな。 ワハハ、ワハハ、ワッ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、・・・」


なんという回復力!?

ティアマトはもう普通に呼吸をしている。


一方、


「ハァハァハァハァハァハァ・・・」


ペルセウスの呼吸は荒いままだ。

その荒い呼吸を整えるため、


「スゥー、 ハァー、 スゥー、 ハァー、 スゥー、 ハァー、 ・・・」


深呼吸をしながらペルセウスは黙ったままジッとティアマトの離れた両目の内、左目を見つめていた。

否、

睨み付けていた。


「ホゥ〜。 この期(ご)に及んでも目の光を失っておらんとは・・・。 成る程、メドゥーサの首を獲ったのも頷ける。 大したヤツだ。 だが、それもこれまでよ。 覚悟は良いか、ペルセウス?」


ここでティアマトが一息入れた。

そして、すぐさまこう言い切った。


「参る!!


即座に両鰭(りょうひれ)を広げた。

エアーカッターだ。

エアーカッターが来る。

それも連続攻撃。

ティアマトがその体勢に入った。


だがペルセウスは臆する事なくこう言い返していた。


「・・・ハァハァハァハァハァハァ。 来い! ティアマト!! ハァハァハァハァハァハァ・・・」


と。

ゼウスの曲刀・ヘルペーを大上段に構えて。


大丈夫か、ペルセウス?

まだ肩で息をしているお前が、本当に大丈夫なのか、この圧倒的に不利な状況下で?

それとも単なる強がりなのか、その態度は?


「食らえーーー!!


重低音の鋭い叫び声と共にティアマトが先ず、



(ブヮーン!!



右鰭(みぎひれ)を振るった。

そして、間髪(かんはつ)を入れずに左鰭(ひだりひれ)。


再び、右鰭。

更に、左鰭。


 ・・・

 ・・・


その度に、



(ビヒューン、ビヒューン、ビヒューン、ビヒューン、・・・)



エアーカッターが飛んで来る。

それも時間差で。

しかも連続して。


終にティアマトが勝負に出たのだ・・・











最後の。







つづく







『神撃のタイタン』 #25




「クッ!?


ペルセウスが唸った。

恐るべきティアマトのエアーカッターによる連続攻撃を受け、



(ガチン!! ガチン!! ガチン!! ガチン!! ・・・)



岩礁の上を大きく右に左に走り回り、曲刀・ハルペーでそれらを受け流し続けながらペルセウスが唸った。

あのズッシリと重いゼウスの曲刀・ハルペーで、恐るべきティアマトのエアーカッターによる連続攻撃を受け流し続けながらだ。


それに釣られてティアマトも右に左に海の上を動き回る。

否、

滑り回る。

それも恐るべき速さで。

その巨体から見て信じられない速さでだ。

体は殆ど海面の上に出ている。

これは驚くべき事だった。


だが、


終にその時は来た。


ペルセウスが力尽きたのだ。

岩礁の上にハルペーの刃の切先を地に付けて立て、地面に片膝つき、柄の部分を両手で持ち体をそれに預けている。

しかも、


「ハァハァハァハァハァ・・・」


息は完全に上がっていた。

それに、

完全には受け流し切れず、体を掠めたエアーカッターの無数の傷口からは真っ赤な鮮血が滴り落ちている。

今やペルセウス、全身傷だらけ。


ペルセウスのその姿を見て、



(ピタッ!!



ティアマトが攻撃の手を止めた。

そして勝ち誇って言った。


「どうやら、ウヌの最後の時が来たようだな、ペルセウス。 しかし、ペルセウスよ。 良くぞここまで戦った。 いかにデミゴッド(半神半人)とはいえ、流石は大神ゼウスの子。 天晴(あっぱれ)、見事、褒めて遣(つか)わす」


それを、


「・・・」


ペルセウスは黙って聞いていた。

そんなペルセウスにティアマトが続けた。

余裕のヨッチャンこいてだ。


「何か言い残す事はあるか、ペルセウス? あれば聞いてやる」


「・・・ハァハァハァハァハァ。 あぁ、ある!! ハァハァハァハァハァ・・・」


ペルセウスがキッパリと力強くそう言い切った。

肩で息をしているとはいえ、まだまだ気力は失ってはいない。

戦う気力は。


「良し、聞いてやる。 言ってみろ」


「・・・ハァハァハァハァハァ。 もし・・・。 ハァハァハァ。 お前があの世でメドゥーサに逢ったら・・・。  ハァハァハァ。 俺が宜しく言ったと伝えてくれ。 ハァハァハァハァハァ・・・」


「な〜にをほざくかと思えば、まだそのような世迷い言(よま・い・ごと)を・・・。 あの世でメドゥーサに逢うのはウヌに決まっておると言うに」


「・・・ハァハァハァハァハァ。 いいゃ。 お前だ、ティアマト。 ハァハァハァ。 あの世でメドゥーサに逢うのはな。 ハァハァハァ。 あの世でメドゥーサに逢うのは、お前の方だ、ティアマト。 ハァハァハァハァハァ・・・」


「フン。 くだらん強がりを・・・。 肩で息をするのが、やっとのくせに」


「・・・ハァハァハァハァハァ。 いいゃ。 事実だ! ティアマト!! ハァハァハァハァハァ。 お前では俺には勝てん。 ハァハァハァハァハァ・・・」


「な〜にー!? もう一度言ってみろ」


「・・・ハァハァハァハァハァ。 あぁ、何度でも言ってやる。 ハァハァハァハァハァ。 お前ではこの俺には勝てん。 ハァハァハァハァハァ・・・」


「タワケがー!? もう許さん!! くたばれー! ペルセウス!!


怒り心頭に発して、ティアマトが大きく右鰭を振りかぶった。


だが、


『ヌッ!?


すぐに、その手を止めた。

ペルセウスが驚くべき行動に出ていたからだった。


そぅ。


ペルセウスが驚くべき行動に・・・


それまで地面に片膝ついて呼吸を整えていたペルセウスが、



(スゥー)



立ち上がり、両手でハルペーの柄を握り締め、



(ブーン、ブーン、ブーン、ブーン、ブーン、・・・)



気力を振り絞り、あらん限りの力でそれを振り回し始めていたのだ。

まるでハンマー投げのハンマーのように。


と、いう事は・・・


今度はペルセウスが勝負に出たのだ。

最後の勝負に。

この圧倒的劣勢の状況下では大博打としか思えない・・・最後の勝負に。


そして、ペルセウスがこれら見せる事になるであろうこの攻撃、それは・・・


後にも先にも・・・


泣いても笑っても・・・


その全存在を掛けた・・・


命を懸けた・・・


勇者ペルセウス・・・











最後の攻撃である。







つづく